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第139話 ボク、お姉さんに戦い方を教わる。


「いい? アキラちゃん、こちらの世界で戦う時には、躊躇わず急所を狙いに行く事が大事だよ。

 武道をしていたアキラちゃんなら、急所の場所はいくつか分かるでしょ?


 たとえアキラちゃんが遠慮しても、知らない相手とやるなら、相手も決して同じ様にしてはくれない。


 徹底的に、最低でも戦闘不能にしないと。


 相手は殺す気で狙ってくるから、甘い気持ちで向かい合ったら、アキラちゃん自身も、周りの仲間も危険な目に合わせる事になるからね」


 お姉さんはサラリと怖い事を言っているけど、きっと正しい。


 知らない相手にチカラ加減はきっとチカラの差、余裕があって初めてできるものだ。

 チカラの分からない者を相手にしたら、大怪我……下手したら死んでしまう可能性だってある。

 人間だけでなく、亜人もいるのがこの世界だから、むしろ弱者はボクの方だ……。


 ちょっとしたじゃれ合いでも、戦闘不能にしてやるぐらいの余裕がなければ一緒にいる者を危険な状況に巻き込んでしまう。

 特にボクに至っては、誰かしらと一緒に行動していることが多いから……。


 さすがに街中とかでいきなり暴れ出す、阿呆は居ないだろうけれど、ここは自分の知っている世界ではない、いつ巻き込まれるかわかったものじゃないんだ。


 仲間を守る……最低でも自分の身を自分で護れるくらいではないと。



 ボクの正面には狐鈴と和穂が立っている。

 表情を強張らせながら睨む狐鈴。

 口元に笑みを含め、尻尾を揺らす和穂。


 狐鈴にとったらボクの体が突然得体の知らない何者かに乗っ取られて、しかも戦闘になるわけだから胸中穏やかではないだろう。


 和穂は珠緒お姉さんの強さに興味を示していたから、楽しみなんだろうな。


『拳での攻撃はその延長状には刃物とか武器が握られていると置き換えて考えても良い。

 身につけなきゃならない体術は、武道でも、競技でもないから……魅せる様なキレイなモノじゃない、自分が痛めつけられないために攻める手段だからね。


 易々と受け止めてようなんて甘い考えを持っているとしたら、差し出す体は刃物によって斬り裂かれる。

 そう思えば、躱し方も少しは頭を使う必要があるって分かるよね』


 確かに、拳を交わす手にナイフが握られていたら、ボクシングの様にガードしても腕が斬りつけられるだけだし、腹部を殴られるって事は……って考えるとゾッとする。



「うん、理解したようだね、それじゃ自分ならどうするだろうか、ボクの動きの違いを考えながら身を委ねてみてね」



 お姉さんはボクに言うと手をポンポンと叩き目の前の2人に言う。


「さて、はじめようか」


 ジャリッ……


 タッ!!


 最初に動いたのは和穂だった。

 一気に距離を詰めて右肘を曲げた状態で振り上げ、コンパクトに手刀を振り下ろしてくる。


 その攻撃はお姉さんの振り上げられた左肘によって軌道がずらされる。

 右側の骨盤を前に出す様に体をひねり、右脇腹のあたりで構えられていた右手(包丁を使う時の抑えているネコの手のような形)で内側にねじ込むように腕が伸ばされ鳩尾の辺りを的確に狙う。


 確か掌底といわれる拳の使い方。

 

 和穂は咄嗟に左腕で鳩尾を守る。


 右の掌底は和穂の腕を捉える。そして、右足を軸にぐるりと身体を回転させ左後ろ回し蹴りへと移行し、バランスを崩した和穂の背中へと踵が当たる。


 ズシャッ


 和穂が地面に倒れた事を音だけを頼りに確認して、正面に視線を移す。

 和穂の後を追う様に狐鈴もコチラへと飛び込んできていた。


 今和穂の背中に打ち下ろした左足を地面着け、軸にしていた右脚を蹴上げる。

 左足は爪先立ちで、そこから踵を内側に捻る事で蹴上げた右脚に勢いがついた気がする。


 和穂を捌いた勢いのまま流れる様に狐鈴の相手をする。


 バシンッ!


