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第39話 ワチ等の時間(狐鈴視点)。

 ワチ等は、キャラト家に到着して、家の周りの様子をぐるりと確認する。


 正面に草原、後方に森と自然に囲まれた環境ではあったが、家自体は開けた場所に建っていた。

家に向かって左隣には柵で囲いがしてあり、山羊に似た生き物が放し飼いで4頭いた。


「コレでは最悪、囲まれてしまうの…」

ワチが呟くと、行動を共にしていたオンダは苦笑いをしながら言う。

「今まで、危機感も感じる事なかったし、不便もなかったからな…」


 最悪敵が火を投じて、炙り出そうと考えたら簡単に捕らえられてしまうだろう。ワチと和穂には火は効かぬが、メイルは人間だからどうにもなるまい。


「オンダよ、余分な杭とか無いかの?」


「必要な時に作っていたからなぁ、余っていたら薪として使っちまうな」

申し訳なさそうな表情で返事が返ってくる。


なら、薪を使えば良いこと。

薪の積み上げられている場所に案内してもらう。

山羊に似た生き物が柵より頭を出してくるのでひと撫でし、柵と家の外壁の隙間を通り、裏手にある目的の薪の山を眼にする。


「凄い量じゃの…」

横長の家裏の外壁を覆い尽くす程の薪が積み上げられている。


「ワシの家は普通だからな、シルの家の様に高級な魔石装置なんてないから、手間をかける必要があるんだ」

「シルに頼めば、そんな装置も取り付けてくれそうなモノじゃが…」


ふふ、とオンダは笑い言う。

「シルも、不便そうだからつけてやる、なんて言ってくれたんだ。


 でもワシが、この不便さや手間を好んで断ってきたんだよ。


 便利な事は、不便さを知る人間だから有難く感じるもんなんだ。

それに、便利さに慣れちゃいけないと、メイルに言い聞かせているしな。


 手間をかけてやる事で、ひとつひとつにやりがいを感じるし、愛しくも思えるもんなんだよ」


穏やかな表情をこちらに向ける。


「そうじゃな、前言撤回じゃ、ワチもそなたの考えを好ましく思うぞ」


 薪の山から腕ほどの太さに切り分けられた物を6本選ぶ。

 収納空間より刃を取り出し、薪の片側を地面に刺せるよう削り尖らせ、杭を作る。


右手人差し指の先を刃で傷をつけ、6本の杭にそれぞれ、血文字で1文字ずつ記す。


「なんか、見たことのない文字だな、それをどうするんだ?」

オンダは興味津々にこちらの様子を見ていた。


「この家周囲に結界を貼ろうと思うての」

「けっかい?」

「んー、なんと言えばいいのかの、領域を作って、侵入者を感知したり、罠をかけたり、中のモノを守ったりできるように手を加えるって事じゃな」


こちらの説明にポカーンとした表情のオンダ。


「あんた達すげぇな、シルの家に遠くから来た客人とは聞いていたけど、死んじまったワシを見ることができたり、そんな色んなことできちまうなんて、ビックリだよ」


