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第53話 ボク今後のソーニャさんを心配する。

『何かおかしいですね、普段だと既に冒険者達は街の外へと出ているはずなんだけど…もしかしたら、昨日の出来事で人が集まっているのかもしれませんね…』

 ルーフェニアさんは困った顔をギルドの方へと向けて言う。


「ワチらが原因なら、突っ切ってしまっても問題なかろう?」

 狐鈴は人だかりのできているギルドの玄関に向かってズンズン進んで行く。

 コチラに気が付いた、冒険者や街人は狐鈴の行手を塞ぐ事なく空ける。あんなに溢れていた人だかりが横に避け、道ができる。


 建物内も同様だった。すぐにナティルさんがボク達を迎えに来て、奥の間へと通してくれる。


 奥の間のソファーには、ソーニャさんが腰を降ろし、ソファーの横にはロドグローリーさんが従者と共に立っていた。

 ソーニャさんはまだ体調の完治には程遠い様で、顔色はあまり良くない。


『呼び出してすまない、昨日の今日じゃ、当たり前の様に大騒ぎになってしまったな。まずは座ってくれ』


 ナティルさんは、すまなそうにコチラに視線を送り、ボク達をソファーへと促す。


 ルークはボクの背後にまわり、小さな声で訳してくれる。


『まず、衛兵団から報告頼む』

ナティルさんが進行し、ロドグローリーさんが頷く。


『挨拶は省かせてもらう。

ワーラパント男爵邸敷地内より、現在62体の遺体が掘り起こされた、そして捜索依頼されていた、該当の者は、ソーニャと2名を除く、全ての者が遺体として発見されている。

中には、我々の同志の衛兵の亡骸もあったことから、証拠隠滅などの可能性なども後に問われる。

 衛兵の詰所にて、被害者を引き渡していた者に関してはワーラパント家と裏で繋がっていた者なので昨日のうちに懲戒免職にした。

 ミュルド当人は死亡の為、処罰はできないが、親の当主に関しては王国の機関へと引き渡す。おそらく、爵位取り消しにはなるが、直接手を出していなかったので、強制労働などの罰ではなく、他の国へ飛ばされるであろう。

 クラマ殿と、和穂殿に関しては、違法にて捕らわれた者達の解放を目的とした行動と、後手による身を守るための攻撃による殺人にあたるので、不問とする。それでも、何か処罰が必要であるのならば、保証人によるシル=ローズ=ラミュレット殿に一任する。

そして、メイル殿とキルト殿に押し入った族は、我々もシル=ローズ殿達の帰路に同行し、引き取る運びになった。返り討ちによる死者については不問とする』


『あっ!』

 シルが大きな声をあげ、皆ビクッと体を硬直させ、シルの方を見る。


『ごめん、あたしもキルトの家で1人敵討ちで殺していたよ…』


困った表情で小さく手を上げ、視線を皆に向けるシル…

おぉう、存在すら忘れられる彼って…まぁ、ボクも忘れていたわけだけど。


『で、ソーニャの事だが…』

スルー。これも不問という事でいいのか。


 座っていたソーニャさんが背筋を伸ばす。

ゆっくり口を開き、ソーニャさんは話始める。


『私は…暴力を受け、暴力をする事を強要され、逃げられない様に両足の腱を断たれ、光を断たれ、さらに…沢山の人に辱めを受けました。

 さらに、…私を…助け出そうと…した、仲間の命を…

 私は仲間を人質としていると…言われ…本当は殺されてしまっていたということさえも知らずに…

私のせいで仲間達が…私が仲間というのもおこがましいのかも…しれませんけど…

 本当に仲間に申し訳なく思ってます…独りになるくらいなら皆と共に逝きたいとも思いました…』


 涙も出なくしまったソーニャはうつむき、表情が見えなくなる。

 ゆっくり顔を起こし、キュッと口元に力を入れ、さらに言葉をつなげる。


『でも…彼らが繋いでくれた、この命、落としてしまったら、彼らに本当に何も言えない、どんなに茨の道になるとしても、私は彼らを殺してしまった罪を背負い、命の続く限り、生きて行こうと思います』