「くうっ!」


 狐鈴は大きな音を立て、左の脇腹にボクの足背を受け、動きを一旦止める。

 お姉さんはそのまま右足を地に下ろし、左手を掌底の形にして狐鈴のアゴを狙って下から突き上げる。

 

「ひっ……」

 狐鈴は、大袈裟なくらい慌てて、身体を後ろに反らせて下からの掌底打ちを躱す。


「ほう……」

 お姉さんは感心した様子。


 狐鈴はコチラを睨みつけ、左脇腹を摩る。


「これはどう?」


 狐鈴との間合いを詰め、左肘を突き出し、狐鈴が肘を右手で抑えると、お姉さんは曲げていた腕を伸ばし手の甲でアゴ先を狙う。


 狐鈴はアゴ先を狙う左手を右手でガードする。

 両手をコチラの左手の攻撃に対してガードすると、お姉さんは右手で捻じ込みながら掌底を腹部へと打ち込む。


 ドスッ!


「ガハッ! ゲホッ! ゲホッ!」


 狐鈴は左手で腹部を抑え、よろよろっと後方に下がる。


 お姉さんは逃がさないと言わんばかりに、すぐさま左回し蹴りで追い討ちをかける。

 

 ジャッッ!!


 左脚が、狐鈴に届く前に、和穂が地面に右足を擦り付けながら足蹴りを狙う。

 後ろでの動きだったのに、お姉さんはまるで後ろにも目がついているかの様に、その場で上へと飛んで蹴りを躱す。


 

「うわっと……」

「アキラちゃん、脚を狙った蹴りに対しては、タイミングが合わせられるなら、出された脚に飛び乗って、折って動きを止める事もできるからね」


 地面にフワリと降り、怖い事をサラリと言う。


 やろうと思えばできる、そんな余裕のあるお姉さんの言葉に凄みを感じる。



「あ、そうそうアキラちゃん、言うの忘れていたけれど、和穂ちゃんの様にヤラシイ服を着てる相手には気をつけなよ」


 ヤラ……シイ??

 ヤラシイって……別にボク女だしな……。

 でも、確かに女の目から見ても魅力的な和穂の身体。肩のスリットからは時折り、脇パイから腋窩にかけてのラインが見えて男性には目線を釘付けにする致命的な隙を与える事になるかもしれないだろうけれど……


「いやいやいや、ヤラシイって、アキラちゃん……そういう特殊な性癖の事を言っているんじゃないんだよ」


 和穂は左手の手刀を突くように攻撃してくる。

 パチンと左手の甲で手首を叩いて軌道を逸らし、そのままの勢いで一本背負いをする。


 ドスンッ


 逆手の一本背負いはボクは殆どした事ないけれど、それを実行してみせちゃうくらいだから、珠緒お姉さんは闘いに関してはやっぱり天才なんだろう。


 目をパチクリとしている和穂に目線を落とし……


「うーん、アキラちゃんが変な事言うから違ったところまで意識しちゃうね……。

 うん、確かに、ヤラシイ巫女服だ……でもそうじゃなくてね、ココだよ」


 和穂の袖をギュッと握る。


「袖の中が見えてないだろ、こういう袖の服は武器や手の動きが特定できないから、対峙すると厄介なんだ。

 狐鈴ちゃんの場合は手元が見えなくても、エモノは刀だから刀身が隠れないじゃない。

 それにしても刃渡の長さが死角になって分かりづらいから厄介なのだけれど……和穂ちゃんは短刀だから、袖にスッポリ隠れて見えないだろう」


 ああ、なるほど……確かに手元が見えないと受けるも躱すも大変だと思う。


 手元の情報って本当に大事なんだ……拳を握っているのか、手刀なのか、無手だと思っていたら死角からツブテを弾かれる事もあるだろうし……。


「そういう時は手元は見えないから諦める。

 距離を詰めすぎない様にして、袖全体の動きを見る様にするんだよ。


 袖の動きは袖が別の生き物でない限り、トリッキーな動きはしないから、袖の動きを見てどんな手の動きをしているのか、膨らみから武器は持っているのか、どんな攻撃をしたいのか想像するわけだね」


 なるほどねー、珠緒お姉さんの説得力のある説明に感心する。



 ……って、なにやら、手元に柔らかい感触が……ん??



