第46話 ボク達の調査そして出陣。
ギルド屋内に戻る道中がまた大変だった。ナティルさんが先頭で歩いているにも関わらず、狐鈴や和穂に人が詰め寄る。
スカウトだったり、ナンパだったり…
ナティルさんの声も、ロドグローリーさんの声も聞きやしない…ので、笑顔のままシルが杖を持ち出して、パリパリッて先端をスパークさせたんだよね…すると、皆さん聞き分け良く道を作ってくれたわけで…
何だか、ボク達の存在は3日もあれば、街中に知れ渡るんじゃないかな…ははは。
ギルド奥の間に続く廊下に入るまで、付き纏われたわけなのだが…
奥の間のソファーに全員腰かける。
テーブルを挟んでボクの正面にシル、その隣にナティルさん、ロドグローリーさん、連れの衛兵、ソファーの横に立ってルーフェニアさん。
こちらの席はボク、和穂、狐鈴、ボクの背もたれのところにルーク、狐鈴の膝の上にクラマ。
食事前のメンバーに傭兵からと冒険者ギルドからそれぞれ1名追加されたメンバーで話が始まる。
『失礼します』
とルーフェニアさんは、狐鈴の隣に腰をかけファイルを広げる。
ボクには、ルークが訳してくれる。
ルーフェニアさんが見つけてきた獣人に、関する捜索依頼の内容を確認すると、家族からの依頼と、冒険者チームからの依頼、街で働いている店からの依頼と、各方面から依頼が出ていた。
ルーフェニアさんがおかしいと話していた事は確かにおかしいと思った。
捜索依頼が出されているのはあちこちからなのに、依頼の取り下げはワーラパント男爵家の関係者ばかりなのだ。
事件の匂いしかしない…
「ちなみに…」
ボクが言葉を口にすると、ボクの言葉を知らない、ナティルさん、ロドグローリーさん、ルーフェニアさん、傭兵の4名が一斉にこちらを見る。
いや、ボク言葉が分からないだけで、喋れないわけじゃないんだけど…
そこはシルが、フォローしてくれる。
「この取り下げになった依頼の、依頼者って今どうされているんですか…?」
『何で依頼者の事が気になるのか?捜索するべき人物を気にするのではないのか?』とナティルさんはボクにたずねてくる。
行方不明になった人物当人が心配なのはもちろんなのだが、ボクはこのワーラパント男爵家が関わった事で、依頼者も普通で済まされないような気がしてならないのだ。
だって相手は攫う為なら、その家族の命だって簡単に奪おうとするような人達なのだ。
実際ボク達も同じ目にあっているわけで、捜索依頼主に返しました…では終わらない気がする。そもそも、返してもらえないだろう。
口止めや脅迫なんかも考えられる。
シルにボクの考えを訳してもらうと、ナティルさんは神妙な顔つきになり、ルーフェニアさんに何か伝える。ロドグローリーさんも付き添いで来ていた衛兵に、取り下げられた捜索依頼書を渡す。
2人はいったん、この部屋より退出する。
どうやら、調査する為に出て行ったのだろう。
2人が出て行った後は、先程の模擬戦について話しがなされた。部下達の前では話しにくい事ってあるよね…
狐鈴も和穂も賞賛されていた。
『シル=ローズには手を出すな』という言葉を改め、2人の名前も刻まれたりしてね…。
とはいえ、ボクは秘密裏にある事を狐鈴に確認をする事にした。
数珠を取り出し、狐鈴に念話で話かける。
『ねぇ狐鈴、和穂との模擬戦も見世物としての戦い方だったでしょ…いや、言い方が違うか、2人ともわざと見せる為の戦い方をしていたでしょ…』
ボクは念話をジト目を送りながら行う。狐鈴の表情が突然固くなる。
『な、な、な、何を言っておるのかな?本気も本気じゃったよ…』
『だって、2人とも火なんて意味ないでしょ?それをわざわざ、披露したり、避けてみたり…それに2人が本気なら、剣術だけではなく、体術も使うものだと思うけど…ねぇ』
『はぁ…本当にアキラにはかなわんの…大した観察力じゃの。
そこの2人との勝負だけで終わらせてしまうと、人の上に立つ者なのに…って、2人が舐められてしまうからの…
だからといって、あからさまに手を抜くわけにもいくまいて…まぁ、もっとも若干加減をしていたのくらいはバレていそうじゃがの。
今後も手合わせを願いたいなど言ってくる、面倒くさい者もまさか、命懸けで挑んでくる事はなかろ?
