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第36話 ボク達の作戦会議。

 キルトさんはボクを窒息させたり、羽交締めにする様な寝相はしていなかった。


 午前中は草原で罠を作ったり、薬草の採取の手伝いをする。

 草原の罠はだいぶ増え、キルトさんだけではなく、ボクもすっ転ぶ事になった程だ。


 転んだ時って、立ち上がって真っ先にする事が、目撃者をつい探してしまうのはボクだけだろうか…。


 キルトさんとめっちゃ目が合って、大爆笑されたわけだが…。くぅ恥ずかしい…。



「足下気をつけてくださいねー」

とキルトさんが言った2秒後視界から消えた。頭に草を乗せて「てへへ…」と笑う。


 この罠、侮る事なかれ、身体的なダメージは与えられないけれど、地味に精神的にグッとくる…。



 お昼はボクがホットケーキを焼いて済ませる。キルトさんは5枚、ルークも2枚食べていた。


 

 食後、今までできていなかった、念話をトルトンさんに試みる。


 手に依代になる数珠を巻いて、相手の顔を思い浮かべながら、頭の中で会話する。

「トルトンさん、アキラです。聞こえるかな?」


「…アキラちゃん?…聞こえるわ。突然だったからビックリしちゃった。どうしたの?野盗?すぐ呼んでもらっても構わないよっ」


 緊張した感じではあるが、本当にすごく協力的で、心強い。


「トルトンさん、ゴメン、今お試しで念話をしてみたんだ、今のこちらにある能力を色々確認しているところなんだ」


「なるほどね、それじゃあ私の能力の確認も必要になるんじゃないのかな?」


 気軽に呼び出してしまうのに、少し抵抗を感じていたのに、全然問題ないと言ってくれるからありがたい。


「あと、依代を着地点に呼び出すようなので、一方通行みたいなんですけど、大丈夫かな?」


「大丈夫、大丈夫。

私の家はルークちゃんの家に近いから、キルトちゃんの家からは大して離れてないのよ。

 シルローズちゃんの家の方が遠いくらいなの」


「そうなんですね、じゃあ少し実験も兼ねて呼び寄せてみたいので、落としても危険にならないモノを、手に持ってもらってから呼び寄せても良いですか?」


 呼び寄せる時に本人だけがこちらへ移動させられるのか、それとも手に持っているモノも含めて、こちらに移動できるのか確かめてみたかったんだ。


 それもできるなら、今後色々使えて便利なのかも…なんて思ってしまう。


「オッケー、とりあえず近くにあったモノを持ってみたよー」


 えっと、こっちに来て欲しいと念じるんだったよね。


"トルトンさん、こっちに来てっ!"




「「!?」」

何も起こらない……?




"トルトンさんこっちに来て!!"


不発だ……?なぜ?どうして?

「ちょ、ちょっとまってくださいね」



 だめだ、どんな原理で呼び寄せることができるのかイメージが湧かない……。




先生を頼るしかないようだ…


「狐鈴!聞こえる?」


「アキラ!?、なんじゃ、そっちに族が現れたか?」

緊張した声色でボクに返事をする狐鈴。


「いや、違うけど…」


 この念話は緊急事態をイメージするから、あんまり容易に使わない方が良いのかもしれない。


 ただでさえ、ピリついている現状をかき回してしまいかねないと思った。



「実は…呼び寄せのコツを知りたいんだけど…

 確認として、トルトンさんを呼び寄せようと試みたんだけど、いくら求めても呼び寄せられなくて…」



「ほむ、確かトルトンという者とルークをソナタの数珠を依代に加えたのだったか?


