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第32話 ボクの夜更かしと悪戯狐。

 夜がふける前にルークにボクの考えた新しい武器を試してもらった。

 特に問題もなく、熱した油も冷めた油も、水球同様に変形させたり分裂させたり自由に操れる事が分かった。


 パーレンさんのスープもお試しとして操る事できるか試してみたが、液体の中に固形物が入ると形の維持が難しいようで、浮かせる事が精一杯の様だった(使用したあとは激辛にして美味しくいただきました)。



 そして、そんな激辛オイルだが、驚く事にたった一滴の原液で、タラコを通り過ぎて、アヒルのクチバシのように、唇を腫らしたヤックさんは、癖になりそうと言い、小瓶に入れて持って帰るらしい。

 それはそれで、使い道になって良かったと思う。ヤックさん本当に強いなー…。




 眠気や疲れの出てきた者は、部屋に残っているベッドや、リビングを使って自由に休んでいる。


 近くに住む精霊は家に帰って行く。

ロディはケイルさんと、別のかまどの前で酔い潰れていた。


 ボク達はこの夜が明けたら一度バラバラの生活になる。


 どれくらいの期間離れて生活するのか分からないが、ボクは始まる前から心細さを感じる。

 そんな気持ちをまぎらわすため、眠る時間ももったいなく思い、カマドの前の敷き布に、皆んな揃って起きていた。

 昼間の狩で疲れていたと思うのに、ボクに付き添ってくれ、ただただ身を寄せていた。


 あちこちのカマドから時折り、焚き火の弾ける「パチンッ」という音が聞こえる。



 カクッとなり目を覚ます。

 狐鈴と和穂に挟まれすっかり安心して眠っていた。気がつくと2人ともボクに体を預け眠っている。

狐鈴の膝の上で丸くなっていたクラマが声を小さくして、「アキラ殿、少しお休みになられたらいかがですか?」と心配してくれる。


「クラマ、ありがとう、ふふ、そだね今日はこのまま眠っちゃおうかな?」とボクも声を抑えながら話すと「ごゆるりと…」とクラマはまた丸くなる。



 ボクが目を覚ました時には、カマドの火が消えかかっている状態だった。


 辺りも灯りを使わずとも見渡せるくらい明るくなり始めていた。


 流石に座ったまま眠っていたので身体がバキバキだ。ボクの太ももに和穂が頭をのせ眠っている。

 あれ…?右側で休んでいた狐鈴の姿がクラマと共になくなっている。クラマも一緒なのかな?ならトイレではないか…


 サラサラの和穂の髪を手ぐしでそっと撫でると、気持ち良いのか、表情を緩ませる。


「ねぇ和穂、トイレ行ってくる…」


「んぅぅ〜…」

 伸びをひとつし、和穂がむくりと身体を起こす。

目をコシコシし、ポーッと効果音が聞こえそうな様子で座っている。


「ちょっと行ってくるね」

カマドに薪を足して立ち上がると和穂がボクのローブの袖を摘む。

 和穂はまだ目を閉じている…。

頭にも血が巡っていないようだ…。


「狐鈴達もどこか行っているみたいなんだ、また後でね」

和穂の頭をキュッとして、その場を離れる。

 

 野営組みは、ほとんどカマドで暖をとりながら眠りについているので、消えそうなカマドには薪をくべながら母屋へ向かう。

ロディ達のところには空の果実酒の樽があった…誰が?いつの間に…?


