第16話 ボクと皆のそれぞれの時間。
おはようございます。
投稿ペースが離れてしまってすみません。
では、さっそくですが行ってらっしゃいませ。
「本当にごめん、ロディのいた時はそんなに大変な状況として、受け止められていなくて。あたしが旅をしていた時は、確かに精霊が助けてくれたりしたし、言葉が通じない国に入っても、まるっきりって事はなかったから…荷物も野営できるだけの準備あったし…」
床のお茶溜まりを拭きながら目を真っ赤にしたシルが謝罪してくる。
「ボクもシルに怒鳴られるまで、そんな大事だと思ってもいなかった。テントのないキャンプくらいなら何とかなるって。ロディに生きていくすべもわからない赤子と言われた時も、あまりにしっくりきた言葉だったから逆に気にしてなかった…」
ボクはテーブルを拭きながら反省をする。
和穂はお盆にカップを乗せ下げにいく。
外はどれだけ危険な動物や怪物がいるのか、夜の危険さ、気候の変化…本当何も考えていなかった。
死ぬつもりなんてなかったけれど、例え自業自得でボクの身に何かあって死んでしまったとしても、きっと狐鈴も和穂も元の世界に戻る事なく、墓守りとしてこの地に残ると言い出しそうだ。『共にありたい』嬉しい言葉だったけれど、この言葉もしっかりと受け止めようと心から思った。
万が一と、そんな状況になったらクラマはどう思うかな、自由になってホッとするのかな?それとも悲しむのかな?
何だか色々考えていたらまた涙が出てきた。シルに心配かけまいと向きを変えたら戻ってきた和穂と向き合う形になってしまった。コチラに駆け寄ってきてキュッとボクを抱きしめて「だいじょうぶ、だいじょぶです」と小さいけれど安心する言葉をかけてくれた。
「ん、どうしたぁ?」
ゴッ!
「ったぁ!」
頭を上げようとしたシルがテーブルにぶつかる。
「「あはははっ」」
気持ちが落ち込んでいたから、ちょっとした事で笑い合える。
「ひとつ提案だ、皆戻ってきたら親睦を深めるため、お風呂に行こう!やっぱ裸の付き合いって大事だと思うんだ、それに…アキラはバッチィからねー、お風呂に入れて洗ってあげないとねー」
頭を抑えながら、シルはニヤリと意地悪な表情で提案してくる。
「ひっど、ボクは拾われた猫かょ…でもお風呂なんてあるの?」
「ふふん、森を少し入った所に小川があるから、近くに風呂小屋を建てたのだよ期待してくれたまえ」
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、胸をはって教えてくれたので、おそらくそれもシルの発明のひとつなのだろう。
「お風呂…楽しみ…♪」
和穂は大賛成の様子。稲荷寿司発言をした時と同じように尻尾をブンブンと振っている。
それにしても、あれだけ草原の中歩いていたのに、狐鈴も和穂も全く汚れていないのは、精霊だからなのか、それとも巫女服が神衣の類だからなのか…不思議だな…。
「ちなみに…」
シルに今現在身近な事で抱えて困っている事は何かと聞かれて、見えにくくなった目の事を伝える。
深刻な表情で「吸い取られた物を戻す回復魔法はない」と断言した。回復魔法とはいっても、あくまでその場凌ぎで削られた物を別の形のもので補ったり、自然回復する物を促進させるだけとの事。だからきっと、狐鈴がボクにしたのも回復魔法の類だったのだろう。
対処として使用している天狐の面を見せてみると「えーっ!?何コレ!!超凄くない!?…でも、常時付けているのは難しいね…」とボクと同じような感想をもらしていた。
実は誰からも何も言われてなかったけど、ロディを追いかけている時とか、ツリーハウスのハシゴを登る時は危険だったので面をつけていたんだよね。
