第141話 ボクとシルのお客さんとお好み焼き。
「なるほど……確かに押されると後方に倒れない様に踏ん張ろうと体が勝手に反応します」
ナーヴの稲荷揚げもどきを下ごしらえして、味をしみ込ませている。
その間、早速アコさんは柔道を教えてほしいとお願いしてきた。
とは言っても、下拵えの片手間になるので、できてもみんなが食事をとるときに集まる場所で、受け身とか簡単なものからとなってしまうわけなんだけど。
チヌルの家では、シルとトゥエルさん、ジャグラさんナティルさんが何やら話をしている。
カマドの周りにはボクとアコさん、和穂にウメちゃん。
他の者は昨日作った土俵で修練をしている。
ボクがアコさんに教える柔道はイメージとしては、道場とかの伝統的な技術の伝授する様な事ではなく、ポイントから教える部活動の様な感じかな。
ボクはアコさんの両肩に手を当て押し出した状態で、重心の移動を体験してもらっていたというわけだ。
「和穂は逆に引っ張ってみるね」
今度は和穂の両腕を掴んで引っ張る。アコさんの様に堪えるかと思いきや……和穂は引かれるままに、ボクの方に引き寄せられてくる。
「え、ええっ!?」
ドスンッ!
咄嗟の事で踏ん張るが、そのまま和穂に押し倒された様な状態になってひっくり返る。
「ど、どうしてそうなるの……」
いや、柔よく剛を制すって、言葉ではあっているのか!? チカラとか流れに逆らってないし……いやいやいや、そうだけど、そうじゃないんだよな……。
「……」
和穂は倒れたボクに覆い被さり、頬擦りをしてくる。
「か、和穂……違う、何か違うからーっ!」
「耐えてもらわないと話が進まないんだけど?」
何とか体を起こし、向い合わせになっている和穂の鼻を力を入れて摘む。
ムギュッ
「ーーっ!?」
ボクが手を離すと、和穂は自分の手で鼻を抑えている。
「クスクスクス……」
顔を上げるとアコさんが笑ってる。
「あははっ、ご、ごめんなさい、本当に和穂さんってアキラさんが大好きなんですね、2人を見ていると飽きないです」
ボクは立ち上がり、和穂に手を貸してやる。
「アキラさんっ!ご飯が炊けましたよーっ」
ちょうど和穂を引き上げたタイミングでカマドの方でウメちゃんが手を振る。
「手を洗って下拵えの続きをやろうか、アコさんにはまた後で教えますね」
ナーヴから取り出した水で手を洗うには、貴重な水だから何となく抵抗があって、だからと言って魔法で水を出すには、お風呂の時と違って魔石の補助がないので加減が難しい。
なので、一旦チヌルの家にある流しに手を洗いに行く。
ダイニングではお茶を飲みながら話をしている4人の姿。
「アキラー、ちょっとちょっと」
シルに背中から声をかけられ呼び止められる。
「えっと、ウメちゃんにちょっと指示を出したら、直ぐ戻ってくるー」
ボク達は早々に手を洗い、いったんカマドへと戻る。
ウメちゃんはご飯が焦げ付かない様にと、降ろした鍋をかき混ぜていた。
和穂にサンドフィッシュの殻を出してもらい、アコさんとウメちゃんにはご飯を冷ましながら酢飯を作ってもらう様に声をかける。
ボクが屋内に足を運ぶと、和穂もボクについてくる。
ボクと和穂が戻ってくると、ジャグラさんとナティルさんが椅子から立ち上がり、席を譲ってくれる。
「立ったままで良いですよ」
とはいったのだが、まぁまぁと言われ、促されるまま腰を下ろす。
「改めて、精霊使いのアキラだ」
シルがボクを紹介する。
「あと、何だっけか、見かけない職の二職持ちなんだよな」
ボクの後ろに立っているナティルさんが付け加える。
すると、トゥエルさんはピクリと顔を上げ
「それは面白いですね」と興味を示す。
「確認しても?」
トゥエルさんは聞いてくる。
ボクは冒険者カードを取り出して、自分で先に見る。
「え……」
ボクはカードの中身が色々書き変わっていることに気がついた。
ボクの反応に和穂を除く4人は「どうした?」といった反応をする。
「ナティルさん、このカードって勝手に書き変わったりしますか?」
「あん? そりゃ本人が成長すれば、魔力も成長するからな。魔力で作られるカードだから、持ち主の変化なんかは勝手に更新されるよ。
ただ、身受け人とか、パートナーの相手とか血の契約とかじゃない、本人の外部と関わる様な事は登録しないと上書きされないぜ」
それを聞いてもう一度覗きこむ。
【名前 アキラ=ヤマギリ】
【種族 人間】
【年齢 22】
【職業 精霊使いB 僧侶B】
【トータルランク B】
【Lv 89】
【身元引受人 シル=ローズ=ラミュレット】
ーーーーーー
【契約者 クラマ/ルーク/狐鈴/和穂/ウメちゃん/トルトン/チヌル】
【リシェーラの加護】【ゼルファの加護】
「ランクとレベルが上がっている……」
「へぇー、ちょっと見せてごらん」
ボクが言うとシルが覗き込む。
「え……ええーっと……」
腕組みをしてシルは目を閉じた状態で眉間にシワを寄せて考えこむ……。
自分の眉間を人差し指でトントンとしながら暫くして目を開く。
「あーと……これって情報を見えなくする事ってできるんだっけか……」
シルはナティルさんに尋ねる。
「あ? なんだ? 知らねえうちに犯罪歴でもついているのかい?」
「いや、むしろ逆なんだけど、見えている事で色々問題になりそうな事なんだ……」
そんな事をシルが言うものだから、ナティルさんも、わけがわからない状態のままカードを覗き込む。
「っく!? ゲホッ! ガハッ!
