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第37話 ボク達の元へ不吉の襲来。

「おねーちゃん、怖いおじさん達がこっち向かってるよ、お犬のお姉ちゃんの事話してた」

 家が見える辺りまで帰って来たところで、羊の獣人の子供がこちらに気がつき、走ってボクのもとに来た。


「アキラ?……!?」

 ボクが突然立ち止まった事で、シルとキルトさんが不思議そうに声をかけてきたが、緊張に強張ったボクの表情を見て何かを悟った様子だった。


ボクはしゃがみ、男の子と視線を合わせる。

極力安心して話せる様に、柔らかい表情を向ける努力をする。

「怖いおじさんは何人ぐらいいたのかな?」

ボクが聞くと思い出しながら数を数える。


「5人だと思う」


「ありがとうね、ダンダルさんにも助かったと伝えてもらっていいかな?」


 透けてしまうけど、男の子の頭を撫でてあげる。


「うん」と男の子は返事して、森の方へと帰って行く。



「人数はおそらく5人、強面の男がキルトさんの話をして、こっちへ向かってきたらしい…」


「「ーー!?」」


ボク達はいったん足を止めて、家の方の様子を見つつ、仲間に伝達する。


『ルーク、聞こえる?トルトンさんと一緒にいるかな?』

『アキラねぇさん?今?一緒ではないけど…』


『まさかの事態かもしれないんだ、ダンダルさん達の情報でこちらに5人組が向かっているらしい、呼び出しても大丈夫かな?』

『いつでも行けるよ!』



"ルークこっちにっ!"



 ボク達3人の目の前に水の竜巻が出現し、ルークが現れる。

シルは大層驚いた様子を見せる。


「何だ、シルもいるならボク必要ないじゃん」

なんて言っている。


『トルトンさん、聞こえる?緊急事態なんだ』


『すぐに呼んでちょうだい!』


声かけ1番に、返事をしてくれる。



"トルトンさんこっちにっ!"



「うわっとっ!」

ルークと同じ場所に薄れた乳白色のドームが現れ、ルークが弾かれる。中からトルトンさんが出てくる。


「羊の獣人の男の子が強面の5人組を見かけて、キルトさんの話をしながらこちらに向かっていたらしい」

と、聞いた情報を改めてみんなに伝える。


『狐鈴、和穂、クラマ聞こえる?

どうやらボク達の所に5人組が向かっているらしい。


こっちは、たまたまシルと行動を共にしているし、ルークとトルトンさんと、合流したから大丈夫、心配しないで。


ただ、それぞれの家に違うグループが向かったり、途中でバラけてそちらに向かうのかまでは分からないので警戒はした方が良いと思う』


『先にアキラ達の方に向かったのか、分かった、ワチ等も警戒を高める、万が一こちらが襲われた場合には、片付き次第周囲への警戒もするよ、ことが落ち着き次第、各自また連絡をするのじゃ』


『クラマはケイルさんに協力を求めておいた方が良いと思う』


『承知した』


辺りに、緊迫した空気が流れる。


「狐鈴達にも知らせて警戒する様に伝えたよ」

ボクの報告にシルは頷く。


「オンダを襲ったやつもこっちにくるかな」

杖を転がしながらシルが呟く。表情は冷静だが、目には炎を灯していた。


 キルトさんは血の気が引き、可哀想なくらい青い顔になっている。


「まずは、どんな言い分なのか聞いてみないと。

シル分かってる?