「ワチも、和穂も人ではないからの。本当に凄いのはアキラじゃと思うぞ、あれは人の子じゃからの」


 刃を収納空間へと戻し、杭を抱え家の正面へと回り込む。


柵と家の中間に6本の縦向きにした杭を横に並べる。

収納空間より、木槌と狩衣を取り出す。


木槌を杭の手前置き狩衣を纏う。


祝詞を唱えた後、狐火を六体召喚し、それぞれの杭に憑依させる。


足下に杭の1本を木槌で打ち込む。

家と柵を取り囲む様に5ヶ所同様に杭を打ち込んでいく。

全ての杭を打ち込んだ後、最初の杭のもとにもどり、再度杭の頭を木槌で打つ。

印を3つ組み合わせ両手で杭にトンッと触れると、他に打たれていた杭が共鳴を起こし地面がうっすら光り、元に戻る。


「よし、完了じゃ」

「今やって見せてくれたのが結界なのか?」

オンダは言う。


「今のは結界を貼るための儀式じゃな。

これで、内側にある物を外部の者がどうこうする事はできぬし、ワチ次第で出られなくする事も可能じゃよ。


しかし、ワチ等ももう土地神ではないからの、巫女として稲荷大神様からの恩恵を受けねば、他所の地で十分な力が出せぬようじゃ…


 その様な中であっても、オンダの思いがワチ等に届いたと言う事は、これも御導きってやつなのじゃろうな。」


「あ、あんた、いや、あ、貴女様は神様だったのかっ!?いや、汚い言葉遣いで申し訳ない」


 オンダは驚いた表情でこちらを見て、慌てて地面に平伏した状態になる。


「な、なんじゃ?改まった言葉は望んでおらんよ。普通にしておれ、その方がワチにはありがたい対応じゃ。


それに、今言うたばかりじゃろ。

護っていた…いや、護れんかった土地から離れてしまったので、ワチ等は神と呼ばれていた立場から降ろされたのじゃよ。

今は元の稲荷大神様の遣い、巫女として、ワチ等の土地の解放に力を貸してくれた、アキラと共にこの世界におるのじゃ」


 顔を上げたオンダは困った表情になり言葉を探す。

「本当に、あ、あんた達には畏れ多い願いをしちまった、捧げる物も何も残っちゃいねえし、何よりワシは何もできねぇ」


「ほむ、ワチらが見返りを求めて力を貸していると思われているならば、見当違いじゃ。


 この世界での、間違った物を正す様に導かれたとワチは思っている。

 それにそなたの思いはしっかりと昨夜受け取ったからな。皆にとって当たり前の生活の手助けじゃ。よって、悪しき者達には天誅を下してやらねばな」


 ワチが小さくなってしまったオンダの肩をポンポンと叩くと、オンダは「ああ、あんた達に出会えて、本当に良かった」と泣き笑いのような表情で頭を下げてくる。




 メイルの手料理は、今まで食べた事のない様な不思議な味だった。


 メイルにとっては、護衛として頼んでもいない居候が、突然2人やってきたと思っても仕方ない状況だが、毛嫌いする事なくワチ等に接してくれる。


「メイルよ、できたらで構わぬのだが、オンダはどの様な者だったのか教えて貰えないだろうか?

