第17話 ボク等とお風呂。
寒い冬が近づいてきました。
そんなわけでお風呂の話です。お風呂のイメージで温まっていけるといいですね。
それでは行ってらっしゃいませ〜♪
「ほぃ、アキラはお風呂から出たらコレに着替えてね」
シルは着替え一式を見繕って渡してくれる。
「ありがとう、助かるよ」
「狐鈴と和穂は着替え大丈夫?」
「ワチらは大丈夫じゃ」
「そういえば、狐鈴達森の中に行った時、風呂小屋に気が付いた?小川の近くにあるらしいんだけど」
シルの準備を待っている中、先に森へと入った2人にたずねてみる。
「小川か…そう言えば橋のかかっていた辺りに何か囲いがされていたのぉ、クラマは見えておったか?」
「拙者も確認はできておりませぬ、アレは小屋のようには見えませんでした。不自然に森が切り開かれていた様な気はしましたが…狐鈴様そろそろ放してはもらえませぬか?」
先程から、逃げてしまわないよう両手でがっしりクラマを捕まえている。
「そなた、妖力が空っぽでも飛べるではないか」
ジト目でクラマを見据える。
「…もう、観念しました」
狐鈴はクラマを足下へと降ろしてやる。
「ねぇシル、お風呂はいつでも温かいの?」
シルは自分の着替えを包み込みながら応える。
「んと…魔石に定期的に魔力を込めているから一応いつでも暖かいよ」
魔石…魔石…魔石か、やっぱり生きていくには動力源の魔石が必要になるんだな。
果たして、ボクに魔石を扱う事ができる日がくるのだろうか…。
「よし、行こう!ロディ気が向いたらいつでもおいでよっ」
出かけにソファーに座って果実酒を飲んでいるロディに一声かけるシル。ツーンとそっぽを向くロディ。
「じゃ、行ってくるね」
ボクが声をかけるとカップをこちらに掲げ「ごゆるりと」と返事してくれる。
「え、ちょっ、な、なに!?」
外でシルが声をあげる、何事か急いで外に駆け出ると、小柄な狐鈴が自分より大きな体のシルを背負っているといった、不思議な光景が目に入る。
「この方が早いのじゃ」
何を思ったのかシルを背負ったままデッキの外枠に足を掛け、ヒョイッと飛び降り、視界から消える。
「えぇぇぇエェーー!?」
「ウギャヤー!!」
ボクとシルの叫び声が森に響く。
木々で羽を休めていた鳥達が一斉に飛び立つ。
和穂が手をポンッと鳴らす。
「和穂、ボクはダメ、ホントダメだって」
笑顔で寄ってくる。
「ややや、勘弁して…」
涙目のボクに手をワキワキさせ近付いてくる。
「いや、ホント」
ボクの腕を自分の首にまわさせ、背中と両膝下に腕を回す、いわゆるお姫様抱っこの状態。
当たるふくよかな胸が柔らかい…
いやいやいや、そうじゃなくって…
次の瞬間、内臓が浮き上がる感覚、お尻と背中を撫でる寒い感触
「ウェひャァあーッ!!!」
音を立てずフワリッと着地する。
振動もなかったので、いつ着地…着陸??したのか…ギュッと和穂を抱きしめたままのボク。
足は地に着いている。
「なんだかわからないけど、うらやましいのぉ」
「死ぬかと思った…」
近くには腰を抜かしたシルがいる。
「ふむ、ソナタ達が素に戻るまでの時間を考えると、対して変わらぬようじゃな…」
狐鈴が首を傾げる。
「慣れるまで繰り返せば問題なかろう」
クラマが余計な助言を吹き込む。
「「絶対イヤッ!!!」」
ボクとシルは口を揃えて叫ぶ。
口がカラカラだ…。
森の小道はまっすぐ伸びている。
木を切り開かれた小道、軽の車だったら入ってこれるくらいの幅はありそう。
5分ほど歩くと丸太が道に並べられているのが見える。
近くまで行くとそれが橋の代わりになっている事がわかる。
小川は左から右に向かって流れていく。
結構滑る橋を渡り、下流の方を見ると、クラマ達が言っていた通り丸太の壁が建っている。
広さまでは分からないけれど、いくらか森が切り開かれている様子が、空の広さで分かる。
壁に沿って歩いていくと小屋が建っていた。大きさはそれ程でもないけれどしっかりした丸太小屋だ。
「外のは、いったん魔力を流して温めないとならないから、それまでは小屋のお風呂で楽しんでね」
ボク等に伝え、小屋の中に先に入る。ボク等もあとを追う様に中に入る。
「わぁ〜」
無意識に歓喜の声が漏れる。
入ってすぐこの部屋があり正面に1つ左右に1つづつ扉がある。左側の扉が閉まったとこなので、シルはそこに入って行ったのだろう。
部屋の中は6畳くらいだろうか、右側の壁伝いに棚があり9つの籠が置いてある。
左側の壁伝いには洗面台が玉砂利が貼られ作られている。丸太で出来ている小屋と良く合っていた。
正面の扉からは隙間を通して湯気が入ってくるので浴室だろう、そのおかげでこの室内は程よく温まっている。
右側の扉は何だろ?
