第51話 ボク達のその後と芋ぜんざい。
屋敷の裏側に狐鈴の袷をまとい、冒険者達の御霊に囲まれ、女性が横たわっている。
「この者はソーニャという名だそうじゃ、恐らく捜索関係の該当者の1人で、依頼を出した冒険者はこの者達であろうよ」
狐鈴がその女性について説明してくれる。衰弱が酷いのか身体も起こせずにいる。
「可哀想に、仲間の冒険者達を人質として囚われていたのじゃろう。
あとは、死ぬだけの様な身体となったら、地下の仲間の骸のもとに叩き入れ、死んでいく…そんな絶望的な目にあわされておったのじゃ。
死んだ仲間たちはそんなソーニャであっても奇跡の手が差し伸べられると信じて、死して尚、ソーニャのもとに身を寄せていたのじゃ。
ワチの手で衰弱した体の回復と、歩けない様に断たれていた腱はどうにか戻せたのじゃが、潰されてしまった、両眼はどうにもできなかった」
狐鈴は怒りと苦痛と悲しみが入り混じる複雑な表情で、ソーニャと呼ばれる女性、御霊たちを見ていた。
なんて酷い…生きたままで両眼を潰された時の恐怖なんて、想像したくもない。あちこち抜けてしまっている真っ白になってしまった毛は、それらの虐待への恐怖を物語っている。
ソーニャと呼ばれた女性の近くに、地下倉庫へと続く石造りの階段が、観音開きの鉄の扉を開けている。
この女性はそこから狐鈴によって運び出されたという。
数分前に、冒険者達の骸の様子を見に、地下へと降りていたナティルさんが口を抑えた状態で戻って来る。大丈夫だろうか、顔色がかなり悪く見える。
外で待機を指示されていたルーフェニアさんは慌てて駆け寄り、戻ってきたナティルさんの腰を支える。
『こ、この者達はギルドが責任をもって弔わせて貰おう…』
「だから言ったじゃろ、見ない方が良いと」
狐鈴は顔をしかめ、ナティルさんへ声を掛ける。
「いやぁ、かなり酷い状況だというのは自分も認めるけど、汚い物の扱いを受けると、一応女として、流石に辛いのだけれど…」
ドワーフの少女が微妙な顔つきで訴える。
地下室という事もあり、血の臭い、腐食臭が籠ってしまっているので、短時間でも、いるにはキツイだろうと狐鈴は言っていた。そんな中にソーニャさんは放置されたのだ。
「仕方あるまい、お主達を弔う為にも、現状の骸を焼かさせてもらうぞ」
狐鈴は、和穂へと指示をし、共に狐火の召喚を行い、地下室内の骸を焼き尽くすように指示する。
狐火が階段を進んで行ってから、ボンッと爆発音が1回聞こえた。恐らく死体から出たガスに引火したのだろう。
『…ぃで…、にしな…で』
ソーニャと呼ばれていた少女が微かに口を開く。
狐鈴はソーニャの背に手を当てゆっくり、身体を起こし支える。ソーニャは体の痛みに顔をしかめる。
「ルーク」
ボクはルークを呼び、手で作った器に水を満たしてもらう。
指先をソーニャの口元にあて、ゆっくり傾けるが、飲み込めず「ガハッ」とむせ込む。
和穂はソーニャを挟んでボクの正面へと回り込み、しゃがみボクの手の水を口に含む。そして、口移しで水を飲ませると2回程で少し落ち着きを見せる。
「ソーニャ、俺たちはココにいるぞ」
長髪の戦士が優しく声をかける…。
『ごめんな…い、ごめんなさ…、私のせいで…』
ソーニャは身体は動かせずそのまま微かに口を動かす。
「馬鹿だね、アンタが居なければ、あたしは何回死んでいるって…アンタは死んじゃダメなんだ、絶対に」
ポニーテールの女性は訴える。
