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第152話 ボクと天ぷら祭り。


 んーーーよく寝たーー気がする。


 目を覚ますと、いつもと同じ荷車の天井、そしてガッチリ和穂に抱きつかれている。

 和穂のあちら側ではチヌルとアコさん、足元にはウメちゃんが、スヨスヨ寝息を立てている。


 昨夜は食事会が終わって、何もなくそのまま解散、就寝…………なんて事もなく、気が付けばボクはステージの上に立たされて、歌わされていた。

 皆の記憶に残っているリクエストの歌を数曲と、『踊りたーいっ』と言うリンネちゃんの希望で、季節外れの盆踊り。


 初見の人も、見よう見まねで、手振り足振り、手拍子足拍子で、トゥエルさんも照れた表情で、リンネちゃんに教わりながら、皆でワイワイと夜を楽しんだ。



「和穂ー、トイレー」

 和穂の体をポンポンと、触れると和穂は「んー」と唸りながら、ノソノソと体を起こす。


「まだ、ゆっくり寝てたら?」

 和穂ははだけた着物をそのままに、ポヤーっとした表情で、開かないまぶたをコシコシ擦り、首を横に振る。


 ボクは下から和穂を見上げた状態のまま「おはよう」と、声をかける。


「ん……うん」



 朝ごはんの支度とかは、まだ特に考えていなかったので、着替えもせず、起きたそのままの姿で扉を開ける。

 外からは冷たい空気が流れてくる。


「うー、寒いよォ……」

 後ろからチヌルの寝言が聞こえる。


 ボクは慌てて外に出ると、和穂も出てきて扉を閉める。


 メガネはかけていたものの、離れた場所の人の顔が分かるほど、外は明るくはなっていない。


 けれど、目の前に見えた人影ははっきりと分かる。


「狐鈴、ハルとミュウ……こんな朝早くに何してるの……」

 ボクの声にビクリッと体を震わせ、バツの悪そうな表情の狐鈴がこちらへとやってくる。


「あー、お、おはようなのじゃ……。

 アキラに見つかってしまって、これじゃ秘事は無理じゃの……。

 稚魚とキノコを採りに行ってこようとしてたのじゃよ」


「なんで? こんなに朝早くから……」


「うむ、昨夜フェイのヤツから、アキラ達が天ぷらを作るって聞いての、ワチらも何か食材をと思っての。

 皆の起きとる時間に動いておったら、嗅ぎつけた者達が集まって、迷惑を掛けると思ったのじゃ」


「アキラお姉ちゃん、ハル達も天ぷら食べたい……」

「あきー……」

 ハルとミュウも悲しそうな表情をしている。


 ボクとしてはそんな大事になる様な企画ではないと思っているんだけどな……。


「……わかった、見なかった事にするよ。

 ただ、無理はしない事。

 あと、朝ごはんには帰ってくる様にねっ」

 はぁ、とボクはため息を吐き、3人の気持ちを汲んで、無駄にしない様に案を飲む。


「うむ、承知したのじゃ、期待しておると良いのじゃ」

 狐鈴はニパッと笑うと、3人はお互いの顔を見て頷き、林道へと向かって行った。


「和穂、今日の朝ごはんは、いつもよりのんびりとしてから作ろうね」

 和穂はクスッと小さく笑って頷く。


 そもそも、そんなにも大人数になったかな?

 ボクに和穂は勿論付いてくるけど、場所がミルフィの家なのでリンネちゃんとオルソさんも参加するよね。

 あとはフェイと、チルレ、パーレンさんにカフカさん、いても、カフカさんの娘のアンリンさん……それと材料を採りに行ってくれた3人……。


 あ、確かに、思っていたより普通に多くなっていたわ……。


 料理を普段から作っているメンツが、お昼時に揃って居なくなるのも何か不自然だから、天ぷらを作っている時に、皆んなの食事も同時に作れた方が良いかもしれないな。


 うーん、どうしたものか……。


「よし、和穂っ」

 和穂はなぁにー?と小首を傾げる。


「とりあえず、トイレ行こうっ」

「…………」


 


