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第40話 ボク達の審判と真夜中の疾走。

 ボク達がキルトさんの家に戻って、やるべき事は、奇襲をかけてきた族の尋問だった。


 潰した喉を狐鈴が回復させ、ひとりづつ聞き取りをしていくのだが…


 私利私欲の為なら他人の事など何も感じない、クソ野郎…いやクソに失礼だ、クソの方が神々しく感じるくらい救いようのない奴等だった。


 子供を攫う際に若い母親に対し、子供や夫の目の前で乱暴を行ったり、攫う為なら薬物も使う、窃盗、強盗、強姦は日常茶飯事、攫ってきた女子供の数や、命を奪った人の数も、いちいち覚えていないなどと言う始末…


 ルークがボクにも分かるように訳してくれていたんだけど、聞こえなかった方が幸せだったかもしれない。


 ひとりづつ麻袋に突っ込み倉庫へ監禁し、皆でリビングのソファーに座り振り返る。


「こんな事がこの世界では、当たり前の様に行われていた、出来事だったのか…」

ボクの呟きに


「あいつらにとっては、当たり前ね。

これが一般で当たり前なんて思いたくもないよ…」

腕組みをしたシルが、厳しい表情で返事する。


「シル=ローズちゃんもアキラちゃんにあたっちゃダメよ」

トルトンさんがシルに注意する。

シルもボクと同じく、バツの悪い表情になる。


「「ごめん…」」


 皆、精神的に想像以上のダメージを受けている。伝達として帰らせたあの男は、野放しにして平気だったのだろうか…それすら間違えだったのではないか?と感じてしまう。


「どうしたものか…」

大きなため息と沈黙の時間が訪れる。


「ワチは被害にあった者の未来を摘み取った罪に対して、次の罰を与える。奴等からは光と、腕、そして、だらし無い繁殖器を取り上げる」

狐鈴は淡々と罰を述べた。


「じゃあ、狐鈴の考えた罰に追加していく形にしようかね、えぐい罰はアキラが詳しそうだから、何か思いついたら教えて」

苦笑いしながら、シルがまとめていく。


 いつの間にかボクに大きな仕事がまわってきていた。


「さらに問題なのはそれ指示していた、なんとか男爵家の息子だよね…

親とか、領主とか巻き込んでくるのか分からないけれど、二度と同じ事をさせる訳にはいかないから対策をとらないと…」

ボクがシルに言う。


「ワーラパント男爵?息子のミュルド?つったけね…」


 シルは特に興味もない様な口調で呟き、ハッと顔を上げ立ち上がる。



「まずい、ルーク!大至急ヤックのとこに行ってダジャルを連れてくる様に言ってちょうだいっ!」


突然のシルの言葉に、驚いたルークは、シルの慌てぶりに危機を感じ、飛び出していく。


「ど、どうしたの?シル=ローズちゃん!?」

トルトンさんが慌てているシルに声をかける。


「アキラや狐鈴、和穂、クラマの身元引き受け人を、あやふやにしておく事が危険なんだ!

 万が一、権力で引き離されても証拠がないと、連れ戻す事も、何かあったところで裁く事も出来ないんだ。


 今なら逃げ帰っている奴らより先に街につく事ができる。


あああ…なんてこと…とりあえず、今できるモノの手続きだけでもすぐにやっておきたいくらいだよ」


 確かに、これから一戦交える可能性のある相手は私利私欲に権力を当たり前の様に、振り翳す様な奴等だ、用心に越した事はないだろう。




 時間にして10分後くらいに、ヤックさんが地を走るダチョウのような、いや鱗に覆われている二足歩行のトカゲの様な生物に跨り凄い速さで駆けて来た。

みんなで、外に出てヤックさんを迎え入れる。


「おいおい、いったいどうしたんだよ…」

ヤックさんは緊急召集に驚いた様子でシルへ尋ねる。


シルは手短に現状況を伝える。

ヤックさんはすぐに、事の重大さを理解して頷き、跨っていた生き物から降り、手綱をシルに託す。


「こっちの事は俺に任せておきなっ」

ヤックさんは自分の胸をドンと小突き、族の見張りを引き受けてくれる。


 シルはボクを、ダジャルという生き物の上に乗せ、その後ろに跨る。


「狐鈴と和穂、クラマは街に着いたら呼び寄せるからね」

ボクは和穂に声をかける。

和穂はボクの左手を両手で握る。

「…気をつけて…」

真剣な表情で頷く。


シルは右手に手綱を握り、左手に杖を持ち前方に掲げる。


「光よ…」と呟くと前方に光の球が現れる。


「じゃあ暫く任せたよ、よろしくね」

シルは見送りに出て来た皆に声をかける。

皆は頷いたり、手をこちらへ振る。


 ボクはダジャルの首に手をまわし、「よろしくね」と伝えると、ダジャルは『クワッ』と返事をし、足を運び始める。



 シルの作り出した光の球は杖の先端から等間隔に先行して地面を照らす。

 ダジャルは森の中をかなり早い速度で走る。

 シルは特に手綱に力を加えている様子もなく、自由に走らせている様に感じる。

 