コレ……はッ!?
アキラなんだコレはっ!?」
ナティルさんはツバで大きくむせ込み、危険物を発見したかの様に、カードから体を大きく離し、ボクの方を向く。
「ええっと……あー……トゥエル、すまないが今のやりとり事態見なかった、聞かなかった事にしてくれないか。
わけわからないと思うだろうけど、教えてやりたくっても、ちょっと問題があって教えられない事が起きてしまったんだ」
シルはトゥエルさんに慌てて伝える。
「「え……」」
トゥエルさんと、話に乗り遅れたジャグラさんが、シルの話を聞いて困惑した表情になる。
「そんな大事になる様な情報なのかな……」
ボクの呟きに、2人は鬼の様な形相で睨んでくる。
「アキラがBランクというのは実力を見て、どうにか納得はしている。
でもな、問題なのはその下の情報だよっ!
アタシもギルマスやって8年になるが、こんな情報見た事ないからなっ!」
ナティルさんがダムの放水の如く凄い勢いでボクに言ってくる。
あ……リシェーラさんとゼルファさんの加護の事だな……。
多分2人はマーキングくらいの軽い気持ちでつけたんだろうけど……。
普通こんな加護がつけられる人はいないだろうし、しかも2人からとなると異常なのかもしれない。
「アキラ、どうしたらこんな事になんだ!?」
ナティルさんは驚いた表情のままボクに言いよる。
「あ、んと、えと……ボクは何もやってないはずなんだけど……」
ナティルさんは目を点にして動きを止める。
「あ、おおう、た、確かにそうなんだが……何だろう、ただ、見なかった事にはできない、ムシロそっちが現実だったら良かったのに……とすら思えるのだが……」
ボクの肩をチカラを入れて抑えていた両手を離して、腕組みをし、自分の思考と討論している。
「ああ、それでしたら、王宮関係者の情報を表面上に出ない様にする仕組みを使えば、一般人に隠す事はできますよ。
シル=ローズ様だって【宮廷魔術師】という事が確認できない様にしているじゃないですか。
ただ、国王陛下の承諾があって、はじめて伏せることの出来るものなので、今何が表示されていたのか分かりませんが、少なくとも陛下には知られてしまいますけれど……」
トゥエルさんはこちらの騒ぎに助言をしてくれる。
「あー、うん、その手があったね、まぁ、アキラ達も王都……王宮には連れて行く予定だったから、その時に手続きするかね。
それまでの間は、コロモンはナティルに、ラミュレットの関所はアタシがうまくやれば問題ないか……。
コホン……取り乱してすまないね。
さて、話が逸れちまったが、アキラは精霊使いと僧侶の二職持ちでランクはBだ。
昔から珍しい職の情報を集める事が趣味のトゥエルなら何か知ってると思ってね。
この2つの特殊な職の情報があれば教えてやってくれ」
シルがウンウンと頷き、改めてトゥエルさんに伝える。
「ふむ……精霊使い……精霊使い……はと、聞いたことだけはありますね。
確か過去に存在していたごく希少な職であったような……」
トゥエルさんは腕組みをして目を閉じ記憶の引き出しを開けている様だ。
「あまりに情報の少ない職種でしたので、途中で調べる事を断念した、頭の片隅の記憶なもので、伝承だったか文献だったかまでは覚えてはいませんが……。
ただ、王宮でそんな本当にあるかどうか分からない希少職に対して、より精霊を使いこなせると自称している職が存在します」
トゥエルさんは組んだ状態の手をテーブル上に乗せる。
「そんな特殊な職いたかね?」
シルがトゥエルさんに視線を流し尋ねると、トゥエルさんはゆっくり頷く。
「宮廷の暗部、始末屋と言われている部隊の者ですね、アキラ様が王宮に立ち寄る様でしたら敵意を持って接触してくるかもしれません。
その職は【刻霊師】と言います」
「こくれいし……」
ボクの呟きにトゥエルさんは頷く。
「その者は、精霊と誓約を結ぶ、或いはチカラで従わせ、名前の通り自らの身体にその精霊の印を刻み入れ、自由に召喚します。