ソーニャさんはギュッと服を握った手に力を入れ、唇を噛み締める。


「そなた、本当にそう思うのか!?差し伸べる手が無ければ、そなたは暗闇の中でずっと独りになってしまうのじゃぞ…彼らの気持ちではなく、そなたの命なのじゃ、そなたの気持ちはどうなのじゃ?」


 ソーニャさんには見えていないが、狐鈴は真剣な表情で話かけている。

 狐鈴は昨日、冒険者達の前で、綺麗事抜きで、生を全うする事の大変さを話していた。捕らわれる前の何でも自立出来ていた身体ではない…生きていれば良い事があるわけではなく、生きて行くために、大きなリスクを背負わなくてはならないと…

気がつくとボクも手を握りしめ、手のひらには汗をかいていた。


 ソーニャさんは眉間にシワを寄せ…うつむき、誰も言葉を発さない時間が流れる。

『わ…私は、私の為に生きたい、誰も見向きもしなかったとしても、後ろ指指されても、たとえ…独りで死んでいく事になったとしても…』


「あい、分かった。無粋な質問、心より謝罪させてもらう」

狐鈴は大きく息を吐く。


『ソーニャの選んだ道を、冒険者ギルドはサポートしていく事を、ここにいる皆に誓おう。

シル=ローズ殿達には、また必要なことがあったら使者を送るかもしれない。それで構わないだろうか?』

ナティルさんがコチラに言う。


『あぁ、それで構わない。

ソーニャ、アンタに預かって来た物があるんだ、受け取って貰いたい』

「アキラ、ソーニャに着けておやりよ」

シルはボクに言い頷く。


ボクはソーニャさんの後ろ側へと周り、眼帯を取り出す。

『ソーニャ、顔…目の辺りに触れるよ』

ボクはひと言ソーニャさんに声をかけて、眼帯を目に当てる。

後ろはベルトの止め具が付いていて、強くなり過ぎないようにそっとベルトを絞める。


『これは?』

着けられた眼帯を手で触るソーニャさん。


『それはサドゥラという洋裁店の主人に、アンタの事を話したら、渡して欲しいと言って作ってくれたもんだ。ここの主人は、若き弟子がアンタと同じ様な目にあわされ、店の前で殺害されたんだ。