 ソナタがいくら望んでも、返事のない者を強制的に呼び寄せる事はできんよ」



「求めれば引き寄せる事ができるんじゃないの?」



「アキラはアホの子なのじゃな。

もし、アキラがトイレで用を足している時に、強制的に引きずり出されたら、どう思うのじゃ?」


「うゎ、それだけは絶対に嫌だ」

 誰かに想像してさせてしまったら申し訳ない。


「相手の同意というか、波長を合わせる必要があるんじゃ。


 過去にアキラがワッチ等を呼んだ時、ソナタはワッチを求めた。

 ワッチ等は鈴の依代を元にそちらに行きたいと願った。


 つまり、呼ぶ相手がイメージの中でその依代を目印に飛んで行く…

 今回でいえば、アキラの持つ数珠に手を伸ばして、掴むか、数珠の真ん中を潜るイメージをするのが分かりやすいかの。


 それらをしない事には、アキラの思いには応えられないんじゃよ」


「なるほど、試してみるよ」


「うむ、精進せよ。

それとな、和穂にもほんの少しでも良いので、後で声をかけてやると良い。

 アレは無口であるくせに、心を許した者が相手にせんと、泣いてしまうからの。

今回の事が知れたら、妬かれてもうてかまわないからの」


 ため息をついている、狐鈴がイメージできる。


「そうだね、夜にでも声かけてみるよ。ありがとう」


「共に無事な再会を果たす事をワチは祈っておるよ」

その言葉を終わりの言葉として念話を切る。



 すっかり待たせてしまったトルトンさんに、狐鈴からのアドバイスを伝え、試みることにした。



"トルトンさん、今度こそこっちに来て!"


すると、薄らと乳白色のドーム状の幕が出現した直後、カップと風呂敷を持った、トルトンさんがドームの中心より出てきた。


 ボクの呼び出しを一緒になって見ていた、ルークもキルトさんも「おお!」と歓声をあげていた。


「キルトちゃん、ルークちゃん、こんにちわ。本当に来れたわ。

自分を覆う能力は強制的に発動する様ね」

トルトンさんが言う。


 確かに、和穂や狐鈴が召喚された時も、炎の柱に包まれて現れた事を覚えている。


 すると、呼び出しは基本、屋外でやった方が良さそうな気がするな。


 移動の際に自身に影響がない様に守られるのか、移動して無防備な状態になる事から守る為なのかは分からないが確かに発動している。



「さて、実験の答え合わせになるのかしらね」


トルトンさんはカップと風呂敷をテーブルへと置き、ソファーへと腰掛ける。


カップは空っぽ、風呂敷の中からは木皿が出てくる。



「なるほどねー」

腕組みをして1人納得する。



「ちなみに、何を用意したのかな?」

「このカップには、水を入れて、風呂敷の方にはパンとナボラの実を皿に乗せて包んでみたのよ」


 食べ物や、水分、果物の同行はできないようで、無機質な物、道具くらいの移動ならば、呼び出しと一緒に持参出来るようだ。


 例えば、離れたところで、買い物をして呼び出しをしても、無機質な物以外は置き去りになるって事だね。


「しかも器用な事に風呂敷の中に仕舞い込んでいたにも関わらず、すり抜けるように置いてきたようね」

と、トルトンさんは言う。


 ルークにも、いざという時の手段として、呼び出される側のイメージをトルトンさんを通して説明される。


 ボクが外に出て、ルークを呼び出してみる。

 

