第33話 ボク達の新生活準備。
リンネちゃんも混ざって水場で、揃って洗濯物をする。
「ねぇ、狐鈴、変身して欺くのも手だとは思うんだけどさ、幻術をかけた中で戦う事とかはできないのかな?
普段と違った視界や体格だと、自由に立ち回るには向いてない様な気がするんだよね」
ボクはふと思った事を聞いてみる。
「アキラは物知りじゃの、幻術か…つまり集団催眠にかけることじゃな。
発動させるには幾つか条件が発生するのじゃょ」
狐鈴は布巾をジャブジャブさせながら答える。
「条件?」
「1、術をかけ易くするために、空間に霧を発生させなくてはならない。
2、こちらと対象者全員が眼を合わせなくてはならない。
3、発動中術者は無防備になる。」
指を折りながら必要な条件を示してくれる。
「先手で霧を発生させておかねばならないのじゃが、いつくるか分からない相手に、常時霧を維持させておくわけにもいかないからの。
1つ目の条件は、結界を張って罠として霧を発生させる手も考えてみるかの。どうじゃ、和穂?」
和穂は顎に人差し指を当てて考える。
「2つ目の条件も、術者になる者がオンダに化けて居れば、殺めたはずの人間が目の前にいたら、必然と相手とも目を合わせるであろうよ」
狐鈴の話からすると、術者1人は身動き取れなくなるので、先陣切って行けるのはどちらか片方になってしまうようだ。
もっとも、終始幻術をかけていなくても、陽動ができて、数が減れば全然問題ないだろう。
ボクはボクで、キルトさんの家で生活に必要になる物の確認と食材事情も確認しないとならない。
必要だったら収穫するなり、分けてもらわないと…。
言っていて悲しいけれど、ボクはお金を全く持っていない、それが現状なのだ…。
よくもまぁ、無ければ無いで何とかなると思ったものだ。あの頃のボクを全力で殴ってやりたい。
残り1/3くらいの洗濯物になった頃クラマが飛んできた。
「クラマ、お帰りなさい。本当に心配したよ」
突然いなくなるから心配していたのは事実だった。
「誠に申し訳ない。街までどれくらいかかるものか自分の目で確認してきたかったもので…」
「して、何か得る情報はあったのかの?」
狐鈴がたずね、フォローする。
「街までの距離を考えると、とり逃しても人の足で、次の者達が攻めてくるまでには早くても、2・3日は開くものかと考えられます」
「ワチ的にはあちらさんに、考える時間を与えたく無いのぉ」
新しい情報が加わる事で、戦術がどんどん変わっていく。
ボクが幻術を混ぜた戦い方を提案して、すでにややこしくしてしまったので、少し反省してしまう。
こちらが安全で、しかも事を良い方に進められる計画が立てられると良いのだけど…
ボクはそんな2人のやり取りを耳に、目の前の洗濯物を片付けていく。
露天風呂デッキで干しているとワンピースの背中をくいくいと引っ張られる。振り返ると和穂がじっと見てくる。
「どうしたの?」
ボクがたずねると、更に後ろからもじもじしたキルトさんが顔を出してくる。
「…ふれんち、とーすと…」
尻尾を大きく振りながら、和穂が言ってくる。あぁ、キルトさんの代弁ね。
狐鈴が声をかけてくるのは分かるけど、和穂が伝えてくるのは珍しい。
そうか、クラマと作戦会議をしている様なので、声も掛け辛い状況だったのだろう。
キルトさんはそもそもフレンチトーストを食べていないハズなんだけど…。
と、いうことはシルかチャコの情報かな…。
いや、和穂の緩んだ口元…大きく動く尻尾…。
ウチの普段無口な食いしん坊さんは、好きな物の話の時は饒舌になるらしい。
仲良しになる為の共通の話題に、貢献できた事はボクとしても嬉しいし、ひょっとしたらそこから、ボクとキルトさんの関係も深くなるかもしれない。
「わかったよ、母屋に戻ったら作ろうね」
和穂がキルトさんに伝えて2人はキャッキャッとハイタッチをして喜ぶ。
キルトさんはお腹を『くうぅ…』と鳴らし赤い顔しながら、『えへへ…』と微笑む。
キルトさん、朝ごはん食べそびれちゃってたもんね…。
反対側からも服を引っ張られる。
照れ笑いをするミルフィさんと、笑顔のリンネちゃんも引っ張っていた。
「ふぅ…」と、ひと息ついて、「それじゃ、さっさと干して母屋に戻ろうっ!」と声を上げる。
言葉は伝わっていないと思うけど、皆んな高々拳を突き上げ「おーっ!」と言った。
母屋に戻って来ると、表で開かれていた夕食会は、ほとんど綺麗に片付けられていた。
洗濯物を終えたボク達は特にする事もなく、キッチンを使って、お料理教室の様になっていた。
出来上がり待ちの和穂とリンネちゃんは、ソファーで大人しく座っている。
食材はミルフィさんの提供で、シルの通訳を挟み、ミルフィさんとキルトさんに小ぶりのフレンチトーストを作り、味見してもらう。
2人ともほっぺたを抑えながら、喜んでくれた。キルトさんなんて、和穂並みに尻尾をフリフリとしている。
シルがお茶を淹れてくれて、みんなでお昼前のお茶会を楽しんだ。
和穂とリンネちゃんは、おかわりをする。朝ご飯は何処に消えてしまったのか?
