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第28話 ボクの能力と焼きうどん。

こんにちわ。

今回の話を晩餐会の開始に当てようと思っていましたら、その前の準備の話が思ったより長くなってしまいました。

少々文字数が多くなってしまっているので、お茶など休憩を入れながら楽しんでいただければと思います。

それでは、行ってらっしゃい♪


 普通の晩御飯の予定からパーティーへの変更になって準備も少し慌ただしくなる。

 と、いっても、お肉が無くても何とかなるくらいの下準備はできていたので、新たに加わった食材の加工程度なのだけれど…。


 森の入り口はそこそこ開けているが、みんな立食になるのかな??些細な疑問が思い浮かぶ。


 鳥の解体を終えたシルがこちらに来てボクに声をかける。

「何だか、今夜は楽しい事になりそうじゃないか、アキラ達の歓迎会だな。

近場の人族や精霊も集まれば、嫌でも交流が広げられるだろうよ」

笑ってボクの肩をぱんぱんと叩く。


「そういえば、たくさん集まるって、コンロも座るとこも足りなさそうだけど…どうなるんだろ?」


 シルはうんうんと頷いて口を開く。

「それは大丈夫、あたしが晩御飯で召集かけるのは、これまで何度もやっているんだよ。

イスや食器は勿論、酒やこれから食べようと作った晩御飯なんかも、皆んな勝手に持ち寄るんだ。今日は色々食べられるから楽しみにしてなね。

 それから、コンロだってなくても、勝手にカマド作り始めるよ。

 街や貴族様の食事会なんてどうか知ったこっちゃないけど、あたしやここらの皆んなは、ワイワイ食べることを楽しみにしてるのが多いんだー」


 そうか、皆祭り好きなんだね。

皆で囲んで外で食べるご飯ほど、美味しいものはない。ボクは勝手にそう思っている。

 ふと、オカ研で食べた豚汁や陸の作った塩釜料理を思い出してしまう。


 シルも含めて皆、ずいぶんと昔から、何かいっぱい食べ物が手に入ったりすると、おすそ分けの様に声をかけあって、ワイワイしているのかもしれない。


「そうそう、集まりや、解体とか温め直しとか、何だかんだで、始まるまで時間もかかるだろうし、狐鈴達が帰って来たらお風呂にでも入っておいで、今日の主役にはとっておきの衣装を用意してあげなきゃね」

