表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/158

第52話 ボクとコロモンの街と食材と。

「いだだだ…ちょ、助けっ……」

朝日が薄っすら差し込む室内、バタバタ暴れる音とシルの声が向かいのベッドから聞こえる。

「ふぇ…」

そして、部屋に静寂がおとずれる…




 ボクが目を開けるとミルクのような甘い匂いがする。

 和穂がボクを抱き枕のようにして、腕とはだけた袷から伸びる白い脚を絡めている。

 眠った状態のままボクの首筋をペロペロしてくる。こそばゆい…。


「ん…か、和穂、くすぐったいよ…」

 かろうじて動かせる腕で、和穂の頭をポンポンする。

すると、今度は首筋をカプリとし、ちぅちぅと吸ってくる…ボクの頭には吸血鬼が思い浮かぶ…


…あ、コレダメなやつだ。

「ちょ、ちょっと、和穂、起きて、ダメ、これ跡になっちゃうっ」

背中をバンバン叩いて、和穂を起こす。


 和穂は吸うのを止め、ボクの顔を見て目を細めたまま、にへ〜っと微笑む…。


「ちょっと…和穂…起きていたでしょ…」

 和穂は絡ませていた腕と足にキュッと力を入れて、顔をグリグリと擦り付けてくる。


 はぁ…絶対跡になっているよ…

とりあえず、和穂の頭をペチリとする。



 ボクは体を起こし、壁を背もたれにしてベッドの上で脚を伸ばす。

 昨日街中でメモした食材に目を通しながら、帰りに買いたい物をチェックする。


 ボクの太ももを枕に和穂が横になる。

ふと、思う…どうでも良い事なんだけど、これってひざ枕じゃない…もも枕だよねぇ…?

 初めてひざの皿を枕にして眠った人って…どんだけ眠い人だったのかな…


パラパラノートをめくりながら、時々和穂の頭を撫でてやる。耳がピコピコ、尻尾がフリフリ…


 部屋の戸がノックされる。

『おはようございますルーフェニアです』

『どうぞっ』

 ボクが声をかけると、ルーフェニアさんが入ってくる。

『え、えっと…シル=ローズさん大丈夫なんですか?』

 ルーフェニアさんが、そちらのベッドを覗き込み、たずねてくる。


 さっき起きた時に確認すると、狐鈴に羽交い締めにされて、キュウゥッとなっていた。


『おはよ、息はしてるよー、昨日疲れているから、起きるまで放っておこうかと思って』


 ボクの隣りのベッドではクラマとルークが丸まっている。普段のボクの絶叫に、もはやクラマは驚かなくなっている。


『アキラさん、朝強いね』

ルーフェニアさんはボクの隣に腰掛け、笑いながら話しかけてくる。


『毎朝、狐鈴か和穂に起こされるからねぇ』

和穂の耳をコショコショしながら言う。

耳をプルプルさせる和穂。


『あ、あぁ…』

ルーフェニアさんは、改めてシルの様子を見て納得する。


『アキラさんは言葉の勉強?』

ボクの手元のノートを見ながら言ってくる。


『それもあるけど、帰りにどんな食材を買って帰るか考えているんだ〜、諦めていた物が色々買える様になったからね』


『食材への執着が凄いね…』


『そりゃ、そうだよ、ボクは何もない、何もできないからね。

 ボク作る、皆元気になる、頑張れる。

ボクにはコレがないとトイレも綺麗にできないからねぇ』


 ボクはブレスレットを着けている右手首を指差す。


『魔力が無いんでしたね、でも代わりにエネルギー体である、精霊や御霊を見つけ出せるとか…きっと、それはアキラさんにしかできない特別な事なんですよ』


 うん、最近になってボクは自分の能力と向き合おうと決心した。

 今までは何でボクなのか、どうしてボクだけが見えるの…と、自分だけ見える力を呪ったモノだったけれど、こっちの世界に来て、はじめて僧侶という能力を欲して、誰かの架け橋になる事がボクの力なんだと思った。