何体の精霊を使役させているかまでは存じませんが……どうか、お気を付け下さい」
「……ほう……」
隣りに座っている和穂がボソリと呟く。
「そして僧侶でしたね、コチラは北の大陸では確かそんなに珍しくない職であったかと思います。
私もその職の知り合いがいるわけではありませんので、あくまで風の噂程度の情報ですけれど……王宮に戻ったら、精霊使いと併せて情報を集めてみましょう」
トゥエルさんは組んだ手を横に離しパンッとひとつ合わせ打つ。
「すまないね、宜しく頼むよ」
シルが言う。
「いえいえ、私としても希少職の方と知り合えた事がとても幸運ですし、興味深く思います」
トゥエルさんは微笑む。
「和穂、さっきトゥエルさんの言っていた刻霊師ってどう思う?」
ウメちゃんとアコさんとで準備してくれていた酢飯を、下味のしっかり着いたナーヴで包む作業をしながら和穂に尋ねる。
和穂は小首を傾げて「うん?」と反応する。
「……似ている職であっても、敵意をもって接触してくるなら蹴散らせば良い……アキラは強い、自信を持つとよい」
ボクと和穂が話をしていると、正面で一緒になって稲荷寿司を作っていたアコさんが、顔をコチラに向けて言う。
「アキラさんに敵意をもつ阿呆なんているんですかね、怖いもの知らずというか、身の程知らずというか……」
「いや、アコさん、ボクは普通の人間ですよ、それに……触れたら切れる様な尖った性格もしてないです」
「別にアキラさんだけの事じゃないですよ、アキラさんを取り巻いている人達全部含めてです、和穂さんだって、狐鈴さんだって、チヌルだって、わ、私も黙っていないですからっ!」
鼻息が聞こえるんじゃないだろうか、声高らかにアコさんが宣言する。
和穂は顔を上げてコクコク頷く。
「うん、ありがとうね、ただ、物騒な事にならない方がボクもありがたいよ」
「何だか穏やかな話ではないですねぇー、家の中で何か言われたのですかぁ? 」
ウメちゃんがコチラに声をかけてくる。
「今度シルのお出掛け予定の報告の為に、王都に行く事になるんだけど……。
……で、用心する様に言われたんだよ」
「なるほどぉ、それが刻霊師ってわけですねぇ、大丈夫ですよぉ、刻霊師って、その者は対人ではチカラの無い、精霊任せの召喚師みたいなものですからぁ、直接精霊の能力が使えるってわけでもないですしぃ」
ウメちゃんはひとつ頷くと、刻霊師の特徴を教えてくれる。
「う、ウメちゃん刻霊師にくわしいですね」
アコさんは驚いた表情で言う。
「それはそうですよぉ。私は自分の未来のために、自分との相性の良い職を調べて学びましたからぁ」
ウメちゃんは言ってニッコリ笑う。
「でもでもでも、アキラさんと巡り会えて本当に良かったですね、もしもとんでもない危険な人とか、私利私欲でウメちゃんの能力を無理矢理扱う人だったら、どうしていたんですか?」
「本当、それはそう、もしアキラさんがアコさんの言う様な人でしたらぁ、私の作ったダンジョンを切り離して、逃げていたでしょうねぇ……。
そして、次の適した職の方か、ミュウちゃんのような特別な能力を持った方が現れるまで、これまで通りダンジョンの奥で過ごしたり、変装して街中を探したりしていたでしょうねぇ」
ウメちゃんはキラキラさせた顔をアコさんに向け、2人でうんうんと頷く。
刻霊師っていうのは、召喚術師のような者なのね……。
でも、どんな精霊を仲間にしているかも分からないし、本人が魔法や体術、武器の使用をしないとも限らないし、用心は必要そうだね。
「よし、終わったーっ!」
最後の一個を包みあげ、両腕を突き上げ伸びをするアコさん。
「うん、お疲れさま。
それじゃ、次はお昼の準備と、夜の宴の下ごしらえもしないとですねー」
ボクはトゥエルさんのお弁当で持たせる稲荷寿司もどきを笹の様な長い葉っぱでクルクルと包み、蔦で結く。