 水が竜巻の様に渦を巻き出現し、中心からルークが現れる。

 か、かっこいい…ボクはてっきり、水道管が破裂した道路みたいに地中からドッパーンッて水柱が立つのかと思っていたんだよね。


 ともあれ、トルトンさんもルークも呼び出しができる様になったので、緊急時の対処は何とかなりそうだ。



 そういえば、昨日の明け方、姿を消していたクラマの心配も、念話で話していれば解決していたのかもと、今更になって思う。



 トルトンさんの能力の検証に入る。

キルトさんの家全体にバリアを貼る事は可能だが、1時間は保たせる事はできないそうだ、家全体ではなく、部分で貼る分にはより長く、強固なものになるそうだ。


 トルトンさんに、家全体のバリアを貼ってもらい、ルークに1発水球を打ってもらって耐久性の検証をする。


 キルトさんはボクと同様に外から様子を見守る。

『キルトちゃん、守りきれなかったらごめんね』

『キルトさん、大丈夫だよ…たぶん』


 キルトさんは2人の言葉を受け、涙目である。もしもの事になったら、それを口実にシルに保護してもらおう。それが良い。


 別に面白がってやってないからね、これ本当。


 トルトンさんから家の中より、念話で準備が整ったと報告を受ける。

 パッと見た目の変化はみられないが、玄関をあけようとしても、ドアノブも動かず、扉のガタツキすら起こらない、窓に関しても窓枠の上から更に1枚透明の鉄板を貼っているように、ガラスにも触れない状態だ。


 その場を離れルークに合図を送る。

ルークはバスケットボール大の水球を2つ出現させる。過去にボアフットを吹き飛ばしたあの攻撃だ。


 キルトさんは手を組み祈る。


 ルークの水球は螺旋を描く様に窓の方へと凄い速さで飛んでいく。



 窓に接触したかと思った瞬間水球は弾け消滅する。

 これには仕掛けたルークもビックリしていた。



 トルトンさんが玄関から出てきて「どうだった?」と聞いてくる。


「うん、完璧だね」


『あぁ、良かったよー!良かったーっ!』


 キルトさんは胸を撫で下ろし、実験を終えたボクたちの元へと両腕を広げてかけてくる。


『ぬ…何でみんなして、そんな残念そうな表情をしているのっ!?』


『そ、そんな事ないよー』


 トルトンさんのバリアは、準備にそんなに時間のかかる物ではないので、戦闘が始まってからやっても大丈夫そう。


「30分を越えた持久戦になる可能性がある時は、キルトさんと地下に籠って、そこだけを守ってもらえればいいかな。」


トルトンさんは頷く。


 ルークにも省エネ戦闘を考えないと、相手が多かったらキツイかもしれない。

 狐鈴達の話していた様に、全員を殺す戦いではなく、撤退させる形に仕向ければ、魔力を使い切る事はないかな。


「ルークちょっときてー」

 ちょっと離れたところにいたルークをこちらへと呼ぶ。 


攻撃としても、作戦を練っておく必要がある。


激辛油球と、水球を合わせた戦い方を考える。


「あの油のやつを顔にかけてやれば、戦う気も集中力もなくなるかもね、あれは不意打ちでもらったら、大騒ぎになると思うんだ」


ルークもちゃんと考えていた様だ。


「なるほど、じゃあ最初は激辛油にして、相手の視界と集中力を削ぐ形にしよう。

 それでも仕掛けてくる様であれば、水球で攻撃して、その間に火にかけた激辛油用意して、迎撃する形をとろう。


 あと人相手にあの大きさの水球は魔力の無駄遣いになりそうだから、拳大くらいの大きさでどうかな?」


「顔に当てるくらいなら、それくらいで問題なく狙って、当てる事できると思うよ。

あと、できれば、どこかにもともと溜めた水があった方が、魔力ももっと温存できると思うんだ」


「水の溜めておける場所ねぇ…、あと不意打ち用の激辛油もすぐに扱えるようにしたほうがいいわね…」


『油入れるなら、昨日空けた酒瓶はどうかな?』



『キルトさん、飲んだら…たぶん死ぬますよ』

 ボクが不自然ながらも、解るように言うとキルトさんは顔を真っ赤にして『私そんなに意地汚くないよぉ〜』という。


「たぶん、キルトちゃんの場合、意地汚い、汚くないの問題ではないと思うのよね…」

トルトンさんの言葉に、ボクとルークも揃って頷く。


「まぁ、流石に外に置いておけば飲まないよね…。

 あとは戦闘になった時、ボクが指示の出せる場所にいないとダメだろうから、シルの家の様に上から見えた方が良いと思うんだよね」


「流石に今から木の上に展望台を作るのは大変よね、ハシゴでも作って屋根に上がるのはどうかしら?」


 みんなで意見を出し準備を進める。

 貯水池とハシゴは今から作ると日が暮れても無理そうなので、シルの家に行って相談する事にした。

 シルの家に行くなら大丈夫だろうと、ルークとトルトンさんは、家に帰っていった。


 

