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第34話 ボク達のキルトさん宅訪問記。

 ボクがシルの家からもってきた特別な物は、シルから借りた敷く魔石コンロ、激辛油、譲ってもらった原料(マプリの葉、ジャルトの葉)、言葉の勉強ノート以上だ。あとはいつもの身に着けている物くらいかな。


 いざというとき、いつでも取り出して温められるように、温め用の大鍋の中に、ひとまとめにして保管をする。

 念の為に追加分の油と材料も一緒にしておく。



 まず、キルトさんの家を知るため、家の中を探索をする。

家の間取りをぐるりと確認する。


 キルトさんの家は正面を草原にして、背後も両脇も木々に囲まれた、森の中へと引っ込んだ横長の家だった。


 家の周りには2m程の幅のウッドデッキが一周敷いてある。


 家の正面中央に玄関があり、入ってすぐに足元に玄関マットが敷いてあり、広いリビングがある。

 薬草の整理や刺繍などの作業は、リビングでやっているそうだ。


 リビングには3人掛けのソファーが2脚が向かい合わせに置かれて、ソファーに挟まれ大きめのテーブルが1つある。


 リビングに入って、左側にそれぞれ扉で仕切られた、トイレと倉庫がある。

 そして奥から迫り出す形で寝室。寝室は引き戸になっている。


この寝室がびっくりするくらい大きいの。

 シルの家でいうと作業室と寝室の壁を抜いて、一部屋にした様な広さで、ベッドの大きさは、ボク達が使っているベッド3台分くらいあるのかな?さすが、ご自慢のベッドだ。


あとは、簡易テーブルと椅子がある。


 寝室に入っての足元に地下へ続く階段が蓋を閉めた状態である。蓋の大きさは1m x 1mくらいかな。

 蓋にマット置いたら、地下があるか分からないだろうね。


 地下は6畳くらいの広さかな?壁に棚があって、製造年別なのか、種類別なのか、いくつかに分別されている。


 家の横長の壁の2/3を寝室が占めていて、壁を挟んで、残りの1/3がキッチンになっている。

 作業台が無い分、キッチンスペースが広めに作られている。


 所々に刺繍の施している、壁掛けやフリーケット等が飾られていた。


「シンプルだけど過ごしやすそうな作りだね」


 ルークと話をしながら回っていると、お茶を淹れてくれていたキルトがルークを通して話して来る。


『1人で過ごす家だから、そんなに部屋いらないし、私のやる作業はリビングで事足りるからね…』



「ボクにはちょっと広いな…」

「ボクもそう思う」

ボクの呟きにルークが同意する。


『私も寂しいのよー、一緒に住まない?』

 キルトさんはポットをテーブルに降ろし、両手を組み、懇願した眼差しでボクを見つめる。


ボクは苦笑いする。

「気持ちは嬉しいけれど、ボクは仲間たちと離れて暮らしたくないんだ」


 振っていた尻尾はタランと下がり、肩を落とし残念である事を身体全体で表現する。『残念…』キルトさんは呟く。


 キルトさんは感情が全て出て来るので分かりやすい。こう裏表ない性格は個人的に好きだな。

それは、狐鈴にも和穂にも共通して言える事だ。


 キルトさんの淹れてくれたお茶を飲む。


「家の作りを考えると、踏み込まれたら隠れるしかないね」

ルークの言う言葉にボクは頷く。

「逃げるにしても窓からになるけれど…囲まれていたらやっかいだね」

ボクは腕を組み、ため息をひとつつく。


 トルトンさんの守りの能力が、扉や窓を開けられなくする事ができるなら、この家を結界の様に安全地帯にする事ができるのかも。


 トルトンさんを呼び出しても元の場所に戻せないから、容易に呼び出さない方が良いと思う。

 探索終えて最終的な確認の時に、試す事をまとめてからにしようと思う。

 

 

 そういえば、バタバタで整理できていなかった事だけど、オンダさんとの交流で発覚した現象、ボクがかけている眼鏡は、霊体との間にフィルターを貼るように、眼鏡をかけると見えなくなるようだ。


 シルが加工した石が、水晶に近い成分だった様で…、確か狐鈴がこの眼鏡を見た時、ボクの水晶の数珠に似ているとか言っていたような気がする。


 確か、水晶の効果って『浄化』っていうのを聞いた事があるような…程度の認識だ。


 ただ、不思議な事に精霊に関しては眼鏡をかけても消える事は無いんだよね、存在が清いからなのかな?