そんな穏やかなひと時を終えて、ボク達はそれぞれ守るべき人と生活する家へと同行する。
狐鈴と和穂は相談の末、メイルさんに『食事を作ってもらいたい』と連れて行く事になった。しかし、敵討ちは絶対に2人に任せる事を約束している。
キャラトさん親子の家はシルの家から森に沿って南に行った、草原の開けた場所に、森を背にする様に小屋を構えている。
クラマはリンネちゃんに抱えられながらソッポイ家の自宅へ向かう。
家は風呂小屋から更に小道を奥に入っていったところにあって、ケイルさんの家と隣同士との事だ。
いざとなったら、ケイルさんの力も借りれるよう、相談をしていた。
キルトさんは、シルの家から少し西に森に沿って行ったところにある。
木々に囲まれる形で、ボク等のよく知る、シルの家の母屋程のログハウスを構えていた。
いやぁ、ものの見事に、それぞれの家の位置がバラけてしまったね…。
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ルークも事が落ち着くまで、一緒にいてくれると言ってくれた。非戦闘員のボクを心配してくれたようだ。
言葉の壁の心配もあったので、本当に心強い。
ルークに言葉を教えて貰いたいと伝えたけれど、そもそも人族と精霊の喋り方が違うから指導は難しいと言われてしまった。
ただ、中継になってくれるそうなので、ルークとキルトさんの2人を先生に、シルとはまた少し違った形で、言葉を学ぶ事になりそうだ。
ボクの気にしていた食材の件は、シルが定期的にオルソさんが販売にくる時、一緒に支払ってくれて、こちらにオルソさんが届けてくれる事になった。
オルソさんが来てくれるなら、クラマ達の話も聞けるし、ボクも嬉しく思う。本当シルには感謝しかない。
調味料は一般家庭並みには揃えているとの事なので、ここでもキルトさんと料理の勉強ができそうだ。
お昼は中途半端にとってしまったフレンチトーストで済ませるつもりだった。
ルークの分をキルトさんの家で作らせてもらう…が、キルトさんももっと食べたいと体で訴えてきたので、2人分用意することにした。
ルークは食に興味を持たないなんて言いながらも、作ると結構食べてくれるんだよね。
食そのものに興味がなくても、ボクの作る食事の味に、興味を示してくれていると言う事なのかな、それは何か嬉しい。
衣類はシルのお下がりではなく、キルトさんが共同で使ってと言ってくれた。なんというか、着こなせるか、ちょっとドキドキする…。
寝るところはルークと同じく、ソファーで構わないと言ったのだけれど、「うちベッドだけは大きいから一緒に寝よう」と2度キルトさんの方から笑顔で却下された。
キルトさんの寝相によってはソファーも頭に入れさせてもらおうかな…
キルトさんの家で他の人の家と違う所は、本人自慢のベッドの下には地下があって果実酒貯蔵庫になっているんだ。
決戦の時が来たら、ここにキルトさんを非難させようと、ルークと話を合わせている。
ボクはお宅訪問状態で、ルークを通訳に「アレは何?コレは何?」と聞いて行くと、『身体の中から指先まで見られているみたいで、恥ずかしい』なんて言っているんだよ、可愛いよねー。裸の付き合いをした仲なのに…ね。
キルトさんは普段から何をやっている人なのか、聞いてみると、昼間は薬草集めをして、時間のある時は刺繍などをしているらしい。
薬草の知識もあって、手先も器用とか、羨ましすぎる…。
シルとの繋がりはかなり昔からで、薬草の納品や、持ち運び用の魔法陣の刺繍などの委託も受けているとの事。
お得意様であり、お互いをよく知る者同士として、ひょっとしたらシルにとっても、個人的な思いの強い相手なのだと思う。
結構天然なところもあるけれど、そこもあわせて可愛いよね。
和穂をコロコロよく笑う様にして、天然度合を上げるとキルトさんになるのかも…?
新しいボク等の生活は、始まったばかり、皆んなとあとで楽しい話ができる様に、ボクも頑張ろうと思う。
こうして、ボク達は短い期間でも慣れ親しんだ、同郷の仲間といったん離れ離れになり、新たなこちらの世界の仲間との共同生活が始まった。
お帰りなさいませ、お疲れ様でした。
いよいよ、それぞれメンバーがバラバラになり、新たな絆を深めていきます。
場面によって視点の切り替えができるといいのですが、暖かく見守ってください。
ブックマーク、誤字報告ありがとうございます。これからも頑張ります。
それでは次の物語にお会いできたら嬉しいです。