「ええー、終わりじゃないんですかぁ!?」
アコさんは目を白黒させ、口をパクパクさせる。
「そりゃそうだよー。
でも、お昼は簡単なものにして、夜の下ごしらえに時間を使おうね」
和穂は余ったご飯をかき集めておむすびにしていく。
「お昼は何にするんですかー?」
アコさんは気持ちを切り替えて、尋ねてくる。
「そうですねぇ……ルボンテと、メーソルを使ってみようか」
ボクは現地調達できる食材も使用してみようと考えた。
「晩御飯の準備をしている間に、使った分を皆に集めてきてもらえると思うから、ちょうど良いでしょ」
ウメちゃんに10センチ程の長さに切ったメーソルを茹でてもらう。
和穂には小麦粉と卵と水を練ってもらう。
ボクはアコさんと、皮を剥いたルボンテをひと口大に切っていく。
「アキラさん、アキラさん、コレはなんと言う料理になるんですか??」
アコさんはルボンテの下拵えをしながら、ウメちゃんと和穂の作業にも目をやりながら聞いてくる。
ボクはルボンテの切り分けから、トゥ(ネギ)を刻む作業に変えながら答える。
「うーん、イメージとしては、お好み焼きって物に近づけたいんだけど、ソースが違うからまた違った物になるんでしょうねー」
キャベツのシャキシャキ感をメーソルが代役して、ルボンテはイカのような味を表現してくれるハズ……。
ソース……コレは再現できないだろうな、企業努力のありがたさをひしひしと感じる。
ウメちゃんの茹でたメーソルを鉄板で軽く焼いて水分を飛ばし、和穂のまぜていたタネと、アコさんの切ったルボンテ、トゥを加えて、お試しで小さい物を焼く。
ソースも、紅生姜も、鰹節も、青のりもない……そんなお好み焼き、おやきと言うべきか……いや何でも自由に入れて焼いたら、お好み焼きで良いよね。
マヨネーズと甘味のある醤油を混ぜたもの、マヨネーズとケチャップを混ぜたものを用意してみる。
ペタンッ、ペタンッ、ペタンッ、ペタンッ
リズムよくひっくり返して、ソースを乗せていくと、ジュワーと鉄板に接したソースの焼ける音が響き、辺りに香ばしい香りを漂わせる。
くうるるる……
和穂がお腹を鳴らす。
ヘラをつきたて半分にした、2種類のお好み焼きをそれぞれの前へ移動させる。
うんうん、想像していた物にかなり近くなったけど……
お好み焼きとはやっぱり、ちょっと違っている。
思っていたよりメーソルの食感が強い、半分くらいの長さでも良かったかな。
「うん、うんっ、あふふへ……んいひぃっ」
アコさんはハフハフしながら食べる。
「どちらも美味しいですね」
ウメちゃんは皿にとり、フーフーと冷まして、ひと口大に切りわけながら口に入れている。
あー……チヌルの分はお皿にとって、冷ましておいてあげようね……。
ウメちゃんの行動をみて、チヌルの事を思い出す。
和穂は目を瞑りながら、幸せそうに食べている。
本当はお肉とか、サンドフィッシュとかもいれたらもっと美味しかっただろうけど、食材も時間も夜の食事にまわしたいからね。
「おや、うまそうな匂いがするなー」
ナティルさん達が家から出てくる。
「はいシル、これお弁当、できたよ」
稲荷寿司弁当をシルに渡す。
「あー、ありがとうね。
ほら、トゥエル、アキラ達の作る料理は、王都から食べるためだけに出てくる価値のある料理なんだ」
シルはボクから受け取った包みを隣のトゥエルさんに渡す。
「それは楽しみですね」
トゥエルさんは包みを受け取ると笑顔でボクに会釈する。
「シル、お昼は鉄板を囲って食べる食事だから、今食べられるようなら、先食べてくれると助かるんだけどー」
ボクが言うと、頷いて家の扉を開けて、中にいるジャグラさんに声をかける。
「味見は大丈夫そうだから、ボク達も先に食べちゃおう」
アコさんとウメちゃんに声をかけ、次々と鉄板にタネを広げていく。
ジューッ ジュジューッ
家の中からジャグラさんも出てきたので、早速昼食にする。
