第27話 ボクの語学勉強会。
さっそく、言葉の授業が始まる。
場所はリビングで右隣にシル、正面にチャコ。ソファーに腰をかけ、話をしながら覚えていく。
他のメンバーはゾロゾロと森の散策に行った。和穂は普段ボクが連れ回しているから、初の参加になる。
まず、ボクは人に対して失礼のない様に名前の敬称について聞いた。
「そうか、アキラはあたしのことをシル様と呼びたいんだね、『様』って名前の後に付けるんだよ」
シルはしたり顔でボクにこんな冗談を言っている。ボクはシルの性格を知っているからこそ、あえて言う。
『シル様』『シル様』『シル様』『シル様』
「うわぁ、ごめん、ホント辞めておくれ…」
シルは自分自身の両肩を抱き首をブンブンと振る。
正面で見ていたチャコさんはケラケラ笑う。
ボクは聞いたことはメモしていく。
メモ用紙はシルから新しくノートをもらっていた。
この前もらったメモは「ルーク」の名付けでいっぱいになっていて、それを見たシルは驚いていたものだ。
自分のメモだから自分の文字で書いて、横に『様』と書き方も教えてもらう。
「じゃあ、"さん"は?男性も、女性も同じ?」
「そうだね、『さん』は男女問わず使われるね」
『チャコさん』
ボクか呼びかけるとチャコさんは首を横に振り、『チャコ』と訂正する。
70歳年上の人にそれでいいのか??でも自分で言っているからいい…のかな?
ボクが「チャコ」と、言うと頷き、ご満悦の様子だ。
それから、自分と仲間の名前をこちらの世界の文字で書き換えてもらう。
記号の羅列にみえるが、これが自分の名前かと思うと特別な物に感じる。
今更かもしれないけれど、異世界に来た実感と、シルの文字で見ると、シルに歓迎されて包み込まれているような感じがして凄く嬉しくなった。
ニマニマしているボクの顔をみて、シルもチャコも微笑み掛けてくれる。
「ごめんなさいは?」
シルにたずねると苦笑いしながら答える。
「多用するんじゃないよ『ごめんなさい』だ」
正面のチャコも頬を膨らまし何か言っている。
「チャコも多用するんじゃないよって言っている」
『ごめんなさい』
チャコにおでこをペチンとされる。
「感謝は?」
「感謝は、『ありがとう』の事だね」
と、こんな感じで勉強していく。
チャコはボクに文字の羅列表を作ってくれる。
『あ』『き』『ら』指でなぞって行く『なるほど』ボクが頷くと満足そうに笑ってくれる。
昼の時間が近づくと今度は『調理実習の時間』になる。
シル達がボクに聞きたいと言ってきたのは『フレンチトースト』の作り方で、ボクが聞きたいのは生で食べれる野菜と、スープなどで使う旨味の作り方。
旨味の作り方がわかれば、きっと色々な応用に使えるので早々に聞いておきたかったんだ。
パンは、朝ごはんの片付けをしていた時に、1人のウサ耳獣人のお兄さんがリアカーを引いて売りに来た。
シルは使い切ったパンの補充としていっぱい購入していた。
さらに、そのお兄さんから、ミルクと乳脂、小麦粉と卵も追加で購入していた。
乾酪とふくらし粉も存在するそうなので、試しに買ってもらった。
パンを売りにくる人だから、材料も一緒に購入出来るそうだ。
昼の時間になると散策組がお腹を空かせて帰ってくる。
お昼はシルに大量のスープを、作ってもらい、ボクは小麦粉をこねて団子汁にする。
チャコもシルも最初は不思議そうにしていたけど、最終的には楽しみながらみんなで作った。
物珍しそうに食べていたのは精霊達やシルやチャコで、狐鈴や和穂、クラマに関しては喜んでくれた。
そっか、クラマはこういう和食っぽい物が好きなんだね。
午後は散策組は狩りをしに行くらしい。
「今夜食卓に肉が並ぶか小麦粉焼きになるかはあんた達次第だよ」
シルは悪そうな顔で言っていた。
勉強組は引き続き、ボクの言葉の指導とミサンガ作りに挑戦となった。
「ねぇ、シル了解は?」
「『マッテ』」
「え、それはマッテでしょ?」
「『マッテ』」
「だから、それは…」
「あぁぁ…1個飛んじゃった…」
悲しそうな顔をするシル
『ごめんなさい』
このやりとりを見てチャコはケラケラ笑う。
シルはふぅ…とひと息いれる。
「お茶にしよう」
シルは肩を揉みながら立ち上がる。
「それじゃ、ボクは洗濯物入れてくるね」
いったん外の空気を吸う為と、布団と洗濯物の取り込みをするため母屋から出る。
リビングの前を通る時、2人とも席を外していても、夢中になって編み続けているチャコの姿が見えた。
今日は昼寝をしてしまわない様に、掛け布団を取り込んだら、すぐバルコニーへと上がる。
草原の方で動いてるものが見えた。面の力を借りて見てみると、ヌギルを追かけるクラマが見えた。
おぉ、やってるね、あれ?狐鈴たちは別行動なのかな?草原の隙間からチラチラロディは見えているけど他のメンバーが見当たらない。森かな??
