第148話 ボク達となかなか止まない雨。
ザーーーーーーーーーッ
うーん、自由な時間はあれば嬉しいのだけど、箱詰めって長時間は無理……。
何故かな、自分の世界にいたときは、あんなにも外に出る事が億劫でならなかったのに、今となっては外に出られない事がこんなにも不自由だなんて……。
ボクは壁に寄っかかり和穂の尻尾を撫でて時間を過ごす。
チャコは布団ソファに腰かけ、魔石のペンダントをつけるためのミサンガを編んでいる。
コン、コン……
「はいっ、開けて大丈夫ですよーっ」
開かれた扉の先には、ハルとミュウ、それからドワーフの子のルア君が立っていた。
ハルが扉を抑えて、先に乗ってきたミュウが、ルア君の手を引いて車内へと促す。
「お、おじゃまします」
何だか、緊張しながら入って来る辺りが可愛らしい。
チャコは布団ソファから立ち、ボクの隣りへと移動して腰を降ろし、後から来た3人に席を譲る。
ミュウはバフッとソファに腰掛け、ルア君はその隣りへと腰を降ろす。 ハルはソファの下に腰を降ろす。
「いらっしゃい、ルア君だっけ?」
「は、は、はい」
ボクの声かけに、受け答えがしっかりとしているのは、親の仕事を見てきたからなのか、躾なのか、それとも年相応の身の振る舞いなのか……。
「ごめんね、女ばかりの集まりで……」
緊張をほぐしてあげようと笑いかけたのに
「だだだ、大丈夫です」
ルア君は顔を赤らめて、逆にギクシャクしてしまった。
「ルアくん年はいくつなのかな?、ちょっと見た目で判断できなくて……」
ボクの質問にルア君は答えてくれる。
「14歳です」
8歳くらいの見た目よりは、年齢が上だった。
しっかりしているというか、落ち着きがある様に見えるのは親の姿を参考に身につけたものなのだろう。
「若いねー」
ミサンガ作りをしていたチャコが手を止めて顔を上げて言う。
「チャコだって、この間までだったら大して変わらない外見だったと思うよ……ルア君はチャコがいくつに見える?」
ルア君は顎に伸ばした右手の人差し指をあて、チャコをジッと見つめる。
今のチャコの外見も中学生から、高校生になりたてくらいに見えるのだけど、ダークエルフだから、ルア君も年齢がうまく読み取れないのであろう。
「に……」
ルア君が呟く。
「「に?」」
ボクとチャコは聞き返す。
「28とかですか……?」
ルア君は頭の上に汗を飛ばしながら言う。
「チャコは90を超えているよ……」
ボクが告げると「え……」とルア君は固まる。
てっきり200歳越えと言ってくるかと思ったのだけど、うん、そうだよね、ダークエルフの年齢は分からん。
「ちなみに、この和穂は750歳を超えています」
「「「えっ……!?」」」
ルア君、ハル、チャコが揃って驚く。
和穂は自分の名前が話題に出たからか、耳をピコピコと動かし、ノソノソと身体を起こす。
ボクの顔をジッと確かめると、にへーっと、表情を和らげて、そのまま両手を広げて、抱きついてくる。
「和穂って……そんな表情するんだね」
チャコは隣での出来事に驚いた様子。
「アキラお姉ちゃんの前ではいつもそうだよ」
ハルは頷きチャコへと伝える。
どうやら、チャコにとってボク達より、狐鈴といる事が多いので、あまり見たことのない和穂の表情なのだろう。
「へぇー、凛とした表情の和穂も、今のアキラにだけ見せる表情も凄く魅力的だね。 アキラは色々人を変える事ができる才能があるんだね」
チャコは感心する様に頷く。
「え……? 和穂以外の人が、ボクによって変わる事なんてあったっ?」
「そっか、近くにいると人の変化っていうのは意外と分かりにくいものなのかもしれないね。
ハルが最近話の時にどもらなくなったのは、きっとアキラと料理の時とか、沢山話をする様になったからなんじゃないのかな? ミュウの影響もあるかもしれないけれど……」
あ、確かに。 そう言われるといつからだろう、今となっては普通に話をしているから、全然気が付かなかった。
ハルも口に手を当て、驚いた表情をしていた。 ハル自身も気がついていなかった様だ。
「うーん、でも、きっとハルがどもらなくなったのは、自分に自信が持てる様になった、ハルの努力の賜物なんじゃないかな」
人の影に隠れてしまったり、自分の顔を前髪を全力で下ろして隠そうとしていた時が懐かしい。
今は自分から誰かと話をしようと声をかけたり、ミュウをちゃんと育てたいって、面倒見てくれていたり、食事の準備も積極的だし、剣術の練習だって……それを考えると、本当にハルは自分と向き合って、変えていこうという努力が沢山見えていた。
ボクに抱きついていた和穂は、身体を起こし、ハルの方に向きを変えると、四つ這いになって、ハルの頭に手を伸ばし撫でる。