 母屋のデッキに上がると母屋も静けさに包まれていた。

薄暗いキッチンの作業台には、空のカップと皿が積み上げられて、ソファーや床に所狭しと身を寄せ合いながらみんな眠っている。


 あぁ、トイレトイレ…。



 トイレから出てデッキに出ると外で動く人影が見える。

 狐鈴が帰ってきてウロウロ何かやっていた。

ハシゴを降りるとちょうど1番近くのカマドに狐鈴がやってきていた。


「おはよ、何やってるの?」

 ボクの声かけに、一瞬ビクッとさせ、笑顔を見せる狐鈴。


「うむ、皆んなに振る舞ってやろうと思ってな」

 どうやら狐鈴は陽も出ないうちから、魚を獲りに行っていたようだ。

 ボクはカマドに並べられている魚にウエストポーチから塩の小瓶を出し、振りかけてまわる。


「皆んな焦げないうちに目を覚ますと良いね」

 狐鈴に声をかけると、そこまで考えていなかったようで…「あ…」と言っていた。


 魚をひっくり返してまわる頃には、魚の焼ける匂いで目を覚ます人達もいて、狐鈴の努力は無駄にならずに皆んなのお腹を満たしてくれた。


 流石に朝も早いので、そこから二度寝する者もいた。


「ボク達はどうしようか、お風呂行くにも、まだ洗濯物は増えそうだし…」

などと話をしてたら、隣で和穂がボクに化けてくるりっとターンし、座る。

「なんじゃ、面白そうじゃの〜」

狐鈴もボクに化けて隣に座る。


 ミルフィさんがリンネちゃんとアコさんを連れて、朝ごはんを食べに降りてくる。


「「「!?」」」

 3人もボクが座っているものだから、ビックリしている。

 リンネちゃんは迷う事なくボクに駆けつけてきて腰に抱きつく。


「何じゃ、リンネにはわかるのかや…」

狐鈴は肩を落とす。


ミルフィさんもアコさんもポカンとしていた。


 気がつけば元々外にいた人も、朝食に起きてきた人も、ボク達のカマド周辺に皆集まっていた。



「あはは…おはようござい、ます…」



 後から起きてきた人のために魚を焼く。

2人とも変身も解かず、そのまま魚を焼いていたので、ボクは何だか落ち着かない。


「人がいっぱいいるうちに、洗濯物とか済ませちゃった方が良さそう…じゃと」


 ミルフィさんが魚の骨を避けてほぐした身をリンネちゃんの口元へ運びながら狐鈴に伝えていた。

リンネちゃんはボクの膝の上に座っている。


 カマドの煙に燻されてすっかり、ボクの髪の毛も煙の臭いになっていた。


「じゃあ、魚は他の人に任せてお風呂行ってこようか…」




 そんな話をしていると、『おはよっ』と挨拶をしながら、

チャコとレウルさんがこちらに来る。


 2人は昨夜お腹が膨れた後、帰宅していた。


 こちらに到着するなり、

『うわ!?どうなってるの??』

 狐鈴と、和穂の化けたボクの姿を見てビックリしていた。

 狐鈴は元の姿にもどり、チャコは胸を撫で下ろす。


 『和穂?』とチャコに指差されたのはボクだった…「本人だよ」言葉は通じていないがジト目を送ったら『ははは』と頭をポリポリかいていた。


『おや?』

 チャコもレウルさんもしっとりしてる。

ひと足先にお風呂に入ってきたようだ。


『ズルイ』

ボクがほっぺたを膨らませていると、『代わるよ、行っておいで』笑いながら言い、バケツの魚を焼き始めた。

お言葉に甘えて、魚焼きはチャコにまかせる。



 洗濯物を取りに母屋に行く途中で、リンネちゃんが、『私も』とミルフィに伝える。

 ミルフィは『はい、はい』と停められているリアカーからゴソゴソっと麻袋を取り出しリンネちゃんに渡している。

 