その弟子の名前はラナトゥラだ。アンタ達は知っているだろ?』


 シルは説明する。ナティルさんもロドグローリーさんも表情に影を落とし頷く。


『預かり物は確かに渡したよ、あたし達は一度ワーラパント邸に行かせてもらう。ソーニャの仲間の冒険者と話があるんでね』


 シルが退室の意思を伝えるとソーニャさんがガバッと体を起こす。


『アンタも行きたいんだね、分かったよ一緒に行こうじゃないか、アンタ達はどうするんだい?』


 ナティルさんがソーニャさんを支え立ち上がらせながら、ロドグローリーさんに声をかける。


『一緒しよう、現場の最新の状況を知りたい』

ロドグローリーさん達も立ち上がり、ボク達と同行する。思っていた以上に大人数になった。


 ギルドホールに出ると、まだまだ大人数が残っていたが、ナティルさんとロドグローリーさんが場を制し、道を空けさせる。


 ソーニャさんは両手を狐鈴の肩に乗せ、狐鈴が先導する。クラマとルークは姿を消し、飛びながらついてくる。


 和穂はかわらず、ボクに抱きついている…

「あのね、和穂…歩きにくい…」

 流石に気がついたか、ボクの右腕に両腕を絡め、笑顔を見せる。あら可愛い。和穂は凛としたキャラクターを捨ててしまったように感じる。


「そうじゃ、どうせあの屋敷に向かうのだから、途中でソーニャからサドゥラ達にお礼でも伝えるかや?」

狐鈴は頭を上にあげ、たずねる。


『はい、ぜひお願いします。そうさせて下さい』

ソーニャさんは返事する。




 洋裁店に着き玄関をノックすると、先程同様ヤラタさんが出て来てくれる。

『あなたっ』

 ボク達、ソーニャさんを見たヤラタさんは店内に声をかけ、サドゥラさんを呼ぶ。


 2人とソーニャさんは向かい合う。


 ヤラタさんは涙を流しながら、ソーニャさんを抱きしめ、『生きて出てこれて本当に良かった』と言う。

 サドゥラさんも顔をクシャクシャにして、『辛かったろう、出てこれて良かった、負けちゃいかん、負けたらいかんぞ』

そう言いながら、背中を叩き伝える。


 ソーニャさんは2人の言葉に何度も頷き、お礼を伝える。


 きっとこの街にいる限り、この2人もソーニャさんの力になってくれるだろう。3人の様子を少し高い位置から見ていたラナトゥラさんも穏やかな表情を見せていた。


 

 ボク達の泊っていた宿を通り過ぎて、ワーラパント邸へと到着する。

 今日も朝から兵士達は地を掘り返している。

 ボク達は裏側の地下に続く階段の前まで来ると、昨日の現場を自分の目で見た、ナティルさんは表情を強張らせる。


 一同地に腰を降ろすと、しばらくして、4人の冒険者の御霊が現れる。


「やぁ、ソーニャ、起きれるようになって良かったよ」

長髪の男性がソーニャさんに声をかける。


「あ、ソーニャのそれ…」

ドワーフの少女が言った言葉に続く様にポニーテールの女性がソーニャさんの前まで出て来て感想を伝える。

「可愛い!、ソーニャ似合ってるよ!…ってゴメン…見えないんだよね…」

しゅんとした表情を見せるポニーテールの女性。


「うん、俺も似合ってると思うよ」

ツンツン頭の男性もソーニャさんに声をかける。


「さて、ワチらが来たのはソナタ達の今後について確認したく思って来たのじゃ、天へと向かう事を望むのであれば、アキラに任せるが…」


 先程まで和気藹々と場を和ませていた、御霊達の表情が曇る。

先程まで、凛とした表情でいたソーニャさんは、悲しみの表情を見せる。


『い…だ、嫌だよ…、ひと…は嫌だ…ねがい、…てかないで…』

ソーニャさんは声のした方に顔を向け、話しかける。


『イヤァァーッ!!私も連れて行ってよっ!ヤダッ、お願いっ!』

叫び訴える。


 仲間の声を聞いた事で、押し留めていた感情が溢れ出した。そんなソーニャさんに誰も声を掛けられないでいる。


 狐鈴は小さくため息をつき、立ち上がり、収納空間から和傘を取り出す。柄に手を置きチャッと刀を引き抜こうとしたところで手を止める。


「ソーニャ、いい?私達はまだ、何も言ってないよ」

ドワーフの少女はソーニャさんに優しく声をかける。


「本当、いつも冷静だったソーニャはどうしたよ?落ち着いて、俺たちの言葉を聞いてくれ」

ツンツン頭の男性もソーニャさんに話しかける。


「実は、昨日皆で話し合ったんだよ、狐のアンタに言われて、反省もしたんだ。

 これからソーニャはきっと責任を感じながら、俺たちによって生かされた命を…茨の道の中でも生きて行くだろうって…

 だから、俺たちはソーニャの近くで見守っていたい、ソーニャの眼にはならないだろうけれど、皆で一緒にいたいと決めたんだ。ソーニャの命果てるまで、どうか見守らせて欲しい」