「えへへ……」
ハルは5つの瞳を細くして微笑む。
「ねぇ、ルア君、実はボクって、ドワーフの事を殆ど知らないんだよ、色々教えてくれると嬉しいな」
ボクがルア君に言うと驚いた表情をする。
「お姉さん、ドワーフを知らないなんて本当!? どこにでも……は居ないかもしれないけれど、全く存在を知らないなんて、どこかのご令嬢様か何かなんですか?」
「んと……なんと言うべきかな、ボクと和穂と、狐鈴……って子は隣の荷車にいるのだけど、あとこの場にいない白い鳥のクラマは、もの凄く遠くの世界からやって来て、ボク達の世界にはドワーフも、エルフも住んでいないんだよね……」
ルア君は、驚きの表情はしたものの、ボクの言葉に茶化すでもなく、そのままウンウンと頷く。
「お姉さんの言葉信じるよ……だって、そこのお姉さんの着ている服、見た事ないから」
そうだろうね、コロモンに行った時も、和穂と狐鈴の巫女服姿は人一倍目立つ上に、他に似た様な服を着ている人もいなかったし。
それからルア君はドワーフの事を話してくれた。
「ドワーフは小柄な体格だけれど、普通の人型種族の中で、頭ひとつ抜き出て、力持ちなんだ。
だから炭鉱とか山岳部とか、身体を張った仕事をこなしている事が多いのだけれど、それだけじゃなくて、繊細な細工を施す工芸品や建築物に対しても技術に長けていて、自分たちの仕事にこだわりと誇りをもっているんだ。
まぁ、こだわりが強すぎて、頑固と言われてしまう事が多いのだけれど、魂を込めて作った物はやっぱり大事に使って欲しいから、そこは種族どうこうではなくて、作った人の気持ちを分かってあげて欲しいと思うんだよね」
ボクはルア君の説明に頷く。
ボクの表情にひとつ頷き、続ける。
「寿命はよく分からないな……500歳くらいって人も聞くけれど、仕事にこだわりすぎて、働きすぎから寿命を削ったり、探究心から冒険者になって戻らなくなった人も多くて、そこまで生きている人はほとんどいないみたい」
なるほど、それでも長命族ということは分かった。
「ありがとう、とても勉強になったよ」
「ううん、ドワーフの事に興味を持ってくれて、僕も嬉しいです」
うん、なんともしっかりとした子だ。
「お姉さん、さっきの人がシル=ローズ様って本当?」
ルア君は少し緊張した表情でコチラに質問を投げかけてくる。
「うん? ルア君達の里でもシルは有名なの?」
「それはそうだよ、過去にスタンピードをひとりで鎮めたとか、武力国家の国が領地を拡大するために王国の膝下の国に攻め込んで来た時も、いくつかの部隊がシル=ローズ様率いる魔術師部隊によって壊滅され……侵略して来た国は、返り討ちにあうだけではなく、報復として根絶やしにされたとか……悪い事をする子供は、大人になると碌な事にならないからって、処分する為に世界に名前の伏せられている国に連れて行かれるとか……新しい魔法の実験台にされるとか、標本にされるとか……」
えと、ええっと……シルの噂、ちょっと怖すぎなんだけど……。
「うーん、人の噂って大袈裟になったり、有る事無い事足されるものだけど、今のシルからは想像できないね……」
ボクは腕組みをして話すと、チャコが「一部はあっているよー」と呟く。
「「え……?」」
ボクとルア君は呟いたチャコに視線を向ける。
「さすがに1人でスタンピードを鎮火はした事ないだろうけど、いくつかのスタンピードは、シルの率いる部隊で鎮火している事は事実だよ。
それはウメちゃんの事でも、アキラはよく理解しているんじゃないかな……」
ルア君はボクを見る。
「それは、確かに……スタンピードが始まったと話を受けて、真っ先に鎮火に動いていたとことろは目の前で見ている」
ボクは頷く。
「それに武力国家の侵略部隊を退けたのも、事実だと思うよ。 その後の事までは分からないけれど、その時の評価として王宮から自由を約束させたわけだから」
チャコの言葉が、昔シルから聞いた話を思い出させた。
そういえば、爵位を断って、自由を獲得したって言っていた事を思い出した。
「お姉さん、随分とシル=ローズさんに詳しいですね」
ルア君は、いつの間にか好奇心をむき出しにして、前屈みになり話を聞いていた。
「チャコはシルの弟子だし、生きる術を学んでいるからだよー」
チャコは糸目を細め微笑む。
「す、スゲー……」
ルア君は目をキラキラさせて話を聞いていた。
シルの武勇伝は、この子にとって恐怖から尊敬の対象へと変わった。
それから、チャコが盗賊から救われた事、シルとチヌルがこの荒野の守護者になった事などルア君に話して聞かせる。
コンコンコン……
「はいはいー?」
扉が開かれるとチヌルが立っていた。