「しっかりした対処はできないけれど、せめて辛うじて見える目の方だけでも何とかしたいね、眼鏡の試作品を作ってみようか?」と言ってくれた。そんなことできるのか聞くと「あたしは万能発明家の魔女だよ!……と言いたいところだけど、眼鏡は記憶の産物だし、それに試作品なんだから失敗しても文句は無しで」といい、ついでに「お代は出世払い…いや、何に出世するのん?まぁいいわ、そのうち食べられるであろう美味しい料理で手を打つさ」とボケツッコミを披露し、別の部屋に行ってしまった。本当に人が良くって、面倒見の良い人なんだな。
和穂と2人になった。
「これからの生活に祈りを込めて、お守り作ってみようか」と伝えると和穂は興味深々に頷いた。ソーイングセットから刺繍糸を取り出し一緒にミサンガを編むことにした。最初は絡まっているのかと思っていたみたいだけれど、形になってくると感動してくれ、今は楽しそうに黙々と編んでいる。
2人で作ったミサンガは6本。
模様はあれこれ作れないのでストライプの色違い、赤と若草色のミサンガを手に取り、「お願い事を思い浮かべてね」と言い和穂の右手首に巻く。和穂がボクに選んでくれたのは若草色と水色のミサンガだった。
ボクにの右手首に和穂が結んでくれたタイミングで窓枠にクラマが戻ってきた。
「もどったぞ」
和穂がそちらに目をやり、紫と茶色のミサンガを手にして窓際に駆け寄り、クラマの首元へ巻く。
「…祈れ」
「ーーッ!?」
「!?」
透き通った声で無感情に言われるその言葉、固まる場の空気…
「いやいやいや、和穂?それじゃ言葉が足りないというか、死刑宣告だよっ!」
「…………!」
クラマの首に巻こうとしていたミサンガに目をやり、ボクの発した言葉で気がつき、あゎあゎする和穂。
固まったままのクラマ。
手作りのお守りで、巻く時に願をかけるという事を改めて伝えると「こ、殺されるのかと思った…」と身震いさせる。
今度こそと、ミサンガをキュッと結ぶと、
「ただいま、帰ったのじゃ」
風呂敷を首のところで結んだ狐鈴が玄関から元気な声で帰ってきた。
「戻りました、おや?シルは席を外しているのですかな?」
ロディも風呂敷を袈裟懸けし玄関から顔を出す。
「おかえりなさいー」
わちゃわちゃしているボク達の様子を見て
「ん?何をしているのじゃ?」
と、狐鈴が言う。
狐鈴には赤と水色のミサンガを選んだ。
「お守り作ったんだ。願掛けだよ、さぁ結ぶから右手を出して、お願い事を思い浮かべてね」
「ほぅ、コレはどうなるのじゃ?身体に取り込まれるのかの?」
ミサンガを見ながら言う。
「それ、すごい怖いね…願いが叶うと切れて外れるんだよ」
「ほぅ、そいつはまたおもしろいの。どれ…」
狐鈴が右手をこちらに差し出す。ロディには和穂が紫と白のミサンガを巻いている。
狐鈴とロディは手首に巻かれたミサンガをしげしげと見つめたり、指先でなぞったりしている。
「御利益ありそうな精巧な作りですな」
「これは、アキラが作ったのか?」
「和穂と2人で作ったんだよ。はじめての生活でみんなで願掛けして、誰が最初に叶うかわからないけど、叶ったらお祝いするっていうのも何か良いなって思ってね」
「うむ、良いなワチも気に入った」
背負っていた風呂敷をテーブルの上に降ろし、ソファーに腰掛けてからもミサンガを指先で撫でている。
ロディも向かいに回り込み風呂敷をテーブルに置くと、ジャラリと硬いものが擦れる様な音を立てる。そして狐鈴同様ソファーに腰掛けミサンガを触っている。
ボクと和穂もソファーへと腰掛け、喜んでくれた2人の様子を見て微笑む。クラマに関しては首に巻かれているので、自分で見れないらしく、テーブルの上に降り2人の手首のミサンガに目をやる。
「クラマ!」
スマホを構えてクラマを呼ぶ。こちらを向いたので、写真を撮る。こちらの世界では妖精も実体化するって話だったので、もしかしたらと思ったのだ。しっかり鮮明に写っていた。