 狐鈴達は約束通り、ほんの朝メシ前には両手に小さな魚の入ったバケツを持って帰ってきた。

 何だかミュウの背負っていた風呂敷が、モソモソと動いていたのはきっと気のせいだろう。


 トゥエルさんのお弁当とお土産は、カツサンドを持たせた。


皇后(シェリス)様によろしくな、トゥエルも飯の調達ひとつでここへ来れるほど暇じゃないんだから、ちゃんと断らないとダメだぞ……」

 シルはやれやれと言う。


「無理ですよー」

 トゥエルさんは肩を落として、ため息をつきながら言う。


「はは、次こそ王宮で会おう、気を付けて戻るんだよ」


 そして、トゥエルさんを乗せた巨鳥は舞い上がり飛んでいく。

 ボク達は小さくなっていくその後ろ姿を見送った。



 洗濯にはチルレとフェイ、パーレンさんカフカさん、アンリンさんが合流してくれる。


 ボク、ハル、ミュウの汚れ物に加えてシルの洗濯物も預かっていたので人数が多いのは助かる。

 もっとも、チルレとフェイの2人に関しては、野菜の朝摘みの後に、沐浴しにきたついでみたいな感じなんだけどね。


 ボク達が洗濯物を干し終えて、ミルフィの家に到着をすると、濃紺色の襟付きワンピースに、小さなレースやフリルのついた白いエプロンを着けた……メイド服姿のミルフィとリンネちゃん、そして、パンを焼いている時の作業着姿のオルソさんの3人が迎え入れてくれる。


「な、なな、何? どんな状況なの?」

 オルソさんの趣味??


「え……? 何って……調理着だけど??」

「これから新しい料理をするんですよね?

 せっかくなので、ルーフェニアさんの様に容姿から本気を見せようと、家内も娘も気合いが入っていまして……何か問題ありましたか?」

 ミルフィは特に何の疑問ももたずに答え、そしてオルソさんも、聞いたボクの質問に対して逆に聞き返してくる。


 あ……思い出した。

 そういえば、そうだった。

 ルーフェニアさんが、ボク達と料理をしていた時メイド服姿だったわ……あまりに違和感なく着こなしていたから、すぐに馴れていたんだった。


 バニースーツとか、着ぐるみがこの世界の調理服じゃなかった事だけは感謝しよう。


「油はかなり危険なので気をつけて下さいね」

 みんなで広い作業台に集まる。


「さて、食材を確認しましょうか……」

 ヤンマ姉妹の畑の野菜、鶏肉、狐鈴達の採ってきた名前の知らない小魚、風呂敷から出てきた、カクモチダケ、アカウイダケ、ツミダケ……。


「うわわわーっ!!」

 ボクはミュウの持っていた風呂敷を開けてびっくりしてひっくり返る。

 驚いていたのはボクひとりで、チルレはケタケタ笑っている。


 風呂敷の中には、拳程の大きさの赤い団子虫のような生物が入っていた。

 

「へぇー、ミョルニオットなんてよく見つけてきたね」

 パーレンさんは片手でムンズッてそれを掴み上げると、感心して言う。

 

「ミョル……? 虫じゃないの??」

 ボクはよく分からない名前のものを聞き返す。


「んー、虫ではあるねぇ、これは幼虫なんだけど、成虫になると殻が硬くなりすぎて、とても食えたもんじゃなくなるんだけどね、今のこの状態だと茹でても、焼いてもうまい高級な食材なんだ。

 殆ど水の中の更に土の下に住んでいて、今の時期だと特に見つけるのが難しくてね」


「うむ、湖の精霊に教えてもらってな」

 狐鈴は何も問題ないように話している。

 まぁ、狐鈴達はイナゴとかも、食べているだろうし、気にならないのかな。


 ええっと……これはボクの問題だろうな。

 虫として考えない方が、ボク自身の幸せの為には良いのだろう……何か別の物として考えるんだ。

 みんなは、ミョルなんたらを、目をキラキラさせて見ている。

 ボクも受け入れられるものは何だ……。


 ーー!!

