第26話 ボクの朝からお試しクッキング。
「ねぇ、狐鈴、浴衣も普通に手洗いで良かったのかな?」
ボクがコチラにくる時着ていた服は昨日洗濯できたので、早々と浴衣からチェンジしていた。
「問題ないと思うよ。じゃが、干す時しっかりシワ伸ばして日影干ししないとー」
「そっか、了解」
洗濯物を終えて、水場から風呂小屋のところまで戻ってくると、レウルさんとチャコさんの姿が見える。
レウルさんはでっかいから、待ち合わせ場とかに置いておきたいくらいだ。
「コスズ〜!」
チャコさんがコチラに手を振る。
どうやらボクらの洗濯物を終えるのを待っていてくれたようだ。
レウルさんは水を含んで少し…結構重くなった洗濯カゴを咥えて運んでくれる。
どうやら、今日はもともとシルに会いに行くつもりだった様だ。
「本当、仲良しになったんだねぇ」
何だか見ているだけでこちらも和ませてくれるな…。
家に近づいたところでクラマが降りてくる。
「コチラは…???」
「風呂小屋であったレウルさんと、ダークエルフのチャコさんだよ、シルのお弟子さんなんだって、今荷物持ってくれているから話せないんだけれど…」
「主人達が世話になった…」
クラマがかしこまって挨拶する。
レウルさんも頭を少し下げる。
なんだか、突然視界が白くなったな。
なんて思っていたら、後方からもう1人白いのが合流してきた。
「アキラネェさん〜」
「おや、ルークおはよう。朝早いね」
さて、今日は朝から大人数に膨れあがったわけだが、シルは起きているだろうか…
「おや、レウルじゃん、また珍しいのと会ったな…」
なんて言っている。
「ルークの方こそ、あの水場から離れてくる事が珍しいんじゃない?」
ボクが代弁するとルークは頭をひねって。
「そりゃ違いねえ」という。
昨日のシルの話からして、ルークはあの辺をテリトリーにしている風だったから、そんな気がしたんだよね。
「今日は朝からどうしたの?」
「あぁ、ルーク殿は、拙者がお呼び立て申した。地形の事で色々知る事ができるかと思ったので…」
クラマはクラマで責任感じて、色々動いてくれているんだね…。
とは言え、なんだかこの3日間で本当に色んな精霊に会ったな…。
会ったというか、何となくボクが無理クリ引っ張り出して発見しているというか…。
家に着いたところで、レウルさんは登れないだろうから、ボクがシルを呼びに行くことにした。
洗濯物を滑車で引き上げ、母屋に入るとシルは既に起きて、ソファーでフルーツハーブティーをのんでいた。
気に入ってもらえた様で何よりだ。
「洗濯物ありがとうね、この小屋の上に物干し用のデッキがあるから、教えるよ」
上を指差すシルに、来客を伝える。
「あ、でも風呂小屋でレウルさんとチャコさんに会って、今下に来ているんだよ」
「あっちゃー、分かった。じゃあ手短に、物干しデッキの場所教えるね。朝ごはんどうしようか…?」
「小麦粉と卵とミルクと乳脂と蜂蜜を出して置いてもらえたら、和穂と協力して作るよ」
「りょーかい、じゃあ今日は下でみんなと食べようかね」
突然の来客にパタパタと慌ただしくなる。
「おぉーい、おっはよーさん、朝から随分集まったねー、ちょっと待っててねー。」
シルは玄関から下に向かって挨拶して、洗濯カゴを滑車から外す。
そして倉庫から折り畳みのテーブルを取り出し滑車に引っ掛ける。
「コレ下で広げておいてねーっ」
滑車を降ろして指示を出す。
「ゴメン、和穂はこっち手伝ってーっ!!」
ボクは和穂を呼び出し、和穂は頷きかけ上がってくる。
「シル、パンに乗せるジャムとかあるかな?」
聞くと良い笑顔で「あるよ」という。
「昨夜果物いっぱい採ってきてくれたからね、夜のうち作ったんだー」
「シルはいったいいつ寝てるのさ?」
ボクが呆れ顔でいう。
「謎の多い乙女は魅力的なものなのさ」
右手の親指を立てる。
「あぁ、アキラ、和穂こっちこっち」
シルは手招きをしながらボク達を誘導する。
デッキを進みリビングの窓の前を通過して、吊り橋に行かず左手に周る、このツリーハウスを支えている木の幹に更にハシゴが掛かっているのを指差す。
「ここの上にデッキがあるから、お願いしていいかな?
