表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/158

第145話 ボクとウメちゃんの魔法。


「キューン」


 ボクは手のひらに乗せたポーを指先で撫でてあやす。

 小動物との触れ合いなんてここしばらくしてなかったから可愛くて仕方ない。


 ポーは気持ちよさそうにお腹を上に向け、こちらに身を預ける。


「アキラ、その子がかわいいのはわかるんだけどよ、時間に制限があるんだろ?

 それをどうにかしないとダメなんじゃないか?」


 ナティルさんが、まだまだ食べられるぞと言わんばかりに、チキンカツを皿に山積みにして、ワイルドに齧りつきながら、ボクの様子を見て言ってくる。


「確かに......」

 楽しい時間に夢中になって過ごしていたら、狐鈴の言っていた通り、神力がなくなって、改めて召還をしないとならなくなる。

 

 んと、筒状の物ね……

 

 ボクは自分のバッグの中を探ってみるのだけれど、簡易的な調味料を保存する小瓶くらいしかない。

 まさか、調味料と同じ扱いは、いくら式神と言えど可哀想すぎるだろう……。

 

「アキラさん、せっかくなら自分でイメージして作ってみてはどうですかぁー、アキラさん得意そうですよねぇー」

 ウメちゃんは清酒をカップに注ぎながら、提案してくる。

 そう、ウメちゃんは清酒を飲んでいるんだよ。 しかも、お酒には強い様で、全く酔っている様に感じない。


「え……それってどう言う事?」

 材料さえあれば作れる様な、簡単なものでもないと思うのだけれど……。


「アキラさんはぁ、まだ私の精霊魔法使った事ないですよねぇー。 

 おそらくですけどぉ、私の精霊魔法は細かなイメージができたら、製造ができるのではないでしょうかぁー」


 何だろう、ウメちゃんができるって言ってくれると、本当にできる気がしてくる。


「んー、なるほどね。やってみる価値はありそうだね……。

 んと……、ねぇ和穂、管狐の住処って何か特別な事ってあるの?」

 ボクの手の平の上のポーを一緒になって指で撫でていた和穂に聞いてみる。


「……とくべつ……?」

 和穂は顔をあげ、小首を傾げて逆に尋ねてくる。


「んと、例えば筒の大きさとか、材質だったり、透けて見えたらいけないとか……」

 ボクの例え話に合わせてウンウンと頷く和穂。


「……大きさとかは関係無い……いくらでも小さくなれるから……」

 和穂は左手の小指を伸ばしこちらに見せる。

 小指程度でも大丈夫って事ね。


「……自然の物がいいと思う……」

「自然の物?」

 和穂はひとつ頷く。


「……竹とか……石とか……」

 イメージをするなら石かな……。

 ん……? 石……?


「ねえ、水晶とかってどうかな?

 ほらボクの持っている数珠、……確か、水晶って浄化の力があったと思うんだよね。 神力の回復を考えるならそれもありなのかなって」


 ボクの魔法は精霊達の使う魔法の簡易版みたいに制限されるところがあるので、きっと魔石みたいに、持っていれば魔法が使えるみたいな特殊な物は作れないだろう……。


「回復とか魔法の効果を封じ込める事のできる魔石なんて作れないだろうけれど、元々の性質が再現出来る様だったら、自然に容器が回復を手伝ってくれるんじゃないかなって思ってさ。

 あれは一応天然石だもんね、現物を手元に置いて細かなイメージをしたら本物には劣るにしても、近いものが作れるかもって思うんだよね」


「……いい……カモ……」

 ボクの提案に和穂は感心する様に大きく頷く。


 現物を手元において作成しようと思ったのは、透明ってだけのイメージでだと、ガラスとかプラスティック製の物が作られてしまう可能性だってあると考えたから。


 実際に製造(クリエイト)魔法が使える様になったら、きっとボクにできる事も多くなるはず。

 できれば成功させてコツを掴んで、いずれはひとりでもできる様になりたいな。


「アキラ、ウメちゃんの精霊魔法が製造だったとしても、知らねえ人の前でポンポン披露するんじゃねえぞ。

 錬金術みてえなもんは本来なら無い方が、使う者にとって幸せっていう事もあるからな」

 ナティルさんは釘を刺す様にボクに忠告する。


 確かに、ウメちゃんに関しては特殊な条件が揃っているから、ボク達のもとで過ごすことができている。

 カーバングル達は本来、強欲な者の手から逃れる為に、ダンジョンの奥深くに身を隠して生息していて、一生をダンジョンで終える者も殆どで、本来なら保護される対象だと聞いた。