「…………っ!…………んっ」



 珠緒お姉さん、何やっているんですか!?……何で和穂の胸を揉んでいるんです??


 和穂は和穂で特に抵抗するでもなく、尻尾をパタパタして身を委ねている様に見える。

 動物がお腹を差し出している、そんな感じかな……。

 

「いや、何というか、アキラちゃんが変な事言うから、ボクも和穂ちゃんの服が別の意味でヤラシく見えちゃってね……。

 和穂ちゃんの大きな乳の時も良いけど、この張りのあるのも、なかなか……」


 お姉さん……乳って……言葉がエロオヤジだよ……。


「良いではないかー、ちょっとくらい……女同士だし、和穂ちゃんも嬉しそうだし、問題ないでしょ?」


 いや、人として問題あると思うんだよ……。


「それは大丈夫、ボクは人じゃないから……」


 そんな自信満々に言わないでほしい。



「えと……ワチは邪魔しない方が良いのかの??」


 顔をあげると、目を点にして、呆れた表情でコチラを見ている狐鈴と目が合う。


 いや、ボクじゃないからね……ボクだけどボクじゃないんだーーっ!!


 ボクは珠緒お姉さんと話をしているけれど、ボクの口からは珠緒お姉さんの声しか出ていない。


 後半の呟きだけを思い出したら超絶変態発言じゃないかっ!!



「ふふん、名残惜しいけど和穂ちゃんとの続きはアキラちゃんにまかせるよ」



 和穂の胸から手を離した後、確かめる様に手をワキワキと動かし、ボクの胸に手を当てる。


「んー、うん、アキラちゃん、今なら少し和穂ちゃんに勝っているようだよ」


 いやっ! 、今そんな情報いらないからっ!!



「はぁー……ソナタは何者か分からぬが、言葉の内容からアキラのために戦い方を教えているのは分かったのじゃが……、後半はやりたい放題じゃのう」


 

「ふふ、ボクは昔からそうだよ、やりたい様にやる、だから何にしても後悔なんてものはないんだよ」


 お姉さんは、ひとつ頷き狐鈴に言う。

 それはきっと、狐鈴に言うだけではなく、ボクにも言っている事なんだと思う。


 ボクの命を救う事で神では無くなった事。

 ボクが珠緒お姉さんの事を思い出せなかったら、ボクの前に出る事も干渉する事もなく、人知れずボクと消えていた事。

 そして、ボクと運命共同体となった事。


 全て自分のやりたい様にやったから、後悔はしてないって、改めて言ってくれたんだと思う。


 ボクはひとりの身体ではない、強くならないとダメだ、ボクは強く思った。


 今度帰ってから、和穂とふたりで露天風呂に行ったら、お姉さんを呼んで労おう、ボクはそう思う。


 いつか狐鈴とも、復活したクラマとも、同郷のみんなでゆっくりとできたらいいな……。



「それじゃ、今度はワチからの攻撃も受けてもらえるかや?」


「もちろんっ」


………………

…………

……





「ああー、負けじゃ負けじゃっ、手も足も出ぬ……」


 狐鈴は負けず嫌いなところが出て、何度も仕掛けてきた。

 ところが決定的な攻撃はカウンターで返され、挙げ句ボクの得意とする柔道の投げ技で放られる(お姉さんはボクの中にある知識だけで投げているわけだけど……)。


 和穂は和穂で、寝技で身動き取れなくなると尻尾をパタつかせているし……。



 ともあれ、ボクは繰り返される狐鈴や和穂からの攻撃を、お姉さんを通して確認していたので、改めてお姉さんの考え方や動きは勉強になった。

 柔道の試合では、緊張感は切らないでも、襟の取り合い、タイミングの測り合いみたいな駆け引きの時間がある。


 試合じゃなく取っ組み合いや、連続の攻撃への対抗など考えると、狐鈴がハルへとよく注意している【残身、残心】の必要性を深く考えさせられた。


 