トイレだった…
さっそく脱衣所であろう部屋へあがり、手荷物の着替えを籠の中に入れる。
おお、ボクのよく知っている脱衣所、天然温泉にきた様な気分だ。
この脱衣所の雰囲気が落ち着く。
ここを就寝用の部屋とあてがわれても、ボクはむしろ歓迎する事ができるだろう。
「アキラまだかの?」
正面の扉を背にし、そこには一糸纏わぬ美少女がいた。いや、ミサンガは着けているから一糸は纏っているのかな…?
肌は雪の様に真っ白で、おねだりをする様なルビー色の目でこちらを見つめる。
「手拭いはちゃんと持った?」
ひと声かけると「おぉ、そうじゃった」と首に手拭いを引っ掛け、「はよう、はよう」と急かしてくる。
隣でシュルリッと衣の擦れる音がする。
和穂が尻尾をフリフリしながら巫女服を1枚、1枚と脱いでいる。揺れる尻尾、シッポ、しっぽ…。
ボクの触りたい欲求を高める。
サワッサワッ
つい、欲求に逆らえず触れてしまう。
「ふぇっ…!?……//////」
突然の事でビクッと和穂は身を震わせる。
上衣のはだけた和穂が顔を赤くしてこちらを向く…何だか、艶っぽい
「…びっくりした…」
「あ、ごめん、つい…」
触ったのはボクだったのだが、ついボクまで釣られて恥ずかしくなってしまう。
ゆっくり衣類を脱いでいると、シルが戻ってくる。
「あれ…!?まだココにいたのかぃ?」
ビックリしている。
「いやぁ、作りが立派でつい見惚れちゃってさ」
ボクの言葉に対して、シルは腕組みして先に準備のできている2人をジッと見つめる。
「ホントさねぇ、狐鈴も見惚れちゃうくらい綺麗だし、和穂の大きな胸とか、同じ女ながらため息が出ちゃうよねー」
「な、な、な、…」
2人は顔を真っ赤にしている。
「いや、ボクが言ったのは建物の事だよ」
まぁ、シルの言っていることは分からないでもないが…。
「そう言ってもらえるとあたしも嬉しいよ、風呂場はもっと喜んで貰えると思うよ。クラマは外いるみたいだけど」
「はぁ!?アヤツやっぱり逃げおったのか?」
「いや、そういう意味の外ではないと思うよ」
ボクはなんとなくシルの言葉でピンッときた。どうやら、内浴、外浴がここにはあるようだ。
ボクは最後の下着を脱ぎ籠の中へ、眼鏡をはずし手を止める。
いや、楽しむ為には、眼鏡は必要だな。
きっと眼鏡をかけないと、白いだけの世界だろうから…。
女性同士とはいえ気恥ずかしさがあるので、手拭いを身体に被せ覆う様な格好で狐鈴達の元へ行く。
「シル、お先にー」
「はいよっ、石鹸は置いてあるからね」
シルを後に浴室へと足を進める。
包み込む様な湯気が気持ち良い。
そこに併せて木の香りが心地良く感じる。
「うわぁ…すご…」
銭湯のような広さはないけれど、10人くらいなら窮屈なく入れるのではないか…。
足下は玉砂利が敷かれてはいるが、足ツボのように痛くはない。
浴槽は木で出来ていて、最初に浴室に入った時の木の香りはここからしているようだ。
洗い場は入って右側にあり4人座れる。
左側には扉があるので、外風呂がある事が確認できた。
「こうやって見ると、アキラの髪って思っていたより長いな」
狐鈴がふと、言う。
「そう?」
普段結んでいるからあまり気にしていなかったけれど、肩甲骨あたりなら隠れるくらいだからロングには届かない、セミロングくらいだと思う。
「それでは入ろう!」と右手を拳にして突き上げ、張り切る狐鈴を「ちょっとまった!」と止める。
「なぜなのじゃ…」
恨めしそうにボクに視線を向ける。
「まずは身体を洗ってから…ね」
素直に、気持ちを切り替える狐鈴。
「そうじゃの、まずは清めなくてはなっ」
ボクを挟んで2人は腰をかけ頭から洗う。
髪が長い分、2人より遅れて頭の泡を落とす。
顔を洗って、拭き眼鏡をかけると、信じられないくらいの泡をまとった狐鈴が隣にいた。
ひつじ?ひつじがいるの?反対側を見るとやはりモコモコを纏った和穂がいる。
「えぇ?、どうしてそうなったのさ!?」
ボクが声をあげるより先に、入ってきたシルが声をあげる。
「この石鹸普通じゃないの?」
コレから身体を洗うボクは石鹸を凝視する。
「いや、石鹸は普通よ…」
「尻尾の泡立ちかの…?」
あぁ、納得…。
身体を洗いながら気がつく、ところどころに痣ができている。本当にお風呂にでも入らない限り気がつかないものだな…と苦笑い。
身体の軋む様な痛みはとれたものの、コレは時間がかかるかな…?