いきなり話も聞かずに暴力に出るのはナシだ。

シルが衛兵に捕まったら、この周囲の仲間達は、絶望の未来しかない」

ボクはシルに釘を刺す。


「ふぅ〜…大丈夫、分かっているよ。奴らの敗因は、冷静な指揮者のアキラがいた事だな」

 大きなため息をひとつつき、ニッと笑いボクを見つめる。



まず、トルトンさんとルークに姿を消した状態で、家の周囲を観察して来てもらう。


 周囲に誰もいない事を確認して、みんな家の中へと入る。


 キルトさんはそのまま地下へ、トルトンさんと共に身を潜めてもらう。


 キルトさんの服を着ているボクはフードを深く被り、表情を隠す。

 数珠を握り、他のメンバーとのやりとりをしながら自由に動かさせてもらう。


 ルークは姿を消してもらって、いつでも動ける様に、部屋の中にいる。

 激辛油の壷のフタも開けているし、水の準備もいくらかしている。


「もし話が決別して戦う事になったとしても、1人は怪我を負わせるまでにして、逃げ帰らせよう。

 狐鈴の言っていた様に親玉を引きずり出そうと思うんだ。

 できたら、あと1人は生け取りにして、親玉とのやり取りを聞かせて、暴露させるも良し、これで生き地獄を合わせるも良し、人質にするも良し…」


激辛油の壺を指差すと、シルも悪い顔になり「いいねぇ」と呟く。


 

 しばらくして、ダンダルさんが心配して様子を見に来てくれた。

 壁をすり抜けて入って来たものだから、ボクだってビックリしたよ。


「本当にすまないね、俺らに何かできる事があれば良かったんだけど…」

「大丈夫、これだけ準備する時間を作れたのもダンダルさん達の協力があっての事だから、本当に感謝してるよ」


 ダンダルさんの足にしがみついている2人の男の子にも「心配してくれてありがとう」とできる限りの笑顔を見せながら、言葉を伝え、数珠を握ってない方の手で頭を撫でる。


「アキラ、そこに誰かいるのかい?」

シルが独り言を呟いているボクを見て声をかける。


「うん、今回の騒動でこの周辺の見回りをしてくれていた、赤髪の戦士と2人の羊の男の子だよ」


 容姿を伝えただけで、シルは相手がどんな人だったのか頭の中に思い浮かんだ様子だ。


「死して尚、この地に生きるあたし達の味方になってくれているのか、本当に感謝しかないな…

 あたしはオンダやその者達の言葉を聞くことのできる、アキラのその力、本当に凄いと思うよ」



『聞こえるかや?どうやら、ワチ等の結界にも侵入者が来た様じゃ、しばらく話ができんからの』

狐鈴からの念話がボクに届いた。


「シル、メイルさんとこにも行っている様だよ」

ボクの言葉にシルは口元を緩める。


「そいつは、ご愁傷様だね…」


 シルが呟いた言葉はボクや狐鈴達に言ったものではなく、見えない相手に向けた言葉だとすぐに分かった。



 そんなやりとりをしているとゴンゴンと、玄関をノックする音が聞こえる。


1回目は聞こえないふりをする。


しばらくすると、再度玄関がノックされる。


シルはボクに頷き玄関の方へと足を進める。


『どちらさん?』


『ここはキルト=カヌイの家で合っているな』

低い男の声が聞こえてくる。


『だから、どちらさん?と聞いている』


『ワーラパント男爵家は第一子ミュルド様の遣いで来た者だ』


 ボク達はオンダさんを通して、用件を知っているから、簡単には話を聞かず、焦らしながら対応する。

玄関を半分開けて顔を出す。



「玄関に3人、外に2人いる」

ダンダルさんがボクに知らせてくれる。ボクは頷き念話で情報を流す。

『ルーク、人数は玄関に3人、外に2人』

『了解』


そして、そのまま念話を使ってシル達のやりとりを通訳してくれる。


『失礼だけど、貴方は冒険者か?ミュルド様の遣いの者と聞いて玄関を開けたのに、その様な体たらく、とても信じられないのだが…』


 確かに、玄関の隙間から見える顔の反面をヒゲで覆ったムサ苦しい3人組、皮の鎧を身に纏っているが、盗賊と言われたらそう見えてしまう。

 シルは優しいな、ボクだったら間違いなく"盗賊"と言うだろうに"冒険者"って…。


『ミュルド様は偉大な方でな、我々の様な者にでも仲間の様に接してくれるのだよ。そして多忙な方なので、我々を遣いとしてここによこしたのだ』


(使い捨てとしてね…)付け加える。ちょっ…ルーク、本当に笑わせないでよ…。



『それはそれは遠路遥々と、ようこそいらっしゃいました。どうぞこちらへ』


 シルはリビングへと促す。

『あ、ちょっとお待ちください、見ての通りこの家には私たち女性2人なものなので、その様な物騒な物は持ち込まないでいただきたい』


 男達は目配せし、頷き、玄関の近くにあった空の木箱の中に、腰からぶら下げたショートソードやナイフ、斧の類を放り込む。


 ボクは立ち上がりキッチンでお茶を淹れる。

3人の男達、そして自分達のお茶を配り終えソファーへと腰を降ろす。



『では、話を伺いましょうか?』

シルが話を切り出す。


『貴方が、キルト=カヌイで合っているのだろうか?』

先程から話かけている男がたずねてくる。


『どなたからの情報でしょうか?