 そんな能力だったとしたら、例え簡易版だったとしても使える時点で用心しておいた方が良いだろう。


「肝に命じておきます」

 

 ボクが答えるとナティルさんはニカッと笑い、言葉を付け加える。


「まぁ、アキラや和穂達をどうにかできるなんてヤツを探すくらいなら、ダンジョンに潜ってカーバングルを探し出して、協力を依頼する方が、まだ現実的に感じるけどよ」


 ナティルさんはガブリとチキンカツを齧り、旨そうに清酒を口に含む。


「それでは、アキラさん、気楽な感じでやってみましょうかぁ」

 ウメちゃんはカップをテーブルの上に乗せて、言うと、本当に気楽な感じで、さっそく魔力の供給を始める。


「ちょっちょっちょっ、まって」

 

 ウメちゃん、やっぱりちょっと酔っているかもしれない。思いついたことをすぐ始めようと準備する。


 ボクが立ち上がるとポーはスルスルと、ボクの足元へと降りる。


「それじゃ、やってみるね」


 確か、ウメちゃんが製造をしている時や、シルとカシュアがフォローで入って濃度の高い魔石を作った時も、発動させてから出来るまでイメージを固める時間があったようだから焦らずにやってみよう。


 ショルダーバッグから数珠を取り出し右手に巻く。

 そのまま胸の高さまで上げた右の手の平のを上にして【ウメちゃん】と唱える。

 ウメちゃんと契約で交わした手首の辺りから、小さくて白い光の球がいくつも出現して、手の平の上に浮かぶとクルクルと回っている。


 イメージ……

 小さな水晶の小瓶が良いかな、シンプルな小瓶で良い。フタの部分は狐の頭の形にしよう。


 意識を集中させていると、手の平に固い感触と重みが乗る……おや??

 何だかそれっぽいものはできた。

 

 大きさ的には良い線行っているとは思う……

 けれど……

 ボクの手の平に乗っかっているのは、一応透明なクリスタル製のチェスの駒のような置き物……??

 大きさは片手で握れる程で、粉末系の調味料を保存するような瓶くらいと言えば分かるかな。


 ポーンの駒よりは太めで、離して見れば小瓶の様にも見えなくない。

 だけれど、空洞になっていないから、小瓶ではない。フタ部分も一体化しているので取り外しは出来ない。透明の置き物だ。


 光をイメージしていたところは光の反射ではなく、白い色までを再現してしまっていて、完全な透明ではない。


 色の入っている状態なので、ダイヤなのか、水晶なのか、ガラスなのか、プラスティックなのか、レジンなのか……冷たくないし、溶けてもなかったので、氷ではない事は分かるけれど、成分までは分からない。

 

 狐の頭をイメージをしていたフタの部分は耳が大きくなりすぎて……ネコっぽい? 


「何だこれ??」

 ボクが失敗作を見て肩を落としているとウメちゃんが覗き込んでウンウンと頷く。


「やっぱり、イメージで製造ができる様ですねぇ、初めてで凄いじゃないですかぁー」

 ウメちゃんは褒めてくれたけれど、ボクの目的のものとは程遠い。


「……おぉ……」

 和穂がボクの手の上に乗っているものを見て声を上げる。


「和穂、欲しい?」

 ボクの問いかけに表情は変わらないけれど、尻尾をパタパタと振っている。


「和穂にあげる、ボクの初めての作品」

 和穂は目をキラキラさせると、ボクから両手で大事そうに受け取り、マジマジと見たり頬擦りしている。

 そんな頬擦りしている和穂を見て、狐鈴が声をかけて来る。


「んあ? 何をしているのかや……」

「……たからもの……」

「いや、わからんよ」


「ポーの住処の為に、初めてウメちゃんの精霊魔法……製造魔法を使ってみたんだけど、瓶になりそこなっちゃったヤツ」

 ボクが説明をすると、狐鈴は、和穂の手に持つ置き物を見て「ほう……」とひと声発する。


「もう1度やってみましょう、入れ物を作る時は、入れ物とフタを2回に分けて作った方がイメージに対して集中しやすいですよぉ」

 ウメちゃんが助言をしてくれる。


 確かに、フタのしまった小瓶をイメージしていたから一体化した物が製造されたのかもしれない。


「よし、やってみよう」


 さっきと違うのは狐鈴が見物に加わった事。

 狐鈴は両手を胸元で組んで舞台端に腰掛け、ボクの様子を見守る。


【ウメちゃんっ!】

 先程同様、手の平に集まる発光する球体。

 