「ほら、クラマのはこんな色のが付いているんだよ」
と、画面を見せるとしばらく眺め「クスッ」と笑う。どうやら喜んでくれた様だ。
「森の探索の方はどうだった?」
ボクの声掛けにロディが反応してくれた。
「シャドウウルフというモンスターの群れがおりました。いやはや、お二人の戦力は目を見張るものですな。クラマ殿の魔力…妖力といいましたかな?を使い切る事を試してみたいとのことでしたので、様子を見させてもらいましたら、ひと群れでは事足りず、別の群れまで討伐する事になりました。その戦利品がコレですな」
先程ロディが持っていた風呂敷を開けると黒光りした黒曜石のような石が50個はあるのかな?テーブルへと広がった。
「シャドウウルフの魔石ですな」
「妖力を限界近くまで使い切る事で回復すると容量が少し増えるはずなのじゃ、明日回復した状態でどの程度増えているのか確認したくてな」
狐鈴がその行動の真意を伝えてくる。
狐鈴の背負っていた風呂敷も気になる大きさだが…とそちらを見ていると、またロディが説明してくれる。
「そちらの包みは"アカウイダケ"という、大変美味なキノコが群生していたので採ってきたわけですな」
「何かエライ数の魔石があるねぇー」
皆テーブルからその声の主へと視線を移す。
シルが部屋から出てきて入り口から声をかけてきた。
「お帰りさん。どうだい、森は楽しめたかぃ?」
と、狐鈴達にたずねる。
「まだまだ、試したい事とかあるしの、お楽しみはまだまだじゃ」
と微笑みながらこたえる。
「ロディ、その魔石の数を考えると近々間引きする必要ありそうだな?」
真剣なシルの表情にロディは目を細めて返事する。
「いえいえ、間引きの必要はないですぞ。コレは群れを探して討伐してきたものなので群れ4つ分ですぞ」
「うへぇ〜呆れるねぇ、わざわざ探して討伐したのかぃ」
突然隣りに座っていた和穂が袖をくいくい引っ張りボクを呼び、手に最後の1本のミサンガを握らせる。
「シル、ちょっと…」
声をかけると、ポリポリ頭をかきながらコチラへとくる。
「悪いねー、客人そっちのけで物作りに耽っちまって…」
「それは別に気にしなくていいんだ、こっちも和穂と物作りしてたから」
目の前に茶色と白、若草色のミサンガを見せる。
「おぉー、それ、知ってるよ!何つったかね、名前は忘れたけど、アレだよね、手首とか足首に結ぶやつ…何、それあんた作ったのかぃ?」
「コレはシルの分だょ、和穂と一緒に作ったんだ」
笑いながら伝えると、シルは改めて一同を見回す。皆右手首をシルに見せる。
「へぇ〜たいしたもんだねぇ、あたしこんな器用なもの作れやしないょ」
「それじゃ、シルも儀式を始めるよ」
「うぇ!?、コレ呪いだったっけ?」
「願掛けだよ、さぁ、お願い事を声高らかに言うと良いよ!」
「ちょ…、……皆声に出して言ってないよね…」
ジト目を送られる。
「ふふ…じゃぁ、右手首を出して、願掛けしてー」
素直に右手を差し出し、目を瞑る。ボクはその手首に「シルの願いが叶いますように」と祈りながら、ミサンガをしっかり結ぶ。
「よし、それじゃ、誰の思いが最初に夢叶うのか、楽しみだねぇ」
目を開けたシルは結ばれたミサンガを大事そうに左手でひと撫でさせる。
シルはいったん部屋へと戻っていき、改めてボクの前に出来上がった眼鏡を両手で包む様に持ってきて渡してくれる。
「ゴメンねぇ、ガラスとかなかったから、極力透明度の高い石を加工して作ってみたんだけど、どうかなぁ…」
見た目は縁のない眼鏡そのものだけど、実際のところは、精密に検査をしたりしていないものなので掛けてみないことには分からない…そもそも、レンズって作れるものなのかな?