だから、相手をする時は、遊びじゃないと釘をさしたのじゃよ』
『体術を使わなかったのも意味があったの?』
『あ〜、アレは和穂が食べ過ぎて、限界だったからの…』
「ぶっ…」
思わず噴いてしまった。
「あ、思い出し笑い…気にしないで…」
危ない危ない、一瞬皆んなの注目を浴びてしまった。
手を振って誤魔化す。
『和穂に勝利を譲ったのも?』
『アレは悔しかったのぅ…ロウソクの火さえ消えておらなければ、ワチが勝つと思っていたのじゃが…何じゃ?アキラはワチと添い寝を所望じゃったか?』
『結構でーす』
扉がノックされ、ルーフェニアさんが戻ってくる。
表情が曇っている。
どうやら、ボクの考えが悪い意味で当たってしまったようだ…
『捜索願いを出された冒険者チームは2組で合計10名でしたが、そのどちらのチームのメンバーも、全員ライセンス取り消しになっています。
依頼を受けないどころか、ライセンスの更新もなく音信不通です』
ルーフェニアさんは戻ってくるなり調べてきた事を報告してくれた。
ナティルさんの話によると、一定の期間のうちに依頼を受ける事は、冒険者自身の生存表明となるそうだ。
依頼の達成、失敗はその冒険者達自身の信頼度を上げる事もできるが、一番の目的は生存の確認となるとのこと。
依頼を受けてその後の報告が無ければ、他のギルド支部と連携して、療養している状態なのか、あるいは失敗して亡くなってしまったのか情報のやりとりをして確認をするらしい。なので、依頼の引き受けと報告はセットだということだ。
しかし、依頼を受けず音信不通という事は、トラブルに巻き込まれて、拉致監禁、あるいは存在を消されてしまったか…。
ライセンスの更新というのは代理人を立てる事はできず、本人が行う。
更新せずにライセンスカードを使用することはできないので、ライセンスの更新ができないという事は、音信不通その様に判断されるらしい。
ルーフェニアさんの調べで、2つのチームのメンバー全員ライセンスが更新できず、取り消しになったということだ…、監禁されているか、はたまた、すでに亡くなっているのか…
『ちなみに、チームランクはCとDですね』
ルーフェニアが資料をめくり、追加の情報を伝えてくる。
『ふむ、もしワーラパント男爵家が関わって、彼らのチームをどうこうできるとなると、ランクでいうとC以上に位置する者がいるのか、私設衛団がそれだけの力があるのか…』
複雑な表情でナティルさんは呟く。
『私設衛団なら、それくらいの実力があってもおかしくないな。
それに、おそらく直属の護衛者になるとB以上だろうな…
ただし、例えワーラパント男爵家が何かを指揮しているとしても、証拠がなければ何もできないな…』
ロドグローリーさんも呟く。
「この捜索願いと、取り下げられた証拠、本人の話でどうにかできないのかな…」
ボクの言葉にシルは難しい表情をとる。
「本人が証言できる状態でなければならないな…万が一失敗した場合、その後の自分達の身の安全を考えると、安心して証言できるほど、徹底的に証拠とダメージを与える必要があるだろうな…」
「そこは気にせんでも良いじゃろう、ワチ等が関われば、徹底的に潰すからのぅ」
狐鈴はニヤリと笑う。
「何だか、男爵家の屋敷内でも獣人や、関わっている人の生き死にがあるかもしれないね…
死者の亡霊を見せて混乱させる事って可能なのかな?」
ボクが狐鈴にたずねる。
「そうじゃの、屋敷の敷地に結界を張ってしまえば、容易じゃの。
徹底的にかき回すなら準備しておくべきかの、相手もどんな汚い手を使ってくるか分からぬし…」
狐鈴は腕組みをしながら答える。
「ロドグローリーさん、男爵家からの依頼がなくても、衛兵が男爵家の屋敷に立ち入る事って可能なのかな?」
シルが訳し、ロドグローリーさんは難しい表情で返事してくれる。
『しっかりとした証拠がある事件の発覚した場合、王宮から捜索状が出されるか、使者があった場合だな。
あるいは爆発など起きた場合は安全確認で立ち入る事くらいか』
「ほぅ、爆発かぁ…それは確かに物騒なことじゃの」
狐鈴はニヤリとしている。
ボクは無言でシルと視線を合わせる…シルは苦笑いし、大きくため息をついた。
扉がノックされる。
ルーフェニアさんが扉の元に行き開けると、
見覚えのない衛兵がファイルを抱え室内へと入ってくる。
どうやら、ロドグローリーさんが最初に詰所に戻った時に依頼していた、獣人絡みの事件の報告書の整理ができたそうで持ち込まれてきた。
「事件の内容を洗う前に、捜索依頼との関係も照らし合わせながら、確認してみませんか?