 壊れてしまったはずのソーニャさんの目から、涙が出てくる。小さな子供の様に顔を伏せず、上を向いたまま声をあげて泣きじゃくった。

 冒険者達はそんな大声で泣きじゃくるソーニャさんを囲み、困った表情を見せながらも優しく微笑む。




「実はボクなら皆さんと、ソーニャさんを繋ぐ道具を作る事が出来るんじゃ無いかと思うんです」


 ボクはソーニャさんが落ち着いた頃を見計らい、思いついていたある事を実行に移すべく、皆に説明する。


 それは昨日この場を後にして、街中を皆で徘徊していた時の事、ひとつの雑貨屋で思い出したんだ。

 陶磁器を見て、ボク達の世界で骨を粘土に練り込んで、陶磁器を作る手法がある…


 骨灰磁器(ボーンチャイナ)といわれる工芸手法の存在だ。


 ボクがその手法で、身に付ける物を作れば何か影響を与える事ができるのではないかと思ったのだ。都合よく石窯の効果のある地下室もあるわけだし、試してみるのもありかなと。


 皆の前で言うと、そんなの聞いたことも見たこともないと言われたけど、確か白い磁器になると、ボクもうる覚えの記憶を頼りに説明した。

 もちろん、陶磁器を売っていたお店でも聞いてみたけど、コチラの世界では行われていないようだ。


 昨日のうちに購入しておいた、すり鉢と粘土、釉薬を和穂から出してもらう。そして、昨日焼きあげられた冒険者達の遺骨を少しずつ拝借する。


 すり鉢で骨を粉状にして、粘土と混ぜて形を作る。焼き、釉薬を塗る、二度焼き、色塗り、三度焼きの工程でようやく仕上がる。


 時間のかかる作業だったし、いくつも割れてしまう。その都度皆に謝りながら、残った物に手を加えていく。低温で焼く事がポイントだったようだ…。


 ボクの作業を冒険者の御霊も含め、皆に見守られていた。「本当アキラは何でも知っているんだね」とシルは半ば呆れていた。

 骨はすり潰しても角があったため、ボクの手は傷だらけになる。まさに血の滲む作品となった。


 ボクは最終的に、縁を金塗りにし、シンプルな模様を入れた白い磁器の腕輪を3つと、ビー玉程の玉と勾玉をいくつか(加工は本人に任せようと思う)、完成させる。


 遺骨を身につけて歩けば、御霊も土地に縛られず動けるのではないか?と思ったのと、ボクが魔力を注ぎながら(実際には血も少なからず入ってしまったのだけれど)作ったので、何かしら効果をもたらすかも?という期待を込めた実験のような試作品だ。

 試作品とは言えど、冷ます工程もあるので、クラマに風を起こして冷やしてもらったり、和穂に狐火への位置を指示してもらったり…皆に協力してもらって、どうにか作り上げた物だ。


 結局、ボクがこんな事を思いついてしまったので、夕方まで、めいいっぱい時間をかけてしまった。

 ナティルさんとロドグローリーさん、従者の兵士は仕事の為途中で離脱する。


 狐鈴も途中サドゥラさんのお店に行って【留魂の儀】を行うため抜けたが、完成する頃には戻って来ていた。


 腕輪を両手につけたソーニャさんはルーフェニアさんの手を取りながら恐る恐る、ワーラパント邸の敷地外へ出る。

 冒険者達も一緒になって、敷地外(結界の外)に出られる。


「ソーニャ聞こえる?」

 結界の外で、恐る恐るポニーテールの女性が声をかけると。ソーニャさんはウンウンと頷く。

「やったー!すこいっ!!」

冒険者達は歓喜の声をあげた。


 イメージとしては、スイカ割りの様に、暗闇の中ではあるが、仲間の声を頼りに歩いたりできる様になったわけだ。


「それじゃ、これからは皆んなと一緒だし、皆も、ソーニャさんの眼となって支える事が出来るね、慣れるまではお互い苦労するかもしれないけれど、これからもお互いを頼って欲しいと思う」