桶でザパーッと泡を流した狐鈴がボクの方に身を寄せてくる。
「ほむ、痛そうじゃの…ワチが治してやろうかゃ?」
心配する狐鈴にボクはこのままでいい事を伝える。
「なぜじゃ?」
不思議そうに覗きこむ。
「うーん、うまく気持ちが伝わるか分からないんだけど、この痛みがあるから、良くも悪くもコレが現実なんだなって実感がわくような気がするんだよね」
「ほむ…」
「心配してくれてありがとうね」
「うむ、では湯船に浸かろうかの」
桶で身体の泡を流してくれる。
足の指先から痺れるような湯の熱さを感じる。
「ふぇ〜、極楽じゃの〜」
肩まで湯船に浸かった狐鈴の髪の毛、触ると刺さるのではないかと思う程ツンツンになっていた。なんとなく横跳ねした髪の毛を指先でなぞる。指先から離れた髪の毛の先が"ピョンッ"と跳ね上がる。
「…なんじゃ?」
「いや、なんとなく…この前の雨の時も思ったけど、狐鈴の髪って濡れると凄いね」
「そうか?いつもの事じゃから気にならんよ」
そう言い微笑む。もともと肌が白いから、みるみるうちに薄ピンクになる。白桃の表面のようにほんのりとした感じが色っぽい。
「か…」
ポロっと口から言葉がもれる。
「んん?か……?」
ボクの呟きを狐鈴は繰り返す。
「可愛いっ!!」
思わず抱きついてしまった。
「コレはコレで、嬉しい状況ではある様じゃが、照れ臭いのぉ…」
湯船の中で尻尾が泳ぐ。
ふと、洗い場の方を見ると、和穂がシルの洗髪を手伝っている。
シルの髪の毛はボクの髪より長い、ボクだったらうっかり自分の髪の毛の上に座ってしまうかもしれない。
「ボクもちょっと手伝ってくるね」
浴槽からあがり、桶で泡を流す手伝いをする。
「こりゃ、大変だ、なかなか泡が落としきれない…」
和穂と2人がかりで泡を流す。
お湯を張った桶に髪の毛を入れ、ジャブジャブと濯ぐ。
「ありがとうね、身体洗うのは大丈夫だよ。折角だから外にも行って来なよ」
浴槽の隣りにある扉を指差す。
「和穂はどうする?温まってから来る?」
首を横に振りながら目をキラキラさせている。
「うん、わかった。狐鈴は……!?うっわゎ、あっかぁ!?」
赤くなっていた、全身真っ赤っかだ…
「ワチも行く〜」
シルの指差していた扉を開け外に出ると、何とも絶景が広がっていた。
足下はウッドデッキで、所々もともとあった木が突き抜けるように残され、左側から正面にかけて大きな岩風呂があった。内風呂の4倍くらいはあるんじゃないかな。右側には別に内風呂程度の広さの岩風呂がある。こりゃ凄いわ…。
クラマは大きな露天風呂の縁の木にとまっていた。
折角なので大風呂の方に入る。湯加減は内風呂より少し高め(冷める事が前提なのかな)になっていた。
いやぁ、露天風呂に入れるとは思わなかった、シルに感謝だな。
「おぉ、クラマよぉ、おるではないか、何故入って来なかった?」
狐鈴がクラマのいる木の下から見上げながら声をかける。
「拙者は脱ぐ物がないゆえ…な…」
クラマはキョロキョロと落ち着かない様子、目のやり場に困っている…のかな?
