第2話 ボクへの依頼。
ボクは家の前で立ち話も何なので、陸を家の中にあげる。
暑い中、外にいる事が嫌なので一刻も早く室内に逃げたいのだ。
自分が入る前に郵便受けから小瓶を出し、自分の肩に小瓶の中に入った塩をサラサラっとかけ、ポンポン払う。
「アキねぇ、何やってんの?」
先に玄関の中に入った陸が、すぐに家に入らないボクを不思議そうに見る。
「んー、ルーティン…かな?」
「なぜ疑問型??」
ボクの部屋は玄関入ると、左手すぐにキッチンがある。
冷蔵庫から取り出した、ペットボトルの麦茶をシンク傍の水切りラックから取り出したガラスのコップに注ぎ、陸の前に出す。
陸は受け取り、一気に煽り「しみるねぇ〜」と言っている。
「おっさんか……」
「ひっど……」
クーラーは基本的付けっぱなしなので、部屋は心地良い涼しさだ。
「アキねぇ、この部屋って……全然女子力ってのが……ってぇっ!!」
陸は部屋に入るなり失礼な事をつぶやこうとしていたので、左脇腹にチョップする。加減なんて必要なかろう……。
ボクの部屋には生活に必要な最小限のものしかない。裕福ではないのだから、しかたない。
自分の意思で実家を出たんだから、しかたない。
「女子力? そんなものでは腹が膨らまない」
「やだ、漢まぇ…んがっ」
右横っ面に今度はグーパンチをプレゼント。
「大学は夏休みなんでしょ?」
ボクはパイプベッドに腰を下ろし座卓に自分のコップを降ろす。
陸はほっぺたに手を当て、さすりながら座卓の横にドカリと腰をおろし、あぐらをかきながらボクに返事をする。
「そそ、それで俺サークル入ってさ」
「山岳部だったっけ? 母さん言ってたかも」
「はぁ? なんで山岳部よっ?? オカ研だよ」
「……ん!?」
「……」
「丘研……?」
「……!? オカルト研究部」
「……!?」
陸は受験勉強しすぎて頭がおかしくなったようだ……そもそも、何を研究する部活だったっけ?
「最近ネット上の投稿動画サイトでも、都市伝説の謎解きとか、現地取材とか人気あるんだぜ、知らないの?」
ふふんっとドヤ顔でこちらを見る陸に、こちらはジト目を流し一言返す。
「知らんっ」
スマホがあっても少し見ているだけで頭が痛くなるから、動画なんて見ることない。
バイトの連絡だけで使っている道具にすぎない。
「まぁ、ウチのサークルでやっているのは身近な調べ物が中心で、許可をもらって貯水池の浮島で過ごしてみたり……してるんだ」
「人はそれをキャンプって言うんじないの?」
「まぁ、キャンプみたいなもの……なのかな? 実際は外でワイワイする口実? サークル内で親睦深めるついでに調べ物する、何か進展があったらラッキー! ってゆー感じ?」
その行動力、若さの至りってやつか…
「ふぅ〜ん。で、貴重な夏休みにウチに来ている用事は何なのさ? よく解らないんだけど」
陸はあぐらの膝をピシャリと叩く。
「あぁ、そうそう、実はお願いがあってさ、近々サークルで『名も無い村』の調査に行ってみようってことになって……
この手の事はネット上で情報が流れているから場所の特定はできているんだけど……」
陸はポケットから取り出したスマホをいじりながらボクに話し始める。
「ふぅん……名前の無い村なんてあるわけ?」
陸の話よると、現在名前の無い村が存在するわけではなく、存在していた村が地図より名前を消した。いわゆる“廃村”らしい。
「その廃村になった理由は定かではなくて、村の不便さから一斉に別の地に移って行ったのか、野生の動物に襲われたのか、はたまた村人全員が神隠しにあったのではないかという、眉ツバもののウワサまで存在してんだ。
確かに過去に人が住んだ形跡はあるようだけど、現在は誰も住んでいない。
誰も住んでいないハズなのに集落の広場から複数人の話し声がするとか……人気を感じるとか……」
朽ちて崩れている建築物が建ち並ぶ、そんな誰かが撮ってネット上にアップした情報をスマホの画面に出し、ボクに見せて説明する。
その写真は不思議な感じがした。写真越しだからうまく汲み取れないだけなのかもしれないのだろうが、目が離せなかった。
「どうょ?アキねぇ、興味ある?」
「ないよ」
陸の表情が固まる。
「即答かょ! でも、めっちゃ写真見てるじゃん!」
「実はさ、最近オカ研に別の学科のコが1人入ってさ、流石に男の中に女の子1人はまずいかなって話もあって、でも折角だから連れて行きたいじゃん?」
「いゃ、知らんよ」
100歩譲って、場所その物へと引きつけるものはあったとしても、活動のそれに興味があるかと言われたら、答えは"ノー"だ。
「……えっと、陸くん。君はキャハハ、ウフフする為に、学校とは関係ない、人見知り歴21年のボクを付き合わせようって事なのかな?」
ボクは指をポキポキっとならしながら詰め寄った。
結局、陸は懲りもせずに次の日も、その次の日も、玄関の前でボクの帰りを待ち、イベントへの参加を依頼してきた。
何度頼まれても参加する気はない。そんな場所に行かなくても、体を持たぬ者に、ちょっかい掛けられているのは日常茶飯事なのに、わざわざこちらから行くなんて、そんなにボクは物好きでも暇でもない。
挙句の果てには、部長へと連絡をしてボクと話をさせる始末だ。
恐らくこちらと同じ気持ちで「誰? 何コレ?」と思っているに違いない。
そんな部長の話はこんな感じだったと思う。
昔からこの手の謎の解明とかに興味をもった新入部員は毎年少なからずいて、陸の言っていたとおり、動画投稿サイトの配信人気が後押しして、最近特に増えてきているそうだ。
ただし、一般人である自分達では新たに解明できる調査なんて、設備も環境も無いものだから、大抵の事は、ウワサで囁かれている事の実証実験程度で終わるらしい。
問題なのは、現場の雰囲気に高揚したり、皆怖いもの見たさや好奇心が先走りする人がいる反面、見える人や感じる人、専門家の参加がない状態なのでブレーキをかける人もいないという事。
専門家でなくても見解を確認できる相手がいるならば意見が欲しいとの事……。
……陸のアホよりは説得力はあった。
でも、危険かもと感じているぐらいなら行かなきゃいいのに。
楽しいキャンプサークルにしたらどう? ……なんて思うのはボクが捻くれているからなのだろうか。
まぁ、好奇心旺盛の集まりがオカルト研究部って事なんだろう。
スマホのスピーカー機能を使って、陸と一緒に聞いていたから、時々「そうそう」「うんうん」と陸は相槌をうっていた。
陸は調子にのるから言っていないけど、この数日間、廃村について頭に残るモノがあった。行った事無い場所なのにどこか懐かしいような、夢の中で村を歩いていたこともあった。
この感じはマズイ、『この場所に呼ばれている』とボクは直感的に思えた。
この部長の話じゃないけど、何も知らない陸達だけでこの地に踏み込む事はキケンだ。
……危険なフラグを回避する為に、ボクは渋々同行する事を承諾した。
陸くんよ、頼むからフラグの回収だけは避けておくれょ……
お帰りなさいませ。お疲れ様です。
展開遅くてすみません、なんだかんだで面倒見の良いアキラと、やっぱり阿呆の陸くん、もうちょっとだけお付き合いいただけると嬉しいです。
それでは、またお会いしましょう。