第49話 ワーラパント男爵邸侵入。
今回は視点切り替えが入り組んでおります。
読み物酔いにお気をつけください。
アキラ達と別れた、狐鈴、和穂、クラマ、ルークは姿を消したまま、ワーラパント男爵邸の探索を行う。
正面には重厚な門があり、街中とは思えない程広い庭がある。
ワーラパント男爵家は別の土地に男爵領を持っており、当主は領地内の男爵邸とコロモン邸を行き来しているが、息子のミュルドはこのコロモン邸に住み根を張り、少人数の私設衛団とごろつきに身を守らせ、やりたい放題、自由気ままに過ごしている。
今現在、社交シーズン前ということもあり、当主もこのコロモン邸へと滞在している。という情報をルーフェニアが言っていた。
できれば人の目に多く触れる中で、ワーラパント男爵家の悪事を曝け出したい気持ちもあったが、探索をしなければ悪事の決定的証拠を突き付ける事はできないので、どうしても最低限の時間を割かなければならない。
皆の希望としては、解放した族がここに帰還する前に決着を付けておきたい気持ちがある。そのため、どうしても焦りが出てきてしまう。
和穂は結界を張る準備をしながら、屋外の探索をする。
今回の結界は、キャラト家の時の様に継続的な物ではなく、ひと晩限りの物なので、敷地内の広範囲とはいえ、簡易な結界で大丈夫だろう…
敷地4隅に自分の血を垂らし文字を書いた石を置いていく、その作業をしていると、庭の木陰、花壇の上、噴水の脇などで、侍女や若い冒険者、コロモンの衛兵であろう鎧を来た者などの御霊が目に入る。おそらく、それぞれの場所に埋められているのであろう、呪縛の様にその場から動けないようだ。
「闇が深いな…」心の中で呟く。
そして、中央にある屋敷の玄関の前で収納空間より錫杖を取り出す。
シャンッシャンシャン杖のリングを打ち鳴らし杖の先を地面にトンッと打つ。
すると地面が一瞬光り、結界が発動する。
屋外のそれぞれの場所で縛られていた御霊達は結界内で、ようやく動ける様に開放される。
自由になった御霊達は和穂を囲う様に集まってくる。
「ワーラパント男爵家を潰す。時が来たら協力して欲しい」
和穂が呟くと、周囲を囲っていた御霊達は一斉に片膝を地に着き頭を下げる。
和穂は身を翻し、閉ざされたままの屋敷の玄関をすり抜けて行く。
「うえ…趣味悪…」
廊下の至る所に置かれた人物の絵や彫像…おそらく、この屋敷の主人や家族だろうか…
それに、無駄に豪華絢爛な壷…目がチカチカするような色合いの、何を描いているのかよく分からない絵画…
ボクには一生この屋敷に住む者達の趣味を理解できそうにない…。
とりあえず、ボクが割り振られたのは3階フロアの片っ端から見て回る事で、囚われた者達を見ても解放するのは同時にするので今は情報収集に専念して手を出さないとの事だ。
とは言っても、寝室だらけで特に変わった所もない。
ベッドメイキングをする侍女、ワゴンで花を運んで廊下や部屋の花瓶を飾っていく侍女。
あんなにも獣人にこだわる変人だと言われていたのに、働いている者達は人種は違えど普通の人間ばかりだった。
ガッシャーンッ!!
何か激しく割れる音が廊下に響く…おそらく音の正体は1番奥の部屋から聞こえたと思われる。しかし、不思議なことに侍女も執事も誰1人として部屋へと向かう者はいなかった。
音の原因はきっと皆分かっているのだろう、音の響いた瞬間はビクリッと身体を緊張させるが、苦い顔をしたまま、再び作業へと手を戻す。
ボクはあまりに不自然すぎるこの異常な光景が気になり、調べ切れていない他の部屋は後回しに、奥の部屋へと向かう事にした。
…何じゃ…ワチはハズレを引いてしまったかの…1階を探索していたところ、この屋敷の主人と思しき人物も、変態と言われた息子も居らぬようじゃ…
他の部屋とちぃと違うと思えるのは、娯楽室としてごろつき共に解放されたホール、朝から酒を飲み煙草をふかし、カードゲームで博打をうっているような者が20人程…流石にこれだけの人間がおると、うるさいのぅ。とりあえず、自由に泳がせる事にする。
あとは厨に食堂、沐浴室に、客間、家臣の個室と、使用人がウロウロしている様子はあったが、特に変わった様子もない。小さな城みたいな建物じゃの…
ある程度回ったところで、和穂が屋敷内に入ってくる所が目に入る。
「おぉ、早かったのぉ。残念ながらこの階はハズレのようじゃ…あと、まだ場所は掴めておらぬが、おそらく下がありそうじゃの…」
遠くから『ガチャーン』と何かが割れる音が聞こえる。
和穂もそちらの方に目をやっている
「和穂、あちらを任せて良いか?」
和穂はこちらに頷き、階段を駆けて行く。
さぁて、ワチは隠し階段でもあるのか調べてみるとしようかの…結界内であれば、この初見の建物もワチらの手の平の上も同然じゃ。
建物の中央を位置すると思われる正面玄関ホールで坐禅を組み集中する…
結界内、建物内の流れる風を頼りに地下へと続く入り口を探す。
ほぅ…そっちにあったか…
2階部分は玄関ホールの吹き抜け、いくつかのホールや執務室があり、この執務室の控えの間には1人の執事と侍女が待機している。
執務室は大部屋で、腰を据えた歳を重ねた男は白髪になった髪の毛を後ろへ流し固めている。書類を整理する手を止め、後ろに広がる窓へと振り向き、外を見つめる。