「ほぉぅ、クラマはウブじゃの」
狐鈴はニヤリと笑いながら言う。
「やかましい」
クラマは顔をふいっと上に向ける。
「でも、こうやって羽を伸ばす事ができるなら、妖力の回復も早いんじゃないかな?」
ボクは思ったことをそのままクラマにたずねる。
「たしかに、拙者にもその様に感じる」
クラマはバタバタと羽根を羽ばたかせ、ボクの背中の岩へと場所を移した。
「アキラどの、お願いがあるのだが、どうか聞いては貰えないだろうか…」
ボクはクラマのとまっている岩の方へと向きを変え正面から見上げる。
「ボクにできる様な事?狐鈴とか和穂とかシルじゃなくって?」
「和穂様でもできる様なのだが、できれば主人のアキラどのにお願いしたいのだ」
改まって言われると何か緊張する。和穂も狐鈴もピクピクと聞き耳立てているのはわかるが、クラマを見る様な野暮な事はしない。
「拙者が鴉天狗の姿に戻ったその暁には、改めてこの願掛け守りを作っていただきたい」
「………あぁ、そのままじゃ首絞まるもんね、足だと千切れる可能性あるし、うん、クラマのために一生懸命編むよ」
なんて嬉しい事だろう、こんなにも喜んでくれていたんだ。ボクはクラマに自然に微笑みかけていた。
「かたじけない」
ハトの様にペコペコと頭を下げる。
「頑張ってね」
「御意!」
クラマとの約束が1つできた。嬉しいな。もともと、かたいところがあるから、小娘のボクなんて必要とされてないかも…なんて思っていたんだよね…。
2人のやりとりを聞いていた和穂は振り向きもせずボクの腕に抱きつく。
「…アキラ、嬉しそう…」
「うん♪」
その後、小さい方の浴槽にも入ってみる。こちらはぬる湯っていうのかな、ぬるめでいつまでも入っていられるやつ。
その頃にはシルも合流する。
「シル、お風呂誘ってくれてありがとうね、ボク凄く感動した。
それに、みんなとももっと仲良くなったと思う」
ボクがシルにお礼を言うと、ふふっと微笑む。
「アキラ、良い顔してるね。さっきまでも無理して笑っていたりはしてないと思うけど、今のあんたの笑顔は自然で魅力的だよ」
「この風呂場は外は自然に冷めてしまうから、どうしても入る前に温める必要があるんだけれど、中はずっとあったかいからいつでも来ると良いよ」
ついつい長湯をしてしまった、ロディはどうしてるかな…
シルがボクに用意してくれた着替えは、一枚布のワンピースだった。
折角なので、髪は結わかないでおろしている(ずっと結わいていると痛くなるんだよね…)。
狐鈴と和穂は巫女服ではなく単衣というのか、白装束というのか、よく滝行で見たことのある純白の着物を纏っていた。
風呂小屋を後にする際「洗濯は明日しようね」とシルは言う。確かに今の暗さだと折角温まってきたのに川に落ちかねない。
狐鈴は狐火を召喚して辺りを照らす。
その後ろにシルが、ボクは天狐の面を被り2人の後を追う最後尾はクラマと和穂。
距離はそんなに離れていないのに、陽の落ちきった森の中って、思っていた以上に暗くて不安な気持ちにする。
そしてツリーハウスに帰ってくる。
「ただいまー」
皆で中に入りながらロディに声をかけるとウトウトしていた様でハッと体を硬直させる。
「おや、おかえりなさい、皆さん見違える程変わりましたですねぇ」
ボク達の見た目も先程と随分変わっているが、シルの髪の毛もボクが編み込みをしてみた。
「ゴメン、遅くなっちゃって、そして起こしちゃった?」
「いやいや、大丈夫ですぞ。それより楽しんでこれましたかな?」
「うん、良かったよ。今度はぜひ…」
「結構ですぞ」
即答だった…。ちぇっ…残念。
お帰りなさいませ、お疲れ様でした。
イメージを想像できるような表現をされる作家様、心よりリスペクトします…。
ほっこりして貰えたら、嬉しいです。
それでは、また次のお話で会いましょう〜♪