…娘に溺愛している事はよくわかるのじゃが、自分の事はいっさい語ろうとはせんでの」


 正面のオンダは苦笑いをし、隣に座るメイルの表情が一瞬曇る。

「お父さんは私の近くにいるの?」


「おお、そうであった、すまない今見えるようにするからの」


 そう伝えると、メイルもその隣にいたオンダも驚いた表情を見せる。


「よいか、オンダが見えるのは、ワチが貼った結界の中だけだからの」


 ひと言伝え、手の平をパチンッと叩くと、メイルは驚いた表情になり…やがて瞳から涙を溢れさせる。


和穂がこちらへとジッ…と視線を送ってくる。


「いや、すっかり忘れておった、当たり前の様にワチらにはオンダの姿が映っておったからの、それに和穂も気が付いておったなら、さっさとワチに言うが良い」


和穂の視線は逸らされ、頭上に汗が飛んでいる。


「ふ…そなたも気が付いてなかった様じゃの…」


 ゆっくりと2人で語る時間をあげようじゃないか。できれば天に送るその時まで…


 皆の為には早い終焉が望ましいのに、この2人の事を考えると、まだ時間を与えてやりたいと願ってしまう。


せめて、2人の悔いの残らない幕引きができるように…。



 ワチ等2人にはメイルの部屋が当てがわれた。ベッドはひとつだったが、窮屈には感じない。向かい合った状態で布団に包まれる。


「のう、和穂ワチ等こうして2人で身を寄せるのも久しく感じるの」


 和穂は、無表情のまま、手を伸ばしてきて、ワチの頬を撫でる。


 自分たちが納めていた村にいた頃には、社の板の間にごろ寝だったし、それが不自由かと言われたら、眠る必要のない自分達にとって雨風が凌げるだけ救われていた。


 ちょっと前までは、敵であった鴉天狗と邪鬼によって毎晩の様に、村人の殺戮を見せつけられて、怒りと苦しさ、そして護れぬ、救い出してやれぬ己の未熟さ故の、絶望感を募らせていった。そして眠れぬまま、朝を迎えていくの繰り返しだった。


「和穂はアキラの事どう思う?」




無表情だった和穂は表情を和らげる。



「…好き…」


知ってる…。ワチは全力でジト目を送る。


「いや、そうじゃなくてな、あの能力の話じゃ…」


 和穂はむくりと体を起こし、正面の窓の外に光る月を見つめる。

「ただ…霊感が強いだけでは無い気がする…」


「じゃの、ワチもそう思う。

もっとも、魂の解放にはあの石の力を必要としておるが、弱きものには自分の身体を通して、気持ちを引き受けて、凶々しい魂には拒絶、攻撃をする。

御霊が見えるだけではなく、妖怪や精霊も見えておるようじゃし…


 はじめは村の中で見えていたから、ワチ等の結界内での気配に、当てられていたのかと思っていたのじゃが、こちらの世界では関係なしに見えておるしの。

ワチはアキラが巫女の力を少しは持っているのではないかと思ってしまうのじゃ」


「どちらの大神様の恩恵を受けているのか興味深い…」


和穂はこちらに視線だけを送り、目を光らせる。


「じゃが…人の子というのが惜しいの。

 本人が望むかは分からぬが、力が開花する頃には寿命が尽きてしまうかもしれぬの…。

 人の子は人の子として、すくすく育つ様を見届けてやりたいとワチは思う」


「…珍しく気が合うな…」

片手を大きく伸ばし、あくびをひとつく。


「…久しぶりに喋りすぎて…つかれ…た」

コテンッと横になった和穂はそのままスーッスーッと眠りに落ちた。


本当にそなたは…和穂の頬をひと撫でし、ワチも眠りにつく…。

明日は何があるのかな…。




 目が覚めると、和穂の姿はなかった、ワチはまた寝坊してしまったようじゃの…。

リビングに行くと、誰もおらず、部屋の空気はまだ冷め切っていなかった。


「オンダ達は語り明かしていたのであろうな…」


台所からコップを拝借し水を飲む。


 外に出ると陽は昇りはじめて、地を照らしている。今日も陽に恵まれておる…。

さて、家の裏に広がる森の探索でも始めるかの。


 パチンッ、ペキンッと枝を踏み締める乾いた音が、静寂な森に響く。

 5分ほど歩いたところで、小川に行き当たる。


 ここは風呂のとこから続く川じゃろうか…

水面に手の平をひたすと思っていた以上に冷たかった…川に下流に向かって下って行くと大きな岩を外れるように流れていく。

岩の裏から水の音が聞こえる。

 警戒しながら覗き込むと、こちらに向かって何かが放たれる。

かわしながら確認すると木の実のようだ。


そして、放った張本人は…

「なんじゃ、そなたてっきり湯浴みにでも行っておったのかと思った」


水を滴らせ、白い息を吐いた和穂がいた。

「…禊ぎ…」


頭を手拭いで拭いながら、桶をこちらにさし出してくる。

うう…見つけなければ良かった…。


 単衣に着替え直し桶に汲んだ水に手を触れさせる…冷たい…。

「うぅ……」


無心、無心、無心…

「んっく!!」


ザバーッ!!ザバーッ!ザバーッ!





