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第22話 ボクと精霊と焼き魚。



目の前にいる精霊は水竜だという。

そんな精霊は水の塊を、黒焦げになったボアフットにかけ完全に煙が消える。


「ネェさん達の名前を聞かせてもらっても良いかな」

「ボクはアキラ、この子は和穂、水竜の君の名前は?」

ボクは名乗りをあげ、水竜の名前をたずねる。


「へ…?そう言えばボク名前…ないや、水竜と呼ばれていたからなにも意識してなかったな…」


キョトンというか、表情が分からないけれど首を傾げている。

じゃあ、水竜でいいか…。



「コレは言葉を発してなかったから精霊ではないんだよね?」

黒焦げになっているボアフットを指差し、水竜にたずねると、頷きながら答えてくれる。

「ボアフットを知らない?コレは鳥とか、そこの魚とかと同じ、動物で間違いないよ。魔法とか、特殊な攻撃をしたら、魔物とかモンスターって言われる生き物で、そこに言葉を話してくる生き物は精霊ととって問題はないと思うよ。というか、アキラネェさんは、なんで、そんな当たり前の事を聞いてくるんだい?」



「実は…」 

 ボク達がつい昨日この世界にやって来た事、シルの世話になっている事を話す。



「へぇ〜、そんな事があるんだね、そして、あの気分屋のシル=ローズがねぇ…」

シルは精霊界隈でも有名人なのだそう。


「ボクがネェさん達に近付いたのは、まぁ、気を悪くしたら申し訳ないけど、ネェさん達が普段見かけない格好と気配をしていたところかな。あとは、あれよあれよと魚を獲っていた様子がおかしかったからかな…」


「獲りすぎだったかな?」

水竜は首を横に振り「そんな事はない」という。

「あくまで、面白い様に獲っていたことに興味があったんだ。それに精霊のボクに食料はあってもなくても同じだし、ココにくる動物も人間も殆どいないからねぇ、やっぱり訪問者が珍しいから惹かれてきたんだね」

「ロディなんかは食事もお酒も飲む様だけど?」

「あー、あの爺さんは好奇心旺盛だからね、美食家みたいに味わう事は知らないと思うんだけど、人間の様に過ごす生活が心地良いんだと思うよー」

精霊もそれぞれなんだなぁ…と改めて思う。



「ーー…!」

遠くから声が聞こえた様な…。

キョロキョロしてると和穂が指差す。

ボク達がやって来た下流の方から、バスケットを抱えた狐鈴とシル、ロディが歩いて来るのが見える。

皆がこちらへやってきた。


ひと足先にクラマが旋回してボクの肩にとまる。


「わゎ、巨大なボアフット?ですな」

「あんた達!大丈夫だったかい!?」

ロディとシルがコチラに声をかけ、狐鈴はボアフットの死体に興味を示す



 シルはボク達の前まできて腰に手をやりふうと一息つく。

「上流に行くって言っていたから、場所はここだろうなと検討はついていたんだ。

ここに来たって事は…どうせ、アンタもいるんだろう?姿くらい見せておくれよ」

と、シルがボク達から視線を水面に向けて声を掛ける。

 すると、目の前にいる水竜がボクに「へへ、普通の反応だとこうなるのさ」と言う。

「やぁ、シル=ローズ元気だったかい?」

「わぁっ!、思ったより目の前にいたんだね!」

ビックリするシル。

なるほど、本来の見えない人の反応をボクにわざわざ教えたわけね…。


 狐鈴とロディはボアフットをツンツンやっている。


「いやぁ、昼になっても戻ってこないだろうから来ちゃったよ。ここは外の食事には良い場所だからね、それとまさかこんな事になっていたとは…ね。」


 そうか、魚獲りそのものの時間は大してかかっていなかったけれど、ボアフットとの戦闘があって、話しをしているうちに結構時間が経っていたんだな。


「大した事なくって良かったよ、アンタも助けてくれたんだろ、世話かけてごめんよ」


水竜は首を横に振りシルに話す。

「ボクが手を出さなくても、全然切り抜ける事ができたハズだよ。ボアフットが先に出てきたか、ボクがアキラネェさん達に見つかるのが先だったかの違いだけだと思うよ」

シルは驚いた様にコチラを見る。

「へぇ〜、あたしはこの子達の戦う姿ってのを見た事が無いから、どうも心配ばかりしてねぇ」

シルが左隣の和穂の背中をポンポンとする。

和穂は微笑み頬をポリポリとかく。


「ボクはボクでビックリしたよ、姿を消しているのにアキラネェさんなんてボクを捕まえるんだよ、聞けば人間だなんて言うし…

まあ、そんな出会いも何かの縁だったから、共同戦線とさせてもらったのさ」


シルは驚きを隠せない様子でボクと水竜を交互に見る。

「へぇ〜、本当に見えるんだね」



「シル、ワチお腹空いたのじゃ」

ボアフットの検分に飽きた狐鈴がお腹をさすりながらコチラに来る。


「はいよ、じゃあ食事を広げようかね」

テキパキとバスケットの中身を広げていくシル。狐鈴もポットからスープを注いで手伝っている。


「アキラネェさん、シル=ローズとロディ以外の2人も…?」

水竜はコチラにたずねてくる。


「うん、あっちの金髪の子も和穂と同じ稲荷神様の仕えの巫女で『狐鈴』この白鴉が鴉天狗の『クラマ』2人ともボクと同じ世界から来たんだ、このクラマの術に巻き込まれてね」