「ちょっと休ませておくれよォー、水を飲みに小屋の方に行ったら、向こうでも酒盛りが始まっているじゃないかい」
手をパタパタと仰ぐように振るチヌル。
「チヌルお酒臭ーい……」
チャコは鼻を摘んでチヌルに文句を言う。
「そりゃ、お酒飲んでいるからね」
ケラケラとチヌルが笑う。
「ここは子供がいるんだから、そっちで休みなよー」
チャコは作りかけのミサンガを、床に置いて立ち上がり、チヌルを押して荷車から出て行く。
「お姉さん、今のは……」
「あの精霊が、チヌル。 シルと背中を預けあってこの地を守護していたんだよ。
ボク達が初めて会った時には1人でアースドラゴンと戦っていたんだ」
「え!? ドラゴン!?」
ドラゴンって存在は、他の種族にとっても驚異なんだろう、ドラゴンって言葉でルア君は目をキラキラさせ聞いてくる。
「……あの時のアキラは勇ましかった……」
「は!?」
和穂が突然ウンウンと頷きながら言うものだから、ボクは豆鉄砲食らった鳩の様にキョトンとする。 そして、ルア君からの熱い視線がボクに向けられる。
「な、ななな、み、みんなで共闘したんじゃない、ボクは後方から魔法を撃っただけだよ……」
「でもでもでも、あの伝説のシル=ローズ様と、チヌル様と共闘したんですよねっ!!
それだけで、凄いことじゃないですかっ!!」
物凄い勢いで興奮するルア君にボクはびっくりさせられる。
「うーん、ドラゴンほど大きな相手と戦う事は今後ないかと……いや、あると思いたくないな。
これから皆で一緒に旅をする事になるから、共闘だけでいったら、いくらでも機会はあるのかもしれないけれどね……」
「ええっ!? アキラお姉さん、何者なんですかっ!? 伝説の方と旅なんて普通じゃできないですよっ」
「そうだよ、アキラは普通じゃないんだ、これから伝説を残す人物だから、しっかりと覚えておくと良いよっ」
戻って来たチャコが腰に手を当てて言い放つ。
ちょっと、チャコさん、何だか恐ろしい事言ってない??
そんな話を隣の和穂も、ウンウンと頷く。
「はいっ! 楽しみにしていますっ!!」
ルア君はボクの手を両手でガッシリ握り、ブンブンと振る。
いや……この盛り上がり様はおかしいでしょ。
ハルも、ミュウもとりあえず、盛り上がりに乗っかっているって感じでパチパチと拍手していた。
例え無理だとボクが声を大にして言ったとしても、周りの者がボクを仕立て上げるような事をやりかねないので、ボクは身内が1番恐ろしいと思った。
ザーーーーーーーーーッ……
雨の音は変わらず響く。
ハル達は、ルア君達の荷車からある荷物を持ってきていた。
和穂が荷車を収納するとき、スゥが咥えて運び出したあの荷物。
被せてあった布切れを外すと籠の中に入った、水色の大きな生き物が見えた。
パッと見た目、巨大な水色のウィッグにも見えるその生き物は、全長1メートルくらいあって、長い毛に覆われている。 ヨークシャテリアのような? 頭の上にはウサギの耳をイメージさせる長い耳……ではなく、鳥の様な羽が生えている。
モサモサ……つぶらな瞳がなんとも愛らしい。
ルア君がその生き物について教えてくれた。
【トルタルト】という、妖精の集まる神聖な森に生息していて、商人にとって、いるだけで商売繁盛の縁起物の生物なんだってさ。 ボクは看板娘とか招き猫みたいなものかなって解釈した。
小柄なミュウが、大きなヌイグルミを持ち上げるように抱えていると、より大きく見える。3人はその生き物を撫でている。
何だかさっきの、ポーを愛でている姿もそうなのだけど、小さい子達が動物を愛でているところって、なかなか和むよねー……。
「……アキラ、わらべうた歌って……」
ボクの太ももを枕にゴロンと横になっていた和穂が見上げておねだりしてくる。
「ん? いいよ、子狐のやつ?」
時々和穂がボクにおねだりしてくる、わらべうた。
和穂にはお気に入りがいくつかあって、特に2匹の子狐が戯れる歌が好きみたいなんだよね。
あれは今日みたいな雨の日とは全く正反対な、日向の中をイメージする感じなんだけど。 和穂が求めるなら応えてあげよう。
和穂は頷き微笑む。
外の雨がボク達の荷車を包んでいるので、声は響く事無く車内に籠る。
ゆったりした、子供に絵本を読み聞かせてあげるようなリズムで歌う。
皆耳を澄ませて、ボクの歌を聞いてくれている。
「ほふ……やっぱり、アキラはどんな歌を歌っても良いね、チャコには無理だなー」
チャコは手を止めて聞いていたようで、ウンウンと頷く。
「お姉さんは、吟遊詩人なんですか?」
ルア君がボクに尋ねてくる。
「ぎんゆうしじん……って……なんだっけ? 」
ボクが間の抜けた返事をするものだから、ルア君はキョトンとする。
んと、巡礼するアイドルみたいな者だったっけ?