 当たり前の事だが、森の中に光は一切無いし、曲がりくねって、アップダウンもある。本来なら不安でしか無いだろうこの道のりを、何故か安心して身を預ける事が出来る。


「アキラ、アンタは本当に不思議な子だね、初めてダジャルに乗る人間だと、普通なら緊張してガチガチになったり悲鳴をあげたりするもんなんだけどー…」

ボクの耳元でシルが呟く。


「うーん、シルの操り方が上手いのもあると思うんだけど、この子がボク達を導いてくれているみたいで楽しいかな。


全然怖く無いって言ったら嘘になるけど、目を閉じてもこの子はボクを目的の場所に連れて行ってくれるような気がするんだー」


「ふふ、アンタは動物にも好かれるんだね。


それにしても、ちょっと予定より早くの街入りになっちまって悪いね。

事が落ち着いたら、こんなバタバタじゃなくゆっくり街を満喫しようねー」

 ここからだとボクの影で、シルがどんな表情なのか分からない。


「ボク達を守ってくれようと動いてくれているんだから感謝しかないよ。

でも、街を満喫するのは魅力的だね、楽しみにしておくよ!」


30分程走らせたところで、少し開けた場所に出る。ダジャルを一旦休憩させる。

ダジャルから降りると、跨って振動を受けていたものだから、股関節と内ももがじんわり痛む。


「ありがとうね」

首筋を撫でてやると、ダジャルは頭をこちらに向け「クルル」と喉を鳴らす。


 シルは光の玉を上空に上げ、辺りを広範囲に照らす。

木々に囲まれてはいるものの、月明かりや星の光で、まるっきり闇の中というほど、何も見えない状態ではない。


「アキラ、大丈夫かい?」

シルが心配してくれる。


「ボクはただ座っているだけだからねぇ

そう言えば、クラマが言っていたんだけど、街までは徒歩で1日くらいかかるんだって?」


「そうさね、でもこっちは最短の道で進んでいるし、この子は足が速いから、たっぷり休憩をとっても、夜明けには着くかね。

 逃した奴は、この道を知っているか分からないけど、それでも早くて、明日の日没くらいになるんじゃないかな?」


「シルは大丈夫?疲れてない?」

ボクの問いかけに笑顔で答える。


「ありがとうね、あたしは、もともと夜行性なんだよ。

夜の方が静かだから、基本夜になってあれこれやっているのさ」

胸をはってボクに言う。


ついつい、意地悪したくなっちゃう…。

「だから朝弱いんだねー」


「うゎ、意地悪な顔だね…

アキラ達が早く帰って来てくれないと洗濯物が溜まるいっぽうさ、着るものなくなったら困るんだけど」

久しぶりに笑顔で話せるこの時間が嬉しい。


「すっかり食べ損ねちまったから、これでもかじっていこう」

シルは背中のバッグから皮袋を取り出し中から燻製肉と、チーズを渡してくれる。


「アンタはコレね」

ダジャルにはナボラの実を与える。

ムシャムシャとダジャルは実を頬張り、果汁の酸っぱい匂いが漂う。


軽食を終えたら、直ぐに出発。

開けた場所や水場で休憩をこまめに挟み、前半に比べて、ペースも半分くらい、ゆっくりになっていく。


カクッと頭が下がり目が覚める。

「ごめんっ眠っちゃった」


ビックリしたシルはダジャルを止める。

「ふふ…大したもんだ、ダジャルの上で眠れるなんて初めて聞いたよ」

絶対に笑ってる。


「大丈夫?少し休むかい?」

「んー、大丈夫」


 今思えば、シルとこうして2人で出かけるのは初めてなんだよね。

2人だけでの話をするのも、デッキで話をした時以来となる。

 時間としては大して経っていないのに、毎日が内容の濃い時間を過ごしているので、懐かしさすら感じてしまう。


「シルの冒険談を是非聞きたいなー♪」

「えー?あたしの?