「ソーニャ、全部終わったんだよ、苦しめていたあの男はこの世を去った…少し休むと良い」
緑色の髪を立てたシーフの男が狐鈴に頷きを見せる。
狐鈴はそのシーフへ頷く。ソーニャの額に手を当て、そのまま眠らせ、再び横にする。
「さて、ワチはこの者をどうしてやるべきなのか迷っておる。
ソナタ達は、この者に死なないで生きて欲しいと望んでいた。
そしてこの者も、かろうじて一命は留めておるが、この者にとっての余命は、生き地獄になってしまうと思うのじゃ…
ソナタ達の死という後悔を背負いながら、何も見えない暗闇の一生、そして何か後遺症が現れる恐れもある…
この者の命を決して軽んじてはおらんが…生きる道を取らせたなら無責任になってはならん…
幸せになって欲しい、と思う事は簡単じゃが、この状況だと並大抵ではない努力をしても、並の生活が送れないことを考えてくれ」
この場に沈黙の時間が流れる。皆難しい表情で受け止める。
ソーニャの生きながらえているこの状況が、希望でも絶望でもある。狐鈴の言葉は納得できすぎて、何も言葉が出ない。
冒険者達も、この人の苦しむ姿を見て来て、これで苦しみから解放されると光が見えたかと思った最中、現実を叩き付けられる。
「この者がもし、死を選ぶ様であれば、苦しませる事なく、ワチが責任をもって、この者の命を断ち切ってやろう…そうなってしまったらソナタ達の思いを裏切ってしまう事になってしまうのぅ」
狐鈴は目を閉じて首を横に軽く振る。
「すまない、アンタには苦しい思いしか選択肢が無いな…」
青髪の戦士が狐鈴に謝罪をする。
全ての事は明日への先送りになってしまった。ソーニャがどういった選択をしようと、皆で受け止めるしかないのだ…。
当たり前のことではあるが、ソーニャの命はソーニャのものだから。
ソーニャの身柄はいったんナティルさん預けとなった。
ルーフェニアさんは、日頃の仕事の貢献度からナティルさんに連休を言われ、ボク達の案内役を買って出てくれた。
ボク達はルーフェニアさんの案内で雑貨屋から、食材市場まで今日の残された短い時間をコモロンの街中でひたすら徘徊し続けた。
その間も、ボクはノートを片手に言葉の勉強をしながら、商品の名前を覚えたり、していたわけなのだけど。
シルは長い時間の稼働に、さすがに疲れが出て来たということで、ボク達にお金を持たせて、先に宿へ戻って行った。
街中を歩くと注目の的だったし、いっぱい声もかけられる、そりゃ、そうだよね…
絶世の美女と絶世の美少女が、見慣れない服を纏って歩いているわけだから…
ボクだけではなく、ルーフェニアさんも普段から慣れない視線に落ち着かない。
狐鈴は頭にルークを乗せ、クラマを抱え、和穂はボクの背後から腕をまわし、ルーフェニアさんが先頭でガイドさん。
さすが、商業都市とでもいうべきだろうか、陽はすっかり落ちているのにも関わらず、昼間と変わらない規模で店が開いている。
むしろ、飲み屋などが営業を開始したので、昼間より華やかにさえ感じる。
「何でも自由に買い物して来ると良いさ」
シルは気前よく言ってくれたけれど、言われると、案外ボクが買いたい物って少ない。
自分の世界でも、いとこの陸に「女子力低…」って言われる程、装飾品にも、ブランドにも興味なかったし、機能性重視だったからな…
少し遅くなってしまったが、約束していたラナトゥラさん、サドゥラさん、ヤラタさんのいる店へも訪問させてもらった。