 心が清い人には見えるとか…?いや、ボクはそんな聖人のような清い心でできているような事はない。


 キルトさんを守る為には、ボクの唯一の能力も出し惜しみする理由はないので、家の周辺の探索時には、例え相手が幽霊でも、力になってくれる者がいるならば、すがりつきたいと思う。


「アキラネェさん、何難しい顔しているんだぃ?」

 ボクが無言で考えていたので、心配してルークが声をかけてくれる。


「うん?あぁ、ボク達のできる事を考えていたんだ…トルトンさんの能力の使い方とかも…。ルーク、すっごく頼りにしているからね」

手元でいじっていたメガネを片付けて伝える。


「アキラネェさん、ボク達は運命共同体だからね、ボクだって簡単に消えてしまう様なことはないよ」

舌をペロリッとするルーク。ルーク頭をひと撫ですると目を細める。


「さてと、家の周りも探索しておこうかな」

ボクが席を立つと、キルトさんも立ち上がる。




 草原側には特に変わった事はなく、草の長さは膝から腰辺りの長さまで伸びている。


ボクは家の正面に広がる草原に潜り、しゃがみ込んでは作業をし、少し歩いてはしゃがみ込んで作業を、繰り返す。


「アキラネェさん、何やっているんだい?」

キルトさんの代弁でボクにたずねている様子。


「ん〜、単純な罠を作ってるんだ、こうやって、こう」

ボクは両手でそれぞれ1束づつ握った草を中央辺りで結んでみせる。


「まぁ、そうそう引っかかるとは思わないんだけど、足引っ掛けて転んだら面白いかなって…」


『わひゃっ!』

バフッと音を立てて、キルトさんが忽然と視界から姿を消した。


どうやら、ボクの手元を見ようとキルトさんがコチラに来た時、最初の方で作った罠に引っかかったらしい。


「いや…意外と有効そうだねぇ…」

ルークはキルトさんのひっくり返った場所を見ながらボクに言う。

「だね…」


 それから、30分程かけてキルトさんと、ランダムにせっせと罠を作った。

 その間2回キルトさんはひっくり返っていたけどね…



 家の後方も探索する。立派な大木が何本も生えており、神秘的で生命を感じる森だった。

 

 10分ほど歩いた所で少し開けた場所があり、3つの盛土があり花が添えてある。

「あ…ココは…」


「ここは、冬眠明けのボアフットに襲われて亡くなった方々のお墓です」

悲しみの表情を向けキルトさんが呟く。


ボクが手を合わせていると声が聞こえる。



「貴方は冒険者の方ですか?」


 僕が顔を上げると目の前に、ロングソードを腰にぶら下げ、シルバーの鎧を纏った、赤髪赤髭のガタイの良い壮年の男性と、その足に抱きつく羊のフワフワの髪をした男の子が2人いる。