ひょっとしたら、ボク達にしようとした様に攫ってきた人が事件に巻き込まれている可能性もあるので…」
ボクの提案に、新たに入ってきた衛兵が驚いた表情をして『攫ってきた!?』と声を上げる。
ロドグローリーさんは困った顔をしながら、衛兵を落ち着かせ、ファイルを受け取る。
すると、裏路地で虐待され死亡と書かれた報告書と捜索依頼が一致した。しかも、ワーラパント男爵家によって取り下げられた依頼の該当者だ…
この発見は、流石にショックだった…。
後に先程調べ物で出て行った衛兵による報告で発覚したのだが、捜索願いを出した店主が雇っていたお店の裏口の前で発見されていた。
殺された現場がそこだったのか、逃げ出して事切れた場所がそこだったのか…
魂がそこに残っているのならば、それは後にボクが調べる事になりそうだ…。
虐待による逃亡で詰所に駆け込んで来た獣人が8人、引き取り人がワーラパント男爵家の使用人だということも、調べた結果でわかった。
逃亡した中で手配書にあがっていた人物が3名、おそらく何らかの方法で連れ込まれた獣人が5名…もはやワーラパント男爵家絡みの犠牲になっている獣人が何人に及ぶのか想像もつかない。
乱暴や暴行され、殺された挙げ句、用水路に落とされていた獣人…精神が壊されてしまった獣人、薬漬けにされ保護された獣人…
それらの事件報告の全てがワーラパント男爵家と関わりがあったのかまでは、流石に把握できないが、獣人絡みの事件でワーラパント男爵家が限りなく黒に近いものがかなりあった…
「よくもまあ、これだけのものを揉み消していたもんだ…」
シルは衛兵が目の前にいるからか、ボクに喋りかける様に口を開いた。
「男爵家侵入の決行は早いに越した事はないね、最悪メイルさんやキルトさんを招き入れる為の数減らしをもしかねないと思う…」
ボクは我ながら恐ろしい想像をしてしまった。
ワーラパント男爵家によって捜索届けを取り下げられた依頼者についてだが、衛兵の調べによってその後が分かった。
店の裏で捜索対象の亡骸を発見した店主は、責任を感じ店をたたんだそうだ。悲しみと怒りと無念な気持ちでいっぱいであっただろう…店主の事を考えると、居た堪れない気持ちで胸が苦しくなった。
もう一つの捜索依頼を出していた店舗の方は飲食店で、ごろつきが店内で暴れ、巻き込まれた店主はナイフで刺され亡くなったそうだ。
残された家族も依頼取り下げになっていたことがわからないまま、暫くは帰りを待っていたそうだ。
しかし、店も続けられなくなり、故郷へと帰らざるを得ない状態となった。
最後の1人に関しては街の住人ではないとの事なので確認に時間がかかるとのこと。
恐らく、暴行の果てに亡くなった人も、店での騒ぎに巻き込まれて亡くなった店主も、ワーラパント男爵家に雇われた人間の手にかかってしまったのだろう…。
報告を受けたこの部屋に集う者の心中は、決して穏やかなものではない。
ナティルさんは、捜索願いの取り下げを受理した職員を尋問することに、ロドグローリーさんは、ワーラパント男爵家の使者に逃げてきた者を引渡した者を尋問することにするという。
裏に直接繋がっていないにしても、権力を使ったのか、あるいは金を握らせたのか…
たった数時間でコレだけの事が浮き上がっているのだから、屋敷の中ではもっと酷い事になっているのではないか…でもボクには何もできないから、そこは狐鈴達に任せるしかない…。
ボクはどうしようも出来ない気持ちで、ただただ拳を握りしめていた。
すると隣からボクの拳にすっと手が乗せられた…。
「和穂…」
和穂はジッとボクの目を見つめコクコクと頷く。
「アキラネェさん、ボク達に任せてよ」
ルークもボクの後ろから声をかけてくる。
『アキラちゃん大丈夫?』
トルトンさんから念話が入る…なぜトルトンさんが念話をしてきたのか…
『アキラちゃん、あなたの感情がこっちに流れて来たの、悲しくて、悔しくて…何かあったのかしら?』
そこではじめてボクがみんなの依代である数珠を握りしめたままになっていたことに気がついた。
『トルトンさん、心配かけてごめん。ワーラパント男爵家の罪について色々浮き上がってきたものがあって、ボク自身の感情が乱れたんだ…今夜、狐鈴達が屋敷に潜入するので、恐らく全部解決すると思うんだ』
『…えっ!?
