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第138話 ボク試合をする。

「アキラ、アコは体術も使えるんだよ」


 精霊魔法のお披露目が終わると、シルが教えてくれる。


「魔術師なのに? え、肉体強化とかできるの?」


「えと……アキラさん、それはどう言う意味ですか? 魔術師が魔法以外に戦闘する手段を持ち合わせているといけないんですか?  

 魔術師なら後衛に徹しろとか、偏見を持たれる事が私には許せないんですよ」

 ボクの言葉に何か引っ掛かる事があったのか、アコさんが言い寄ってくる。


「いや、魔法騎士とか、魔法戦士とかカッコイイじゃない、ボクそういう垣根を超えた努力している人って、すごく好感もてるよっ」

 ボクはつい前のめりに言う。

 

 アコさんにとって意外だったのか、数歩後退する。


「おーい、和穂、アキラを止めな、興奮しすぎてアコが困っているぞ」

 シルは苦笑いで和穂に言う。


 和穂は、ボクに張り付いているけれど、特に止めようとか、そういった気持ちはない様で、ボクの行動を楽しんでいる様に感じる。


「アキラも結構な実力を持っているよぉ、アタイも投げられたからねぇ」

 チヌルはニヤニヤ笑いながらアコを見ている。


「「え?」」

 シルとアコは声をハモらせ、ボクを見る。


「アレは面白い体術だったな、アキラの持っている鉄扇がお飾りって事はよーく分かったよ」

 ナティルさんも付け加える。


「アキラ……なんでアタシの見て居ないところでそんな面白そうな事をやっているんだよ」


 シルは腕組みをしてボクを見てくる。


「私もアキラさんの体術受けてみたいです」

 アコさんも拳を握り、目をキラキラさせ、スイッチが入る。


「それじゃ、ひとつ手合わせをお願いしようかな……」

 ボク自身もウズウズが隠しきれないでいる。

 いや、別に戦闘狂ってわけじゃないけれどアコさんの体術……こちらの世界の体術って気になるじゃない、打撃なのか、投げなのか、それにボクの柔道がどこまで通用するのかも……。


『アキラ……楽しそう……だね』

 和穂が話しかけてくる。


『そりゃ、見たことのない物が見れるかもしれないから、ちょっと楽しみ』






 なんでこうなった……


「次アタイねぇ」


 ボクはアコさんとの手合わせを期待していたのだが??





 シルが「荒野の地面だと痛いだろっ」って土魔法で整地された舞台を作ってくれたとこまでは良しとしよう。



 なぜか、順番待ちになっている。


「体力はきっとアコより、アキラの方があるだろ? 先にアタシとの相手もしてくれよ」

 

 ナティルさんのその言葉から始まった。

 



 チルレから以前もらった、柔らかいけど頑丈そうな上着とパンツに着替え、念入りの柔軟体操をしながら、相手をする者との階級の差を考える。

 

 アコさんはボクと同じか、ひとつ下くらいかな……。

 ナティルさんはあの背丈にあの体格……力で押し潰されてしまいそうだ。


 ならば……相手の力を利用するべきかな……。


「思い切ってやって大丈夫じゃよ、怪我しても治してやるからの、それに変に加減する方が危険じゃろ」


 狐鈴は舞台の上に収納から引っ張り出した丸太を置き腰掛け、足をプラプラさせて言う。

 隣にはちゃっかりと和穂も腰掛け、見物を決め込んでいる。



 シルの用意してくれた、足元の舞台は1メートルくらい一段高くなっている。

 住宅の基礎の盛り土のような、相撲の土俵の様な感じで、広さは柔道の試合コートより少し狭いくらい。


 畳ほど柔らかくないけれど、荒野の風雨によって固められた地面よりはマシなくらいかな。


 正面にナティルさんが、防具を外した状態で首をコキコキ、肩をグルグルと回している。


 先に舞台の中央まで出てきて仁王立ちでボクの準備を待っていた。


「アンタも好きもんだねぇ、アキラの体術は気が付いたら投げられているからねぇ、頭はぶつけない様に気をつけるといいよぉー」


 中央でチヌルが笑いながらナティルさんに話しかけている。


「そりゃ、助言ありがとな。アキラの体でアタシを投げるなんてそうそうないと思うけどな」


 ナティルさんはチヌルに笑いかける。


 うーん、自分のチカラを過信しているわけじゃないけど、どうにかあの自信を驚きの表情に変えてやれないものだろうか……勝敗は互いの判断だろうから、一回投げて終わりなんて事はないだろうな……。