 よし、ボクはロブスターだと思う事にしよう、うん、それが良いね……。


 

 それからは、流石料理人の精鋭部隊というべきか、皆の手際の良いのなんの。

 あっという間に指示した下拵えが完了する。

 

 天ぷらは揚げたてが1番美味しいから、先に天つゆを作る事にした。

 それに合わせて、手持ち無沙汰にしていた、ハルとミュウ、狐鈴にはうどんを打ってもらっている。


「実は天ぷらって、この醤油(ソーイ)とダシ汁(今回は干しアカウイダケ)で作ったスープで食べると美味しいんですよ、これはうどんのスープとも共通してるよね。

 だからうどんの上に乗せて食べる事を、【天ぷらうどん】って言うんだ。


 だけど、この場ないない、みんなへのお昼に、振る舞える程の数を用意する事はできないので、この天ぷらの衣から離れたカス、天カス……揚げ玉とも言うんだけど、これを乗せたもの、お昼は【たぬきうどん】を振る舞おうと思うんだ」

 ボクの話に皆は頷く。


「ちなみに、このスープをもう少し甘くしたものを、ご飯の上に天ぷらを乗せてかけてあげると【天丼】になるんだよ」

 ミルフィはポンッと手を打ち、ボクの言葉に何か気がついた様子。


「ああ、だからご飯が必要だったんだねっ」

「んー、まあそれもあるのだけど、天ぷらって口の中がしょっぱくなるからね、パンよりご飯の方がボクは好きってだけなんだけどね。


 さて、話がちょっとずれちゃったけど、今話していた【天かす】これはこれで美味しいんだよ」


 油の温度を確認する為に、何度も落としては浮かばせていた揚げ玉の山をひとつまみ手に取り口に運ぶ。


 サクッサクッ


 ボクの行動を見たみんなも、マネをする様に口に入れてみる。


 サクッサクッサクッサクッ……


「うわーなんだか、楽しい食感だね」

 フェイがミルフィとキャキャッと、感想を言いながら口にする。


「それじゃ、今度はこれに浸した物を食べてみて」

 天つゆに浮かせた揚げ玉を試してもらう。


「へえー、ツユをたっぷり吸って、油の味を残しながら口の中で溶けるね、コレは面白い」

 パーレンさんはカフカさんと頷き、確かめている。


「これで、天ぷらの衣の魅力って、分かったでしょ? それじゃ、いよいよ天ぷらの実演をしていきますね、出来上がった物は、天つゆか、(エン)で食べるといいですよ」


 そう言うと、期待に目を輝かせていたみんなに、狐鈴とハル、ミュウが加わる。



 まずはモータルを斜めに輪切りにした物。


「んー、ホクホク、エンのしょっぱさがモータルの甘味を強くしてる」

 カフカさんが笑顔でふた口目と口に運んでいる。


「んまーっ」

 ミュウがほっぺたを抑えて喜ぶ。

 