ふむ、此奴がここの主のワーラパントという者か…何というか、慕われているかと聞かれると、どうなのだろうか。引きこもって、ただ書類に目を通しているだけのようだが、こう短い時間だとこの男というものが分からない。
「ミュルドもそろそろこの家を継ぐ気を見せて欲しいものだがな…」
ボソリと、男は呟く。
上の階から何か割れる音が聞こえる。
男は「チッ」と舌打ちをし、ため息をつく。
「またか…アイツの性癖も、何とかならぬものか…いい加減、酷くなり続けて、どうにもできなくなりそうだ…」
そうひとり呟くと、再び書類の山に手を伸ばす。
拙者はこの者の動きに注意しておくべきか…
いや、この者は気にも留めておらぬ様なので、皆と合流するべきか。
執務室を後にする。おそらく、皆あの音の元に集まっているだろう…。
ピシャーンッ、ピシャーンッ…
地下には開けた空間があり、ジメジメしている…避難を目的とした空間ではなさそうだ…
なぜなら地下への入口は外にあり屋敷の裏手に回らないと入れない。
そして、空間に続く階段を降り切った場所には格子がはめられている。
階段を降りて行くと悪臭が漂っている…
鉄の匂い…いや、これは…血の匂いだ…
そして、腐敗臭…
ワチが目を凝らすと足元に手枷、足枷や鎖が落ちている。そして、亡骸と骨…部屋の隅に集まっている御霊達…
「ワチは狐鈴、ソナタ達を解放しにきた者じゃ。この敷地は現在ワチらの支配下になっている。外に出られるぞ…外でソナタ達の話を聞かせてはもらえんかの?」
ワチの声かけに空間を漂う御霊達はあっという間に地上へと出て行った…
ため息をひとつつき、ワチも上へと続く階段へと振り返ると「…ぅ…」後方に呻き声が微かに聞こえた。
「んぅ?誰かおるのかや?」
耳を澄ますと微かに石の床を擦る音が聞こえる。
「ほむ、あの者達に護られておったのじゃな…今出してやろう」
印を組み炎柱を出現させ、格子を溶かす。格子から離れた壁際にその姿が見える。
先程、御霊の集まっていた場所に横たわる人影をワチは背負い、屋外へと向かう。
階段を登りきると、そこには先程背負っている者を取り囲んでいた御霊達が待っていた。
鍛えぬかれた褐色肌の肉体をした青い長髪の青年。
大きな耳で小さな体型オレンジ色のショートカットの女性。
アキラくらいの背丈の緑色のツンツン頭の人の良さそうな表情の青年。
金髪のポニーテールのそばかすの活発そうな女性。
「えっと…何でソナタ達は裸なのじゃ?」
そう、彼等彼女等は、御霊といえど、一糸纏わぬ姿であったのだ…。
「それは…裸で牢に閉じ込められて、そのまま命を奪われていたからだよ…」
緑色の髪の青年が言ってくる。
「ほむ、しかしじゃな…御霊になったらイメージさえすれば服も出現するんじゃよ?」
「「「「えっ!?」」」」
「キャーーーッ!!」
「見ないでっ!!」
「うわわわわゎっ!」
慌てふためく御霊達。
まったく賑やかじゃの。
そして、本人達のイメージした状態…おそらく冒険者だった時の格好だろう、戦士に魔法使い、ハンターにシーフの姿。
ワチは背負っていた者をその場に下す。
彼等彼女等の亡骸を確認していないので、どの様に息絶えていたのかまではわからなかったけれど、この運んできた者も息があるのが不思議なくらいだった。
両眼を失い、腱も切られている。
さぞ恐ろしい目に遭ったのであろう…髪の毛どころか、ありとあやゆる毛がところどころ抜け、真っ白になってしまっている。
乱暴もされていたのだろう、裸にされ、顔の原型も分からず、躰も元の肌の色が分からないくらい変色していた。
収納空間より、袷を取り出しかけてやる。
「ソーニャ!もう大丈夫だからっ!」
「お願い!ソーニャを助けてあげてっ!!」
「頼む、コイツだけでも…」
「頼むよ、頼む」
ソーニャと呼びながら取り囲み、こちらへと懇願する彼等。その女性は彼等の声かけは聞こえておらずとも、感じるものがあるようで、返事の代わりに小さく唸り声をあげる。
「ソナタ達も人が良いの、自分達は命も奪われてしまったのに、その原因とも言えるこの娘にそこまで言えるのか…」
「ソーニャは悪くないっ!」
「当たり前だ!」
「アイツが悪だっ!」
「ソーニャが1番酷い目にあったんだ!」
「俺たちには助けられなかったから…」
食いかかるように言葉で責めたてられる現状に大きくため息をつく。
ワチはここで戦線離脱になりそうじゃな。
「任せるが良い、この者はソナタ達に代わってワチが救ってやろう」
その前にやるべき事が、できてしまったようじゃの…。
生身の身体のこの娘と干渉する為に、姿を消せない状態でこの場にいたものなので、この屋敷を巡回していた者に見つかってしまったようだ。
大声で叫びながら離れた所から駆け寄ってくる男が2人…
「すぐ、終わるから待っておれよ」
横たわるソーニャに声をかけて、頭を撫で立ち上がり、身体なき冒険者達に声をかける。
「ソナタ達にも協力して貰うからのっ!」
ルークが部屋で見たのは目を疑う光景だった…
控えの間の入り口に格子がはめられている。
部屋から逃げられないように…
「何で僕の言う通りにやらないんだよっ!」
パシンッ!