 マウントとるまでだと考えると、ナティルさんの相手は結構ハードになるかもしれない……。


 

「さあ、始めようじゃないか、アタシもギルマスって威厳もあるし、アンタのチカラを見極める事も必要だから本気で行かせてもらうぜ」


 左目が、見えないってのも厄介だな……まあそれを言ったら、ナティルさんも左目が見えないわけだから、同じ条件か。


「はじめぇーっ」


 チヌルの掛け声とともにナティルさんは右手を大きく振りかぶって、コチラに拳を突きつけてくる。

 首を傾けて拳を躱すと、風圧が左頬を掠める。


 うわ……

 本気でかかってきてる事がわかる。

 体重も乗っているんだろう、当たったらとんでもない事になりそうだ。


 すぐに右脇腹を狙うボディーブローが来る。

 1発殴打して止まる事は無いだろうと思っていたから、勘で後方へと大きく下がり回避する。


 左足を軸にして回転し体重をのせ、右拳でバックブローが来る。

 ボクは更に後ろへ距離をとって回避する。


 相手の初期動作、目線それに加えて大事なのは勘。

 

「おー躱すな、当たらないと倒せねーけど、アキラも逃げるだけじゃ終わらないぜ」

 ナティルさんはニヤリと笑う。


 おそらく殴打だけではなく、重い蹴りも来るだろう……それと当たり前だけど、ボクの力技ではナティルさんをどうにもできない。


 だからと言って、ボクには人間離れした狐鈴や和穂の様な速さも身体能力もない。


 自分の持っている経験値を活かすだけ。


 相手は熊じゃない人間だから、有効な攻撃もあるだろう。いや、無いと困る。


 綺麗な柔道じゃなくて格闘技、禁じ手も解禁ってことだ。まぁ、そうでも無いと勢いも止められないだろうね。


 ボクはナティルさんの殴打からの蹴りを躱しながら視野を広く見る様にして、重心の動きを観察する。


 だんだんとスピードに目が慣れてくる。

 呼吸のタイミングが見えてくる。


「おらっ!」


 声を発しながら右拳の大振り、息を吐いた……今がチャンスッ!

伸ばされた腕を両手で抑え体重をかけボクの方へと引っ張る。


「あん?」


 引き返そうと、両足を踏ん張り自分の後方へと重心を掛けようとする。


 ボクはナティルさんの後方に引き戻すタイミングで引く手のチカラを緩め、右手を離してバランスを崩させる。


「うおっ!」


 胸ぐらを掴んで自分の身体を密着させ右足を振り上げ大外刈りをかける。


「おわーっ!!」


 ドスーーンッ


 ナティルさんを押し倒す事に成功する。

 ナティルさんは目をパチクリさせ、何が起こったのか気が付いていない様子。


 ただ、ここで降参なんて事はないだろう……。

 何だか思いっきりぶつかり合うのって久々でワクワクするな。


 ボクは立ち上がり、すぐさま間合いをとる。


 なら、気が済むまで投げてやれば良いのだ。

 組手争いなど、柔道を知らない相手に大人気ないかも知れないが、まともにやり合ったらすぐにでもボロ雑巾の様になってしまうだろう。


 立ち上がりを確認して、速攻をかける。

 懐に潜り込み右手で胸ぐらを掴んで、肩から体当たりをして、ナティルさんの後方に重心を移動させる。


「同じ手にかかるかよっ!」


 ナティルさんはボクに体でチカラ比べをする様に体当たりを押し返すように体重をかけてくる。


 ボクは瞬間的にナティルさんの右腕の袖を左手でしっかりと握りナティルさんの体を胸ぐらを掴んだ右手で引き寄せ、自分の身体を低くしながら、ぐるりと左回りに体の向きを変え、背中をナティルさんの胸板に押し当てる。