その場にいなかった4人にも、今回の騒動の被害者の家族のお店だという事は事前に伝えている。
サドゥラさんもヤラタさんも、遅い訪問だったにも関わらず、快く招き入れてくれた。
相変わらず、痩せこけてしまった痛々しい姿だったが、昼間の表情より穏やかな表情を見せてくれた。
狐鈴にお願いして、お店の中でラナトゥラさんを見える様にしてもらう。
昼間ボクがやった手段と違う形でラナトゥラさんが見える様になった、サドゥラさんもヤラタさんもかなり驚いていたが、どんな形であれ、ラナトゥラさんを目にできている状況を喜んでいた。
『そうですか、ようやくラナトゥラも安心して天に上がれるんですね。
知らせてくれて本当にありがとうございます。』
サドゥラさんは、仇が打たれた事に胸を撫で下ろし、淋しそうだが、どこか優しげな表情でラナトゥラさんを見つめ伝える。
慣れたもので、ルークがボクのすぐ傍に寄って来て、通訳をしてくれている。
「必要であればボクの力、あるいは巫女の2人の力でラナトゥラさんを天へと導きます」
ルークを通し、ボクが伝えると、サドゥラさんとヤラタさんはラナトゥラさんと向かい合い、時間の流れを惜しむ様子をみせる。
ラナトゥラさんは、昼間に見せたあの虚ろな眼が別人に感じるほど、真っ直ぐな眼で2人を見つめる。
「ここは、ケジメをつけて、私がさっさと成仏するべき…だと思う。
でも、私を失ってからの2人を見てしまっていたら放って置けないよ、2人をこれからも見守らせてもらいたいよ…ダメかな?」
「バカやろうっ!そんな事言ってたら、俺達のせいで長い時間、お前を縛り付けちまうじゃねえか、さっさとあっちの世界に逝っちまえ、ようやくお前のもとに行けるなんて、ヤラタと話してたのが、バカらしく感じるじゃねえか!」
サドゥラさんは厳しい表情でラナトゥラさんへと話す。
「知ってた、だってお父さんも、お母さんも、私を見る事できなかった間、私は2人を見ていたんだよ。2人にはもっと長生きしてもらわなくっちゃね」
ラナトゥラさんは愁いの表情から柔らかな表現を見せる。
ヤラタさんは言葉も発する事なく、ただただ、涙を拭っていた。
既に、この土地に縛られつつある、ラナトゥラさんだが、様子を見て御霊が悪霊に堕ちる事はないだろうと狐鈴は言う。
ただ、姿が見えない事は不自由であろうと、この店の中限定で見える様に、儀式を後日行う事を伝えていた。
ボクはサドゥラさん達に依頼をひとつ持って来ていた。引退した者だと、断られても仕方ないと思っていたが、依頼を聞いたサドゥラさんは快く受けてくれ、明朝には出来上がると言ってくれた。
サドゥラさん達の店を出て、少し露店を歩いていると後ろに張り付いている和穂がふいうちで耳元に囁やく。
「さっき、何かいい事あった?」
耳元に聞こえる声と吐息でゾワッとする。
んー、さっきというと、どの時間の事かな…。
あぁ、シルとルーフェニアさんの紹介で入ったお店のことかな。
「美味しい食材に出会ってね、ただ…かさばるから、買って帰るには大変かも?
前に、トルトンさんを呼び寄せる時、試してみたんだけど、液体とか、果物は運べなかったんだよねー」
「なんじゃ?ワチ等の収納に入れておけば問題無かろう?鮮度もそのままで保管できるぞ」
コチラを振り返り狐鈴が話に入って来る。
「ワチらもぜひ食べてみたいものじゃの」
狐鈴の言葉に、ボクの耳元で聞こえる和穂の唾を飲み込む音…あれ?、ボク和穂に食べられちゃうカモ?