 イメージ……今度は余分な光のイメージはしない。

 透明で小瓶のイメージ、少し厚みがあった方が良いよね。


 ズシッ……さっきより右手に重みと大きな感触がある。


「うー……もう1回やるっ!」

 ボクの手の平に乗っていたのはイメージ通りのシンプルな瓶、でもこれは大きめな牛乳瓶だ……もっともっと小さくて良いんだよ。


 出現した牛乳瓶を狐鈴に渡して、数珠に目を落とす。水晶への集中を切らさないように……。


【ウメちゃんっ!】

 今のは瓶としては良いイメージになったから、あとは小さくて良いんだ……今のイメージをもう一度……。


 ズシッ……今度はプリンとか、ヨーグルトの入っていそうな容器、さっきよりは小さくなったのだけど……まだ大きい。


「うー、もう1回……」


「もう1回やる……」


「だー、そうじゃないんだっ、もう1回っ!」





 気がつけば、狐鈴も和穂も両手が瓶で塞がる程の量になっている。


 舞台の中央には灯りの代わりと、夜風の寒さから守るために、焚き火が設けられている。

 焚き火を囲ってハルやミュウはウトウトしていた。


「アキラ達は何をやってるんだぃ?」

 チヌルが気になった様でこちらへとやってくる。


「ポーの住処を作ろうと思ってはいるんだけど……」

 出来上がったばかりの、口の広めのヨーグルトの容器のような瓶をチヌルに手渡し説明する。


「へぇー面白い事やってるねぇ、これはアタイがもらっても良いかい? お茶を飲むのに良さそうだょ。

 それに、そのポーはどこに行ったんだぃ?」


 ボクはチヌルの言葉で我に帰る。

 集中しすぎて時間の流れを全然把握してなかった。


「あれ、もしかして、消えちゃった??」

 ボクの慌てる様子に、狐鈴は抱えていた瓶を収納して、足元にある一升瓶を手にして、ボクの方に見せる。


「今は仮の住処として、これに入れておいたよ。酒瓶だったら、幾らでも空いたものがあるからのう」

 ボクは狐鈴の起点を効かせてくれた行動にホッと胸を撫で下ろす。


「アキラさん、そろそろ私も眠くなってきましたぁ」

 ウメちゃんはあくびをひとつする。


「うん、ごめん、じゃあ次で最後にしようかな……」


【ウメちゃんっ!】





「っくしっ!」


「……アキラ……まだやっていた?」

「ごめん、起こしちゃった?」

 ボク達は会場を後にして拠点の荷車に帰ってきていた。

 特別な衣装を汚したくないし、緊張感から解放されたかったから、着替える為に戻ってきたんだ。


 酒の入って眠ってしまった者達は、会場でそのまま焚き火を囲い眠っている。


 起きて空腹になっても大丈夫なように、いくらか残った料理もそのままに、チキンカツは和穂からオルソさんのパンを出してもらって、チキンカツサンドにして置いてきた。


 和穂は作ったカツサンドを、いくつも仕舞い込んでいたから、ぬかりない。



 ボクは最後の挑戦で、最初に作った置き物のサイズより2回りほど小さい瓶を作り上げて、いったん妥協する事にした。

 ポーを近くに置いておきたいとはいえ、一升瓶を片手にウロウロするわけにいかないので、創造したその瓶に合うフタ……というか栓を作る為に、こちらの拠点に戻ってきてから、焚き火を焚いて、火の灯りを頼りにナイフで木を削っていたんだ。