『クラマ頑張れ、今夜はウサギ鍋かもね』
後ろ側を振り返っても森側の動きは残念ながら確認できなかった。
ボクは干していた洗濯物をカゴに移し滑車を降ろす。
ハシゴを降りるとルークがちょうどコチラへ飛んでくる。
「おかえりー、みんな別行動なの?」
「皆、晩御飯の為にはりきっているんだよ。ボクはキノコが必要か聞きに来たんだっ」
「ん〜、シルが使わなくてもボクが欲しいかな、いっぱいあると嬉しいな」
「まかせて、最悪肉なしでもキノコで満腹になるくらい採ってくるよー」
そういうと、ルークは森へ戻って行った。
リビングの窓から取り込んだ洗濯物のカゴを入れるとシルがコチラに声をかける。
「誰か来たのかい?話声が聞こえたけれど…」
「ルークがキノコが必要か確認に来たんだ。今夜は皆肉が食べたいみたいだから必死だってさ」
「じゃあ腕によりを掛けないといけないね」
シルは腰に手をやりニパッと笑う。
今夜はバーベキューの予定だ。レウルさんが家に入れない事も理由のひとつではあるが、皆が肉を仕入れてくる事を期待をしているからね。
シルとチャコは野菜の準備をして、ボクは焼きうどん用のうどんを踏み踏みしている。
チャコはものすごくビックリしていた。
まぁ、それもそうだよね、テーブルに粉を撒き散らかしたり、折角練り上げて形になった物を踏み始めれば、知らない人には狂気の沙汰にしか見えないだろう。
流石にコチラの世界にはビニールなんて無いので、笹のお化けみたいな、大きな葉っぱで挟む様にして上から踏み踏みしている。
これがまた笹の様な良い匂いなんだ。
みんながんばっているから、お肉が取れなかったとしても、お腹にたまる料理を作ってあげなきゃ、という使命感がなんとなくボクに生まれていた。
当たり前だけれど、お肉かあった方がそりゃ嬉しいよ。
晩御飯の準備をしながら、シルに食事の事について投げかけてみた。
「そういえば、そろそろシルの記憶にある食べ物、何か挑戦してみようか?
いつもボクが作る物って、食材でこんな感じなら作れるかなって思える物に、何となく手を出しているから…」
記憶の中にある料理の味が分からない、なんていう話を言っていたのを思い出したから伝えてみた。
「そうさね、でも手に入る食材が限られているからね…アキラが言葉を覚えたら街に行って、街でしか手に入れられない食材も仕入れて、それから作ろうかね。
アキラくん、期待しているよ!」
左手を自分の腰に、右手をボクの肩にバシッと置き、目をキラキラさせ言ってくる。
確かに、ココでは限られた種類の食材しか手に入らないしね。
そのやりとりに、ボクの言葉が分からないチャコはあたまに『?』をふたつ程乗せて見守っている。
シルは短い言葉をチャコに伝えるとチャコも全身で喜びを表現して、『期待してる』と言ってきた。
うん。頑張ろう…。勉強も料理も。
陽が落ちる前に下ごしらえはある程度終わり(うどんもいっぱい用意したもんね)ツリーハウスの下へ降りる。
先に戻ってきたのはレウルさんと和穂だった。
和穂は七面鳥の様な大きさの鳥を、首を刎ねた状態で逆さまにして2羽、レウルさんは僕なんかより大きそうなイノシシを咥えてきた。どうやら、イノシシはその場で和穂が血抜きをしたようだ。
肉は何だかこれで、充分すぎるような気がするんだけど…。
ボクは肉の解体ができないのでチャコとシルにお願いする。内臓はレウルさんが美味しくいただくそうだ。
ボクはシルの開発したという敷くタイプの魔石コンロを広げ鉄板を温める。コレは軽いし便利だね。
次に戻ってきたのは狐鈴とルークでぱんぱんに膨らんだ風呂敷を首に巻き、両手にバケツを持って帰ってきた。
「ねえ、狐鈴、タンスでも拾ってきたの??」
降ろされた風呂敷から出てきたのは大量の木の実とキノコだった。
『スゴイッ!』チャコは解体していた手を止め、拍手して歓迎した。
バケツの中身は結構な量のエビだった。
そこにロディが帰ってきて
「誰か手を貸してくれませんかな?クラマ殿がヌギルを2羽捉えましてな」
という。
ボクは『をを、流石クラマ!ナイスガッツ!!』と心の中で叫び、ガッツポーズをとった。
狐鈴と和穂がロディの元に向かう。
草原に戻ろうとするロディをシルが呼び止める。
「ロディ!今夜はパーティだよ、晩御飯食べていない、精霊や人族に声かけて来な!」
「レウルもだよ!」
晩御飯がまさかのパーティになってしまった。
お帰りなさいませお疲れ様でした。
アキラがいよいよ本腰入れて動き出しました。
次回、晩御飯という名のパーティーが開催されます。
皆さんお知り合いの方をお誘い合わせのうえ、ふるって御参加ください。なんてね。
では、次回またお会いしましょう〜♪




