第18話 ボクのお試しクッキング。
初めての食材に初めての調味料、料理の腕も一般人並み、そんなアキラが取り組むお試しクッキング。
今日の食材はキノコ!
それでは、行ってらっしゃいませー♪
「それじゃアカウイダケで晩御飯作ろうさね」
シルはテーブルの上にあった風呂敷に手を伸ばす。
「ねぇ、シルこっちの調味料とか見てみたいから一緒しても良いかな?」
自分の知っている料理を食べさせてあげたいと言いつつ、こちらの世界の食材はおろか調味料すら知らないボク、しばらくお勉強させてもらいたい。
「特に珍しい物もないと思うけど良いかい?」
「ありがとう!」
そういえばココは魔女の家でした…。
始めてシルと会って掃除をしていた時には気がつかなかったけれど…。
シルにとっては珍しくもないキッチンでもボクには一般的な呼び方より、研究室という言葉がふさわしく思えた。
謎の調味料や香草が壁やら棚やらに所狭しと保存されている。
名前を覚える事は、この場を見て秒で諦めた。きっと、味の特徴を伝えたらシルが調合してくれるだろう。
キッチンの状況について触れたので、語らせてもらうが、キッチンの状況とは正反対でこの家の間取りは極めて単純で分かりやすい。
玄関入って左側に扉で仕切られた、たぶん倉庫とトイレ、右側に広めのキッチン、つき抜ける形でキッチンの隣りがリビング、リビングの左側に、扉で仕切られて寝室と作業部屋といった作りになっている。
ボク達の間借りしている部屋は別のツリーハウスだけど、行き来する時に、リビングと隣りあったキッチンの前のデッキを通るので、誰かがリビングに居たり、料理や作業していてもすぐ解る。
呼び鈴もこのデッキのところに取り付けられているので、部屋に篭っていない限り来客にも気付く事ができる様だ。
セキュリティにしても、ハシゴを上げてしまえば問題ない。
「これはまた、凄い量だねぇ、カクモチダケとツミダケもあるね」
キッチンの作業台に包みを広げると、大量のキノコが出てきた。
「シルセンセ…どれが何か分かりません」
「んとね、これがツミダケ」
えのき茸の様な緑色の細いキノコを摘み上げる。
「これが、カクモチダケ」
笠の部分が四角い白いキノコを指差す。
「で、これがアカウイダケ」
「でっかっ!」
人の頭くらいの大きさのイシガキの部分まで真っ赤な椎茸の様なキノコだ。
「ツミダケは熱を加えるとヌメリが出てくる、カクモチダケは匂いはほとんどないけど歯ごたえがあって、アカウイダケは香りも味も濃厚なんだ。まぁ、キノコ類はシンプルな味付けが1番だとあたしは思っているよ」
味付けなしの素焼きを小さな皿に乗せ一欠片ずつ味見させてくれる。
ツミダケはえのきの様なシャキシャキ感となめこの様なヌメリが出ている。そして、微かな甘味。
カクモチダケはエリンギのような食感だけど臭いも味もほとんどない。
アカウイダケは松茸のような特殊な香りだけれど、椎茸のような匂いもして不思議な感じ。味もしっかりしていて肉厚で椎茸ぽさがある。
「へぇ〜、味付けなしでこんなに美味しいんだね…正直びっくりしたよ。ボクはこのツミダケ?が1番好きかも」
「あたしもツミダケは好きだよ。いっぱい使って熱する時間を長くすれば、ヌメリも多くなるので、味を整えればトロミのついたソースみたいになるんだ」
なるほど、あんかけ料理とかに使えそう、トロミを抑えて食感を残せば、めかぶの代用にもなりそうと思った。
「シンプルな味付けだとするとコレとコレとコレが良いかな」
水色の粉、青い液体、白い紅葉の様な葉っぱを出してくれる。
水色の粉は少量でしょっぱい…塩かな。青い液体は原料はわからないけれど、塩気とコク、そして少し甘味…例えるならタマリ醤油…かな。紅葉の葉みたいなのはみじん切りにする事で、胡椒のような山椒のような辛味と風味が出てくる。
あくまでも、代用としての感想なので、そのものの味かと言ったら似ていて異なる味だ。
ボクは砂糖に代わる甘味について確認すると、花の蜜になるようだ。
お試しって事で一品作ってみる。
アカウイダケとカクモチダケのソテーに、ツミダケの甘辛あんかけをかけてみる。
「シル達の口に合えば良いけど、付け加えたら良さそうなものがあったら入れてみて」
イメージしていた味に寄せてはいるけれど、まだまだ、改良の余地はたっぷりある。
「へぇー、コレは簡単でなかなかおいしいねぇ、初めて作った様には思えないよ。あんたもそんなとこにいるなら、味見してみなよ」
和穂がリビングの柱からこちらの様子を見ていた。ミサンガの時もそうだけど、おとなしいわりに好奇心旺盛な娘だと思った。
トテテッと作業台の前に来て照れ臭そうに微笑む。
皿を覗き込んだ和穂の表情が面白い…作業台の皿の上は原色のキノコ達がカラフルなソースをかぶっている。コレを料理かと言われると、絵の具を使った色の実験の様になっている。
木サジを使って、目を瞑って口の中にいれる…分からんでもないけど、さすがにそれは失礼だろ…。
瞑った目が開かれパチクリする。口元に手を当てコクコクと頷く。
「ちょっと酸味も足してみても良いかい?」
シルはそう言って小皿に取り分け赤い透明な液体を少量かける…お酢っぽい臭いが鼻をくすぐる。
味を確認して「よし、良いね」と呟く。
キノコの甘酢あんかけの完成だ。
料理という名の実験だ。
『今夜の晩御飯』
・キノコ3種の素焼き
・ツミダケのスープ
・キノコの甘辛あんかけ
・キノコの甘酢あんかけ
・鳥の香味焼き
・パン
・果実酒
初めて見る食材と調味料、見た目が赤・青・白・緑・茶・紫とカラフルな料理。
味を知っている人ならまだしも、色だけみたら遠慮したいかも…ねぇ。
狐鈴も最初は恐る恐る口に運んでいたけれど、口に入れてからが早かった。
いやはや、見た目っていうのも1つの隠し味なんだな…って改めて考えさせられた。
初めて作った料理にも関わらず、皆興味をもってくれていた。
そして、お腹が膨らんだところで、お酒の進んでいたロディは眠ってしまった。
シルはいつものことだと、毛布をかけてやっていた。ロディを皮切りに、狐鈴もウトウトしていたので、今日は解散となった。
お帰りなさいませ。お疲れ様です。
何か原色の料理って、魔女料理のイメージがあるのは自分だけでしょうか?
あまり料理に詳しくない自分が料理の話を書くとは思ってもいませんでした。
ボロが出ないように、かわしていけるよう頑張りたいと思います。
それでは、また次のお話で会いましょう〜。