 普通の世界じゃ無いところで、自分の力を知るって何だか不思議だけど。


『みんなと会えたのもきっと、この力のお導きだろうから、呪うのではなく、感謝しないとね』


ボクは和穂の尻尾を撫でる。

 ルーフェニアさんはボクを見て微笑み、ふと、驚いた表情を見せる。


『アキラさん…首…』

ルーフェニアさんは顔を赤くして、ボクの首元を指さす。


『はぁ〜……やっぱり…?』

ボクは和穂の鼻を摘む。フガフガ口をパクパクする和穂。


『和穂さんって、キレイだし強いのに、アキラさんには甘えん坊なんだね』

ルーフェニアさんは和穂を見て微笑む。


『ん〜、ボクの料理に寄ってきた感じだけどね…』

『それ、あたしも分かる〜…あ、和穂さんの気持ちがだよ。まだ、昨日のやつしか食べた事ないけど、あれは美味しかった』


すると、くううぅ〜…


和穂の、お腹が鳴る。

ボクとルーフェニアさん向き合いプッと笑う。


「ほら、和穂そろそろ皆起こして朝ごはん食べに行こっ」


 のそのそっと身体を起こした和穂は、名残惜しそうに上目使いでこちらを見、ボクに抱きつき、押し倒してくる。


『「うわわゎゎっ!」』

 突然の事に、ボクは和穂をぶら下げたまま、ルーフェニアさんを巻き込み、ベッドから落ちる。


ドスンッ!




ベッドの上からルークとクラマがコチラを覗き込んでいる。


「アキラネェさん、何やってるのさ…」

「いてて…、おはよ…そろそろ朝ごはん行こうか」




「シル、よく眠れた?」

シルの髪を編み込みをしながらたずねる。


「はは、起こされるまで眠れたのは久しぶりだよ」

シルは普通に応える。表情が見えないのは正直残念。


「そう言えば、狐鈴達は帰りどうするんだい?アキラが呼び寄せるまでここにいるなら宿を延泊しておくけど?それとも一緒に帰るかい?」


シルが狐鈴へと声をかける。

ベッドに腰掛け、ルーフェニアさんが狐鈴に髪留めを着けている。


「ダ…?んん…何と言う生き物か名前を忘れたのじゃが、あの大トカゲは2人しか乗れぬじゃろ?」

 

確かに…しかし、シルは続ける。


「ダジャルだね。

ダジャルだけが足なら、そうだろうねぇ。でも、帰ったらキルトの家で捕らえてる族の引き渡しがあるから、恐らく衛兵の馬車と同行して帰るハズだ。席には余裕あるハズだよ」


「ほむ、なら宿は必要ないの。皆も一緒に帰る気じゃろ?」


 狐鈴が尋ねると和穂もクラマもルークも頷いてみせる。


「それに、ワチもあの大トカゲに乗ってみたいしの」


 狐鈴がニパッと笑い、クイクイと操る手振りをする。

 …ふと、笑顔から通常の表情に戻り、口を開く。


「あ、でもワチは出発の時は一緒に行けんのじゃ。ラナトゥラをサドゥラ達に見える様に【留魂の儀】をやらねばなるまいしの、終わり次第アキラに呼んでもらって、合流じゃの」

 狐鈴は目に掛かっていた前髪を横に流し、木で作られた飾りのついたピンで留めている。

 シンプルだけど可愛い、昨日ルーフェニアさんが、家の1階の雑貨屋で、購入していたピンだ。


「ほぃシル、できたよ」

そして、こちらも完成する。


「ありがとねー、こんだけ長くなると風呂も大変だし、邪魔なんだよなぁ…いっそのことバッサリ切るかね」


 シルは大きなため息をつき、編みあげた髪をいじる。


「【シル=ローズの髪の毛】って言って売ったら、高く売れるかもしれないね…」

ルークの呟く冗談に


『あ、あたし、買います!』


 鼻息を荒らげ、大きく右手を挙手するルーフェニアさん。


『アンタ等…』

苦笑いするシル。


 お腹を鳴らしながら、ベッドの上でコテンと転がっている和穂がのそのそ身体を起こす。


『それじゃ、行きますか』

 ボクの首につけられた内出血斑(キスマーク)は、狐鈴に治して貰おうとしたら、和穂が無言で狐鈴に圧力をかけ、「マーキングだそうじゃ」と治してもらえず、ルーフェニアさんの持っていたストールを巻きつけ隠している。