「ア、アキラ殿…」

クラマの頭上に汗が見えそう。


「でも、異世界転移っていったって悪い事じゃなかったな。幸運に見舞われているから苦労していないだけだろうけど、こうして新しい出会いと絆が深められているから、自分の世界って思っていた以上に小さかったんだなって反省もしているんだよね。まだ1日半しか経ってないけど、今日より明日と楽しい毎日になるといいなー」

ボクはそう言うと、クラマは大きくため息をつく。

「そっか、毎日楽しめる生活になる事を祈っているよ」

と水竜は言ってくれた。



 折角だから獲れたての獲物を焼いて食べようと小さな焚き火を起こす。

 熊は美味しいとされているけれど、血抜きもできていない上に、適切な解体のできる者がこの中にいないので、もったいないけれど自然に返す事にする。


 和穂の捕獲した魚を枝に差し、ウエストポーチの肥やしになってしまっていた、小瓶の塩を振り、焚き火の横でじっくり焼く。



 焚き火の隣に狐鈴、ボク、和穂、クラマ、水竜、ロディ、シルの順でバスケットを中央に円を書く様に座る(家にいる時のソファーの座り順が定着しているのが面白い)

シルが用意してくれたサラダのサンドウィッチを頬張り、スープを啜る。



「そうそう、アキラ。ロディが魔力増強と蓄積の魔石を持って来てくれたんだったよ、家に戻ったら加工しようと思うんだけど、常に肌身離さない様にしていた方が良いはずだから何か考えておかないとねー」

ふと、シルが思い出したかの様に伝えて来た。


 うーん、改めて肌身離さないものってなんだろう…眼鏡もウエストポーチだって外すことあるし…数珠もウエストポーチに入れているしな…


すると『ピシャリッ』と和穂が手を打つ。

みんなの視線を集める。

「こ、これ…私、編むよ…」

和穂が自分の右手に結かれているミサンガを見せる。

「おぉ…そうじゃな。ワチか和穂の毛を編み込めば切れることもなかろう」

狐鈴も納得する。


食に対して興味を示していない水竜は、スープだけをペロペロしていたが、和穂の発した言葉に興味を示した。

「それ、なんかいいね。和穂ネェさんの他にどっかで見た気がするんだよね…」

すると、ボク以外の皆んな水竜に見せびらかす様に右手首、をクラマは首を出す。


「えぇーっ!!なにそれっ!なんかうらやましいなっ!!」

水竜は皆んなのミサンガを見て回っている。


「うーん、作ってあげたいのは山々なんだけど、刺繍糸がちょうどなくなっちゃったんだよねぇ…」

ボクが言うと、水竜は「えー!」とショックを受け地面に落ちてしまう。


「あんたが家に取りに来れば良いんじゃないかい?それか、いっその事アキラに使役されるとか…」

シルが面白そうに話しかける。


「この世界では精霊が誰か特定の者のために仕える事ができるのかゃ?ワチらの世界では妖怪に名前を与える事で、家や家族を守るような契約を結ぶ事ができるのじゃが…」

 狐鈴もボクも同じ様な事に疑問をもっていたようだ。


 その疑問に関しては、ロディが説明してくれた。

「このお爺のように、生まれもって名を持っている精霊には、名前の上書きなんて事は出来ませんな。

 ただ、そこの水竜のように名前を持たず個体としての認識の無いフワフワした精霊に関しては、名前を与える事で安定した、いち個体として認識されるようになるわけですな。安定する事に対して礼として仕える事を契約というのかまでは、爺にはわかりませぬが…」


ふむ、確かに…『水』と言われるより、『水道水』と言われる方がどんな水なのかわかるし、『クラマ』のことを『鴉』と呼ぶのもフワフワした感じだな。個体の認識ってそう言う事か…。


「この世界ではテイマーという職業はあるのかな?」

ボクも気になった事を口にする。


すると、今度はシルが口を開く。

「テイマーっていうと、魔物や動物を自分の相方にして旅する職業だっけね、あたしも冒険者として臨時でチームを組んだ時に1回だけ会った事があるよ。

えっと…そいつの話だと、血筋が必要だとか、どの魔物や動物でも相方にできるわけじゃなくって、波長だ相性だのが必要で、指示を出したり、能力の共有ができるとか、そんな能力をもった職だった気がするな…」