「よっこいしょーっ!!」


 同時に背中でナティルさんを担ぎ上げ背負い投げをする。

 今度こそ、ナティルさんの身体は宙に打ち上げられ、地面へと叩きつけることができた。


 ドドーーンッ


「ガハッ……」


 ボクは体を起こし「どう?」と声を掛ける。


 ナティルさんはニヤッと笑い「おもしれぇ」と言って両足を大きく上にあげ、下ろすタイミングで、ブリッジのようなポーズからピョンコと飛び起きる。


「懐に入れなければ、どうにもできねえーだろっ!!」


 ナティルさんは勢いをつけて、間合いを詰める隙もない速さで右拳を突き付けてくる。


 ボクはナティルさんの伸ばしてきた拳を潜る様に躱し、両手でナティルさんの手首を抑え、地面を蹴って飛び上がる。

 

 ナティルさんの伸びた右腕とアゴの間に左足を滑り込ませ、右腕を挟む様に右足を胸の辺りにあて、ナティルさんの伸ばされた右腕にぶら下がる様な姿勢になる。

 ナティルさんの空振りした勢いに、ボクのぶら下がる重みが勢いとして加わり、ボクを右腕にぶら下げたまま左肩から後方へとぐるりとひっくり返り、地面へと背中を叩きつける。

 そしてボクの腕ひしぎ十字固めが完全に決まる。


 ボク、よく男子相手に跳び関節やって先生に怒られたっけね。


「いでででででっ!!!」


「ふふふふふふふふ、ナティルさん、まだやりますか?」


「分かったっ! 分かったっ!! 降参だっ!!」



「ったく、どうなってんだ? 社交ダンスの真似事の様なことやってんのかと思ったら、いきなり地面に叩きつけられるんだからっ」


 ボクの関節技から解放されて、上半身だけ起こして、右肩をグルグル回しながらナティルさんは呟く。


「おねーちゃん凄いっ!」

「あーっあーっ!」


 ハルとミューが歓喜の声をあげつつ、ボクの元へと駆け寄ってくる。


 てっきり和穂もボクに抱きついてくるものかと思っていたんだけど。

 和穂は狐鈴の座る丸太に腰掛けたまま、ジッとボクを見ていた。



「次アタイねぇっ」


 チヌルがニヤニヤとボクを見て言う。


「えー、連戦!?」


 さすがに呼吸が整うくらいの休憩はさせてくれるけど、ナティルさんを相手した事で、体力と集中力をかなり使った。


 極端なくらい向き合い方が変わるから、気持ちの切り替えが大事。

 どっしりとしたナティルさんに対して、チヌルはチヌルで、どんなに投げても、見た目通り、身の軽さを使って空中で体勢を変えて着地してしまうだろう……。


 さて、どうしたものか……。


「それじゃ、始めようか」


 考えがまとまる前に、ナティルさんから呼ばれる。


 チヌルは動きやすいように普段身につけているブーツもグローブも外している。


「チヌル、爪は無しで頼むよ」

「そりゃそうさぁ、でも興奮したらどうなるか分からないから、上手く避けておくれよ」


 ボクの発した言葉に、チヌルはゆらゆらと2本の尻尾を揺らし、笑いながら怖い事を言う。


「はじめっ!」

 ナティルさんの掛け声と同時にチヌルは重心を低くし、ボクの方へと真っ直ぐに飛び込んで左足で横から蹴りを繰り出してくる。


 ボクは蹴りを右腕を立ててガードする。

 そこから、肘打ちを当てに行くも、チヌルは両手で受け止め、肘を押し返して後方へ宙返りをして着地をする。


「むう……」

 余裕で躱されたようでなんか悔しい。

 とはいえ、柔道以外の格闘技をやったことない、殴り合いになるような喧嘩もした事のないボクには、殴ったり蹴ったりの基本が全然わからない。


 暴力の必要のない世界で生きてきたって考えると、なんて幸せな人生だったんだろう。

 だけど、これからは生きていく為に覚えなきゃならない事なんだよな……。


 ボクが拳を突き出しても蹴り上げても、チヌルにヒョイヒョイと躱される。




『ふぅん、アキラちゃんは戦い方を知りたいのかい?』


『珠緒お姉さん!?』


 頭の中に普段殆ど干渉してこない、珠緒お姉さんが話しかけてくる。

 これまでの生活で全くをもって存在を消していた事に比べたら、関わってくれている事を喜ぶべきかな?