 和穂はボクの太ももを枕に眠っていたんだけど、クシャミで起こしちゃって今に至る。


 中々思うものに至らなかったわけだけど、ボクの使える新たな魔法の効果が分かった事は大きかったな。


 いきなりでイメージ通りのものが作れないのは当たり前なのかもしれない。

 だけれど、例え自分の魔法とはいえ、ゴーレムとか荷車と、材質の違う物やこだわりを詰め込んで製造していた、ウメちゃんのイメージする能力の凄さを感じる。


「……アキラの……歌、凄く良かった……」

 和穂はボクの木を削っている作業に目を向けたままボソッと感想を呟いた。


「そう? 喜んでもらえて良かったよ。ボクの好きな歌ばかりだったからね」

「ん、私はアキラの歌が聞けて嬉しかったんだ……」


「うん、ありがとう。

 あ、そうそう、何で和穂はボクに式神を持たそうと思ったの? 和穂の式神を増やす事も出来たんじゃないの?」


「アキラの大義に対しての神からの贈り物だと思ったから……」


「そうなんだ……、でも和穂、ポーに構っていてもヤキモチ妬かないでね」


「!!」

 ボクの言葉に、和穂はガバッと体を起こし姿勢を変え、ジッとボクを見る。

 和穂は困った様な、何かを言いたい様な複雑な表情をボクに向ける。


「ふ……冗談だよ、そんな顔しないで。 和穂もポーの事一緒に可愛がってくれると嬉しいな」


 和穂は胸を撫で下ろしコクコクと頷く。


「いつだって、ボクは和穂を特別に可愛がっているんだよ」

 持っていたナイフを削りかけの木と一緒の手に持ち替え空いた手で和穂の頭を撫でてやる。


「んぅー……」

 和穂は気持ち良さそうに声を出してボクの肩へと寄っ掛かり、体重をかけてくる。


 明日の朝……いや、今日の皆んなのお酒の入り様から考えたら昼頃かな、この地を後にするだろうから、少しゆっくり休まないとね。


「あふーっ……和穂、そろそろ荷車で休もっ……」

 陽が暮れてから宴が始まっていたから、たぶん今は日付が変わった頃かな、流石に疲れからあくびも出る。

 削りかけの木のフタと、鞘に収めたナイフをショルダーバッグへと突っ込み、ゆっくりと立ち上がる。

 和穂に手を伸ばしてやっていると、会場の方へと繋がる小道に人影が見える。


「お姉ちゃん、ハル達も一緒に寝てもいいかな……」

 ハルはお腹の辺りに顔を埋めているミュウを連れてコチラへとやってきた。


「ん? 起きたんだ?」

 さっき、ハルとミュウは2人身を寄せて焚き火の横で寝てたから、そっとしてきたんだ。


「ミュウもお姉ちゃん達と一緒にいたいんだって」

「んぅー……」


 ミュウは更に寝起きの様な感じだ。

 ひょっとして、ハルが一緒に寝たくて、ミュウが朝起きた時に心配しない様に連れてきたのかな?