そんな世界を股にかける様な大冒険なんてした事ないぞ。

ギルドライセンスなんて、身分証として持っているだけだし…

それに、何というかパーティーより、個人の冒険の方があたしには向いていたかなー」


「そういうもんなの?」


「あたし、人との付き合い苦手だし…アキラとなら楽しい冒険になるかもね。

今まさにアキラと楽しんでいるから、昔話はまた今度、腰を据えた時にでも話そうかねー」

何か上手くかわされた気もしなくも無い。


もっとも、真っ暗の森でダジャルを操作しているから大変だよね…。


「最近アキラの切羽詰まった感じがなくなったような気がするねぇ」

シルもボクと同じ様に2人で話をした夜を思い出したのかな…


「うん、面倒な悩み事はシルに押し付けちゃおうと思っているからっ」

「ぶっ…なんだそりゃ…」

シルが笑う。


「話ちょっと戻すけど、ギルドライセンスって最初は見習いみたいなところから始まるの?」


よく、ゲームとか冒険物の話とかだと、薬草集めとかから始めて数をこなして、ライセンスに見合った冒険や仕事に参加すると聞いた事あるけど…


「どうだろうね、多分自分の役職に見合った能力があれば最底辺って事はないと思うよ。

アキラがネクロマンサーに抜擢されたらAクラスかもしれないねー」


 シルはどうしてもボクをそちらに誘導したいらしいな…


「シルは魔女だから、魔法使いになるんだよね?