「ソナタは真名は明かせないなどと申しておったから、古の者なのかや?」


 狐鈴はひっくり返り大の字になったまま、お姉さんへと質問をする。


「ふふ、それは想像にお任せするよ。

 ボクはボクだよ。いずれ明かす時期があれば……ね」


 お姉さんは、笑いながら腰に手を当てて、狐鈴と和穂を見下ろし伝える。


「さて、アキラちゃん、ふたりはそろそろお腹ペコペコのようだよ、今日はここまでにしようか」


 うん、お姉さんありがとう。

 色々勉強になったよ、またお願い……。


 ……そうそう、お姉さん、とつぜんだけれど、お姉さんにとって好きな食べ物って何かあるかな? ボクを通してになるけれど、好みの物を一緒に食べてあげられたらなって前から思って……


『……ふふ、アキラちゃんらしいね。

 ボクは少しでもアキラちゃんに長生きしてもらって、一緒にこの不思議な世界の色んな地を見て回れたらって思ったから協力したんだよ。

 うん、でも、せっかくの好意は受け取っておくよ、そうだね……佃煮とか漬物かな』


 そのひと言だけ言うと、パチンと指を鳴らしボク達を元の風景へと戻す。


 お姉さんの気配もボクの中にスッと溶け込んでいく。




 ボク達は舞台から少しずれた場所にいた。


 狐鈴と和穂はお互いを治療する。


「のう、和穂、ソナタはあの者を知っていたのかや?」


 狐鈴はジロリと睨むように尋ね、和穂は困った表情を向けている。


「狐鈴、和穂も口止めされているんだよ」

 ボクが和穂の代わりに返事をすると、和穂は自分の首を人差し指でポリポリと掻く。


「たはー……それにしても、とんでもない者じゃったのう……あんなに強い者に会うなんて……」


 狐鈴は大きくため息をつき、和穂はコクコクと頷く。


「お姉ちゃん、大丈夫?」

 ハルは心配そうに眉間にシワを寄せて、ボクに声をかけてくる。


「うん、ハルにもビックリさせちゃったね。

 何と言えばいいのかな……ボクの体に住んでいる彼女は、ボクの命の恩人なんだ。

 ……ボクも口止めをされているから詳しくは言えないんだ。

 普段はボクのやる事に全く興味を示さないから、この場に出てきた事にボクもビックリしているんだよ。

 ただ、ボクの普段からの甘さに、このままだと早死にするぞと、釘を刺しに出てきてくれたみたい」


 ハルの頭を撫でてやり、少しだけ説明する。


「ハル何もできなかった……」

 ハルはシュンとした顔で落ち込む。

 

 そんなハルに狐鈴が言葉を投げかけてくる。


「ハルは何もしない事が正解だったのじゃよ。あの者も言っておったじゃろ、連れてくる予定ではなかったって」


「でも、でも……」

「ワチも良い勉強になったからの、ワチがソナタに指導すれば問題ないじゃろうよ、ハルよ一緒に強くなろうな」

 狐鈴が笑いかけ、ハルは「うん……」と小さく頷く。



 土舞台の上ではリュートさんとナティルさんが戦っていた。


「おー、おかえりー」

 ナティルさんが舞台の上から、戻ってきたボク達に気がつき、声をかけて来る。


 記憶の改ざん?

 いや、ハルもいなかった事で、魔物の討伐とか、都合の良いように解釈され、記憶が穴埋めされたのだろう。


「るーっ」

 ハルを心配したミュウが飛んで来る。

 まっすぐによろける事なく……本当上手に飛べる様になったと思う。


「ミュウ、ただいま」

 ハルはしがみつくミュウの背中をポンポンと撫でる。




くうぅう……

きゅうぅぅ……


 ミュウのお腹と息を合わせたかの様に、隣でぶら下がっている和穂のお腹が鳴る。


「はっはっは、気がつけばそんな時間になるんだなっ、どうだアコもアキラとやるのか? やるんなら、今日はそれを最後にしよう」


 ナティルさんが舞台の反対側に声をかける。


「私もチヌルとやって、お腹ぺっこぺこになっちゃいました。できたら、後日にやらせてもらおうかな……」

 アコさんは顔の横に両手を広げて上げ首を横に振る。


「だってよ、まあ明日も時間はあることだし、今日はここまでにするかー」

 ナティルさんの言葉で体術の特訓は終わりになった。



「チヌル、足下のコレはこのままでいいかな?」

「まぁ、こんだけ広い荒野だから何の邪魔にもならないだろうねぇー」

 シルは足下の土の舞台のことが気になったのか、チヌルに確認しているけれど、確かにチヌルの言う通り、見渡す限り荒野が広がっているわけだから、そのままでも問題はないと思う。



