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第54話 ボクと焼き芋と焼きバナナ。

 かけ足だった来る時に比べると、本当にゆったりとした時間が過ぎていく。


 ダジャルにはシルと狐鈴が乗り、1台の馬車にはボク達、業者台には兵士が1人、もう1台の馬車には残りの5人の兵士が乗っている。


 切り開かれただけの道は、整備が行き届いているわけではなく、馬車はガタガタと大きく揺れる。お世辞にも快適な旅には程遠かった。

 歩くよりは早く、雨風を凌げる程度の事、せめて車輪にタイヤもしくは、サスペンションが入って、揺れを緩和してくれていれば、ありがたいのだが…


 馬は夜目が効かないので、完全に陽が落ちる前に、開けた広めの場所で火を焚く準備をする。


 この場所はボク達のやってきた、コロモンから続く路と、これから帰る森の果てに続く路、そして、もう一本どこに繋がっているのか分からない路が、分岐する場所だった。広さはテニスコート一面分より少し広いくらいだろうか、馬車2台くらいなら停められるけれど、3台以上になると、焚き火などは出来ないだろう。


「うーん、何もやる事がないね…」

ご飯もしっかり食べてきているので、特に食事の準備もない。揺れによる乗り物酔いで、逆に出してしまうのではないかと危機を感じながらも、この場に至る。


 湯を沸かして皆でお茶を飲む。


 衛兵の皆さんも交代で警備するような形をとってくれると言ってくれたが、ベテラン冒険者パーティーよりも、戦闘力の高い、ボク達には必要ない。


 ボクは拳大のカボチャのような見た目の果物【ミツル】を2つと、さつま芋の様な【モータル】をペットボトル程の大きさの物を6本、和穂から出してもらう。

 焚き火のすぐ近くに囲う様にモータルを、少し離した位置にミツルを並べる。


 ただ並べているだけだったので、その光景に目を向けた人は不思議に思っているようだった。


『ミツルは普通そのまま食べるものだよ?』ルーフェニアさんがボクに聞いてくる。

『うん、実験だよー』


 ボクの自論として、芋は大抵焼けば美味しい。里芋やジャガイモだって美味しいのだ、安納芋のようなサツマイモのような、モータルは焼き芋として凄く期待している。


 ミツルは焼きバナナのように、味も甘味も濃くなるのではないか?と思ったわけなんだけど。

 新しいスイーツのひとつとして、導入できるかの実験。


 だって大事な事だとは思うけど、こちらの世界では、素材の味をフルに使って、調味料として活かしている事が多い。

 活かし方次第では、オリジナルの味付けの参考にもなりそうだしね。


 みんな、それぞれの時間の過ごし方をしている。


 ルーフェニアさんは、シルにアレコレ質問したり話を楽しんでいる。

 狐鈴は夜目の効くダジャルを操る練習している。


 クラマとルークは周辺の探索をしに森へと出かけていく。


 衛兵の皆さんも思い思いに仲間と雑談を交わしている。


 和穂はボクの作っている物に興味津々でシッポをゆっくり揺らしながらボクの隣にしゃがみ込んでいる。

 ボクは焚き火の前でモータルを長い枝を使ってゴロゴロ転がし、ミツルの位置をクルクル回す。


 ユラユラと揺れる炎、ちょっと暑いくらいの心地よい熱、火の弾けるパチンッという音…凄く落ち着く。


 しばらく、すると和穂が鼻をスンスンと鳴らす。焼きモータルの皮の表面に少し焦げ目がついてきて、香ばしい匂いと甘い匂いが漂ってくる。


『何か良い匂いがするのう』

狐鈴が匂いに釣られてやってくる、気がつくと、みんな焚き火の近くに集まっていた。

「もうちょっとね…」


ルークとクラマも焼き上がる頃には戻ってきていた。


『はい、分けて食べて下さいね』

そう言うと、アツアツの焼きモータルを衛兵さん達はお手玉の様にしながら受け取り、分ける。


 シルもルーフェニアさんと半分こ、狐鈴は半分こしたモノを更に縦に割り、クラマとルークにあげている。


 ボクは和穂と半分こ、少し大きめに割って、渡してあげる。


 焼きモータルは、皮に近いところはホクホクで、中心近くは蜜が浮き出たようにトロトロに、甘くなっていた。

 

