第42話 ボクとコロモンとギルド飯。
ボク達はナティルさんにギルド内にある食堂スペースに案内される。
どうやら、ギルドスタッフを呼び寄せて、予約の手回しをしてくれていたようだ。
かなり年期の入った食堂の様で、お世辞にもオシャレな食堂とは言えないけれど、レトロと言うべきだろうか…落ちついた感じで、ボク的にはとても好きな雰囲気だ。
ここでひょっとしたら、伝説になるようなパーティが生まれたり、打ち上げなんかもしているのかもしれない…
椅子やテーブルに刻まれた傷や、汚れにも歴史があるのかもしれない…
そんな食堂の4人席3つのテーブルをくっつけて、ボク達は座る。
「珍しいものを見せてくれたお礼に、何でもご馳走してくれるってよ」
シルはメニューをこちらに渡してくれる。
『あたしで取り乱したくらいだから、普通にギルド登録なんてしてたら、大騒ぎになっていただろうな…』
腕組みしたまま、ナティルさんは苦笑いをしてなにやら呟いていた。
「和穂何食べようかー?ボクあんまりメニュー読めないから和穂の分けてよ」
受け取ったメニューを見たけれど、何のこっちゃ読めない。
和穂にメニューを見せお願いする。
和穂はコクコク頷く。
ウェイトレスにメニューを指差し注文する和穂、最初はメモも取らずに覚えていた様だが、注文の量にワタワタするウェイトレス。
気がつけば何枚もめくりながら注文をメモしていった。
冒険者ギルドという場である事で血の気の多い者も沢山いるのか、食堂の方へと戻って来たボク達に、早速ちょっかいをかけようとする者も多かった。しかし、傍にいるナティルさんを目にして、そそくさといなくなる。
「この街にいたら、1週間経たずに、アンタ達の事は町中に知れ渡るだろうねー」
シルが声をかけてきた冒険者を見ながら呟いた。それくらい、狐鈴と和穂が目立つのだ。
「あんただって、充分に魅力的なんだよ、傍にいる娘が特別なだけであって…」
シルはボクに言うけれど…それは無い無い。
「ボクはコレがなかったら、すぐにでも森に帰ることを提案するね」
眼鏡を鼻の方にズラし眼鏡を避ける様に辺りを見ると、食堂内に4倍くらいの人がひしめき合っている。
人というか、人だったというか…。
冒険者(魂)はギルドに帰る…か。
狐鈴と和穂にはコレをうまくかわせているんだよねー、相手にしていないというべきかか。
ボクも、せめてこの人達の力を借りられるのであるならば、冒険者として、今後戦う事ができるかもしれないんだけれど…。
これだけ人が居るなら…小さな期待を胸にして…眼鏡を外し、ボクは立ち上がり周囲に声をかける。
「どなたか、この中で精霊使いの方か、僧侶の方はいらっしゃいませんか??」
自世界の言葉だから、御霊限定の問いかけになってしまうけれど、今は何かヒントがもらえるならば、どんな相手でも教えてもらいたい。
やはり、と言うべきか、ボクの声かけに振り向いてくれた御霊は何体かいるにはいたけれど、違う職種である様で名乗り上げはなかった…
もっとも僧侶だったとしたら自己昇天できるのかもしれない…。
突然のボクの行動にシルもナティルさんも何事かと視線をボクに向け、テーブル周りのギルドを使用している人も、キョトンとしていた。
勇気をもって訴えかけたのだが、残念な結果…おとなしく座って、正面に座るシルにたずねる。
「シル、ボクの職種の精霊使いと僧侶って能力の使い方を知っている人いるのかな?
先人から学べる事があるならば、いずれ教えを受けたいなって思っているんだけど…」
「それで、今の行動だったわけか…その様子だと、良い返事なかったようだね」
シルがナティルさんに聞いてくれる。
ナティルさんはしばらく考え込み、近くにいるギルドスタッフを呼び何かを伝えている。
「どうやら、精霊使いは過去にいたのだが、起点としている土地がコロモンじゃないみたいなので、確認してくれる様だよ。
ただ、ランクの方は残念ながらアキラよりは下らしいんだよね」
「ボクは狐鈴達の底上げあってのランクだから、そこは考えない方が良いと思うんだよね。
冒険者をやって長いのなら、例え些細な事でもボクの学びになるかも」
「そっか…」
シルは微笑んでいるけれど、どこか寂しそうな表情をしている。
「何でそんな寂しそうな顔してるの?シルが道先案内してくれるんでしょ?」
ボクが言うと、ひとつため息をつき、ニパッと笑いながら悪そうな顔になりシルが言う。
「ふふん、そうさね、あたしを道先案内人として雇うなら、たんまり稼がないとならないよ」
シルと冒険できたらきっと楽しいだろうな、例え目的の地に目的の人がいなくても、その過程で充分楽しいだろう。
なんて思っていると、次から次と食事が運ばれてくる。
ミートパイ、辛そうな野菜のスープ、揚げた野菜、少々硬めのパンのサンドウィッチ、何かの肉のソテーの盛り合わせ、スクランブルエッグ、シーフードの餡掛け、スペアリブ、チーズの盛り合わせ、ソーセジ、サラダ…
12人掛けになっているテーブルもほぼ置き場の無くなるくらいの料理で埋め尽くされていく。
何というか、ジャンクな食べ物が多いのは標的にしている人達が冒険者だからなのか、注文している和穂の趣味なのか…。
さすがに、お腹を鳴らしていた張本人のボクでさえすぐに満腹だ…
商業都市コロモンかぁ、気になる食材がいっぱいあったから、帰りに見繕って自分で調理してみたいな…
冷たいお茶を飲みながら、隣の和穂の食べっぷりを見ている。
スッと背筋を伸ばしてモクモクと大皿料理を消化していく和穂。
ナティルさんだけでなく、食堂を利用している冒険者も、スタッフも目を点にして注目している。
がっつくわけでなくモクモクと…
ハッとボクの視線に気がつく和穂。他の人の視線も集中しているわけなのだが…
フォークに刺したソーセージをボクの口もとへと運んでくる。反射的に口を開けてソーセージを咥える。
キリリとしていた表情がフニャッと崩れる。う…可愛いなぁ…。
大皿がどんどんと山の様に重ねられ、最後の料理のお皿に手をつけたところで、ロドグローリーさんが若い衛兵を1人連れて戻ってくる。
『おい、おい、パーティでもやってたのかよ』
笑いながら席に着く。
そして身を寄せ、声を小さくして、詰所に持ち掛けられた、獣人絡みの事件について、調べてくれている事を教えてくれた。
和穂が最後の皿を重ねたところで、『さて、行くか!』とロドグローリーさんが立ち上がる。
お帰りなさいませお疲れ様でした。
ギルドの食堂での話でした。
アキラも自分の職に対してモヤモヤしているようです。
早くコツが掴めると良いですね…
それではまた次の物語でお会い致しましょう。