 狐鈴や、和穂は目を瞑って、味を確かめる様に食べている。

 これは、ほくほくのサツマイモに、安納芋のような甘さを兼ね備えた物が、似た様な味だろうから想像はつきやすいだろうね。


 キノコ類はどうだろうか。


 アカウイダケは、香りが強くなっていて、エンやソーイで食べると美味しかった。

 天つゆが悪いってわけではないのだけれど、干しアカウイダケからとったダシ汁だったので、何も主張がないというか、食感だけというか……


 カクモチダケは、エリンギのような食感で無難といえば無難。


 ツミダケは天ぷらにしてもトロミは発生する様で、衣の内側がオクラの様にトロミが出ていて、榎の様なシャキシャキ感も感じられて美味しい。


 群生トマト(リョヤット)の天ぷら。

「あ、あつっ……」

 プチュッと弾けて中から汁が飛び出す。味が濃くなって甘酸っぱい。

 コレを食べたら、ミニトマトのベーコン巻きの天ぷらが恋しくなった……。



 それから、アイルとモレットの細切りを使って作ったかき揚げ。


「ん、うん、アイルが甘くて美味しいっ!」

 うんうん、とチルレと頷きなが食べる和穂。


「これはエンがいいな」

「私は天つゆが好きよ」

 オルソさんとミルフィさんも楽しんでくれている。


「フェイ、コレなんていったっけ?」

 ボクが箸で摘んでみせた野菜は、緑色のピンッと伸びた茎で先端がくるりとゼンマイのように螺旋を描いている。


「ナーポだよ」


 ナーポはアスパラのように、みずみずしくて、ほんのり甘味がある。エンも天つゆも凄く合う。

 この野菜はフライにしても美味しいだろうな。


 続いて鶏肉……【かしわ天】っていったっけね。

「おー、肉の旨みが凄いね」

 チルレは声をあげる。


「うん、これが天ぷらのコロモを纏った鶏肉だけど、チキンカツとはまた違うでしょ?」


「んー、確かに、好みが人によって分かれそうだけど、どちらもただ焼くより、全然肉が美味しくなっている事はわかる……」

「うん、どっちも美味しいって事は良くわかった」

 腕組みをしてチルレはフェイと一緒に唸り声を上げる。


「昨日アキラが言っていた油の違いって、思っていた以上に口にしてみると分かるもんだね。

 確かに、コロモと油の相性が分かれるのかもしれないね。

 確かにこの天ぷらじゃあ脂肪を溶かして作った油だとちょっと癖が強いかもしれないね」

 パーレンさんは顎に手を当て言う。


「それじゃ、小魚も揚げていこうかな」

 ボクの頭の中では、シシャモのようなワカサギのような味を想像していたのだけど、これは、想像を裏切らない味だった。


 狐鈴はエンをチョンチョンと着けると、ひと口でパクリと食べる。


「うん、うまいのー」

「これもきっと油に影響されると思うけど、天ぷらでも、フライでも美味しく食べられると思うよ」


 そして、問題児…… ミョルニオット、ボクにはコレばかりはよく分からない。


 とりあえずボクは捌き方もよく分からなかったので、下拵えはわかる人にお願いした。

 ボクはこの先もコレを自分の力で捌く事はないと思う……。


 最終的に目の前にあるのは、ピンク色した大きな鶏肉の塊のような、巨大なエビの剥き身のような姿になっているわけだが……


 茹でても焼いても旨いと言うなら、きっと揚げても旨いのだろう。

 

 ええい、ままよ……


  トプンッ

  シュワシュワーー……パチパチンッ……


 うー、悔しいけれど、何だか凄く良い匂いがしてく

る。


 揚がってしまえば見た目は大きな天ぷらの塊だ。

 ナイフでひと口大に切り、みんな、それぞれフォークに刺す。


「んー、ウンウン」

「プリプリするー」

「甘ーい」

「歯ごたえも程よいね」


 ボクは少し抵抗があって、周りから一歩遅れた状態で口に運ぶ。

 食感はエビのようなプリプリ感、ほんのり甘味を感じる。


「おいし……?」

 ミョルニオットの想像外の美味しさにビックリしていると、パーレンさんがポンポンと肩を叩いてくる。


「どうだい? アキラは虫があまり得意じゃないんだろ?」

 ニカッと歯を見せ笑いかけてくる。


「え、ええ、やっぱり分かりましたか……」


「そりゃねぇ、あの驚き方といい、捌いている様子を見ていた時の表情といい、ねぇ……まあ、ミョルニオットで、少し虫に対しての価値観も変わっただろ」

 パーレンさんはため息をひとつつき腕組みをして言う。


「コレを機に少し慣れるといいなと思ってます……」


「だね、知らないままは勿体無いよ、あたし達もアキラの料理で、常日頃から驚いているわけだしね」

 パーレンさんはウンウンと頷く。


「アキラの苦手なところは私達が手伝うから、安心してね」

 ミルフィがニッと笑う。


「アキラにも苦手なところがあるなんて、大発見だったねえー」

 フェイが言って、ミョルニオットのカケラをパクリッと口にする。


「あきー?」

 ミュウがフォークにミョルニオットを刺してコチラに傾ける。


「うんうん、ありがとうねー」

 ボクはパクリッとそれを口にする。



「さて、これでひと通り天ぷらにしたわけだけど、みんなの好みはあったかな?