「じゃ、一緒に寝ようね、焚き火の横にいたから、喉渇いているでしょ、ホットミルクでも飲んでから寝よっか」


 和穂に出してもらった小さな鍋にミルクを注ぎ蜂蜜を垂らしてキルトコンロで温める。


「はふぅー……何だか、ポカポカする」

「んうー」

 両手でカップを抑えて飲む2人、ミュウも気に入ってくれた様で、さっきまでポヤーッとしてたけど、ほわほわとしている。


「大丈夫? ノド痛くない?」

 ボクは和穂にもカップを渡して、自分もひとくち口にする。


 なんだか、4人でこうやってカップを傾けている様子も中々良いものだね。


 ボクがお酒好きだったら、狐鈴達みたいに、のんびり、おつまみでも作りながらダラダラと、楽しくお酒飲んでいるんだろうね。


「明日はまた二日酔いの人多いのかね、朝になったらごはん考えよ……」

「ハルも手伝うよー」

「あー」

「ハルもミュウも手伝ってくれるの、助かるよ」

「……」

「うん、わかってる。いつも頼りにしてるよ、和穂がいないとご飯作れないもんね、いつも付き合わせちゃってごめんね」

 ボクの呟きを聞いて、協力に名乗り出てくれる2人にお礼を言っていると、和穂が乗り遅れた様に、アワアワしていた。


「それじゃ、寝る準備をしよう」

 焚き火は弱い状態のままでつけておいて、チヌルの家で眠る人、別の荷車で寝る人の目印にしておく。

 星の光で思いのほか明るいのだけれど、ここから更に暗くなるかもしれないし。


「ミュウ、今布団敷いてあげるからね」

 ボクは荷車の中に積み上げられた布団をひとつづつ広げていく。

 敷布団を広げたところで、ミュウが滑り込む様にゴロリと横になる。


「ミュウ、お姉ちゃんの邪魔しちゃダメだよっ!」

 ハルが御者台の方の入り口から、コチラに声をかけて来る。


「あー」

 ミュウは笑いながら、気持ち良さそうに伸びをする。

「もおーっ」

 ハルは御者台の座席下の収納にミュウの脱ぎ散らかしたサンダルを片付けて、ため息をつく。


「はい、ミュウ」

 ボクは枕投げのように枕をミュウに放る。


 バフッ

 投げた枕はミュウの顔に当たる。


「キャハハッ」

 

「ほら、ハルもっ」

「わ、わわっ!」

 車内を照らすカンテラの光も全体を照らすには薄暗い。 

 ハルはお手玉をするようにアワアワとボクの放った枕を受け取る。


「もー、アキラお姉ちゃんっ」

 ハルは頬を膨らませ、ミュウの横へとノソノソと枕を小脇に上がってくる。


 2人が横並びになったところで掛布団をかけてやる。


「「わーーっ!!」」

 

 和穂は、白夜やルアル、ナティルさん達のゴーレム馬の様子を見に行っている。

 心配する様な事ではないと思うけれど、和穂なりのスキンシップをとる時間なんだろう。


 今日はウメちゃんはあちらで眠る様なので、入り口付近には使用しない、畳んだ状態の布団を重ねる。


 ガタガタガタ……


「和穂おかえり」

「おかえりなさい」

「あー」


 御者台の扉から覗く様に顔を見せる。

 ボクは寝巻きに着替えながら、ハルとミュウは布団からニョキと顔を出して、和穂を迎え入れる。


「……ふふ……ただいま」

 和穂は表情を和らげ、乗車してくる。



 隣りの布団からは小さな寝息が聞こえる。

 ボクは布団の上にあぐらをかいて座り、和穂の着替えが終わるのを横で待ちながら声をかける。


「和穂の食べた物はどこに消えるの?」


 あんなに食べたのに体のラインは全く変わらない。和穂は両手で腰巻きの上からお腹をペチペチとする。


「いや、全然わからないから……」

「アキラの作った物なら、いくらでも食べられる」

 しゃがんでボクの顔を見てクスリと笑う。

 

 物理的な事を聞いたはずなんだけどな……。

 ふと、和穂の顔が近付いた事で気がついた。


「ん? 和穂、神力少しもどった? 化けてない……よね?」

 昼間に幼さが見えていた表情が少し落ち着いている様な??


「アキラの作ってくれたご飯と、歌のおかげかも?

 きっと、甘やかして貰うために、幼く化けたとしても、アキラにはバレてしまうのだろうな」

和穂は目を細めて頷く。


「そりゃ、ボクは和穂の1番近くにいるからね」


「っちゅんっ!」

 ミュウがクシャミをする。ミュウを見ると足で布団を捲っている。


「ほらー、ミュウ風邪ひくよー」

 ボクがミュウに布団を掛けてやろうとすると、ハルがミュウに抱き寄せてあげている。

 なんとも微笑ましい光景だろう。ボクはそっとミュウに布団を掛けてやる。


「くちゅっ!」

 ボクが振り返ると、先程のはだけたままの格好で和穂が腰をペタンとついて顔を上げ鼻をすすっていた。


「和穂は、サッサと服直すのーっ」

「ー!?」

 ボクは掛け布団を背中に羽織った状態で和穂を布団で覆うように引き寄せ、敷布団へとひっくり返す。

 目の前に和穂の顔がある。


「にへーっ……」

 和穂はキョトンとした表情から笑い、そのままボクに腕を回し抱きついてくる。


「和穂、風邪ひくよ」

 和穂は首を横に振る。


「アキラ……あったかい……」

「はぁ……寝るよ」


 ボクは腕を伸ばして枕の先にあるカンテラの光を落とす。


「和穂、おやすみ」

「……ん……」


お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

今回はアキラが製造魔法に四苦八苦する回となりました。次回は荒野からの撤収の話になりそうです。

それでは、また次の話でお会いしましょう♪


いつも誤字報告ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