ルーフェニアさんが振り返りニッと笑う。
『甘味の再戦といきますかー?』
ボクとしては、モータルという芋ぜんざいに、すいとんを入れる食べ方を試してみたくてウズウズしている。
もちろん、他の食材も気にはなっているんだけど…
「ボク、モータルを使って料理してみたいんだけど、どこかでできないかな?」
ボクの言葉に『特殊な調理器具が無くて構わないなら、あたしの家に行く?』と言ってくれる。
「え!?家あるの?」
ボクの言葉にジト目を送ってくるルーフェニアさん。
『そりゃあるよ…賃貸だけど、今夜宿とったのは、今夜が特別なだけ』
そりゃ、そうだよねえ…
途中でモータルを山ほど買って、ナボラの実も買う。フレンチトーストも食べたいという和穂のリクエストにも応えるべく、材料を揃える。
ルーフェニアさんの家は、今夜の宿からは冒険者ギルド寄りだという事だけれど、地理がよく分かっていないボクには『また来てね』と言われても辿り着く自信は無い。
木造で、1階は装飾品の雑貨屋の店舗が入っていた。店舗の裏側にある外階段から、上がって、玄関のある部屋だった。
玄関入って、すぐにキッチンがあり、広めの1Kの部屋。
おお、女子力ってのはこういう事を言うのか…
色んな模様のキルトがところどころにかけられ、フリルのカーテンが窓にかかっている。テーブルには花瓶に入れられた水色と黄色のガーベラのような花…
そして、部屋に広がる良い香り…
早速フレンチトーストを下ごしらえして、モータルを茹でて準備する。
すいとんには少し、少し塩気をつけて甘味を引き立てようと思う。千切る仕事はルーフェニアさんと狐鈴に任せる。
フレンチトーストを焼き上げ、すいとんは白玉の様にお湯で茹でてみる。
『おいしぃ!』
どうやら、フレンチトーストはルーフェニアさんにも好評なようだ。
ボクはメローネのソースも試したかったのだが、あの大きさに手をつけたら、使いきれないと思ったので、今回はプレーンだ。
さて、このモータルという甘芋の調理法は合っているのか不安ではあるが…
お店で食べた時に感じた、ぜんざいの物足りなさに、レモンの様な爽やかな酸味のある、ナボラの実の搾り汁を加えて試してみる。流石に鍋マルっと味を変えるのでは無く、器にとってやってみる。
うんうん、こんな感じがボクは好きだな。甘い芋のぜんざいの後味に、爽やかな酸味が追いかけて来る。
てっきり、みんなとフレンチトーストを食べていると思っていた和穂が尻尾を振って隣に立っていた。
普通のぜんざいをひと口食べた和穂はウンウン頷く、器の方のぜんざいを口に入れると、そのままスプーンを咥えたまま目を閉じて動きが止まる。
あ、尻尾…。どうやら、お気に召したようだ。
「ここにすいとん入れたらすごくない?」
ボクが和穂に言うと、ガバッと抱きついて来る。
皆にもよそって配る。ナボラ汁は別に用意して、味比べができる様にする。
角切りモータルのホクホク感と、すいとんのモチモチ食感が楽しい。ナボラ汁を足して、ボクの中で完成した。
『すごい…凄く美味しいよこれ』
ルーフェニアさんはビックリしている。
うん、喜んでもらえて良かった。
コレに関しては酸味の好みがあると思っていたのだが、結果ナボラ汁を入れた方が美味しいと皆共通していた。
シルへのお土産として蓋つきの容器の分も用意する。
『やー、アキラさんの料理がこんなに美味しいなんて知らなかったよ、お店出せば繁盛するだろうに、勿体無いね』
ルーフェニアさんは、コーヒーを飲みながら笑う。
「お店でルーフェニアさんに笑われた時は、ボクなら、こうするとか考えていたんだよね〜。まだ、この国の食材に詳しくもないのに、つい悪い癖だ」
狐鈴が、ボクの言葉を訳しながら、ウンウンと頷く。
「アキラの探究心は凄いの。ワチはソナタの味が好きじゃから、改良されたものが食べれるのは幸せじゃ」
和穂も幸せそうに目を細める。
『いーなぁ、おすすめの食材とか教えるから、また食べさせてね』