やっぱり、Sクラスとかの扱いになるの?」


「あたしはエレメンタルウィザードって役職だよー。

クラスは無いのさ」


なんか凄い役職名が出てきた…

もっとも、学生だった時の話を聞いてしまったから、普通の魔法使いなんて枠には収まらないと言われても納得だ…。


「狐鈴や和穂やクラマにもギルドライセンスって発行されるのかな?」


「そりゃ、申請すれば赤子にだって発行されるんだ。

身分証はあると色々便利だしね。

ケイルはギルドで仕事していたから、もちろん持っているし、ロディだって、トルトンだって持っているハズさ。


あ、でもルークはもともと名前がなかったから申請していないかもね、本人に希望があったら今回まとめて申請しちゃおうかね」


 暫く傾斜の厳しかったり、普通に歩くのも大変そうな道に差し掛かり、無言の時間が流れる。

 危なげもなく安定した足取りで進む。本当にダジャルって賢いと思う。


「よし、ここでちょっと長めの休憩を取ろう」

水場でダジャルを止め降りる。

「操作お疲れ様」

シルにひと声かけ、ダジャルの前方にまわり。

「お疲れ様、ありがとうね。ゆっくり休んでね」

ダジャルを両手でナデナデする。

クルルゥと喉を鳴らし、地に身体をおろす。


ボク等も大樹を背に、根っこに腰を降ろす。


「シルのライセンス見せてー」

ボクはシルに両手を差し出す。

「もうちょっと我慢すれば嫌でも自分の物を見れるのに…」

苦笑いしながら、手品の様にカードを出現させる。

「えっ!?すご…どうなってるの??」

「あー、アキラの場合はきっと、登録済んでもそのブレスレットがないと出せないかもしれないね」

シルはボクの右手に巻かれている魔石のブレスレットを指さす。


【シル=ローズ=ラミュレット 】

【ハーフ エルフ】

【35 】

【エレメンタルウィザード】

【   】

【Lv89】

【シェリス=リザ=ラミュレット】

ーーーーーー

【魔石加工】【魔道具製造】【薬品製造】

【激物製造】【販売特別許可】

【機関立入無制限】



へぇ…何だか、よく分からないけど、こういうカードがもらえるんだね。


「この空欄になっているところにクラスが記入されるの?」


「そんな感じだね、アキラのカードには今後あたしの名前が明記されるようになるのさ

あんたが旦那をもらったら、さらに下に付け加えられるわけ」


「あははは…ボクに旦那って…

このLvって最高でいくつまであるの?」

乾いた笑いを返す。


「んー、知らないね…聞いた事ないよ。

もっとも、あたしはそんな数字でどうこうという考えは、それこそどうでもいいし…」


 裏面は持っている資格の様な、許可されている項目のような物が記載されている。


「えと…シルさん…激物製造って……」

普通に物騒で怖い資格なんですけど…


「え?魔女と言えば毒りんごでしょ。

薬を作るって事は、逆の知識も必要になるのさ。

アキラもあの危険なオイルを作るからには記載が必要だと思うんだけど…まぁ、その辺りもお偉いさんとの相談さね」

笑いながら答える。


 シルにカードを返すと、人差し指と中指で挟み、また手品の様に消す。


 かっこいい、アレをやってみたい…


 シルはバッグから1枚の薄いマントの様な布を出し、ボクの右隣に座り自分とボクの膝の上にまたがる様にそれをかける。


「夜はまだ冷えるからな」

膝からじんわり暖かくなり、眠気を誘う…




「さて、そろそろ向かおうか」

肩をポンポンとされ目が覚める。辺りは薄っすら明るくなってきていた。


「ん…おはよ…シル眠ってないの?」

「そりゃ乙女の2人旅だからね、アキラの貴重な寝顔と寝言も聞けたし、得したよ」


「うぞ…!?」

顔が熱い…なんて言ったんだろ…


ダジャルもしっかり休めた様だ。

「またよろしくね」

身体を地に着けていたので頭を撫でる。

「クワヮ」と返事をして、頭をこちらにすり寄せる。


「それじゃ向かうよー」

シルの声と共に、ダジャルに跨る。


 ダジャルは乗ったのを確認したかの様にスクッと立ち上がる。

ゆっくり歩き始め、10分位で駆け足になる。

 1時間くらい経ったところで、正面からゆっくり陽が昇っていく。


「もうすぐ見えてくるハズさ」

シルが呟くとあれだけ囲っていた森が開け、丘の先に長い壁が横に伸びている。

壁の更に先には山が連なっている。


「あれが商業都市コロモンだよ」

シルが、教えてくれる。

「チャコの家族が辿り着けなかった街…」

ボクの呟きにシルが話す。

「レウルが言ったのか…

そう、ひょっとしたらチャコの家族もあそこに住むことになっていたのかもしれないね…


あの壁に街への入り口がある。

もうちょっとしたら、みんなを呼び出そう」


そうか、クラマはここまで飛んできたんだね。そりゃ直線距離で飛んでも時間がかかるねぇ…。


皆と連絡をとるために数珠を取り出す。

『狐鈴、和穂、クラマ、ルークおはよう、聞こえるかな?

 みんなのギルドライセンスの申請とか、シルに身元引受人になってもらう申請をする為に一足先に街に向かっているわけだけど、そろそろ呼び出す事になると思うんだ』


『おお、アキラ、待ちかねたよ』

狐鈴が元気に返事する。


『アキラネェさん、ボクもかい?』

ルークが聞いてくる。


『精霊でも登録しておくと色々便利なんだって』


『そうなんだ、わかったー』


「みんなに連絡したよー。

ねぇ、シル。

ボク達にちょっかいかけている、何とか男爵家ってここに住んでるのかな?」


「そりゃね、間違い無いよ。なんか思いついたのかい?」


シルは、話している途中で入り口に着いてしまわない様に、ダジャルの速度を落とす。


「きっとそのボンクラは指示を出して、結果待ちしている状態じゃない?

1番抜けている状態だと思うんだよね。


何か、ボク達ばかり一方的にやられるの面白く無いし…


せっかくルーク達来るんだから、姿を消した状態で潜入してもらって、内側から引っ掻き回してもらったらどうかな?


ボク達が直接手を下す事できないのは腑に落ちないと思うけど、召喚組を総動員したら、捕まっている人達も解放できるんじゃ無いかと思うんだ」


シルを見ると、ビックリした表情をして、言葉に出ない興奮の代わりに、バシバシとボクの肩を叩く。


「そうだよ、よく考えついたね、アタシなんて目先の物をどうやったら解決できるか、そんなのばっかり考えていたよ。

そうだよね、わざわざいつ来るか分からないあっち都合に合わせてやる必要ないじゃん。

やっぱり、この騒ぎに勝利するにはアキラの考えがカギだったんだなっ!

よし、そうと決まったらさっさと、こっちの仕事を片付けてしまおう!」




さて、そのボンクラさんには、ボク達からのとっておきの不幸の贈り物を、しっかりと受け取ってもらわないとね。

お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

次は守りから攻めに転じます。

その前に保険に入ってもらわないとですね。

当初、街まで足を運ぶ予定はなかったのですが、尋問の運びをなん度も書き直しているうちにこちらへと分岐しました。

危うく15禁の枠を超えてしまうのではないか…とか。

こちらの物語を楽しんでいただけると嬉しいです。

それでは、また次の物語でお会いできますように。


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