 ボク等も母屋へのハシゴを登る。

デッキではメイルさんとシルがお茶を飲みながら話をしていた。


「おはよう」

 ボクが挨拶をすると、こちらを振り返ったメイルがビックリする。

『えぇ?!』

 あー、狐鈴が変身を解いていたのですっかり忘れてた。


「和穂…」

ボクは和穂のおでこをコツンとする。ようやく変身を解く。


「シル、お風呂行ってくる。洗濯物は入っている分で全部かな?」

「後からまた出ると思うけど、今入っている分だけでいいよ、あたしも後でお風呂入りに行くからその時洗うよ、今日は露天のデッキに干しておくれ。

…あぁ、とりあえず着替え用意してやらないとだね」


シルは母屋に入って行く。

和穂はシルの後をついて母屋に入り、洗濯カゴを取りに行く。


 2人の入って行った姿を目で追いかけていると。


『アキラさん、御免なさい!』

 メイルから思い詰めた顔で謝罪を受ける。突然の事でボクは何のことか分からず、オロオロする。


 昨日の事を思い出し、眼鏡を外すと、メイルさんの隣にオンダさんがしゃがみこんでいてこちらに手をあげ挨拶してくる。


「やぁ、おはよう、どうやらメイルは、あんたの能力がウソだ、と罵ってしまった事に反省しているようだよ」


 ボクは息をひとつつき、『大丈夫』と伝え、メイルさんの両肩をポンポン叩き笑いかける。


 和穂が洗濯物の山積みになったカゴを持ってよろよろ出てくる。

ボクはカゴを受け取り、滑車に引っ掛け降ろす。


 シルが出てきて、ボクに着替えを渡してくれる。受け取った荷物をボクは袈裟懸けにする。

「キルトも一緒に行きたいって、用意しているからちょっと待ってあげて」

と、ひと声付け加える。


今日は大所帯でのお風呂になりそうだ。


 和穂が山積みの2つ目のカゴを持ってくる。滑車を引き上げ再度引っ掛け降ろす。


「あ、オンダさん、今日から狐鈴と和穂が家にお邪魔するので、家の使い方とかあとで教えてあげて下さい」

 ボクが伝えると、オンダさんは立ち上がり和穂に深々と頭を下げ「よろしく頼む」と伝える。


『ごめんねーお待たせっ…うわっ!!』

キルトさんはこちらにかけ出すと、ビタンッと大きな音を立ててひっくり返った。


『いたたた…』

 玄関から荷物を小脇に、顔を抑えてキルトさんが出て、『おはよっ』涙目で挨拶してくる。


『よろしく』

ボクが右手を差し出し声をかけると『こちらこそ』とボクの手をしっかりと握る。


 下で待ってくれている、ソッポイさん親子と狐鈴と合流する。先頭をソッポイさん親子が歩き、狐鈴とキルトさん、ボクと和穂で籠を持って風呂小屋に向かう。


「狐鈴、そう言えばクラマって、ボクが起きた時からいなかったんだけど、どこ行ったか知らない?」

「ほむ、ワチが起きた時にはもういなかったのぉ」


 ひょっとしたらボクが眠ってすぐに出かけて行ったのかな?

何をしてても、無理していなければ良いけど…。


 狐鈴がキルトさんと何かを話している。キルトさんはチラリとボクを見て微笑む、そして何故かボクの隣の和穂が尻尾を振りながら頷いている。


「アキラ良かったの、キルトはソナタの作る食事を楽しみにしているようだ」

狐鈴はニパッと笑う。あぁ、だから和穂は喜んだのか…。


「あれ?すると和穂達の食事はどっちが作るの?」

 ボクはちょっとした疑問をたずねる。

狐鈴も和穂もピタリと足を止める。キルトさんも不思議そうに、狐鈴を見る。

2人とも表情が固まったまま。


 あ…そういえば、狐鈴って初めて会った時、雑草食べていたっけ…え?大丈夫??

ボクが心配になってきた…。



 露天風呂はチャコが温めてくれていたから、特に操作をする必要はなかった。


 洗い場の数に限りがあるのでソッポイさん親子とキルトさんにゆずり、時間差で入る事にした。


 茶色髪のおかっぱのリンネちゃんは裸のまま脱衣室を走りまわり、ミルフィさんの脱ぐのを待つ。ボクはリンネちゃんを捕まえ、頭をわしゃわしゃ、撫で回す。「きゃー」とケラケラ笑う。子供って可愛いな。


 ミルフィさんの髪の毛は、雪の様に真っ白で、シルと同じくらいの長さ(お尻を隠すくらいの長さ)で和穂のようにクセのないストレートだった。手入れが大変そうだ…。

 肌は色白だが、狐鈴達の方が白いかな、色々細身なので、儚げな感じがする。


 キルトは栗色の巻き毛で長さはボクより少し短いくらい、湿気の多い日は大変だろう…(昔天パの友達が言っていたな)、整った体形だ。


「あれ?膝のとこ擦りむいている?」

ボクの呟きに狐鈴が代わりに確認する。

『おー、痛そうじゃの』

『あはは、さっき転んだときのね』

キルトは苦笑いする。



『それじゃお先にね…』

3人は浴室の方に入って行った。



 狐鈴はイスに腰を降ろし…頭の後ろで手を組み和穂に向かって話し始める。

「あぁ…和穂まいったの、食事の事は考えてなかったの」

和穂もイスに腰かけ肩を落とす…。


 精霊は食事に興味が無ければ食べなくても大丈夫なんて、ルークは言っていたけれど、この2人はどうなのか?