ルーフェニアさんの話によると、なんと、お米…のような物はあるらしい。さすが商業都市、凄いな…ただ、夜にお店が開いていないらしいので、昼間案内してくれるそうだ。
つい、料理酒とか味醂の期待もしてしまう。
ボクの欲しい食材とか類似品も、ルーフェニアさんを通せば色々見つかりそうだ。本当に知り合えた事に感謝。
早くご飯が食べたいな。
「そう言えば、話が変わるけれど、ワーラパント相手に、シルがフルネームで名乗りを上げてから、あの場の空気が変わったのは何か理由があるの?」
ボクが不意に話題をふると、すいとんを楽しんでいた狐鈴が反応する。
「シル=ローズ=ラミュレットじゃな」
「ラミュレットは王国名だよ」
ルークが教えてくれる。
『名前に王国名を入れる事が許されるのは、王家、もしくは王家で立場が上の方の人から許された者のみが、入れて名乗れるんだよ。もし許されていないのに名乗った場合は、詐称として罰が与えられる。ましては王国名を使っての詐称なんて言ったら重罪なんだ』
ルーフェニアさんが興味深い事を言う。
「つまり、シルは王家?お妃様?王家の知り合い?」
皆の頭に「?」がいっぱいになっていく。
『ナティ…ギルドマスターの想像だと、エレメンタルウィザードなんて特殊な職だから、宮廷魔術師として王宮にいたんじゃないかって話だよ』
妙に納得できる理由に感じた。
「あ、でも以前にギルドライセンスを見ていた時、身元保証人のところに、ラミュレットって付いた名前が記載されていた気がする」
シルは地位や名誉なんかを好ましく思っていないくらいだから、ワーラパントの様な親の七光りなんて意味がないと言うだろう。
まぁ、ボクもその通りだと思う。爵位なんて下で走り回っている部下の努力を卓上で指揮をとっている者が、代表としてもらっている事も少なく無いだろうし…
自分の力で最初に承った者の手柄だったとしても、その子孫なんて一般人だ…中にはミュルドの様に何の努力もせず、甘い汁だけ啜っている…ガブ飲みしている寄生虫以下の人間だっているわけだ。
そんな肩書きに左右される様な人生、まっぴらゴメンだ。
シルにとって、自分の事であってもギルドランクとかレベルとか本人が言っているようにどうでも良いことなんだろうな。
数字じゃなくて、私を見てと。
だからボクはシルがどんな偉い人であっても、シルはシルだと言い続けるだろうし、態度を変えることもないと断言する。
まぁ、ボクにとって近しい人間だから、知ったふりは良く無い。
シルも気まぐれだから、面倒くさそうに話てくれるかも…起きていたら聞いてみよう。
宿に戻ると、食堂でシルは街人に囲まれて飲み交わしていた。
ワーラパント家を良く思っていなかった人は沢山いたわけで、注目の的にされた様だ。この人、休んでないんじゃないか?
『それじゃ、ご馳走さーん』と笑顔を振りまき、こちらへとやって来る。
ボク達は食堂の傍にある階段を上がり、部屋へと続く廊下へ移動する。
『あー、あたしも部屋を一緒にすれば良かった…』
ルーフェニアさんは、眠くなるまでボク達と一緒する。
シルには別れてからの話をした。ラナトゥラさん達の話、購入した食材と道具の話、料理の話…。
「ラナトゥラの事は、私もすっかり忘れていたよ、覚えていてくれてありがとうね。でも、フレンチトーストは…ずるい…」
シルは子供の拗ねたような表情でボクを見る。
お土産のすいとんぜんざいは、シルもご満悦の様子だ。
オンダさんの送別会のメニューにどうかと言ったら賛成してくれた。
明日はメローネと、お米に代わるものの購入、楽しみだな、この際誰か栽培してくれると嬉しいのだが…。
いっそのこと、モータルはボクが栽培してやろうか…。
そして、皆んなが聞きにくそうだったシルの名前ついてだが、蓋を開けてみたら案外単純なものだった。
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魔法学校を卒業した時には元素魔法もほぼ全色習得していて、魔力コントロールも、例のローブを着ながら順調に制御できていた。