寸劇みたいな芸能を広げる者だったっけ……?
えっと……
「物語りとか作詞作曲して、見聞を広げながら旅をする音楽家だったかな……?
んー、だったら違うかな? ボクが歌っているのは、別に生業にしているわけじゃなくて、好きだから口ずさんでいるだけなんだ。 それにボクが作った歌ってわけではなくて、ボクの故郷で歌われている歌なんだよね……」
「えー、そうなんですか? なんだかもったいないですねー」
ルア君の言葉に、ハルも頷く。
「いいのいいの、歌はうまい人に任せるよ。 ボクは自由に……珍しいモノを必要とされる時くらいは頑張る……かな」
今回の鎮魂の宴の様にボクの歌を欲する場があれば張り切って歌おうかなって思うんだよね。
歌うための特別な環境とかがあるわけじゃないしね……。
「……ふふ」
和穂は微笑む。 本当にこの歌が好きなんだな。 余韻でボク達がこんな会話を繰り広げていた中、鼻歌でボクの歌っていた歌を、なぞる様に歌っていたんだよね。
「和穂も歌えばいいのに」
ボクが呟くとジッとボクの顔を見る。
「……私はアキラの歌が聞きたいのだ」
なんか、このやりとりは何回も繰り返している様な気がするんだよね。
「そうなの? それはありがとう、ボクは和穂の声が好きだから、和穂の声で聞いてみたいと思ったんだよね……」
和穂はボクを見上げた体制のまま困った表情をして頬をポリポリと掻く。
「……今度」
「うん、楽しみにしてるねっ」
ボクは和穂に笑いかける。
「へぇー、チャコも聞きたいなー」
「やっ!」
チャコは興味津々と和穂に声をかけ、和穂は即却下する。
コンコンコン……
「はーい、開けて大丈夫ですよ」
扉の外にいたのはルア君の母親、リグさんだった。
「まぁまぁ、ルアはこちらでお世話になっていたのですね。 長い時間をかけて移動をしてきたものでしたから、遊び相手も作ることすらできなくて……でも、安心しました。 ありがとうございます。
それと、素敵なご馳走に、美味しいお酒、本当に久しく楽しく過ごせています」
丁寧にお礼を述べるリグさんは、顔に酔いも感じられず、本当にお酒の強い人だなって思える。
「うん、母さんこそ、大変な旅だったんだから、たまにはゆっくり楽しんでくれば良いんだよ」
うん、ルア君は本当に良くできたお子さんだ。
「お邪魔しても……?」
リグさんは小首を傾げて尋ねてくる。
「あ、失礼しました。 はいはい……和穂起きて」
ボクが和穂に声をかけると、ノソノソと体を起こす。
荷車内は、ボク達の正面に、ルア君、トルタルトという生き物をまさぐっているミュウ、ハルが一列に並んで、ハルの隣に扉を背後にしてリグさん、こちら側はチャコ、ボク、和穂と並んで座っている。
人数が人数なので、普段気にもならなかった荷車内が、さすがに狭く感じる。
「ルア君はしっかりとしたお子さんですね」
ボクは素直に思った事を伝えると、リグさんは目を細めて微笑む。
「ありがとうございます、ルアもあの頑固な父親の背中を見て育ってきましたからね。 他人以上に自分に厳しくしているので、私から見たら、年齢相応の無邪気さがないから心配でもあるんですよね。
今回も故郷を離れてきたのは、自分達の小さな里が世界の全てではない、この子には自由に育って欲しいと思ったので移住を決めたんですよ」
「ば、バカ恥ずかしい事言わないでよ……」
耳まで赤くしたルア君が声を上げる。
「へぇー、ルア君は何かやりたい事あるのかな?」
チャコは正面のルア君に声をかける。
「い、いや……父さんの手伝いができれば、良かったって思っていたんだ」
ルア君はリグさんの方を見て言う。
「今は? 思っていたって事は今は違うんだよね」
更にチャコは突っ込んで聞いていく。