「か、和穂…お、お風呂に行こうよぉ…」


すっかり体が冷えてしまった…


和穂はしっかりと終えるまでの間、見守(監視)っていた。

鼻をすすりながら、身体を震えさせる。


「はぁ〜…」和穂は閉眼し、長く大きな溜め息をつく。


あぁ、これ絶対聞き入れてもらえないヤツだ…肩を落とし首を垂れていると和穂が口を開く。


「…行こう…」


顔を上げると苦笑している和穂がワチを見ている。


そういえば、和穂と2人きりで風呂に入るという事は、今までになかった気がする…。


冷え切った体に風呂の温度は刺激が強かった。特に2人であれこれ話したりはしなかったが、ゆっくり体を温めて、キャラト家に戻る。


「おはよう御座います」

リビングにいたメイルが、戻ったワチ等に目蓋を腫らした状態で挨拶してくる。


「わゎ、大丈夫かや?」

目がかろうじて開いているのが分かるような表情なので、痛々しい。


「ありがとうございました、久しぶりにお父さんと話せたので、嬉しいひとときでした」


メイルは深々と頭を下げてくる。

和穂がメイルの背後にまわり、頭を上げたタイミングで、手の平をメイルの目に当てる。


「わぇ…!?」


和穂が手を離すと、腫れていた目蓋が元の状態へと戻されている。


「あれ?あれ?」

自分の顔をペタペタと触れるメイル。


 メイルがちょっと遅めの朝ごはんとして用意してくれたのは、目玉焼きとパンとスープだった。

ちょっと変わっていたモノといえば、目玉焼きにかけたソースがピリリと辛めだった事、ただ不思議な事に、それが味の邪魔をしておらず美味しく食べれた。


「メイルは料理がうまいのぅ」

とワチが伝えるとハニカミながら、

「お父さんの受け売りなんだ」

と答える。


 言葉や生き様だけでなく、こうやって料理に至っても生きて来た証として受け継がれて行くのだな…と感慨深く思う。


 昼から再度森の中を探索する。

和穂とは別行動で、違った視点で森の中を見て回る。

今夜は鳥でも獲って帰るかの、手頃な石を拾っていると、アキラの声が聞こえる。

辺りをキョロキョロした後、念話だと気がつく。


 どうやら空間転移の方法で困っているみたいであちらはあちらで、戦術を練っているようだ。アキラは限りあるモノでも、充分な戦術をたてられるからの、心配は無用であろう。


「それとな、和穂にもほんの少しでも良いので、後で声をかけてやると良い。

 アレは無口であるくせに、心を許した者が相手にせんと、泣いてしまうからの。

今回の事が知れたら、妬かれてもうてかまわないからの」


これで、和穂も今夜はご機嫌かの。ワチ良い仕事した。



 大鳥を2羽捕らえ持ち帰りメイルに調理を依頼する。馴染みのない味付けなので、どんな料理に化けるのか個人的には楽しみだ。


ちょうど、和穂が戻ってくる。

「和穂、今日は鳥が食べれるぞ」


小首を傾げ「…クラマ?…」と真顔で答える。

「………違うから…」


クラマ、ソナタは食料決定のようじゃぞ。



『狐鈴、和穂、クラマ聞こえる?

どうやらボク達の所に5人組が向かっているらしい。

こっちは、たまたまシルと行動を共にしているし、ルークとトルトンさんと、合流したから大丈夫、心配しないで』


 アキラからの念話が不吉を知らせる。

しょうもないやりとりをしていたワチ等が、突然黙り、緊張した表情をした事に近くにいたオンダが感じ取ったようだ。


「どうかしたのか?」

オンダも真剣な表情でこちらにたずねる。

「キルトのところに男達が現れたらしい…」


ワチの言葉に「な…」と、言葉を失うオンダ。

ガチャーンッ!!

顔面蒼白のメイルが身体を震えさせ、こちらを見ている。


「あ、あいつらぁーっ!!」


怒りに瞳を燃やし、いままさに飛び出していこうとしていたオンダを制止する。

「オンダ!そなたには何もできん!メイルについていてやるのだ!