「そんなに意気込まなくても…」


 歓迎会って、すごいプレッシャーだな。でも自分から探しに行かずとも、精霊や人が集まるならボクとしてもありがたい。


 狐鈴たちが戻ってくるまで、引き続きエビやキノコ、追加の野菜の下処理をする。



 森の小道の方から1mはありそうなムックリとした黄緑色の生き物が、すごい速度、しかも2足歩行でこちらに駆けてくる。

 ボクは認識できる距離まで近付いてくると、その姿に驚いた。だってこんな俊敏な『ナマケモノ』見たことがない。

 息ひとつ切らしていないそのナマケモノはシルに『ケイル』と呼ばれていた。

 背中に括っていた、身の丈ほどある刃物を取り出して、あっという間にイノシシを解体する。


 すると呆気に取られていたコチラに気がつきニッコリ笑う。

「あなたが…アキラさん…ですね。わたし…はケイル…よろ…しくね…」

 うゎ、俊敏な動きに対して喋り方はゆっくりだった…何かギャップに驚かされる。


「よ、よろしくお願いします。アキラです。スゴイ刃捌きですね」


「わたし…は…もと解体屋…だから…ね」


 何でも、かつては冒険者ギルドに所属していて、冒険者達の持ち込みのモンスターや動物の解体を生業にしていた精霊だそうだ。


 狐鈴達も草原の方から戻ってくる。結構な大きさのヌギルだった。


 シルは戻って来た皆を確認して、労いにこちらへとやってくる。


「おかえりなさい。そしてお疲れ様。

それじゃあこっちはあたしらに任せて、お風呂に入ってきなね。

 主役は綺麗じゃないといけないからね、アキラはこの着替えだよ。

 チャコあんたも行っておいでー!」

シルはニパッと笑い、ボクに風呂敷包みを渡し、お風呂に促す。


「あ、あと面は着けずに帰っておいでよ、皆ビックリしちゃうからね」

と、付け加える。確かに…。



 もう風呂小屋までの足取りも体に染み付いて来た気がする。

 橋を前にした辺りで、今朝パンを売りに来ていたウサ耳のお兄さんが、こちらにリアカーを引き、手を振ってくる。


『今朝ははじめましてだったね、皆さん普段見かけない姿なので、すぐ分かりましたよ。

今日はお招きありがとうございます。

妻と娘と一緒に楽しい時間を過ごしたく思います』


 お兄さんの言葉は狐鈴が訳してくれた。

リアカーの上には、先ほどシルが言っていた通り、折りたたみのテーブルや椅子、パンやチーズ、美味しそうな湯気を立てた大きな鍋などが所狭しと乗せられている。


 リアカーのすぐ後ろには、お兄さんと同じウサ耳をした、ロングヘアのボクと同じくらいの背丈の女性が、民族衣装のようなワンピース姿で、腰ほどの背丈の子供の手を引き、コチラに微笑みかける。

 子供は恥ずかしいがり屋さんみたいで、女性のスカートの陰から、顔をチラチラ出している。


 流石に陽も落ち始めていたので、それぞれの髪や目の色までは分からないけれど、とても微笑ましい光景だった。


『それでは後ほど〜…』

お兄さんはリアカーを引き、その後に女性も続く。


すれ違いに子供がこちらを見たので。

『よろしく』

とボクは覚えたての言葉を口にして手を振る。子供は微笑み、手を振り返してくれた。



 今日は流石に長湯はできないので、内風呂だけで済ます事にする。

『今日の規模がどのくらいか分からないけど、人のいっぱい集まる時は翌日まで続く事もあるんだよ』

 狐鈴を通して、チャコが普段の夕食会の様子を教えてくれる。そんな話を聞くと期待が高まる。ケイルさんにしても、パン屋さんにしても足取りが早く思えたので、好きなんだろうなーとつい笑ってしまう。