 ここからは自分の好きな物を天ぷらにしてもらって良いと思うよ。

 それに、ミルフィにご飯も炊いてもらっているから、このまま早いお昼にしようかなって思うのだけど、天ぷら盛りにするか、天丼にするか自由に決めてもらって良いんじゃないかな」


 ボクはそう言いながら、天丼用に天つゆを鍋にあけ、蜂蜜で甘味を加える。


「うん、ご飯に合う、絶対合うんだよっ! でもどちらかって選べないっ!! どうしよう……」

 チルレが頭を抱えて本当に悩んでいる。


「アキラお姉ちゃんはどうするの?」

 リンネちゃんがボクに尋ねてくる。

 ボクの返事を待つようにハルやフェイがコチラを見ている。


「うーん、ボクはアイルの天ぷら、かき揚げをご飯に乗せてかき揚げ丼にして、他の天ぷらはサクサク天ぷらで食べたいから、エンで食べようかなって思ってるよ。

 あとは、ツミダケと細葱(トゥ)の相性も良さそうなので合わせた天ぷらを作ってみようかな。

 和穂もボクと同じ奴で良い?」


 和穂は期待で目をキラキラさせて、尻尾を激しく揺らしながら、激しくコクコクと頷く。


「ワチは最後の虫の天ぷらを天丼にして、小魚の天ぷらをエンで食べようかの」

 狐鈴は元気に作業台に身体を乗り出して注文してくる。

 狐鈴……できれば、虫って言わないでほしいな……。


「リンネはお肉とモータルの天丼? 食べたいっ!」


 まず依頼される天ぷらを揚げていく。


「あっ、良い事思いついたっ」

 ボクは天丼用のあまじょっぱく作ったタレをさらに別の鍋に分け、ツミダケを投入してトロミの餡を作る。


 ご飯をよそって、その上に天丼のタレに潜らせたかき揚げを乗せて、更にツミダケでトロミのついた餡を掛ける……。


 その工程を隣で見ていたフェイの喉が鳴る。


 最後にトロミの上にカリカリの天かすを匙でパラパラと掛け、特別なかき揚げ丼を完成させる。


「はいっ、和穂、先に食べてて良いよ、天かすがサクサクのうちに食べたら美味しいと思うんだ」


 和穂は丼をボクから受け取り、ひと口分箸で摘み上げて口に入れると、2回程咀嚼をして、動きを止める。


「……好きっ」

 和穂はそう言うと嬉しそうに尻尾を振りながら、もうひと口と箸を運んでいく。


「ワチもそのトロトロ欲しいのじゃ」

 狐鈴には丼を作っている間に、数匹小魚の天ぷらを皿に盛って先に渡しておく。

 丼を渡すと、エンを皿のスミにチョイチョイと乗せて、部屋の端に行く。


「リンネは、リンネは……お肉にだけトロトロ欲しいっ!」

 ご飯の上にモータル天を2枚、かしわ天を1つ乗せて、トロミを肉の上に掛ける。


「わーい、ありがとうっ!」

 そう言うと、大事に両手で受け取り、テーブルの方へとかけていく。


「あたしは……ちょっとずるいかもしれないけど、天ぷらうどんを食べてみようかね」

 パーレンさんはそう言うと、鼻歌を歌いながら、手際良くカマドでうどんを茹で始める。


「ハルはお肉と、和穂お姉ちゃんの奴小さめにした天丼が良いなー」

「お肉も丼にしちゃって良いの?」

「うんっ! ミュウは??」

「ねーの」


 指を咥えてボクの作っているところを見ていたミュウは、リンネちゃんの待っている様子見て決めた様だ。


「はいっ!」

「ありがとうっ」

「とっ」

 2人に丼を渡してやると、リンネちゃんの待つテーブルへ駆けていく。


「次は誰にします?」

 ボクが声をかけると、ミルフィが小さく首を横に振って口を開く。


「アキラ、和穂さんが待っているから、私達は自分でやってみるから、自分の分を作って、和穂さんのとこに行ってあげなよ」

 オルソさんもウンウンと頷く。