「あ、うん……父さんの仕事を手伝いながら、色んなことに目を向けて、本当にやりたい事を見つけたいと思う。 コロモンに行けば色んなお店とか、旅商人とか、冒険者とか、それこそ世界各地から人が集まってくるんだろうから、ボ……オレは自分に合ったモノを自分の力で見つけたいと思うんだ」
目をキラキラさせ、ルア君は意気込む。 そんなルア君を見て、リグさんはウンウンと頷く。
母親の前だからか、僕ではなく俺って言いなおして、可愛いもんだ。
「それはとても大事なことだよ、でも君はまだまだ親に甘えていいんだからね。
でも、それなら本当に今日の出会いというものが幸運だったね。コロモンのギルドのトップがそろっていることって、そうないだろうから、覚えていてもらうときっと力になってくれるよ」
ボクがルア君にアドバイスをしていると、右側にいたリグさんが手をパチンと叩いて音を立てる。
「はい、実は先ほどジャグラさんに、コロモンに行って行う手続きの話と、拠点にする場所を相談させていただきました。 しばらくは借家を借りるようになると思いますが、その場所に関してもナティルさんに、長期滞在の冒険者ギルドご用達の所を紹介していただけることになりました」
嬉しそうにリグさんが教えてくれる。 2人ともさすがだな……。
「お姉さん達もコロモンに行くの?」
ルア君は笑顔で言う。
「んー、目的地は途中まで一緒かな。 ボク達はコロモンに向かう途中の森の入口に住んでいるんだけど、コロモンと交流しているし、今回も用事で寄るけれど、とりあえず目的地はラミュレット王国なんだ」
「そうなんだね……残念……でも、ラミュレット王国って事は、シル=ローズ様に関係しているの?」
一度肩を落としたルア君は、すぐに顔を上げて尋ねてくる。
「そうそう、シルが旅に出る事の許可を出してもらうためにね」
「冒険者かぁー、あちこち巡るのもすごく楽しそうだなー」
ボクはふと、リグさんの方を見ると楽しそうにこちらに視線を送っていた。
「アキラさんの料理は今後食堂でいただけるんでしたっけ?」
ボクと視線が合うとリグさんは別の話を切り出してくる。
「ええ、明日晴れていたら帰る場所に食堂ができる予定で、ボクの考案した……って言っても、ボクなんかよりずっと腕の良い仲間の作った料理が食べられる様になる予定です」
ボクの話にひとつ頷く。
「それでしたら、私達家族の生活が落ち着いた頃に出来上がっていそうですね。 後で夫にひと声かけて、取り引きをさせていただきに伺おうかしら」
リグさんは微笑んだまま、右の人差し指を立てて話を続ける。
「実はウチの夫は、少々里でも名の売れた鍛冶屋なんですよ。 なので、きっと鍋や刃物、調理器具において、希望に沿えるかと思います」
なんと、それは有難い。
「あら、アキラさん、少しは私達に興味を持ってくださったのかしら?」
「それはもう、寸胴鍋なんていくらあっても有難いし、ぜひ調理器具の相談をいっぱいさせて欲しいですっ」
「あれ? お姉さんも調理器具に興味があるんですか?」
ルア君は正面に座っている和穂に声をかける。
「……いや、私はアキラの喜んでいることが嬉しいんだ」
和穂はルア君の言葉にキツネの様に目を細め微笑む。 その姿は、楽しそうに話をするルア君を見つめるリグさんの様に、静かでそれでいてどこか暖かいものだった。
雨のせいで時間の流れが分からない……けれど、そんな大雨はボク達にとって不思議な良縁を与えてくれた。
お帰りなさいませ、お疲れさまでした。
今回の話は、ドワーフについて触れてみました。顔見知りの鍛冶屋のロイ家の存在が、今後物語の良い隠し味になってくれる事を期待しています。
それでは本日はこのあたりで、また次のお話でお会いできると嬉しいです♪
いつも誤字報告ありがとうございます。