 ボクが声をかけると、シルがソーニャさんに話してくれる。ソーニャさんも御霊の皆も笑顔でボクに頭を下げてくれた。


「最高の作品じゃの、まさに魂が宿ってる作品じゃ」

 狐鈴はニパッと笑顔をコチラに向け、ボクもつられて笑う。


「シル、ごめんねボクの思いつきのせいで、出発が遅くなっちゃって」


「そんな事もないさ、良い物を見せてもらったよ、アンタは1人の命に光を与えて、4人の魂を救ったんだ、アタシはアンタを誇りに思うよ」

シルは親指を立ててこちらに見せ、ニッと笑う。


 和穂も作業中は横から見ていたけど、今は最近の定位置と言うべきか、後ろからギュッと力を入れて抱きつき、喜びを分かち合ってくれている。


それから、再度ナティルさんやロドグローリーさんと合流して、晩御飯を食べながら今後のことについて話をする。


 今後のソーニャさんは、ギルドの職員寮に入りながら現役冒険者の相談窓口として、食堂の一角に特別な席を作って、新人冒険者達にアドバイスをするという仕事を受け持つそうだ。5人も集まっていれば、みんなの意見をもらいながら、沢山の相談に答えられるだろう。


 ルーフェニアさんも参加したがっていた合同葬儀については、まだ掘り起こせていない者もいるかもしれないということで、明日から7日後に行うことになった。ややこしいのは片道に丸1日費やす必要があるからだ。


 ボク達は家に帰ってから7日後、コロモンから来る人たちは、今日から7日後に出発すれば、ちょうど同じ日になる。


 参加者は、衛兵ギルドから5名、冒険者ギルドから5名(うちルーフェニアさんは準備要員として先行してボク達の帰路に付いてくるそうだ)となった。

 遺骨や遺品は後続組みで運ぶそうだ。

 

 ソーニャさんの仲間の遺骨は集合墓地に預けず、冒険者ギルドで保管するそうだ。

 なぜって?今回渡した骨灰磁器が壊れてしまった時、新しく作れる様に、別にしておく必要があるからね。壊れた磁器を直せる自信はボクには無い。

 ちなみに、今回割れてしまった物に関しては集合墓地の仲間入りにしてもらった。



うーん、なんというか…

 目の前でモクモクとパンを食べているソーニャさんは下手な神官より、よっぽど神聖な雰囲気を漂わせている。


 混じり気のない純白の白髪、淡い色の眼帯には金の刺繍も施してあり、いくつか作成した勾玉や、球体は首飾りにされ、両手には白い磁器で作られた金の模様入りのブレスレット…なんか白いローブでも羽織らせてあげたいくらいだ。

 今後は冒険者の悩み事の窓口でしょ、儚げでありながら頼りになるわけだから、嫌でもファンが付くだろうとボクは思う。まぁ、皆の目があれば、そうそう悪い虫も寄って来ないだろうけどね。