キルト=カヌイはこの子、私はアキラと申します』


「ーーッ!?ゲホッ!ゲホッ!!」

しれっとボク名前を出すなんて…


『あら、大丈夫?』

シルはボクの背中をさする…絶対楽しんでるな。


『実はですね、ミュルド様が街でキルト様を見かけまして、侍女として屋敷で仕えて欲しいと話されまして』

男はニタニタと締らない顔で言ってくる。


シルはすかさず、口を挟む。


『ちょっと待って下さい、この子は生まれも育ちもセラカの街でして、こちらに5年前から住んでおりますが、街に行く事なくここで静かに暮らしているのです。

人違いではないでしょうか?

今ここでは彼女にしかできない仕事があって、彼女を連れて行かれてしまうと、この周辺に住む者達が生活していく上で困ってしまうのです』


『いや…そんな事は、ないです。

な、なぁ。キルト=カヌイって言ってたよな』

『『そ、そうだ』』

無理くり話を合わせようと必死になって来ている。


『それに、最初貴方は私をキルトだと思っていましたよね?本人を知らないじゃないですか。キルトはこの周辺に住む者達にとって必要な人間なんです!』



 この手の人間って、言い返せなくなると、だいたいそうなるよねー…つまりは逆ギレ。



『そんなの知るかっ!貴様ミュルド様に求められているんだから、おとなしく引き渡せば良いんだよ!!こんな辺鄙な所にいるよか幸せだろうし、他の奴なんかどうでも良いだろ!』

男はテーブルをバンバンと叩き怒鳴り散らす。



『貴方はミュルド様に対して泥を塗る行為をしているんですよ、自覚してます?』

シルは冷静に言葉を続ける。



『テメェが死んじまえば、どんな事してもバレやしねぇだろぅがっ!!俺らはコイツをミュルド様に差し出せば幸せになるんだよっ!!』


 ボクの近くにいた1人の大男が、ボクに向かって手を伸ばす。


 ボクは男の大ぶりの手を横にかわし、手に巻いた数珠をナックル代わりに男のアゴに向かって下から繰り出す。

バッカーンッと大袈裟な音を立ててクリティカルヒットする。


いったーいっ!!

霊体相手じゃないからボクも痛いヤツだっ!!