「いえ、ボクは一般人です。あなた方は親子ですか?」


「ううん、僕達を助けようとして、バケモノがおじさんに…」

足に抱きつく男の子の1人が泣きながら訴えて来る。


男性はその男の子の頭を撫でながら謝る。

「ゴメンな、おじさんがもっと強ければ君たちを守れたのにな…あと、そこの娘さんにも一言お礼を言いたいんだ…」

キルトさんを、指差す。




 この戦士の男性"ダンダルさん"は、冬眠明けのボアフットの討伐の依頼をギルドから受け、4人パーティーでこの森にやってきたそうだ。


 森の探索中に子供たちに襲いかかるボアフットに遭遇する。

 子供達を庇いながら戦ったが、相手は冬眠明けで空腹のボアフット、気性も荒く、手傷を負った子供達は既に事切れていた。


 仲間も重傷を受け、退却する事になったが、荒ぶるボアフットは執拗に襲いかかってきたので、仲間との距離を稼ぐ為、ダンダルさんは囮になり戦った。


 ダンダルさんは木に叩きつけられ、薄れる意識の中で、キルトさんがシルを連れ現れる様子が見えた。


 シルの魔法で、ボアフットは仕留められ、冒険者の残りの3人は重傷を負ってはいたが、シルの応急手当てで、命に別状はなかった。


「意識が戻った時には、俺はこんな姿で、ボロ雑巾の様になった自分の骸を見下ろす格好になっていたんだ。

 直接話した事もないハズなのにそこの娘さんは、ボロボロ泣きながら俺の骸に謝罪して墓を作ってくれて、今でも花を毎日供えてくれるんだ」




「アキラネェさん、大丈夫かい?」

心配そうな表情のキルトさんとルークがボクに声をかける。

2人は見えないから、突然ボクがボーッとして、独り言を始めるものだから、心配になったのだろう。


「あ、うんゴメンね、赤髪の戦士と羊の獣人の子供達と話をしてたんだ…」


 その話を聞くなり、キルトさんは驚いた表情でボクを見る。

「ダンダルさん…その戦士の方がキルトさんに供養してもらえて嬉しいって」


 ルークが、キルトさんに伝えると、キルトさんはひと筋の涙を流し、盛土を見つめる。


「ちょっと話して来るね」

ボクはひと声かけ、キルトさんの頭を触り、その場から少し離れ盛土へ一歩足を進めるる。




「ダンダルさん、お願いがあります…」

 ボクはキルトさんやメイルさん、ミルフィさんに忍び寄る影について、話をさせて貰う。


 ダンダルさんは盛土の上にあぐらをかき、膝の上に羊の獣人の子供達を膝の上に乗せ、苦虫を噛み潰したような表情でボクの話を聞く。


 羊の獣人の子供はダンダルさんを見上げ、「お姉ちゃんを助けてあげたい」と言ってくれる。

 ダンダルさんも2人の頭を撫で、柔らかい表情になり「そうだな」と返事する。


「俺には何も出来ないと思うんだが、具体的にどうすれば良いんだ?」


 いつ仕掛けて来るか分からない存在に、怯え続ける事が一番キツイ状況である事を伝える。


「キルトさんの家の付近で、不審な動きがある際、教えてほしい」


「わかった、それぐらいなら、なんて事はない。貴女…名前は何ていうんだ?」


「ボクはアキラです」


「アキラさんに伝えれば良いんだな?」


「ボクにしかダンダルさん達を見る事ができないハズです」


「よし、みんなでお姉ちゃん達を助けてあげようなっ!」


「「うんっ!」」

2人の背中を大きな手でポンッと叩き、2人も笑顔になる。


「ありがとうございます、事が済んだら仲間達と、満足して天に登れる様、盛大にお別れ会をさせて下さい。」


ボクが伝えると笑顔を向けて「よろしくな」とひと声かけて、早速立ち上がり、森の中へと消えて行く。



「森の中の見回りを受け持ってくれるって」

ルークに伝えるとそのまま、キルトさんに伝えてくれる。


ボク達は再度盛土に手を合わせ「お願いします」と伝え、その場を後にする。



 更に5分程奥に行くと、ルークのテリトリーから風呂小屋に繋がる川に着いた。

この橋はここに繋がっていたんだ。なるほどね。


 うぅ…風呂小屋まで片道30分か…流石にキツいな。

ついつい、朝風呂の幸せを知ってしまったから、幸せの基準がお風呂中心となってしまう…ちょっと前まで、こんなにお風呂にこだわってなかったハズなんだけどな…


 家の周囲(徒歩20分圏内)には特別変わった事や、気になる事はなかった。


お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

キルトさんの住んでいる家や環境に触れてきました。

天然のキルトさんも可愛いですね。

次回のお話でまたお会いできたら嬉しいです。


誤字報告ありがとうごさいます。

引き続き、物語を楽しく進めて行ければと思います。


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