同時進行で、新たなメーソル(調整したもの)を茹で、ルボンテの追加分も用意していく。
アコさんは自分の分を皿にとり、冷ましながら1枚づつ鉄板上のお好み焼きを丁寧にひっくり返す。
「ええっと……」
トゥエルさんは手元で音を立てて焼けるお好み焼きを見ながらどうして良いかわからない様で呟いている。
「ああ、焼けたらどちらかソースをかけて下さい。
その場だと出来立てが楽しめて、皿にとったら少し冷めるので、自分の好みで食べて下さい」
「あー、まったくお坊ちゃんなんだな、皿にとってやらねえと食えねぇか? たぶん、今日のこの食事は鉄板の上で突っつくのが作法ってやつなんだよ」
ナティルさんは、見てろと言わんばかりに、豪快に口へお好み焼きを放る。
「あっがーっ!! あっづ! ほふーっ!」
熱々のお好み焼きを頬張り、一気に水を口に運ぶ。
ああ……そうなるよねー……。
「ほら、別に無理にとは言わないよ、でも食べるなら、自分でとって食べなっ」
シルは皿をトゥエルさんに渡してあげる。
トゥエルさんは周りの様子を見ながら初めての食べ方に四苦八苦しながらも、「おいひいです」と数枚お代わりをして喜んでくれた。
鉄板が空いている場所ができたら、ウメちゃんがすぐに次と、どんどん焼き始めていく。
和穂は追加分を仕込んでいるボクの隣に来て、自分の口に運びながら、時々ボクの口元にも運んでくれる。
「んー、ありがとう」
ボクのお礼に「へへー」と頷き笑いかけてくる。
そんな様子で昼食を始めていると、墓所と洞窟のある方から、チャコが笑顔で手を振りながら帰ってくる。
「ただいまー、戻ったよー」
以前の様に憔悴した様な様子はなく、今日はレウルさんと、自分の足で歩いている。
「お、お帰り、どうだい? 習得はできたのかい?」
シルがチャコに声をかけると、チャコはニッと笑い、指をピースして「うんっ」という。
「アキラー、今日のお昼も美味しそうだねー」
チャコはボク達の近くの鉄板を前に腰を下ろす。
「狐鈴達はもうちょっとしたら帰ってくるかな、先に食べてる?」
「うん、そうさせてもらうー、もうお腹ぺっこぺこだよー」
チャコが言うと、アコさんが皿とフォーク、お水の入ったコップを渡してあげて「これは……」と、食べ方を説明する。
チャコはどうやら、そのまま鉄板を突っつく食べ方にした様で、ハフハフしながら口へと運んでいる。
「あふ……おいひ……」
チャコは熱さを堪えて咀嚼する。
時々で良いけど、こうお互いの距離を近づけて、みんなで同じ物を突くのって何か良いなって思う。
「それではシル=ローズ様、アキラ様、王都にてお待ちしております」
トゥエルさんは鳥の鞍に跨ると、ひと言挨拶をして去って行った。
「あの鳥は速そうだねー」
「はは、そりゃそうさ、空には遮る物がないからね、夕方までかからずに王都まで帰れるよ」
ボクが呟くと、隣にいたシルが笑いながら言う。
「アキラさん、ご希望であれば、飛翔タイプのゴーレムをつくりますよぉー?」
嬉しそうに言うウメちゃんに対して、引き攣った表情でボクは即答する。
「ウメちゃん……マジ勘弁して下さい」
「ええぇー!!」
ボク達のやりとりに皆は大笑いする。
トゥエルさん達の姿が見えなくなってから、いくらもしないうちに声が聞こえてくる。
「ただいまーなのじゃ」
「お腹空いたよー」
「あー」
お腹を減らした修練組が悲鳴に似た声をあげながら戻ってくる。
「うんうん、すぐに準備するね」
お帰りなさいませ、お疲れ様でした。
チャコとレウルが帰ってきました。
そして気になる刻霊師……話の展開も最初の考えと大きく変わるかもしれません。
それでは本日はこのあたりで。
また次のお話でお会いできたら嬉しいです。
いつも、誤字報告ありがとうございます。
来月末締切の展示会作品の制作も空き時間に行なっていますので、投稿が若干もたつく可能性があります。
お待たせしている方には大変申し訳ございません。