記憶を手繰りにしながら話してくれる。

シルの冒険談は、初めて耳にしたのでとても興味深い。


「あたしもギルドの中で働いた事のある人間じゃないから、溢れるほどある職種の全てを把握しているわけじゃないしね…。

ただ、得意分野を職にする事は珍しくもないんじゃないかな、だからあたしはアキラが精霊使いになるのか、ネクロマンサーになるのか興味があるのさ」

 後半はイタズラ小僧のような笑みを含めボクに話す。


「ネクロマンサーって何だっけ?」

「ネクロマンシーの使い手…死霊術を使ってアンデッドを操ったりする職種ですな」

ひとつ頷き、ロディが答えてくれる。

シルってば…ジト目をシルに送る。

シルはニパッと笑う。

「実際に精霊使いなんて職はあるの?」

「そこはあたしも知らないところなんだよ、精霊と特別な契約が必要なのか、魔物より賢い精霊を使役できる専門家がいるのかなんてものもね」


すっかり冷めてしまったスープを啜る。

ここにいる全員がこの話に興味を示していた。ある意味ボクの今後の人生の分岐点みたいな話だし、最もボクの近くにいる皆であるわけだし…。


「わわ、魚が…すっかり焦げてしまったのじゃ…」

ふと、魚を見た狐鈴が泣きそうに伝えて来る。

手遅れになる前に、皆にそれぞれ渡し、焦げてしまった皮を剥ぎ身を食べる。苦味も含めて、美味しく感じる。こんな風に塩焼きにして食べた魚はいつ以来だろう…。

他の皆も同じ様に焦げた部分を剥いで食べる。

「魚もたまにはいいもんですな」

ロディはご満悦だ。

「あ、あつ…はふ、はふ」

和穂も美味しそうに食べている。


そんな中、真剣に、そして何も考えていない様な表情の水竜が久しぶりに口を開いた。

「アキラネェさん、ボクに名前をつけてもらえないだろうか?」


突然の発言に皆動きを止める。

「えっ!?ボクがつけるの?」

コクリと頷き言葉を続ける。

「使役どうこうは置いておいて、普通の人間が、姿を消しているボクを捕まえるって事は何かやっぱり運命を感じるんだよね、これまで会った中の誰よりも、しっくりするというか…」


「えっと……わかった、でもすぐには決められない。君が一生背負うものだから、しっかり考えたいんだ…。

あ、でもクラマの場合は、それしかないと思ってつけた名前だからね、気に入ってくれてるとボクも嬉しいんだけれど…」


「もちろん、有難く頂戴した名前に感銘を受けてます」

クラマは執事のお辞儀の様にコチラにペコリとする。

「うん、良かった」

ボクも笑う。


「じゃあ、ボクが君にこのミサンガを編んで、名前と一緒に与えたいと思う」


 家に帰ってやる事のできたメンバーと、その場に残って新たな探索をするメンバーと別れた。

 昨日の狐鈴達のメンバーに水竜が加わっただけなんだけれどね。


 ボクと和穂はバケツを、シルはバスケットを持って川の岸辺を下って行く。

 途中でちょくちょくある丸木橋が何となく気になりシルにたずねる。

「ここの近くにも誰か住んでいるのかな?建造物らしき物は見られないのだけど…」


「精霊が住んでいるのさ、ロディみたく飛んで移動していない精霊も少なくないからね、それと商会の配達員が使っているね。ほら、今朝卵を届けてくれたろ」


「商会の配達員…、近くに村でもあるの?」


「商会自体が村にしかないってわけでもないのさ。そりゃ、組合は人の集まるところに本部を構えるけれど、所属さえしてしまえば、基本自由ってわけさ。

ここら辺でも、精霊が売りに来ることもあるし、森に住居を構えて暮らしている獣人だって売りに来る事もある、あたし自身も薬を調合して売ってあげたりしてるしね」


 そうか、今会えていないだけで精霊の数も結構いるんだろうな。昨日今日で、ロディと水竜に立て続けで会えているわけだし…。

 ついつい、言葉の、壁を気にする事のない精霊との交流を望んでしまう。このままではいけない。

「ねぇシル、時間がある時にボクに言葉を教えてもらえないかな?」

シルは振り返って笑いながら答える。

「何を改まって、遠慮するんじゃないよ水臭い、言ったろ世話焼くのは好きなんだって、それにあんたがこの世界での生活を楽しむためには不可欠な事じゃないか、あんたはニコニコしてればいいんだよ」

 隣を歩く和穂も微笑む。ボクもつられて笑顔になる。

「そっか…ありがとう」


おかえりなさいませ。お疲れ様です。

果たしてアキラの適性職はタイトルの様に精霊使いとして芽が開くのか?それとも意外性満載のネクロマンサーとなってしまうのか…?

それではまた次のお話でお会いいたしましょう。

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