 拠点に戻ってくると、さっそく晩御飯の支度になる。

 ボクも疲れているだろうと、みんなで協力してくれることになった。

 今夜は手軽にパンと肉焼きとスープにすることにした。



 狐鈴が以前収納していたボアフットを取り出す。

 ナティルさんと、驚いた表情のジャグラさんとで、ボアフットは解体されていく。


 試しに焼いてみたボアフットの肉は硬く少々臭みが強い。ボクはジビエ肉というものを食べた事がないのだけど、こんな感じなのかな……。


「うーん、コレはスープにして煮込んでみようか」


 野菜とネギの様なのトゥを大量に投入して、臭みをとりつつ、ウメちゃんとアコさんが鍋の表面に浮いてくる灰汁を掬いながら煮込んでいく。


「今回のスープはケチャップを入れてみようと思うんだ」

 ボクが提案すると、新しい味の好きなアコさんがウンウンと頷き「良いですね」と賛成する。


 ケチャップ、醤油(ソイ)(エン)、フェイ達に教えてもらった香辛料の胡椒(ルポ)、ハチミツで味を整える。


「コレは中々、スープとしても美味しいですけどぉ、すいとんを入れても良さそうですねぇー」

 ウメちゃんが提案する。


 確かに……肉の臭みは殆どなくなり、硬さもずいぶん柔らかくなっていて、他の具材の食感を邪魔しない。

 野菜の旨味、ハチミツやケチャップの甘みと程よい酸味、これはすいとんに合うと思う。


「和穂、この前小腹用に作ってくれていた、すいとん出してもらえるかな、折角だからウメちゃんの提案に乗ってみよう」


 今回のスープは狙って作った物ではなく、手探りで完成したので、同じものは作る事ができないと思う。

 だったら思った事を試す、それが一番正しい。


 収納から出してもらったすいとんを全部鍋の中へと投入すると、元々具沢山だったスープの量がだいぶ増えた。

 さらにひと煮込みさせる。


 ボアフットの焼肉は、冒険をしている者には特に気にはならない臭さ、硬さだったようで「そんな、眉間にシワを寄せるほどか?」「まだ美味く食える方じゃないか」と、ナティルさんとリュートさんは