高位魔法の習得の為に、それぞれの元素魔法で特化している魔術師のいる宮廷に、宮廷魔術師として所属し、魔術を学んでいた。魔道具製作の力も開花し、能力を買われるようになったそうだ。
王国の発展への貢献と、大きな紛争時の戦果として、爵位を与えられる事になった。
だけど、そんな土地や貴族制度に縛られるものなどいらん、自由をよこせと言ったらしい。
勿論、シルの性格を知らない貴族の集まる謁見の間は荒れに荒れて、「自分の自由を奪われるくらいなら、全てを壊して、全てから逃げてみせる」と言ったそうだ。
実際実行できるだけの力があったわけだから、周りは涙目だよね。
王様とお妃様は家族の様にシルを可愛がっていたそうで、性格をよく分かっていた。
他の国がシルと関わってこない様、王国の預かりの証として名前に【ラミュレット】を刻む事で、自由と王宮を含む機関への特別立入許可を得たのだそうだ。
基本は自由だが、モンスターのスタンビードの鎮火、野党の解体の積極的実施、魔道具製作依頼の優先権は王宮からと言われているらしい。
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「まぁ、どこかで話すつもりではあったけどね、お姫様じゃなくて残念だったかい?」
ニッと話し終えたシルは笑う。
「地獄の門番ケルベロスに子犬用鎖じゃ制御出来ないから、首輪を与えられたって訳だね…」
ボクも笑いながらシルに言う。
「言うネェ、あたしはてっきり、また敬語に戻ったりするんじゃないかと思ったよ」
「望んでいる?」
「まさかぁ〜」
『本当に2人は仲良しなんですね』
ルーフェニアさんが、僕たちのやりとりを見て微笑む。
言葉が分からなくても雰囲気で楽しんでいた様だ。シルの素性は狐鈴に伝えてもらっていた。
「そう言えば、シルのライセンスに刻まれている保証人の名前って?」
「ああ、アレはお妃様の名前だね、王様の名前なんて入っていたら、あたしも妾とか思われちまうからねぇ、意外とお妃様のフルネームって知っている人、少ないんだよ」
それでも、一王国のお妃様が保証人って普通じゃないと思う…まぁ、ボクたちもそんなシルが保証人な訳なんだけれど。
ふと、シルが言ってくる。
「そうだ、ひょっとしたら今回の一件で、アキラやみんなを、一度王宮に連れて行く事になるかもしれない…おそらくワーラパントは爵位剥奪になるだろうし、その現場に関係しちまったからね。
アキラもこの際、アキラ=ヤマギリ=ラミュレットにしてもらうかぃ?」
イタズラ小僧の表情でボクを見る。
「ヤダよ」
ジト目で言うボクを見てケラケラとシルは笑う。
『コレで、明日にはシル=ローズさん達の騒動は落ち着くんですね』
ルーフェニアさんはシルに尋ねる。
『ああ、でも森に戻ったら仲間を弔ってやらないとな…』
シルが言うと、クラマを抱えていた狐鈴が頷き続ける。
「うむ、大々的に送ってやろうと思うぞ、皆んなもオンダが好きじゃったからな」
「アキラ、料理作る」
ベッドに腰掛けているボクに横から体重を預けている和穂が言う。
『うぇ、ホント!?それは魅力的だね…』
ボクにはどんな会話が繰り広げられているのか分からないけれど、ボクにルーフェニアさんのキラキラした目が向けられている事だけは分かった。
「今回ミュルドによって犠牲になった者の遺骨でも持参して、まとめて送ってやる事にしたら、参加する口実になって良いんじゃないかの?」
狐鈴が呟く。
『そうだね、ナティルさんに言ってみよう』
ルーフェニアさんは胸元で拳を握り頷く。
お帰りなさいませ、お疲れ様でした。
気がつけば、50話を超えていました…。
この後のソーニャの運命は?ワーラパント男爵家の運命は?アキラ達の食材購入は?
もう少しだけ、このわちゃわちゃ感とコロモン観光にお付き合い下さい。
さて、今回も長丁場のお話でしたので、スパッと切りたいと思います。
それではまた次の物語でお会いできたら嬉しいです。
誤字脱字の報告をして下さる方本当にありがとうございます。