 宿の1階に降りると、食堂からいい匂いが漂い、魅力的だった。

 けど…表の屋台で買い食いする方がワクワクするよね。


 みんなで何の肉か分からない串焼きを頬張り、プラプラと流す。


 露店に陳列した野菜や果物を見て回る。


 白いカボチャのようなゴツゴツした拳大の果物は、見た目と違って、バナナの様に手で皮が剥ける。ビックリしたのが、これまた味も食感もバナナなんだよ。名前は【ミツル】…まるで、人の名前だ…。


 黒い玉ねぎの【アイル】、黄色くて丸いカブのような人参【モレット】、もちろん昨日味を知った、ベリー系の【オーソット】も、いったん諦めていた赤いスイカの様な果物の【メローネ】も一般家庭ではあり得ない量の購入をした。


「生き生きしてるね、あたしはコレ等がどんな物になるのか楽しみだよ」

 ボクの買い物をしている様子を見て、シルはそんな風に笑いながら言っていた。


 そして、ボクが1番楽しみにしていた穀物が頭の中で、どんどん期待を高めている。


流石に、露店ではなく、店舗での販売だった。

そして、見せられた実物…何だコレ??


 【ミュート】という物らしい。トッポギが少し小さくなった様な見た目で白い円柱だが、コレがひと粒らしい。

 そして【ミュートル】という、見た目がビー玉みたいな、まん丸の物。

 【シュミュート】という、焙煎前のコーヒー豆の様な白い小豆のような物。


 こればかりは食べ比べてみないと分からないよね。それぞれを購入させてもらう。


 調味料は見た目がきな粉のような砂糖と、料理に使えるか分からないけれど、酒類も購入する。



 お腹もだいぶ満たされたところで、サドゥラさんのお店へ向かう。

店の玄関をノックするとヤラタさんが出てくる。

『おはようございます、頼まれていた物はできてますよ』

 ヤラタさんがお店の中へと招き入れてくれると、店の奥から、サドゥラさんも出てくる。

『久しぶりに物を作ったから、腕がすっかり落ちちまったな』


 すっかり、2人とも活気付いて、初めて会った時と全くの別人になっている。


 ここで、依頼させてもらったのは自分用のショルダーバッグと、そしてソーニャさん用の眼帯?目隠し?であった。


 バックはシンプルで、ポケットのたくさんある物(さすがにウェストポーチだけだと、色々不自由になってきているので)を作ってもらった。


 ソーニャさんの物は、事情を説明すると『力になりたい』と、色々案を出してくれていた。

 さすが、貴族様御用達の洋裁店と言うべきであろうか、抜けてしまった髪の毛の色などを考え、淡い色を使用したり、フリルなどを取り入れて可愛らしい、ゴシック調にしたお洒落な物に仕上がっていた。


 ただ、これが使われるのか、本人が生きる事を諦めてしまうのかの選択は、本人次第となる。   

 ボクとしては、無責任と思われてしまうかもしれないけれど、どんな茨の道が待っていたとしても、前者であって欲しいと祈っている。

 後者だった場合、ボクにとってもソーニャの事は、決して忘れてはいけない存在のはずだから、その時はボクがチョーカーとして使いながら、狐鈴の背負う事になってしまう十字架をボクも背負おうと思う。


 さっそく作ってもらったバックに、ソーニャさん用の眼帯を片付け、お代を支払う。


 サドゥラさんは、『これも何かの縁だ』と頑なにお代を受け取らなかったのだが、眼帯はサドゥラさんからの贈り物として甘えさせてもらい、バックのお金だけ払わせてもらう。


 狐鈴は後ほど、またこの店を訪れる事になるので、サドゥラさん達には前向きな結果が届けられると良いな…。



 それからボク達は洋裁店を後にして、冒険者ギルドへと向かった。


「えっと…何これ…」


ボク達はギルドを目にして足を運ぶことに躊躇する。

ギルドの前には人だかりができていた…。

お帰りなさいませお疲れ様でした。

今回はまったりとした、コロモンの朝と街巡りの話でした。

今回の騒動の結末はまた次回のお話にしたいと思います。


それではまた、次の物語りでお会いしたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