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第48話 ボクこの世界の甘味を味わう。

 ルーフェニアさんのおすすめのカフェに足を進めながらシルへと声を掛ける。

「ねぇシル、キルトさんなら、サドゥラさん達と良い師弟関係になったりしてね」


「んー、どうだろね、あの子はもっと大きな街から森に移り住んでいるし、街にも一切来ていないくらいだから、今の生活が気に入ってるんだよ。

 それに、あの子がいなくなったらあたしに代わって、薬草集めたりキルト魔法陣を作ってくれる人がいなくなっちまうねぇ、そうなったらアキラにお願いして良いかい?」

シルはボクにニパッと笑いかける。


『さぁ、ここです♪』

ルーフェニアさんがひとつのお店の扉を開けると甘い香りが室内から流れてくる。


 そして店内に入ると奥の窓際の席へと案内される。

 店内はそんなに広くはないが、30人くらいなら入れるかと思われる。女子率が高く、8割近くは若い女性が占めていた。


 スイーツのお店なのかな、店内は甘い匂いが立ち込めている。


 ボクの記憶が間違いでなかったら、コチラの国…森で使っていた甘味料は蜂蜜一択だった気がしたんだけど、砂糖とか水飴みたいな甘味料に出会えるのかな…と、期待は高まる。


 メニューを手渡され、シルと隣り合って見る…。

 ギルドの食堂では、文字の羅列だけのメニューだったのが、この店ではイラストをつけてなんとか分かりやすくしようという、努力がうかがえる。


 だけど、ボクにとって知りうる食材や調味料の知識はこの世界では無意味なのだ…絵の具のようなカラフルな調味料、見た目と180度違う果物の味…それは闇鍋で食材を探り当てる様な難易度だ。


 唯一の救いが、味覚に関してだけは同じという事に胸を撫で下ろした。

 とりあえず、ボクが美味しいと思える味付けに共感を貰える、それって大事な事だと思う。

 ボクの苦手な味付けを推奨された世界だったら、未知の世界での味の組み立てになるわけだから…


 

 読み方すら分からないメニューに目を泳がせ、シルに一言「分からない」と伝える。

 シルは苦笑いをし「あたしも、こんなオシャレな店使わないからな…」と言いつつ、「気にいる味もあるかも知れないから違う物頼んで一緒に食べ比べしよう」と提案してくれる。


「シル、大丈夫?ほぼ徹夜みたいなものだよね…」

 シルは普段からの眠たげな眼差しをさらに細めて笑う。


「流石に少し眠くなってきたかも…きっと、今皆んなが準備している事も、夜には実行されるだろうし、ここ出たら宿屋行きたいかな」


 メニューに穴が開くのではないかと思える様な集中力で、料理を決めたルーフェニアさんは店員を呼び、注文をする。


「すぐに狐鈴達と合流できるように、屋敷の近くの宿屋が良さそうだね」

 ボクの心境を察しているのか、シルが宿屋を提案してくる。


「そうだね、ボクもできれば近くにいたいと思うから、そうだとありがたい…

あ…そう言えばシルの寝顔見るの初めてかも…」


「アキラ、何という顔してるのさ…見られると分かって同じ部屋で寝るのは恥ずかしいのだけど…」


 シルは苦笑いで視線をこちらへよこし、ため息をつく。ボクは何も意識しないで話したつもりだったんだけど…どんな表情をしていたんだろう…モニュモニュと頬を揉んだり、ペタペタと自分の顔を触る。



 注文を決めるという大仕事を終えたルーフェニアさんが正面からボク達のやりとりを見ていた。


「せっかく、同じくらいの地元の娘と話すきっかけができたのに、言葉がうまく使えなくて、残念…」


 ボクがシルを通して気持ちを伝えると、ルーフェニアさんは姿勢を正し、ブンブンと首を横に振る。


『伝説のシル=ローズさんに、異国から来たアキラさん、あたしは今、凄い人達と一緒させてもらっている…それだけで充分ですよ』


 まるで夢見る乙女の様に、うっとりとし頬を染めて喋るルーフェニアさん。


「そうだ…」

と、シルはバックをゴソゴソとやって1冊の新しい紙の束を取り出し、書き物を添えてこちらによこす。


「こういう、雑談をする時こそ、言葉の勉強になるんじゃないかい?」


シルは優しい表情でこちらを見る。

 それもそうだね…、ボクはウエストポーチから以前チャコが書いてくれた文字の羅列表の写しを取り出して横に並べる。


 流石に、雑誌程の枚数まで膨れ上がった、ボクの言語練習ノートは持って来るほど、荷物に余裕はなかったから置いてきたのだけど、羅列表はボクにとって助けになるので、こうして持ち歩いているのだ。


 以前シルから教えてもらった、ボクの名前を最初の文字として刻み、ルーフェニアさんへと見せる。


「ほう、もう自分の名前はバッチリ覚えた様だね、ぎこちなさも無くなった様に感じるよ」


 シルはルーフェニアさんへと向けた文字を見て頷く。

 ルーフェニアさんはボクの名前の下に可愛らしい文字の羅列を刻みこちらへ見せる。

そして、羅列表を指差しながら自分の名前を教えてくれる。


 そんなやり取りをしていると、店員さんが木皿に乗せた料理をテーブルへと運んで来た。


 ボクの木皿には、以前ボクが作った何ちゃってホットケーキに似たような物が3枚並べられ、オレンジ色のソースがかけられ、上に水色の親指の先程の丸っこい、木の実が上に乗せられている。