乾いた音が部屋に響く。
「もっと力を入れて本気でやれっ!」
縞を髪の毛に浮かべている虎の獣人の女性が頬を赤く腫らし、裸で涙を浮かべながら乗馬用の鞭を振る…
ビシーンッ!!
「ウグゥッ!!」
唇をかみしめ、悲鳴を殺す…
「なんだ、やればできるじゃんか…」
ミュルドはニヤリと笑う。
ミュルドは獣人同士で傷つけ合う光景を見て興奮している…
虎の獣人も痛々しい程の内出血とミミズ腫れ、そして血を滲ませている。鞭を手から落とし、膝から崩れる。
「ごめんなさい、ごめんなさ…」
何度も何度も泣きながら謝る。
今鞭を打たれた狼の獣人の男性はそのまま気絶する。
「チッ…情けねえな…もうしまいかよ、次は誰に見せてもらおうかな…」
舌舐めずりをしながらウェーブのかかった長い金髪の前髪をかき上げる。30歳前後の細身の男はゆっくりと虎の獣人に近づく…。
男が肩に手をかけると、その獣人はビクッと身を震わせる。
そして、男はその獣人の近くに顔を寄せ、ひと言
「なぁ、お前には、身体で覚えさせないとダメなようだな…」
「ひ…」
獣人は顔を蒼白させ、声にならない口を戦慄かせる
ルークの到着直後に同じ部屋へ到着した和穂が隣で絶句し、苦虫を噛みつぶしたような表情で立ち尽くしている…
「おい、ウサギお前こっち来い」
部屋の更に奥にある鉄格子の中にいる少女が立ち上がる。やはり裸にされており、身体中痣だらけになっている。
目には光が灯っておらず人形のように、カクカクと動く。右足は動かないようで引きずりながら鉄格子を出る。
虎の獣人はガタガタと震える。
「ルークは、まだ出るな…」
和穂はそう言い残すとウサギの少女の前まで行き、姿を出現させる。
和穂が少女の目を覗き込み、眉間に伸ばした人差し指をトンッと突くと糸の切れた傀儡の様にその場で崩れる。
「キ、キサマーッ!何処から現れやがったっ!」
ミュルドは慌てた様子で、虎の獣人を横へひっくり返し、足元に転がる鞭を手にとる。
和穂は崩れたウサギの少女と気絶した狼の男性を抱え、鉄格子の中へと連れていき、床へと降ろす。
窓にかかるカーテンを引き裂き、鉄格子の奥で身を小さくしている獣人達へと放る。
ミュルドが鞭を突きつけ威嚇する。
和穂はその威嚇を気にもせず、虎の獣人の元へと行き、その獣人も抱えて、鉄格子の中へと入れる。
「クラマッ!」
空間より白い鴉が和穂の横に現れる。
「この者は拙者が、和穂殿はこの者達を救った方が…」
クラマは和穂に話しかける。
「こやつは、獣人が好きなようだ…わたしが相手しよう」
目を金色に燃やす和穂に、クラマは恐怖を感じ、それ以上は口に出さずに、鉄格子の中へと入って行く。
ミュルドは後退りし、手探りで左手でベッドの脇にある魔石に辿り着き、魔力を流す。すると、屋敷中にサイレンが鳴り響いた…。
お帰りなさいませ、お疲れさまでした。
ワーラパント男爵家侵入、そして悪事を表に出すための探索。
ミュルドがドMだったらとか、自分の頭の中で色々な分岐が今回もありました。
最後にはうまく話がまとまってくれることを祈りながら話を進めております。楽しんでいただけたら幸いです。
それでは、本日はこの辺りで一区切りさせていただきます。
次回の物語でお会いいたしましょう♪