そんな事になっていたの??
そう…本当に必要になったら呼んでもらっても構わないからね』
『ありがとう、こちらに戦力が集まってしまってそっちは大丈夫かな?』
『昨日の今日だから、大きな変化はないけれど…ケイルちゃんと、ロディちゃん、チャコちゃん、レウルちゃん、アコちゃんが動いてくれてるし、捕虜の方もヤックちゃんがいるから、こちらは安心して頂戴』
『うん、頼りにさせてもらうね』
「アキラよ、落ち着いた様じゃの?」
狐鈴が和穂の隣からこちらを覗き込んでいる。
「うん、心配かけてごめん、トルトンさんに話しかけられたら、気持ちが少し落ち着いたよ」
ボクの話に納得したようだ。
「ちょっと聞いてもいいかな?
ワーラパント男爵自体はどんな人なの?
息子のミュルド?だっけ?は黒も黒という事が分かったけど…意外と真面目だったり?」
とボクがシルにたずねる。
はぁ…と大きなため息を吐いてシルは口を開く。
「表でどんな凄い事をやっていても、息子にいい様に使われて、悪に染まっている息子を正しい道に導く事ができていなければ、同罪だ。
息子がやっていても、手を貸しているんだから、使用人を含めてワーラパント男爵家そのものが悪だと思うべきだね」
なるほど、分かりやすい。
「それに、コレだけの事がちょっと突っついただけで出てくるんだから、悪でしかないだろうよ。
狐鈴達が屋敷に乗り込んで侵入者として言われようとも、精霊が見かねて外に出るための手助けをした事になれば、問題にならないだろう、むしろ虐待のアレコレが明るみに出たならばワーラパント男爵家は終わりだ」
「なるべく隠している物を全部表に出す様に暴れてきてね」
ボクが皆んなに依頼すると「任された」と返事をしてくれた。
ボク達はギルドを後にする、ルーフェニアさんを連れて…
ワーラパント男爵家の屋敷の場所を教えてもらうためルーフェニアさんを借りたのだ。
目立ちすぎる狐鈴、和穂、クラマにルークは姿を消して一緒に行く。
ボクには先程と大して変わらない状況で歩いている様にしか見えていないのだが、周りからは、シルとボク、ルーフェニアさんの3人しか見えていないのだろう。
「ルーフェニアさんはなぜ私服なのだろう…?」
ボクが不思議そうに呟いたらシルが聞いてくれた。
「早番だったから、もう仕事終わりなんだってよ。珍しい人と会ったからもう少し一緒したいってさ、色々案内してくれるみたいだよ」
『ありがとう』
ボクが言うと、人懐っこい笑顔で『どういたしまして』と返事してくれる。
街道を少し行くと広い敷地に大きな屋敷が見えた。
ここが、敵の本拠地か…眼鏡をずらして敷地を見ると、沢山の種族の御霊が敷地から出られないでいる。
「可哀想に…土地に縛られてしまっておるな」
狐鈴がボクに言う。
「解放出来ないのかな…」
ボクは狐鈴に聞いてみると、困った顔をして首を横に振り返事する。
「おそらく、敷地内にこの者達の本体…身体というべきかの、埋められているのか、あるいは放置されているのか…見つけてやらぬ事にはの…
まぁ、ワチ等に任せておくが良い、全てあやつらの身体の在処も、そして悪事も掘り返して見せようぞ」
狐鈴はささやかな胸を張り、右の手の平で叩く。
和穂もボクの事をギュッとやって離れる。
「それじゃ、行ってらっしゃい」
ボクが手を振ると皆んなが屋敷の塀を飛び越え入って行く。
「皆んな行ったのかい?」
ボクが見送った方を見ながらシルが声をかけてくる。
ボクは頷く。
「見てろよ、ワーラパント男爵家。今夜、全てが終わる…」
ボクは一言つぶやき、シルとルーフェニアさんと、その場をあとにする。
おかえりなさいませ、お疲れ様でした。
いよいよ、話が動き始めました。
ワーラパント男爵家存続になるのか、それとも壊滅になるのか…
それではまた次の物語でお会いできたらと思います。
誤字や脱字の報告をしてくださる皆さん、ありがとうございます。