 サツマイモと違うのは中の色、ボクとしては黄金色の断面が見たかったんだけどね…モータルは赤いんだよ、真っ赤っか、狐鈴のルビーのような眼の色の様になっていた。


 とはいえ、アチチッとやりながらホフホフと食べる。それが焼き芋の醍醐味だよね。


 また、焼き芋って焚き火ならではの調理なんだよね、残念な事に。普通の調理ではこんな風に出来ない。


 ボクは元の世界にいた時に、アルミで巻いて魚焼きグリルで何時間もかけて焼いたのを覚えている。

 小さいモノでも、中々火が通らないし、出来上がった時には水分も結構飛んでしまってパサパサになってしまったんだ。焼き芋調理器なんてモノも売っていたみたいだけど、試したことはない…。


 隣の和穂が幸せそうにパクついている。そんな様子を見ていると、ぼくも幸せを感じる。


 ボクはサバイバルセットからナイフを取り出してミツルの頭頂部を丸くくり抜く。すると、辺りにより甘い香りを漂わせる。

 中身は焼きバナナのような粘り気はなく、緩めのカスタードクリームの様にトロトロになっている。

 硬めの笹のような葉っぱをヘラの代わりに使ってひと口…


「ううぅ、うわっ!甘いっ!」

ビックリする様な甘さだ、ノドの奥がヒリつく様な甘さ、不味くはない、不味くはないんだけど…


 こんなにも甘く仕上がるとは…焼きモータルより、更に甘い…失敗した、欲張って2個も作らなければよかった…


「ビックリするくらい甘いのぉ!」

『すっごい甘いですねぇ!』

狐鈴とルーフェニアさんは素直な感想を、まぁボクも流石にこれは…


 味見した和穂もあまりの甘さに驚き、お茶をガブガブ飲んでいた。


 うーん、カスタードクリームの代用品にはなりそうだけど…このまま単体のものでは、甘いだけの何かになりそうだ。

牛乳で伸ばすと緩すぎるかもしれない、パンケーキに練り込むか…


 冷めたら甘味も少し落ち着くのか?液体寄りのペースト状はこのままなのか?


 甘味の後味が強すぎて、飲んだブラックコーヒーも甘く感じる。甘い物好きを唸らせるどころか、悶絶させる一品となった。


「いやぁ、まいったまいった…」


 くり抜いた皮を蓋の代わりに乗せて冷ましておく。シルの魔法で冷やしてもらうのも手ではあったのだが、時間ならいくらでもあるので自然に冷ます。


「ねえシル、持ち運びのできるコンロが作れるのなら、逆に冷やす物も作れないかな…スイーツ作りに、あると便利そうなんだけど」


 シルに提案すると、手をポンと鳴らして言う。

「なるほど、温度を加える調理器具として、魔石コンロは作ったけど、冷やせる持ち運びのできるアイテムね、その発想は無かったよ。取り付ける魔石を変えればできるかもしれないね、今度やってみようかね」


 実現したら場所を気にせず、色んな料理のお試しができそうだ。



 焚き火から少し距離をとり、ゆらゆらと、揺れる炎を見つめ、ボクはコロモンの街で、使う事のできた自分の能力を思い返す。

 触れている人に、ボクの能力を貸出する魔法、遺骨を使って依代を作り、御霊と持ち主と繋ぐ魔法…

 魔法と言ってもボクの実力ではなく、誰かが込めてくれた力を借りる必要があるし、きっと御霊と対象の人が、共に繋がりたいという強い気持ちが合致して、はじめて与える事のできる能力なんだと思う。


 ボクの肩に身を預けている和穂にボクは声をかける。

「和穂昨日はありがとう。本当和穂の言葉に励まされたよ。自分の魔法なんて使った事なかったし、思いとイメージはあったんだけど、自信は無かったんだ。

昨日の成功があったから、今日の骨灰磁器作りへと繋げる事が出来たんだと思う」


 和穂がボクの手をとる。ボクの手の平は磁器作りによって小さな傷がいくつも出来ていた。和穂は指先で手の平をなぞると傷がなくなっていく。反対側の手も同じ様に傷を治してくれる。


 ボク達の中で唯一社交的な狐鈴は、焚き火の向こう側で衛兵達と話をしている。出発時は、あんなにも緊張感を表に出していた兵士たちも、今では普通に会話を楽しんでいる姿を見せる。


 和穂がガバッと身体を起こし、暗闇へ続く路へと顔を向ける。


 ボロボロの衣類で、土にまみれた姿の若者が路の奥から走って来る。『た、助けてくれーっ!』突然現れた人物は、ボク達に助けを求めてきた。


お帰りなさいませ、お疲れさまでした。

焼き芋好きです。

焼き芋にバニラアイスが添えてあるともっと好きです。

次回は焼きミツルのアレンジレシピです。

それではまた次の物語でお会いしましょう〜♪

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