「ありがとう」

 ボクはそう言って、和穂を呼んでお代わりのかき揚げ丼と、ボクの分を渡して、天ぷら盛りを皿の上に作ると、カマドを開け渡す。


「うー、どうしよう、みんなのを見ていたら、どれも美味しそうに見えて、更に迷うー」

 チルレが叫んでいる。


 ボク達はいったん外に出て木陰で食べる事にした。


 知らない鳥のさえずりの中、懐かしい味の天丼を食べる。

 食材が若干自分の世界のものと違っていても、似たような味、変わらない物を食べられるって何だか安心するな。


 和穂も幸せそうに、かき揚げ丼を頬張る。


「和穂、記憶の天ぷらと同じ味にする事できたかな?」

 口の中の物を飲み込み唇をペロリとした和穂はコクコクと頷く。


「流石アキラ、だよ……私の想像の上をいく物を出してきたからな、きっとみんなも喜んでいると思う」

 和穂はふふっと笑うと、皿のモータル天を摘み、エンをチョンと付けて、パクリッと口にする。


 食わず嫌いは勿体無い……か。

 ミョルニオット天にエンを付け、パクリッと口に入れる。……おいしい。



 

 ボク達がカマドに戻ると、うどんを次々と茹でている光景が目に入る。

 さっきあれだけ悩んでいたチルレも、お腹をさすりながら天かす作りをしていた。


「あっちに戻って茹でるんじゃ、火起こしたり時間かかるから、茹でて持っていこうって事になったんだ」

 パーレンさんが湯の中の麺をかき混ぜながら言う。


「あ、それで良いと思います」

 茹で上がったうどんは、別の鍋に取り出して、狐鈴が収納空間へと仕舞って行く。


「アキラ、天ぷらうどん美味しかったよ」

 次々とうどんを茹でていく中、パーレンさんが声を掛けてくる。


「かき揚げも、モータルもうどんと合うんだねー、植物油の購入楽しみにしているよっ」

「天ぷらも喜んでもらえて良かったです。

 もちろん、植物油は料理の幅も広がりますからね。 ちゃんと買ってきますよ。 和穂も覚えておいてね、天ぷらがいつでも食べられるようになるから」

 ボクが言うと和穂もコクコクと頷く。


「カフカさん、貴重な食物油の提供ありがとうございました」

 ボクがお礼を言うと、麺を茹でながらニッと笑って手を振る。


「何を言ってるのさ、私がアキラさんの未発表料理を食べたかっただけさ、それにうちの娘にも、料理の可能性をいっぱい見せてやりたかったからね」


「モータル天美味しかったよ、またひとつモータルの料理が増えました」


「うちの娘、アキラさんがモータル団子ぜんざいを作ってくれてから、すっかりモータルの虜になっちまってね、うちの畑にもモータルが埋まるようになったんだよ」


「それで昨日のあの料理だったんですね、あの発想ボクにはなかったです。不思議な感じで、それでも喧嘩しないで美味しい料理でした」


 アンリンさんはボクの感想を聞いて、表情を明るくして、キュッと拳を胸元でにぎっていた。


 こうして、ボク達の調理実習、天ぷら祭りは好評で終える事ができた。

 お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

 天ぷらといえば、スイカと食べ合わせが悪いとか聞いた事があります、油と水分が喧嘩するからなのかな?

 でも、天ぷらとソーメン良く一緒に食べる事があるけれど……。


 私は塩と七味を混ぜたもので天ぷらを食べるのが好きです。


 さて、本日はこの辺りで。また次の話でお会いできると嬉しいです♪


いつも誤字報告ありがとうございます。

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