『そう言えば…』

 ロドグローリーさんが声を上げる。

『昨夜、シル=ローズ殿の言っていた、取り逃された族の残りだが、手負いの者と2人、先程街の入り口で捕縛したとのことだ』


「と、ロドグローリーは言っている」

狐鈴が訳して報告してくれる。


 ダンダルさん、きっとここまで見張ってくれていたんだろうな、会ったらお礼言わなきゃ。あとは捕らえた族達を引き渡せば、この騒動は幕引きとなるわけだ。


「アキラ、アンタせっかく街に来たのに、自分の買い物はバッグしか買ってないんじゃないかい?何か護身用の武器も買ったらどうだい?」


 えぇー…シルはそんな事をしれっと言うけれど、武器と共存した事のないボクには、何ともピンと来ないんだよね…。


「あと、子供用の絵本ね」

シルはニヤッと笑う。


「あ、それは欲しいかも…」

目をキラキラさせながらボクは言う。ボクのこの返しを想像していなかったのか、シルがずっこける。



 食事を終え、ダジャルの待つ街の入り口へ向かう途中、雑貨屋で数冊の本をシルに選んでもらって購入する。

 子供用の本だから、言葉も分かりやすいだろうし、物語りだから、この世界の歴史を少し知る事が出来るかも。


 ルーフェニアさんも、しばらく家を空けることになるので…と、出かける用意をするために、いったん家に帰っていった。


 武器屋に足を運んだものの、いまいちピンッとこない。

 扱った事のある武器といえば、数珠を巻いてのナックルか、和穂の持つ双刀だから…短剣が良いのかな…ブツブツと独り言を言いながら、ふと思い付く。


「ねぇシル、この眼鏡を作った石を削り出して、短剣かナイフって作れないかな?物理的な攻撃や、悪霊に対しても、攻撃のできる武器があると良いと思うんだけど…」


 シルはボクの問いかけに顎に指を当て考える。


「ん〜…確かに、アキラが相手にする敵は、相性的に、ゴーストとか、レイスとか、霊的な相手が多いだろうねぇ…強度を問わなければ作れるけど…たぶん、普通の魔物を相手にしたら、強度が足りなくて、すぐ折れるだろうよ」


 なるほどね、でもボクから進んで戦闘になる事は無いだろうな、それなら…。


 ボクは護身用の武器として鉄扇を選んだ。

大きさは短剣より少し短めの30cmくらいかな。

パタパタと折りたたむタイプではなく、手首の返しで、シャッとスライドさせて、開くタイプだ。

 閉じている状態で鈍器として使用でき、開くと縁の部分が刃になる。持ち方を変えれば十手のように刀やナイフを絡め取る事ができる。そんな利便性で選んだ。

 折りたためる刃物としては十分だと思う。専用のベルトで収納して和穂の様に腰の辺りで固定する。

 包丁とか道具としての刃物が必要だったら、サバイバルセットがあるしね。



 さらに、食材の追加をいくつかしながら、街の入り口、冒険者ギルドの前に行くと、大きなバッグと鍋を持ったルーフェニアさんがいた。


『なぜ鍋?』

『昨日アキラさんが作った、すいとんぜんざいの残りだよ、夜食に良いと思ったからね、それに向こうでアキラの料理をお持ち帰りできるようにね♪』


ああ、なるほどね。でも、ミルフィさんの料理と、どちらを持ち帰るか悩むだろうけどね…。


ギルドの前でナティルさん、ソーニャさんと別れる。


『それじゃ、またね』

『次に皆が来る頃までにはギルドで頼りになる存在になれてるように頑張ります』

 ソーニャさんと握手を交わし、近くにいる冒険者の守護霊達に手を振る。


『また8日後、ルーフェニアをよろしくお願いします」

 ナティルさんとシルが言葉を交わす。


 気が付くと、ボク達が街を出るという事を聞きつけた、大勢の街人と冒険者達が、見送りに集まってくれていた。中にはサドゥラさんやヤラタさん、ラナトゥラさんの姿もあった。


 街の入り口には兵士6人と馬車が2台、ダジャルが座った状態で待っていた。

「ダジャル、待たせたね」

 ボクがダジャルの首元に抱きつき、撫でると「クルルゥ」と喉を鳴らす。


 ロドグローリーさんは『また後日』と挨拶だけして、直ぐに呼びに来た兵士に連れられ、いなくなってしまった。


 ダジャルの背には狐鈴とシルが、馬車のひとつにはボク達が乗り込み、ゆっくりと動き出す。


『またねー、コロモンの街!!』

ボク達は大きく手を振り、街を後にした。

お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

これにて、コロモンの物語りは幕引きになります。

次の物語りは帰路の話になります。


それでは、また次回の物語りでお会いしましょう〜♪

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