ワチ等はちょっと見回りをしてくるからの、メイルよ美味い夕食を楽しみにしておるぞ」


不安そうな表情を少しでも和らげるよう笑顔で伝える。


和穂と共に玄関より外に出る。

「のぉ和穂よ、あれこれ戦術を立てていたが、普通に戦うのが、いちばん手っ取り早い様な気がするのじゃが…」


 変身、幻術…相手を騙す術ではあるが、普段と異なる体格による動き辛さや、自分自身が無防備になる時間が発生するリスクを考えると、普通に戦う事がシンプルに動きやすい気がした。


「……」

コクコクと和穂も頷く。


正面の草原には人影は見られない。

「大丈夫じゃよ、アキラもシルも、ルーク達も強い、必要になれば呼ばれるのじゃから、そのような顔をするんじゃない」


 側から見たら表情も崩さず、真顔に映るだろうが、ワチには和穂が不安に表情を曇らせている事が分かる。


「…ひっ!?」


 柵から顔を出した山羊の様な動物が和穂の背中を頭で押していた。

和穂には珍しく慌てた表情を見せる。

「ほれ、そやつに慰めてもらうが良い」

和穂は表情を和らげ頭を撫でてやる。


 森の方も特に変わりは無かった。


 家の中に入ると、メイルはテーブルに肘を立て手を組んで額をくっつけた状態で震えている。

 オンダを殺めた奴らがいるかもしれないと思うと、憎しみと恐怖とが複雑に纏わりついているのであろう。


 触れてやる事のできないオンダは表情を歪め、ただ側に立っている。


「こちらにも族が寄越されるか、わからぬが、もしくる様であったら、族にオンダの姿を見せてやるが良い」


オンダは苦笑いをこちらに向け「ああ」という。


 気を張りながら、アキラやクラマからの報せを待つ。


 誰かが結界内に足を踏み入れた感覚が分かる。

「どうやらこちらにも、お客さんのようじゃな…オンダよ、部外者のワチ等が関係ない客人を傷つけるわけにいかんのでな、ちぃと様子を見てきてもらえんか?」


 ワチの発言にメイルはビクッと体を強張らせ、和穂は立ち上がる。

アキラにコチラの状況を念話で報告する。


 収納空間から、相棒の和傘を引き抜く。

「メイル、決して出てくるんじゃないぞ。ワチ等に任せておけ」


 泣き出しそうな表情のメイルは何度も頷く。

和穂と共に再び表へと足を踏み出す。


「何でアイツがいるんだよーっ!確かにおっ死んだハズなんだっ!!」

1人の男が叫んでいる。


 ほぅ、アイツがオンダの仇にあたるのじゃな。


「ワシに仕掛けてきた族のうち、3人はいたんだが1人はいないのか、キルトの家に行ったのか…人数は全部で5人のようだな…」


 族はそれぞれ、戦斧や両刃剣等の武器を手に、柵と反対側よりコチラに向いて構えている。


「ほむ、手練れなしの雑魚ばかりじゃの」

ワチは和穂と目配せをする。


和穂はスラリと刃を抜き、構えるでもなく輩達の元へ足を進める。


「おぉ、メイルだけじゃねぇ、上玉がいるじゃねぇか、2人の女は攫った後、俺たちが好きにさせてもらおうぜっ!!」


 両手に斧を持った男が舌なめずりをして、下品な声をあげながらコチラへと突っ込んで来る。和穂は男の攻撃を体を捻るだけで避け、男の斧を右腕ごと地面に切り落とした。


「俺の腕がぁぁっ!!」

「てめぇっ!!」

腕を切られた男は叫び、事態を見ていたもう1人の男が湾曲した剣を振り下ろしながら和穂へ突っ込んでいく。


 和穂はその場で舞う様に、刃を右から左、下から上と何刃も2人の男に浴びせる。

男達は声を発する事も許されないまま、肉塊へと姿を変えていく。