『オッケー!じゃあ返り討ちにあっても文句は言えないねっ!!』


シルはテーブルを蹴り上げ、正面の男達の視界を遮る。


「ルークッ!!!」

「はいよっ!」


ボクの呼びかけに、ルークは激辛油を3人の男の顔に的確にヒットさせる。


『『『ウギャヒャーッ!!』』』

『目がぁー!!』


大きな悲鳴をあげ、ひっくり返った状態で顔を抑えながら暴れまわる。


 外にいた2人も武装した状態で玄関を蹴破り中に入ってくる。その時ボクは気がついた。


 負傷した(オンダさんのカタキ)がいたということを。


「シルッ!!そいつはオンダさんの仇だっ!!」

ボクは大声で叫んでいた。


その叫び声と同時に、シルは電撃魔法でその男を消し炭にし、外へと弾き出した。


そして最後のひとりが逃げ出そうとしたところ


『させないよっ』

トルトンさんが家にバリアを貼り、閉じ込めた。



無傷な男をソファーに座らせ皆んなで囲む。


 激辛油を受けた3人は可哀想(これでも緩いくらいだけど)に、目も顔も腫れ上がっていた。追い討ちとして、激辛油を喉に流し込み、喉を潰させてもらった。


『今回は誰を襲ったのかな??』


『ひ、ひぃ…』

ボク達が近づくだけで悲鳴をあげる。


『ちなみに、メイルの方の情報は要らないよ、殲滅したらしいから…

あんた達も馬鹿だねえ、相手にしちゃいけない人を怒らせちゃったんだからね…

 こっちの3人が生きるも死ぬもあんたにかかっていると思いなさい』

『ーーッ!!』


シルが話を盛る、正確にはわざと逃したひとり以外だ。




『今回襲ったのは2人だけ…です…』


『じゃあ、あんたは逃してやるけど、伝言をミュルドの坊やに届けるんだ。


 この森の獣人を相手にしたら、いつでも返り討ちににすると。


 その中でも、キルトとメイルだけは別格で美人だけど絶対に相手にしない方が良いって伝えるんだ。


 ただし、あんたには見えない様に精霊を付けさせてもらう。

伝える前に逃げる様であれば、先を行く仲間の元に送りつけるから、そのつもりでいるんだな』


男は泣きながら頷いてみせる。


 そして、トルトンさんに言ってバリアを解除し、外へと放り出す。

 恐怖で身体が硬直してしまった様で、解放した男は走って逃げる事なくカクカクとした足取りで視界から消えていった。

 それを追うようにダンダルさんがついて行ってくれた。



「はぁー…」

ボクが大きなため息をつくと、トルトンさんと地下から出て、物陰に隠れていたキルトさんが出て来る。



『なになに?別格で美人だって〜?手を出すな?』

ニコニコしてシルに言っている。


『そうだよ、自信もちな、あんたは美人なんだよ』

シルは鼻でひとつ笑いながら話す。


『わざと標的をキルトとメイルに向けるために言ったでしょ…』

トルトンさんのその発言にキルトさんはショックを受ける。

シルは笑いながら視線を外す。


『無理やりにでも手を出そうとするような奴なんだから、手を出すなと言われて黙っているわけないよねー』

ルークが追い討ちをかける様に言うとキルトさんは、ヘナヘナとその場に座ってしまう。



 そんなやりとりを横目で見ながら念話で報告をする。




『お疲れ様、こっちはオンダさんの仇を始末して、残り4人は生け取りにしたよ…とは言っても、ひとり親玉への伝達人として解放した』


『うむ、お疲れ様じゃの、所詮は人間じゃな、まだクラマを、相手にしていた時の方が骨があったの。

ワチが手を出す前に殆ど和穂が片付けしまっていたぞ…。

オンダに確認したから、仇打ちは果たされたようじゃ』


『伝達人に、メイルさんとキルトさんに注意が向く様に仕向けていたからミルフィさんへの注意は逸れたんじゃないかな?』


『いや、まだまだじゃ。親玉が出て来て終結するまで気が抜けんの、クラマはとりあえず、ミルフィ達を安心させてやると良い』


『承知した』


『…おふろ…』


『そうだよネェ…ボクもお風呂入りたいよ…ちょっと相談してみるね。ただ、後片付けがあるからどうなるかな…


次が来るとして2.3日かかりそうって話だったけど、馬使ったらどうなのかな?』


『それでも帰還に1日かかるでしょう、早くても2日でしょうな』


『思っていたより早い動きだと思ったけど、オンダさんが襲撃されたのって、ボク達が来るより前の話だって言っていたんだよね…


そうだ、オンダさんを送る時なんだけれど、ボク達の協力者の魂も一緒に送ってあげられたらなと思っているんだ』


『うむ、感謝の気持ちと次なる転生を祈って盛大に舞って送り出してやろう』


『それじゃ、お風呂に行く様になったら連絡するねー』




「報告終わったよー」

ボクは念話を切り上げ、皆んなのもとへ視線を戻す。


 コレをどうするべきなのかな…命を奪う事なく済んだ事は良い事なのか、しかし相手は自分の幸せのために、軽々しくボク達の命を奪おうと行動を仕掛けて来た、思った以上のクズ達だ。


正直この人達の命を持て余してしまっている。


 奪うか、奪われるかの状態で第3の答えを出したはずなのに、モヤモヤを作る事になってしまった。


お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

準備さえしていれば、手数など必要もない相手でしたね。


怖いおじさん達は使い捨てになってしまうのか、親玉は現れるのか…


それではまた次のお話でお会いしましょう。

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