『中々面白そうな事をしているじゃない、少し昔のアキラちゃんの試合を思い出すような緊張感だね』


 珠緒お姉さんのいう少し昔って、どれくらいの事が少し昔に値するのか分からないけれど……。


『ボクは体を張った喧嘩って、した事ないから、チカラの入れ方とか有効な攻撃とかよく分からないんだよ、柔道だけだったら何を見て、どう動けば良いのか、イメージ通りに体が動いてくれるんだけど……』


『なるほどね、でもボクはアキラちゃんと共に過ごして来たから何となく理解しているつもりではあったのだけど、命懸けで自分より大きな獣を相手にしている時より、強さを示す事のほうが気を使うっていう意味が分からないかな……』


 強き者は生き、弱きは死して糧となる。自然の摂理ではそう間違えではないと思う。


『生か死かじゃなく、生かさず殺さずギリギリのところでチカラを示すから気を使うんだと思うんだよね」


 チヌルは跳躍し左足でボクの横っ面辺りに蹴り込み、ボクが先程同様右腕でガードをすると、そのガードした場所を軸にグルリと回転し、右足で踵落としに切り換える。



 ボクは自分の意思と関係無しに、頭の上で曲げた左腕で受け止める。

 ボクの視界をチヌルの袴の様なスカートの様な腰巻きがかかり妨げる……が、チヌルの両足を正確に掴み、地面へと背中を叩きつける。


 ドスンッ

「ギャフッ!!……エッフ、エッフ」

 

 掴んでいた両足を解放すると腰巻きがハラリと足と共に地面へと落ち、チヌルが咳き込んでいる様子が見える。



「それじゃ、見ていると良いよボクが戦い方を教えてあげる」


 珠緒お姉さんの声の直後、ボクの身体は珠緒お姉さんの主導権によって動かされる。


 珠緒お姉さんが手を握ったり開いたりしている。

 どういう仕組みになっているのか分からないけれど触覚は共有されている。でも勝手に手が動いている。

 自分の意思で動いていないから、どこか夢の中で手を動かしているような様な……うん、考えるの辞めよ。


 手元から目線を上げると正面にチヌルを介抱して起こしている狐鈴がいる。


「ソナタは何者かや? アキラではない様じゃのう……」


 言ってこちらに顔をあげた狐鈴は普段のあどけない笑顔ではなく、何処か緊張した様などうにか平静を装うとしている様な表情をしている。


「さすが、天狐……いや、狐鈴ちゃんだね。

 天眼でボクに気がついたのかい?

 でも、ボクはボクだよ、キミに真名は明かせないけど、キミ達がアキラちゃんを中途半端に大事にしているから……。

 アキラちゃんがこの世界で生きていける様に、ボクが戦い方を教えてあげようと思ってね」


 腰に手を当てていた珠緒お姉さんが、指をパチンッと鳴らすと先ほどの風景から一転、どこまでも白い空間に変わる。

 正面に狐鈴、少し離れたところに和穂、そしてハルが立ち尽くしている。


「お姉ちゃん……?」

 ハルが困惑した表情でこちらを見ている


「ハル……ちゃん、そうかキミは天使だったね、空間の外に出せなかったようだ……いい? 今からこの空間でのボクのことは誰にも内緒だよ、キミの記憶を消しても良いんだけど、アキラちゃんが望まないからね」


 ハルは驚いた表情から顔を強張らせ、コクコクと頷く。


「和穂ちゃん、キミはこちらに加わるのかい? それともハルちゃんと見ているかい?」


 珠緒お姉さんは腰に手を当てた状態で、和穂へと選択肢を投げかける。

 お帰りなさいませお疲れ様でした。

 柔道だけの体術では異世界を渡っていくには厳しいのではないかと思い、珠緒師匠に出てきてもらいました。

 珠緒お姉さんの出番はいつも私の思いつきでランダムにフラフラっと出る感じなので、この先どうして行こうとか考えてません。

 

 私にとっては困った時の珠緒お姉さん頼みって……お世話になってます。


 それでは、今回の話はこの辺りで。また次の話でお会いできると嬉しいです。


 いつも誤字報告ありがとうございます。

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