 まさか、あの村が廃村になってからずっと葉っぱを食べていたとか?

怖くて聞けない…。


「それぞれの家の位置関係が分からないからな…近ければ食事で行き来はできると思うんだけどね…」


 昨日オルソさん達は、この小屋の先から来ていたので、森の中に住んでいることは確かだけど、オンダさん達の家とキルトさんの家の位置がわからない。


 シルの家が近ければ食事の時に寄るのも手だと思うけどな…こればかりは、集まった誰かの家が近い事を祈るしかないか…。


「ねぇ狐鈴、メイルさんを護りながら撃退すれば、一緒にいて食事とかもできるし、問題なくない?」

「んー…オンダを殺めて攫おうなんて輩だからのぉ、危険な可能性は除いておきたいのじゃよ…やっぱりシルと相談になるのかの」


「そもそも、狐鈴と和穂って物理的なダメージって受けるものなの?」


「ほむ、それは良い質問じゃ。

普通の人間が霊体と干渉できないのと同じなのではないか?ということじゃろ?

 もちろんこちらが干渉しなければダメージを受けることはないが、こちらが干渉すればダメージも受けるのじゃ、都合よくスイッチの切り替えなぞできんよ。


 あとはアキラが数珠を使って霊体に干渉するみたいに、ワチ等に干渉できる道具が存在するのであれば、やはりダメージを受けるじゃろうよ」


 クラマとの戦いを見たら、人間との戦いでそうそう傷を付ける人はいないと思うが、油断した考えは怖いな。


 そんな話をしていると、キルトさんがドアを開け『洗い場あいたよー』とゆったりとした声をかけてくれた。


 ボク達が中に入った時、キルトさんとリンネちゃんは露天風呂に行っている様で、ミルフィさんだけが身体を洗っていた。


 

 頭を洗い終えたボクは、頭の泡を落とせていない、狐鈴の尻尾にそっと手を伸ばす。


「ひゃんっ!」

狐鈴はビクッと身体を硬直させる。

「思っていた以上に女の子な反応だったのでビックリした…」

ボクが呟くと、狐鈴は泡が目に入らない様にキュッとつむりながら顔を紅潮させる。


「アキラは酷いのじゃ…無抵抗なワチをそうやってはずかしめるのじゃな…」


「いや、誤解を招く発言はおやめ」


狐鈴はザパーッとお湯を被り頭の泡を落とす。

「なんじゃ、そなたはワチの尻尾を触りかったのじゃな♪」


むぅ、何だか負けた気分…。

ササッと狐鈴の尻尾をアワアワにし、自分の身体を洗うために身体の向きを変える。


すると、おねだりをするような視線を、こちらに向ける和穂がいる。

「和穂も洗うよ…もちろんね…」

最近、和穂は言葉に出さずにボクに訴えかけている事が多い。


でも、尻尾を洗ってあげると、ご機嫌になるんだよね。丁寧にアワアワにしてあげる。



「ぅくちゅんっ!」

うー…頭を洗ってすぐ2人の尻尾洗っていたから身体がすっかり冷えてしまった。


 早々に身体を洗って温まるか…とため息をひとつつき、桶にお湯をはると、手をアワアワにした和穂がこちらににじり寄ってくる。


「え!?だ、大丈夫だよ和穂、自分でできるから…ホントに…」


 すると、後ろからガバッと狐鈴に羽交締めにされる。


「そうじゃな、ワチ等もお礼してやらんとのぉ」


 うゎ、狐鈴の意地悪な声が聞こえる…もう、なんと言うか、声だけでどんな表情をしているのか分かる…。


「ああぁぁぁーー…」




 みんなで露天風呂で温まる…。

はぅ、何だかボクは大事なモノが奪われた気持ち…

ぐったりするボクと、やり遂げツヤツヤの狐鈴と和穂…


 そして、なぜか鼻血を出していたミルフィさん。『大丈夫?』と声をかけると『気になさらないで下さい』と顔を赤らめて言われる。湯当たりしたのかな…。


 折角、キルトさんと親睦を深めるチャンスだと思ったのに…お風呂から出るまでは復活できそうにない。

お帰りなさいませ。お疲れ様でした。

今回も予定より長めになってしまいました。

読み辛かったら申し訳ないです。


ブックマーク、誤字報告、評価ありがとうございます。

それでは、また次回お会いしましょう♪

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