そして、和穂が地面に両手を叩きつけ、足下から炎柱を出現させ、何も残らない状態にまで焼き尽くす。


 地に両手をついている事を、隙を見せたと勘違いした男が、和穂に向けて戦斧を振り下ろす。


 和穂は避けもせず、右手の刃をそのまま真上へと突き上げ、跳躍する。

男は戦斧の柄ごと縦に真っ二つに切れ、和穂が着地する前に地面へと崩れる。


 圧倒的な強さに恐怖した2人の男が逃げ出す様に森の方へと向かう。


「させんよ」

ワチが結界を発動させ、2人の男を閉じ込める。


 和穂は左手の刃を投擲し、1人の男の首を落とす。

そして、もう1人の男へと右手の刃を振り下ろす。


ガキーンッ


 ワチが左手に持つ傘で和穂の刃を止め、同時に引き抜いた刀で男の右太ももを後より、突き刺す。


「和穂よ落ち着け、ひとりは帰さねばなるまいよ」


和穂は刃を引き血を振り払い鞘へ収める。


「ヒイィぃぃ…」

ワチは男から刀を引き抜く。

「ギイャアーッ!!」

男は悲鳴をあげ、刀が貫通した太ももを抑え、這いずるように結界の外へと出ようとするが、先に進めない事に「何でだ、どうしてだ!」と声を上げる。


「そりゃ、無理じゃの、ワチがソナタを閉じ込めておるからの」


オンダがコチラへ来る。

「何が起きたのか、全然分からなかった。ホントに一瞬じゃねえか…」

「して、オンダの仇は仕留められたのかの?」

「あぁ、最初の男と真っ二つの奴と、ソイツだ、あんまり一瞬の出来事だったからワシも何が起きたか飲み込めないでいるよ」

首が刎ねられた男を指差し言う。


 ワチは逃す予定の男を、引き摺り戻す。

「残念じゃったの、ワチらはソナタ達が思うほど、柔ではなかったようじゃ。

この程度のてだれでは、何十人連れて来ようとも、和穂ひとりワチひとり、傷つける事もできんじゃろな。


作戦は失敗だの。

次押しかけてきたら皆殺しにするからな。

お主はそれを主人に伝える為に逃がされるのじゃ…ただ、あまりにも綺麗すぎるからな、ちいと仕置きはさせて貰うからの。

オンダよこやつをみておれ」


ワチと和穂は亡骸になった男の仲間を目の前で遺品の一つも持って帰れない状態に焼き尽くす。


ワチが残された男に近づくと、男は絶望感に顔を引き攣らせる。

「ソナタはワチ等の伝言を伝えるだけの為に生かされるのだからな、ちゃんと伝えるのじゃぞ」

男は首を大きく縦に振る。

「では、ソナタの耳はもういらぬな」

ワチは男の両耳を切り落とす。

男は耳のあった場所から血を撒き散らし、叫び声をあげる。

そんな、男を再び引き摺り結界の外に放り出す。

「じゃあの。ソナタが再び目の前に現れぬ事を祈るよ」



 何も残らない男達のいた場所に魂が置き去りになる。男達は自分の亡骸を見て死を認識する事もかなわず、地に縛り付けられた。

「ようこそ、こちらの世界へ!!」

オンダは笑顔で放り出された魂を全力で殴りつける。


 ワチ等は家の中に戻り、「終わったよ」とメイルの頭を撫でてやる…。


さて、アキラ達はどうなったかの…。

お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

狐鈴視点の物語です。

先を急ぐ読者さんには余計な話だったかもしれませんが、どうか自分と同じ様に登場するキャラクターの他目線を楽しんでいただけたらと思っています。

それではまた、次の物語でお会いできると嬉しいです。

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