第29話 ボクと大ハプニング。
「ん〜、お腹空いた〜」
ボクが伸びをしながら呟き、シルが笑いながらボクの隣を歩く。
鉄板の熱気ですっかり目が渇いてしまう状態に陥ったので、眼鏡をかける。
何かおいしそうなのないかなー…
先ほどお風呂に向かう時に気になった、ソッポイさん家族の鍋を思い出し、シルに伝える。
「良いね、ミルフィの作る料理は本人のやる気さえあれば、宿場町できっと店も開ける程の美味さなんだ」
シルも楽しみにしていた様で、軽い足取りでソッポイさん家族のもとに向かう。
テーブルに到着すると愛娘のリンネちゃんがこちらに笑いかけてくれる。ボクは頭を軽くわしゃわしゃと撫でる。キャッキャっと声を上げて笑う。
「そう言えば…」
ふと、ボクは疑問に思ったことがあったのでシルに問いかける。
「ん?どうした?」
「このローブ、魔力を無効化させるって言ってたじゃない?」
ローブの袖を摘んで見せる。
「うん?アキラの能力が魔法じゃない事を証明するために着せたものだけど?それがなにか??」
「それはシルだけが納得するために?それとも、一般的にこのローブ類はそういう力があるって、認識されているものなの?」
ボクが気になったのはこの事だ。
「後者だね、魔法をかじっている者はもちろん、普通のローブじゃないから、ここの皆認識しているローブのハズだよ」
あ…納得…。
「えと…そうか、そう言う事だったのか…」
「なになに?」
ボクが1人で納得している事に疑問を感じているシル。
「いやぁ、最初みんなの前に出たときに起きたザワつきなんだけどさ、狐鈴や、和穂の普段見慣れない格好に対してだと思っていたんだけど…、それももちろんあると思うけど、ボクの格好も原因だったんだな…」
「魔力が暴走する様な人が着るローブ、いわゆる拘束衣を着た人間、しかも異世界人が、目の前にいるって…普通じゃないよね」
ボクはシルにジト目を送り、引きつった笑顔を見せる。
「あ…う、うん、そうか、そういう捉え方もあるよね…」
シルの様に知った人間なら気にならないかもしれないけど、初見がそれだと、軽い恐怖に陥る可能性もあるよね。
つまり、こういう事だ。
こう抑えておけば危険じゃないよ、他所からきた子だけどみんなよろしくねー…と。
余興だって、思う人からしたら、品定めしている様な光景にも見えるんじゃない?
精霊の立場でも、消えても無駄よ的な…。
うっわ、コワッ!!
「いやー、ごめんねー悪気は無いんだよー」
シルが苦笑いする。
「ボクも考えすぎだったらゴメン…」
「得体の知れないボクを、迎え入れてくれたここの皆んなに感謝しか言えない。皆んな心が広いな…」
涙が出てくるよ。
『はい、どうぞ』
ミルフィさんはチーズの濃厚な香りのするシチューの様なスープを器に、オルソさんは表面をカリカリに焼いたパンをひとつその器に立てかけてくれる。
チーズフォンデュの様でそんなにしつこく無く、シチューよりは濃厚で、すごく美味しい。
あぁ、具沢山のカルボナーラの様なスープなのか…。
この世界にパスタがあれば…残念。
『美味しいです』と伝えると、ニッコリと夫婦揃って微笑んで返してくれる。
ちっちゃい子と戯れて、美味しいご飯を食べながら、幸せな家族に囲まれる。
本当幸せだなー…と目を細めていると、シルがボクの肩をポンポンとする。
「アキラ、食べてからで良いけど、メイルのところ行きたいんだが、同席してもらえないかい?」
シルは声量を抑え、真剣な表情で声をかけて来たので、ボクはコクコクと頷き了承する。
ボクが食べている間、シルはソッポイさん夫婦と談話を楽しんでいたが、少し元気がなく感じた。
いや、本当に食べるの遅くてごめんね。
美味しく食べ終え、ソッポイさん達に手を振り、席を離れる。
シルに付き添いメイルさんのもとに行くと、本人の表情はやや暗く、果実酒を片手にこちらに気がつく。
『大丈夫?』と、シルがメイルさんに声をかける。メイルさんは小さく頷く。
あれ?オンダさんの姿が見えない?
どこかに行っているのだろうか?