「アキラ、お湯出しが随分上手くなったのぉ」

 狐鈴はボクの手元にある桶に目を向けて話す。

言われてみると、確かに自然の動作で出していたし、温度も悪くない。

 先ほどのコンロの使用も自分の力で、何となくやれていた事に気がついた。


「あれ?本当だね、意識してなかったや」

やっぱり意気込んだり、力が入りすぎて失敗していたんだな…。


 お湯出しのコツをつかめたからか、スムーズな流れで頭を洗い、身体を洗う事ができるようになった。


「アキラは和穂の尻尾が好きだの」

チャコと身体の洗いっこしながらこちらに声を掛けてくる。

ボクは無意識に和穂の尻尾をアワアワにしていた。和穂も別に嫌がる事なくこちらに委ねている。

「そうだね、何だか落ち着くんだよ〜」

「何なら、ワチのも触っても良いぞ」

尻尾をフリフリさせながら言う。

「ん〜…和穂ので充分かな、ありがとうね」

しゅんとした表情で耳も垂れ、振っていた尻尾が元気なく止まる。

「何か和穂に負けた気がするのじゃ…」

チャコが代わりに尻尾をアワアワにしている。

なんだか、狐鈴から癒されるのはチャコとの絡みを目にしている時の方が強く感じるんだよね。

 2人の見た目が少女だから、微笑ましく感じるのかは分からないのだけれど。



 湯船に浸かりながらチャコが挨拶のアドバイスをしてくれる。 


『これから、よろしくお願いします』

うん、うんと頷く。

多くの言葉はいらないだろうと言ってくれた。もっとも、今日1日で多くの言葉まで辿り着けてはいないから仕方ないけど。



「どんな者たちが集まるのか楽しみじゃの♪」

浴槽を泳ぎながら呟く狐鈴。

「確かにね、でも初めて与える印象って今後を左右するから、失敗したら怖いな」

 本当にそう思う。シルの事だからボクが何か失敗してもフォローはしてくれると思うけど、そこは最悪の時にとっておきたい。

ボクはできる事をとりあえずやるだけだ。

「よし、行こうか」

ボク達は湯船を後にする。



さて、シルの用意してくれた着替えを広げる。


「ん?これは…?」

 思っていたより普通だった。

グレーのテントラインのワンピースは襟から胸元にかけて細かい金の刺繍が施されている。

そして、ネイビーブルーの前開きのローブは袖口に銀の刺繍が施されている。


「何か分からぬのだが、不思議な感じはするのぅ」

狐鈴の感想から、普通のものでは無い様な気がする。


狐鈴も和穂も巫女服で、いつも通りの格好だった。


 森の入り口まで帰ってくるとあちこちに照明代わりの魔石が煌々としていた。

シルが、ボク達の戻りに気がつき『始めるよー』と会場に声をかける。


 ボクが狐鈴と和穂と共に森の入り口から姿を出すと周りからざわつきが起きた。

あとから、顔を出したチャコは「え…っ」と言葉を失う。

ボクはチャコの反応を不思議に思った。


『みんな、待たせたね。夕食会を始める前にアキラが全員と接する事ができる様に、自己紹介がてら余興をしたいと思う。

チャコの目に写っているこの会場の様子を教えておくれ?』

隣にいた狐鈴がこちらの言葉を喋るシルの言葉を訳してくれる。


『今までより人がいなくて閑散としている…こんなに精霊の少ない夕食会はなかったと思う』

ボクは思わず「えっ!?」とチャコを振り返る。


 狐鈴も不思議そうにその言葉をこちらに伝える。

こんなにも、人や精霊が集まっているのに?



 ニヤリとシルは悪戯小僧の笑みをこちらに向ける。

『今から、このアキラが肩を触れた人や精霊はアキラに名乗っておくれ。

アキラはそれを復唱しながら名前を覚える。そんな余興をしたいと思うんだ。

最後までアキラに気付かれなかった物には、詫びとして、何かあげようと思う』


狐鈴が訳したあと、ルークがボクの隣に来て声をかける。


「へへ、魔女からのご褒美に、皆本気で姿を消している様だけど…ネェさんにとっちゃ、何の意味もないと思うんだよね」


まずボクの目の前にいるパン屋のお兄さんの肩に触れ、聞いた名前を復唱する

『オルソ=ソッポイさん』

続いて奥さん

『ミルフィ=ソッポイさん』

娘さん

『リンネ=ソッポイさん』

娘さんの頭をフワリと撫でてその席を離れる。


オレンジ色のアルマジロのような精霊

『トルトンさん』

ピンクのペンギンのような精霊

『ビフカさん』

白猫耳の色っぽいお姉さん

『メイル= キャラトさん』

黒猫のような妖精

『トットさん』

筋肉質の人の良さそうな白猫耳のおやっさん

『オンダ= キャラトさん』


すると、メイルさんが驚いた顔をして立ち上がる。

シルも驚いた表情をしたのち、納得した顔をする。

周りもざわついている。

「アキラ、オンダって言ったんだね」

シルはボクに確認する様にたずねる。

『オンダさん』

メイルさんはポロポロ涙を流して俯いてる。シルは優しくメイルさんの右肩に触れる。

「オンダは先月亡くなったメイルの親父さんだ」

ボクはオンダさんがシルの反対側に立ってメイルさんの頭を撫でで穏やかな表情でいる様子を伝える。


次のグループに移る

大きなてんとう虫の精霊

「?」

シルはひと息ついてボクに言う。

「アキラ…それは虫だ」

「うわっ!」

即触れていた手を離す。手拭いで手を拭いていると周りから笑い声が聞こえる。

皆笑顔だった。


見知った顔

『ロディ』

白いワニのような精霊

『ヨーフィルさん』

鹿の角のようなものを生やした男の子

『リニョレ=ピロさん』

ツノは無いけれどお姉さん?

『アンリン=ピロさん』

大きな角を持ち髭を蓄えているそのお父さん?

『キロニフ=ピロさん』

奥さん?

『カフカ=ピロさん』



次のグループにも知った顔

黄緑色のナマケモノに似た精霊

『ケイルさん』

花の様に儚げで蝶の羽根を付けた小人の少女

『カシュアさん』

豹のような耳とこめかみに傷を付けた厳つい顔した大柄のお兄さん

『ヤック=ビットンさん』

同じく豹のような耳で、感じの良いおっかさん

『パーレン=ビットンさん』

ゴブリンハーフの女の子

『チルレ=ヤンマさん』

その双子のお姉さん?妹?

『フェイ=ヤンマさん』


最後のグループになるのかな?