朝ごはんの材料はパンに使いそうなやつ、色々出しておくよー」
シルはボクに洗濯物を預けて母屋にバタバタっと戻って行く。
「何だかスゴイね」
2人でついついクスリと笑う。
木の幹にはハシゴと滑車が取り付けられている。
先にハシゴを上がるとこれまた見晴らしの良さそうなデッキ見えてくる。
「下は見ない、下は見ないよー」
ボクは高いところどうも苦手なんだ。ツリーハウス自体が高い位置にあるから、デッキは更に高い。高めの木枠に物干し竿も掛かっている…バルコニーだねぇ。
コレを設計した人も、この木もスゴイんだな…
滑車を引き上げ、和穂も上に上がってくる。
高さでいうと、ボク達の部屋が一般の家でいうと2階より少し高い位置で、母屋が3階位、そしてこのバルコニーは4階から少し高い位置になると思う。
そんな建物を乗せながら風が吹いてもびくともしない木って…神社とかだと御神木になるだろうし、樹齢何千年とかの有難い木だ。
そんな木がこの森にはゴロゴロ当たり前の様に生えているわけだから、元の世界と比べての規模の違いを感じる。
昨日大量に洗ったので、今日はそれほどでもなかった。
「スゴイ風だねー、これならすぐ乾きそうだ」
「さて、次は朝ごはん作るよー」
ボクが言うと和穂はコクコク頷く。
デッキを後にし、母屋へ帰ってくる。
作業台の上に頼んでいたものが並んでいる。
丸パンもいくつかある。けど今日のあの人数には足りないなぁ…。
ボクの知っている素材も限られているわけだし…。
『本日の朝ごはん』
・大量のなんちゃってホットケーキ
・フレンチトースト
・スクランブルエッグ
・ジャム
・蜂蜜
・ソーセージとカクモチダケのホワイトソース
・ハーブティー
食材を知らないと作るものも限られてしまうね…
これらを鍋ごとバスケットに詰めこんで、食器と一緒に滑車で降ろす。
広げられたテーブルにバスケットの中身を出して行く。
シルや皆も集まってくる。
「おや、ロディおはよう」
ロディも朝から遊びに来ていた。
「ごめんね、味の保証はできないけれど、ジャムかハチミツか、このホワイトソースか、卵乗せて食べてね」
ベーキングパウダーがないのでフワフワにならなかったけれど、甘い『ナン』ぽい物として食べてもらえたら良いかな…
ホットケーキと思って食べると物足りなさを感じるから『そういうもの』として作った事にすれば良い。
卵白を泡立てて…とかも思ったけれど、白身の少ない卵相手に箸や匙でメレンゲに挑む程の根性をボクは持ち合わせて無い。
ひょっとして、本来の物を知らない人達に、それっぽい物でも完成と言えてしまうボクってある意味達人なのかも…
はい、言いすぎました御免なさい。
改めて、ボクが知らないといけない物を色々突き付けられているな…考えられるだけのゆとりが生まれたと喜ぶべきか…。
さて、実食ーー。
本当はさっぱりしたサラダとかスープが作れれば、バランスが良かったと思うんだけどね。
フレンチトーストは黄身の味の濃い卵だったから、想像よりずっと濃厚な出来上がりになった。
ホットケーキもどきは質より量な所もあったので、色々乗せて楽しく食べてもらえたから成功としても良いのではないだろうか。
だって、食に興味があるか分からないけれどレウルさんみたいに大きい人いたら、満たされないのって可哀想じゃん、ボクだって、空腹でいたら切なくなるし…。
「*〒÷$%☆ !!」
チャコさんが笑顔でボクに何か言ってくれているけど、ゴメン何を言っているのか分からないよ…こんな時悲しくなるよね。
「こんなの食べた事がないって喜んでいるよ」
さりげなく、シルが通訳してくれる。
「でも実際、大したもんだねー、使っていない物もいっぱいあっただろうけど、少ない食材でこんなの作れちゃうんだから」
ロディは口の周りにホワイトソースをたっぷり付けながら食べている。
和穂は尻尾を振りながらフレンチトーストを…味見で出来たてを食べて喜んでいたんだけどなー。
でも、こうやって笑顔を引き出せるのって嬉しいよね。腰を据えて…ではなくても立食ぽいのも楽しいしね。
突然シルがボクの方に声をかけてくる。
「そうだ、アキラ、あんたチャコを通して言葉を覚えれば良いんじゃない?レウルもどうだい?チャコとアキラが仲良くなれば嬉しいだろ?」
レウルさんも突然の発言に驚きをみせたが頷いてみせる。
「アキラ、『よろしく』って手を出せば良いんだよ」
以前のお湯の出し方についての説明の様に分かりやすく教えてくれる。
ボクは『よろしく』『よろしく』と何度か練習をして、シルに言われる様にチャコさんに手を差し出し『よ、よろしく』と言う。
するとチャコさんは両手で握り、無邪気な笑顔で『よろしく』と返してくれた。
狐鈴が口についたジャムをペロリとしながらこちらへ声を掛けてくる。
「アキラ、ちなみにチャコは94歳なんじゃと」
「ーーっ!?」
こうして、ボクはチャコさんという精霊以外(シルを除いて)初めて人と触れ合う事になった。
お帰りなさいませ。お疲れ様でした。
料理のパートになるといつもアワアワしてしまいます。お料理小説は別のベテラン作家さんにお任せしたいと思います。
いよいよ、アキラも言葉の勉強にはいっていきます。
頑張れアキラ!
それでは、また次の物語でお会いできたら嬉しいです。