出来上がった眼鏡をかけてみると、感覚的なものなのかもしれないが、少し光の強さが抑えられたような気がした。石の効果なのか温かみを感じる。ぼやけていた視界がキュッと締められた様にピントが合わせられる。小さいものが大きく見える様な効果は残念ながらなさそうだが、裸眼よりはハッキリ見える感じだ。
「シル、凄いね。小さいものが大きく見えたりはしないけど、ボヤけた視界をはっきりとしてくれている様に見えるかな。夜の暗さでは不安だけど、昼間なら安心してハシゴを昇り降りできそう」
腰に手を当てていたシルがフッと笑う。
「まぁ、今のところ改良がまだまだ必要なのは分かっている事だしね。とりあえず、改良するまでの間の繋ぎとして使える様なら良かったよ。ガラスとは違うから、傷もつきにくいし何より割れない頑丈さがあると思うんだ」
「ん、アキラよ、それちょっと見せておくれ」
クラマにミサンガを見せていた狐鈴が視線をコチラに送り言ってくる。
「何か気になる事でもあるの?」
両手で眼鏡を外し、狐鈴の左手に渡す。まじまじと眼鏡を見た狐鈴は呟く。
「ほぅ、コレはあれじゃの、アキラの持っている数珠の石にかなり近い物でできているようじゃの」
「水晶でできているの?」
ウエストポーチから数珠を出してみて、狐鈴の持つ眼鏡と並べてみる。
「ん〜、詳しいアレまでは分からないがな、その数珠の方が力を持っているのは確かなのじゃが、同じような効果を感じるってだけじゃ」
そんな話を聞くと、何だか御利益ありそうな眼鏡に感じる。
狐鈴から眼鏡を受け取り、あらためて数珠と見比べる。
「シル、ありがとう」
「しっかりしたのはまた今度手を加えて作ってみるから、今はそれで勘弁しておくれよ」
シルに向き直りお礼を言うと、シルも微笑む。本当にシルって凄い人だなと思う。
「そっちの包みはなんだぃ?」
「アカウイダケですぞ」
「おぉ、いいねぇ、今夜の晩御飯にしようかね、ロディも食べていくだろ?」
「そこは遠慮なく呼ばれても良いですかな?」
「もちろんさ、でもちょっと集中しすぎたから、疲れちまってね。さっき、アキラ達とも言っていたんだけど風呂に行こうかと思うんだロディも一緒にどうだい?」
「ぅ…風呂…」
あきらかに嫌そうな顔をしている。シルはこの反応を知っていてわざと言っている様に見えた。
「別にとって食ったりしないし、ロディも欲情なんてしないだろ?たまには労いとして洗ってやりたいんだけど?」
手をワキワキさせるシルにロディは
「気持ちだけで結構、ゆっくり留守番でもしてますぞ」
ツーンとそっぽを向いてしまう。
「しゃーなぃ、せっかくみんなと裸の付き合いして、絆深めようと思ったけど、ロディに留守番任せて行って来ようか」
「拙者も遠慮させていただきた……!?」
クラマが言いきる前に狐鈴が立ち上がり、クラマを両手で捕まえる。
「なぁに、とって食ったりせんから、一緒に来るが良い」
圧が凄い…。
こうして、少し陽の落ち始めた森の中へと向かう事になった。
お帰りなさいませ。お疲れ様でした。
物語りにおいて大きな進展はありませんでしたが、ちょっとした絆を物語りの中に編み込んでいきたく思いました。
次回はお風呂でまったりな話とさせていただきます。
それでは、またお会いできたら嬉しいです。