 シルの家に行くと、シルに歓迎された。

「今まで誰かしらいたのに、昨日なんてロディもいなかったから、寂しかったものさ」

フルーツティーを煎れてくれながらいう。


シルとの、まったりとした会話は心地良いのだけど、つい本題を忘れてしまいそうになるので、忘れないうち要件を伝えておかないと。


「実はね、ついさっきなんだけど、トルトンさんとルークの能力を確認しながら作戦会議をしたんだよ。

 でね、ルークの魔力を温存するために、キルトさんの家の前に貯水池を作りたいと思ったんだけどちょっと時間ばかり掛かりそうなので、シルに相談しにきたんだ。

 魔法で何とかなるならありがたいのだけれど…」


「あぁ、そんな事なら朝飯…晩飯前にチョチョイとやってあげるよ。

 さて、どうするかな…あたしが、その頼まれごとをやっつける代わりに、アキラに晩御飯でも作ってもらおうかな。

 今夜はうちに来るつもりだったから、ボディーガードは家に帰ったんだろ?」

ニパッと、シルは笑いながらボクに提案をする。


「それなら、晩御飯はキルトさんの家で作っても良いかな?ちょっと仕込んでいるものがあってね…」

「お、何か意味深だねぇ、そうしよう。

じゃあ、すぐ準備しないとだね、何かうちから持っていくものあるかい?」


「あ、そうそう、忘れる前に聞いておかないと、ハシゴを作りたいんだけど、簡単に作れるのかな?」


シルは少し考え、ボクにたずねる。

「どのくらいの長さかにもよるけど、一階の屋根にかけるくらいの長さで良いなら、余っているよ、アキラ達の部屋の裏に横倒しになっているけど使うかい?」

「助かるよ、たぶんちょうど良い長さのはず。じゃあボク、とってくるね」


 キルトさんはボク達の言葉が分からないので、お茶を楽しんでいた。


 ボク達の間借りしている部屋の電気は落ちており、当たり前のことだが、物音ひとつしなかった。確かに、この静けさはもの寂しさを感じる…。


 部屋の裏手にまわると、何本かハシゴがあった。そのうちの一本持ち上げる。

 うぅ、結構重たいかな…キルトさんの家までを1人では無理だな…。


 リビングの前を通ると、シルに「大丈夫??」と声をかけられる。

「か、滑車で降ろしちゃう…」


 先に降ろせるだけハシゴをおろし、端っこの一段を滑車に引っ掛け降ろすが、幾らも降りないうち地面に到達する。

そりゃ、そうだよね。

滑車の取り外しのため1番下まで降ろす。


 滑車からハシゴを解放したタイミングで、シルとキルトさんが降りてくる。


「ご苦労さん、それじゃ向かおうかね」

シルは珍しく魔法の杖を手に持っている。

「シル、魔女みたいだね」

「でしょ、実はあたし、魔女だったんだよ」


 ボクとキルトさんとでハシゴを持ち上げ、森の切れ目を北に家に向かう。


 キルトさんとシルとで笑いながら何か話をしている。

別に聞き耳立てているわけでもないが、そもそも何を話しているのか分からないのだけれど、時々『アキラ』というワードが出てくる。


 笑いながらシルがボクの腕に自分の腕をからめ身を寄せる。

「あっげないよー」と言っている。

ははは、キルトさんてば、シルにもボクをよこせとでも言ったのだろう。


 わいのわいの話しながら、戻って来たボク達の身に迫り来る事態を知るはずもなかった…。

お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

今回は念話、空間移動、トルトンさんの能力の検証会となりました。次回少し動きがあるようですよ。


それではまた次の物語でお会いいたしましょう。


誤字報告してくださいます皆様、ありがとうございます。

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