 木の実をフォークで刺し、興味津々に色んな角度から見ていると、シルが口を開き教えてくれる。


「オーソットっていう、甘酸っぱい果物だよ。

 日持ちのしないものだから、普段はソースやジャムにされる事が多いんだけど、こうして形のまま出される事もあるんだ」


 恐る恐る、口へと運ぶとイチゴの様な甘酸っぱさが広がる。ベリー系の果物だね。


 シルはスプーンで、オレンジ色のソースをすくい、口元へ運ぶ。


「これはメローネかな?」

『そうですよ〜』

正面に座ったルーフェニアさんが頷く。


 メローネと呼ばれたソースはアンズのような甘さと、柑橘のような爽やかさを持った果物だった。


「これはどんな果物なの?」

「んと、まん丸の赤と黒の縞々の木の実で、大きいものだと、これくらいかな」


 自分の頭より大きな丸を両手で表現してみせる。


「でっか…!しかも、木の実!?」

 恐ろしい果物もあるもんだ…てっきり拳大程度の物かと思っていたから想像以上だ。


 ホットケーキの様なものは、果物のソースや持ち前の甘酸っぱさを壊さない様に、味の主張はない、食感だけの演出だった。


なるほど、果物の素材の味ね…


「ねぇシル、この味ならボクの作ったフレンチトーストでも合いそう気がしない?」


「うん、あたしも今そう思っていたところさ。ただ、持ち帰るすべが…」


シルは頭の上に汗を飛ばしているように見える。


「ですよねぇ〜…」


 次に運ばれてきたのは…なんと、ぜんざい…ではないけど、ぜんざいっぽい何か…さつまいもというか、紅芋?の様なゴロゴロとした物と崩れて溶けてペーストの様になっている物がお椀の中に入って湯気をあげている。


 紅芋?と思った理由は真っ赤だったからだ。何も知らずに出されたら、辛い物…しかもチャレンジメニューに出されそうなほどの赤さ…でもこれが美味しかった。


「これは元からこれだけの甘さなのかな?」

シルはルーフェニアさんに聞いてくれる。


 モータルという地中に生える実で火が通ると甘みが出てくるらしい。まさにサツマイモの様に感じる。


 ボクだったら、ここにモチか白玉を入れたいな…でもまだコメを確認できていないから、すいとんでもいいなぁ…。

 

 そんな事を考えていると、ニンマリ笑ったシルに肩を突っつかれる。

「幸せそうだってルーフェニアが笑ってるぞ」


 正面に座っているルーフェニアさんは目を細めてボクを眺めていた。


 うふふ、幸せだよー。緩むほっぺたを手でムニュムニュさせる。

 きっとこの幸せな感情も和穂には伝わっているんだろうな…買って帰れそうな物があったら帰ってから作ってあげたいな。


 ルーフェニアさんが、悩んでいた物が届く。

 小玉スイカのような大きさの果物?パッと見た目がヤシの実のような硬そうな皮が付いた実が二つ割りにされ皿に乗せられている。

 白い皮(卵の殻にも感じる)の内側には乳白色のゼリーの様な果実それを器にした様に中央には果汁が満たされている。


「こりゃ大変そうなフルーツだな」

苦笑いをしながら呟くシルの反応にボクも頷く。


『ふふ、これが美味しいんですよ、さあどうぞ』


 スプーンを入れるとスッと入る。何というか…ちょっと硬めのゼリーのような…そう、蒟蒻ゼリーの様な食感、味はブドウのような甘み、そして不思議なのは中央を満たしている果汁…醗酵しているからなのか、炭酸の様にシュワシュワしている…


思わず、シルと見つめ合っちゃったよ。

でも、丸々ひと玉は食べ切れないな…、ああ、だからルーフェニアさんは悩んでいたわけだね…


『これは何?』

ボクがルーフェニアさんに聞いてみる。

『メリザロだよ、ビックリしたでしょ?』

ボクもシルも頷き応える。


いやぁ、どのメニューもボクには、驚きだった。案内してくれたルーフェニアさんには感謝しかない。


「オーソットもメローネも、きっとハーブティーに入れたら美味しいだろうね」

ボクが言うと、シルもウンウンと頷く。


「仕入れる手段があれば良いのだけどね…オーソットは足が早いし、メローネはデカイ…」


ほんとそれ…モータルは値段と相談になるかな…など考えながら、満喫した時間を過ごす。


新たな食材を知ることができて、ボクはすっかり楽しませてもらった。



 お店を出ると、さっそく宿を求めてワーラパント男爵邸の近くへと移動する。


 宿屋そこでルーフェニアさんとお別れになる…ハズだったのだけれど…


『今日はありがとう』

と、伝えると、頭に『?』を乗せたルーフェニアさんが『ん?』と言う。


 当たり前の様に、シルの隣でチェックインの手続きをする。

そして、悪戯小僧のような笑みを含んだ表情でボク達に向いて言う。


『だって、今夜コロモンの歴史が変わるなら、特等席で観たいじゃない…』



お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

みんな、甘い物好きですよね。

コロモンの食材で、皆んなが喜んでくれる様なものを作るアキラを書きたいです。


それでは、また次回の物語でお会いいたしましょう。

誤字脱字のお知らせありがとうございます。

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