大きなパグのような精霊

『ポルさん』

白い大きなリスの様な精霊

『ナユトさん』

茶色の垂れた犬耳のお姉さん

『キルト=カヌイさん』

魔女の姿で栗色のセミロングの少女

『アコ=レンリュさん』

アコさんと同じような姿で白髪白髭のお爺さん

『ヘレント=ミルトリヌさん』

チャコの保護者

『レウルさん』



全部の席を回った事を確認して、後方にいるシルの方に向きを変え伝える。

「これで全員だと思う」


シルは頭を横に振り肩を落とす。

「残念だが足りていないな、自分たちはどうした??」

シルはボクの横まで来て、お尻をペチンとはたく。

「あ!?」

なるほどね、コクコクと頷いて皆にに向き直る。手首に乗せて皆に見せる白鴉。

『クラマ』

狐鈴の肩にクラマを預け反対の肩に手を置く。

『狐鈴』

後ろにいたチャコを前に出す。

『チャコ』

ボクの隣に飛んでいる水竜を手の平で案内する。

『ルーク』

ハラハラと見守っていたもう1人の巫女の腕に自分腕を絡み付ける。

『和穂』

和穂と逆側の手の平を自分の胸に当て、ひと呼吸。

『アキラ=山霧』

『これから、よろしくお願いします』

その場で大きくお辞儀する。


 皆から溢れんばかりの拍手が貰える。

名前をすぐに覚えられるかは難しいけれど、この様な余興を組んでくれた、シルには感謝だな。


 皆それぞれ別れてグループに混ざるが、言葉の分からない僕はシルと一緒にいる。

「実はね、アキラ。今日あんたが着ているローブは自分の魔力を無効化する、細工のあるローブなんだわ」

「えええっ!!」


 何故そんな物を着せられていたのか?

「いやぁ〜、アキラの能力を何かの魔法と思われたくなかったからねぇ〜、それに応えてくれて、とても嬉しく思うよ。

あたしも昔はそれを着ないと、魔力の制御ができなくてねぇ」

ボクの肩に手をポンポンと置き答える。


 もともと、魔力の無いボクが着せられても、残念ながらマイナスとマイナスを掛け合わせたところでプラスにはならなかったようだ…残念。


「それじゃ、あたし達も焼きうどん?作りに行こうかね」

 周りを見ると、先ほどシルの言っていた通りあちこちに、カマドが作られ皆各々で肉や野菜やキノコやエビ等を焼いている。

他にも持ち寄ったであろう食材を焼いたり、鍋を温めたりしている。


 ボクの用意されていた鉄板はひと際大きな作りのカマドにのせられていた。

「ねぇ、シル?」

「ん?どうかした?」

「何かあちこちから美味しそうな匂いがしているんだよ…ボクもお腹空いたな」


シルはニッコリ笑ってボクの両肩に手を乗せる。

「後だ後!誰も焼きうどんなんて作った事ないからなっ!落ち着くまでは離れちゃだ〜め」

「うぅ…殺生な…」


 そうしてボクは野菜や肉(イノシシ肉かな?)を炒めたところに、茹でておいたうどんを投入し、初日に見たタマリ醤油の様な味の青い液体で味を付けていく。

 これがまた芳ばしい匂いがして、ボクのお腹の妖精が大変な事になっていた。


 またそんな芳ばしい匂いが人を次々と呼び込んで、作っては無くなっていくを繰り返される。

うう、終わらないよ〜。


 豹人族のパーレンおっかさん、犬人族のキルトさんがボク達の方に来て手伝いに名乗りを上げてくれた。そんなに難しい工程も無かったのですぐ覚えてくれる。


 2人の作っている様子を見ながら、パーレンおっかさんの持ってきてくれた、スープに舌鼓を打つ。

 ほんのり辛くスパイシーでチゲのようなパンチのあるスープだ。後でシルに作り方を聞いておいてもらおう。


 集まった人数が結構いるので、わちゃわちゃ談笑が聞こえてくる。

 何かすごく皆楽しそう。言葉が分からなくても雰囲気でわかる。

『大丈夫、行ってらっしゃい』

 パーレンさんとキルトさんがボクとシルを解放してくれた。

お帰りなさいませ。お疲れ様でした。

いや〜、長くて本当に申し訳ない。

次回は、晩餐会を楽しむ話です。

涙あり、笑いありの話があるのかどうかわかりませんが、楽しんでいただければと思っています。

登録していただいている方、誤字報告して下さる方、評価して下さる方に感謝をします。

また、次の物語でお会いできたら嬉しいです♪

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