ボクがキョロキョロやっているとシルがこちらに気がつく。
「アキラどうかした?」
不思議そうにボクに声をかける。
「いや、ちょっとまってね…」
あれ?さっきまであんなはっきりと見えていたオンダさんが見えなくなっている。
心の中でオンダさんを呼ぶ『オンダさ〜ん』
「アキラ、本当に大丈夫か?」
シルの表情が心配そうになる。
えと…今までこんな突然姿を消す事ないんだけどな…
嫌な汗が背中を伝う…。
おかしいな…眼鏡を外してみると、ボクの真正面に心配そうな表情で、ボクを覗き込むオンダさんの顔があった。
「うわっと!?」
思わず後方にひっくり返る。普通にびっくりしたわ。
「本当に何やってるんだ?」
『お、オンダさ〜ん…』
『お父さんがどうかしたの?』
眉間にシワを寄せ、メイルさんがこちらに言う。
「えーと、待ってね、今の状況がうまく整理できていない…」
眼鏡をかけるとオンダさんの姿が消えた。
外すと目の前にいる。
「???」
眼鏡を少し顔より離した位置で持ってオンダさんの方に向ける。
眼鏡の外側にはオンダさんがはっきりと写っているけれど眼鏡の向こう側のオンダさんは消えてしまっている。
「何だこれ?」
眼鏡をかけたり外したり繰り返す。
この事は後で伝えよう。いったん眼鏡をしまう。
『オンダさんはココにいます』
気を取り直してボクはメイルさんに伝える。メイルさんはボクの指差す位置をジッと見つめる。
その後ボクを睨みつける。
『私には信じられないっ!お父さんの事を話のタネなんかにしないでよ!!冗談で言っているなら許さないからっ!!』
そして怒鳴りつけてきた。
『メイル、アキラは今日初めてメイルに会ったんだよ、そしてオンダにも…』
シルはメイルさんを落ち着かせる。
声を張り上げていた為、皆の視線がこちらに集まったが、シルがなだめている姿を見て、何も無かったように、気にしない様にしてくれた。
メイルさんはボクに対して何か怒鳴り、シルがそれをなだめている。言葉が分からなくても何となく何に対して怒鳴っているのかわかった。
ボクがきっと故人の名前を出してしまったことで起きてしまった騒ぎだ。
あれ、そう言えば…この世界の霊体に会ったのは今回初めての気がする。
オンダさんの言葉を代弁してあげたいけれど言葉は精霊みたいに変換されて頭に入ってくるのだろうか…。
「オンダさん、ボクの言葉分かりますか?」
突然声をかけられてビックリしている様子、
「あんたはワシが見えていたね」
「それが今、思わぬ形で騒ぎになってしまったわけですけれど…」
言葉は通じるから代弁は叶いそうだ。
でも…。
オンダさんはため息をひとつつきボクに話しかけてくる。
「メイルっ!聞き分けがない事ばかり言っているなら、センニョルの国へ連れていっちゃうから!!」
ボクが声を張り上げると、メイルさんはビクッとする。
シルがボクの言った言葉をメイルさんに伝えると、一瞬かたまりボロボロと大粒の涙を流し、その場に崩れてしまう。
えと…センニョルって……何??
オンダさんがボクに言った言葉。
多分昔から聞き分けのない事を言っていた時に聞かせていたキーワードなのだろう。
「娘さん、すまなかったね、楽しい夕食の時間だけど、もう少しだけワシの昔話に付き合ってもらえないかな?」
申し訳なさそうにボクを見つめる、オンダさん…。
「良いですよ」
ボクが返事をするタイミングで「ぐうぅ〜…」とお腹が鳴る。
うぁ、最悪だ…ボクのお腹よ、少しは我慢しておくれよ…顔を赤らめ、お腹を抑えるボクに笑いかけるオンダさん。
シルが焼けたお肉と野菜のたっぷり乗った皿をこちらに渡す。
「あたしにゃ見えないけど、オンダと話をしているんだろ?
あたしにも、これくらいなら力になれるよ」
シルが笑いかけながらこちらに言う。
「う〜でも…」
オンダさんは微笑みながら頷く。
「えっと…その…見られながら食べるのは恥ずかしいので、少しメイルさんの側にいてあげてください…」
この言葉を聞いて、オンダさんとシルが思わず吹き出す。
シルを通して、改めてオンダさんがメイルさんの右隣りにいる事を伝えてもらう。
離れた席にいた和穂が、ボクとオンダさんが接触した事による騒ぎに気がつき、こちらへとやってくる。
折角皆んなが獲ってきてくれたお肉、美味しく食べなきゃ…
でも、なんと言うか…人を待たせて食べている食事って味がしないよ…ねぇ?
腹ごしらえしたら、いくらでも付き合うから今だけ…オンダさんごめんねー…。
隣の席に和穂が腰掛ける。
「和穂もお腹いっぱい食べた?」
和穂に声かけると、その手元には山盛りの焼きうどんが置かれる。
何その量!!チャレンジメニュー!?
和穂って背筋伸ばして本当にキレイに食事を食べるんだよね…。
同じ女性として見習わないと…。
いや、量じゃなくて姿勢の話だよ。
ジッと見ていたら和穂はこちらに気がつき、頭上に汗を飛ばしながら頬を染める。
「ちょっとちょうだいっ」
ボクが言うとお皿をこちらに寄せてくれる。
少し分けてもらい、口に運ぶ。
「パーレンさんもキルトさんもやるねっ!」
和穂もコクコク頷く。
お腹も膨らみオンダさんに声をかける。
オンダさんは周りに声が聞こえる訳でもないのに人気の少ない場所を希望する。
お帰りなさいませ、お疲れ様でした。
夕食会の参加で触れたキャラクターを今後、物語のキーにしたいと企んで現在脳みそコネコネ中です。
オンダさんの抱えている昔話とはいったい…
それでは、次回の物語でお会い致しましょう♪