言っていた。


 まぁ、「この独特な臭いと硬さが良いのだ」と、言う人もいるだろう。

 ひと癖ある食材は人の好き嫌いを二分するものだからね。


 ボアフットの肉は好きな人に食べてもらって、それとは別にサンドウィップ、牛の肉を焼いていく。



 ボクは料理が冷めてしまわない様に、小鍋にすいとんスープをよそり、パンと焼肉を皿に盛って和穂へ預け、チャコの修行中の洞窟へと向かう。


 ボクとハルと手を繋ぐミュウが歩くすぐ後ろに、和穂が歩いてついてくる。


「和穂も、ミュウもお腹空いていたんじゃないの? 先に食べていても良いのに……」

 ボクが後方へと向きを変えて言うと、お腹を『くぅ……』と、鳴らした和穂が「……や」と返事をする。


「……私はアキラと一緒が良いのだ……」

 なんて、嬉しい事を言ってくれる。


「それは嬉しいけれど、戻ったらなくなっているかもよー」

 ちょっと意地悪を言ってみたのだが……


「ふふ……もし、そんな事になっていたとしたら、アキラは私に特別を作ってくれるだろ……」

 和穂は笑って言ってくる。


「もー……つまんない。

 ええっ!? とか慌てると思ったのにー」


「……私はアキラをよく知っているのだ」


「ミュウはー?」

 隣を歩くミュウに声をかける。


「あぁー??」

 ボクを見上げたミュウは何も考えていないあどけない笑顔で小首を傾げる。


「お姉ちゃん、ミュウはきっと何も考えていないと思うよ。

 さっき、ハル達がそろって離れたから、今度はおいていかれない様についてきてるだけかと……」

 隣を歩くハルが言う。


「そっか、それじゃ渡してボク達も早くご飯にしようね」

「だねっ!」

 ハルは目を細めて笑顔になる。



 最近ハルが随分と変わったように感じている。

 ミュウの面倒を見ている事で、言葉のどもりも殆どなくなったし、色んな事に対して興味や自信をもてるようになったんだと思う。


 それに、妹の様に元気なリンネちゃんだったり、パーレンさんだったり、ヤンマ姉妹だったり……。

 他にも多くの人との関わりがそう成長させたのだと思う。


 ゼルファさん達きっと凄く驚くだろうな。



 そんなに離れていない洞窟、チャコの父親は入り口に座り、ボク達の到着を迎え入れてくれた。


「アキラどの、以前受けた話の返事ですが……」


 まぁ、そうだろうな……。

 ボクは先日ひとつの事を確認をしていたんだ。


 遺骨の一部を装飾品として加工するための許可、もちろんダークエルフとて、そんな製造法知らなかったわけなのだけど……。

 チャコにしたら、自分の近くにそんな両親の関係している品があるならば、大事に身につけていたいだろう。


 この地で唯一墓守として過ごしてきたチヌルも、見回りの役目を終える事になり、この墓所もいずれ風化していく。


 ソーニャさん達の様にチャコと共に地を離れ行くという選択肢もある事を伝えてみたんだ。


 もちろん、チャコにはソーニャさんの様に、霊体を感じる様な特別なチカラは備わってはいないので、話しかけても気が付かないわけなのだけれど、両親はチャコの行く末を心配して、御霊として尚この地に留まっていたくらいなので、もしかしたらと思って……。


 しかし、チャコはダークエルフ。

 チャコの人生を見届けるにしたって、寿命はきっと気の遠くなるほど長いだろう。それこそ、ソーニャさんの何十倍とかになるかもしれない。


 それに自然、精霊達と共に生きている種族からしたら、輪廻転生の思想はかなり大きなものだと思う。

 やはりというべきか、首を縦には振らなかった。


『アキラ、そんな事を考えていたのか……』

 和穂はボクに語りかけ、どこか困った様な目でボクを見ていた。

 

 鎮魂の宴で大事な人を見送る事の大切さとか、実際に感じたわけだけれど、本人達はどう望むのか、それだけは確認しておきたいなと思ったんだ。


 チャコの両親は話し合って考えた結果、自分達御霊を引き連れて共にある事で、チャコにとって足枷になってしまいかねない、自由に生きてほしいと考え、天に昇ることを望んだ。


 遺骨はチャコの望む様に、当時に残されていた遺品や積荷は、これまで墓守としてそばにいたチヌルに自由にして欲しいと言っていた。



「そうか……チャコにとって今夜は恐らく両親といられる最後の夜か……」


 ボクは拠点に戻る途中星空を見上げて、笑顔で最後の旅に出て行った、オンダさんやダンダルさん、羊人族の兄弟達を思い出す。


 和穂は、オルソさんの焼いてくれた、ラグビーボールの様なパンを取り出して二つに割り、半分をハルに、もう半分をさらに割って一欠片をボクに寄越す。


「……空腹だと考えが悲しいものになってしまうぞ」

 和穂はパンを頬張りながら、背中をポンポンと叩く。


「おいしねー」

「んー」

 ハルとミュウもパンを半分こして口に入れ、微笑む。

 2人の様子を見てボクも、和穂と目を合わせ微笑む。


 オルソさんの渡してくれた甘くふんわりとしたパンはボクをホッとさせてくれた。

お帰りなさいませお疲れ様でした。

 投稿が遅くなってしまい申し訳ございません。

 魔法の実験、体術の触りから狐鈴視点で描こうと思っていましたが、近代的な表現を無くすという縛りをしたところ表現が思う様にならずボツになりました。

 結果、珠緒お姉さんとアキラのやりとりになりましたが……変な表現になってなければ良いのですが……。


さて、今回はこの辺りで、また次のお話でお会いできたら嬉しいです♪


いつも誤字報告ありがとうございます。

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