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第137話 ボクの精霊魔法。

「それじゃあウメちゃんよろしくね」

「分かりましたぁー」


 ウメちゃんはボクの依頼に返事して魔力の供給をしてくれる。


 ボクの両腕のブレスレットの魔石が光り始める。

  


 場所はチヌルの家やカマドが巻き込まれない様に少し距離を移動して、一段低くなっている場所に下りる。


 てっきり言い出したシルと、もはやボクの半身と化している和穂の他は、興味を示した魔術師のアコさんと、同じく見物人にナティルさんがいるくらいかと思ったのだけれど……。


 結局チャコを除く全員で、ボクの魔法の見学をしている。


 ジャグラさんもいるけど……興味あるのかな?


「まず風魔法からやるよー」


「風刃からいくねっ」

 ボクは鉄扇を広げ、大人2人くらいなら姿を隠せるくらいの縦長の岩と向き合う。


【クラマッ】

 ガキャンッ!


 開いた鉄扇を横薙ぎさせると、目の前の岩がスパンッと斬れる。


「相変わらず、切れ味が良いね。

 ちなみにこの魔法を使って斬った魔物は覚えてるかい?」

 シルが尋ねてくる。


「んーと、風刃は比較的多用しているから、うろ覚えになるんだけれど……ハッキリ覚えているのは、サンドフィッシュを斬った時と、サンドウィップの首を落とした時かな……」


 ボクの発言にジャグラさんはピクリと顔を上げる。

 ジャグラさんは巻き込まれない様に一段高いところから見ているので、影になって表情までは見えないけどね。


「じゃあ、次は吹き飛ばす感じでやってみるよ」

 鉄扇を閉じた状態で立てて柄を握り、人差し指を伸ばして添える。


【クラマッ】

 ドガーーーーンッ!!


 今斬った岩の根元の部分が粉々に砕ける。


「あ……えと……、普段は使わないから、ちょっと加減を間違えた……かな……」


「だいたい風の魔法って、切る吹き飛ばすがメインだね、アキラに限っては吹き飛ばすってより結果粉々になったけど……」


 アコさんは表情を引き攣らせてコクコクと頷く。


「そ、それでも、ほぼ無詠唱に近い状態とは思えない正確さと威力に思えます」

 アコさんは言って右手の親指の爪を噛む。



【我らを護れよ、大地の砦!】

 シルが土魔法で岩壁を出現させる。

 高さは10メートルくらい、横幅は30メートルくらいかな、高さがあるので、厚さまでは目で確認はできないけれど、かなりの大きさがある。


 魔法でできたとはいえ、突然聳え立った大きなアパートの様な岩壁をボクは見上げる。


「さてアコ、ここからアキラの凄いところを見る事になると思うよ。

 アキラ、的は用意したから、存分にやるといいよ」

 シルはアコさんにひとこと言い、ボクを見てウンと頷く。

 

 こんな大規模な壁を作っておいて……1人キャッチボールをするため用意されたわけじゃないんだから……。


「それじゃ、ボクがクラマに教えた、圧縮魔法をひとつ……」


 先程同様に鉄扇は閉じたまま、右半身前に腕を伸ばした状態で構える。


【クラマッ】

 ピンポン玉程の風の塊の球体を作り、球体が大きくならない様に濃度を濃くしていくイメージで魔力を送り続ける。

 それは、風の鳥の魔法の様に溜めを作り、鉄扇の先に出来上がる。

 

 たぶん、以前作った圧縮魔法より濃いものができたと思うんだよね。


 周りにはこの球体はどう映っているのかな?


 押し出すイメージで球体を飛ばす。


 ドドーーーーーンッ!!


 球体は岩壁に接触すると大きな爆発音を響かせる。


「うわっとっ」

 ボクは爆風によって、後方に吹き飛び、尻もちをつく。


 以前の時より距離をとっていたのに……やっぱり威力は強くなっていた様だ。


 辺りに砂塵が広がる。


「ゲホッゲホゲホッ」

「オエッホッ!」

「ゲホッ」

「ゲホホッ」


 視界のない状態でみんなの咳き込む様子だけが聞こえる。

 少しづつ舞い上がった砂塵が落ち着いて目で確認できる状態にまでなる。

 岩壁には接着した部分を中心に3メートル程のクレーターが広がっている。地面も岩壁の延長で下にえぐれていた。


「な、なな、なッ……!?」

「嘘だろっ!?」


 アコさんの驚く表情とナティルさんの大声が聞こえる。


「アキラはアレに似た様な術を武器に纏わせて、接近戦でも攻撃した相手を後方へと飛ばせる戦い方もできるのじゃよ」

 狐鈴がナティルさんに解説をする。


「ハハッ、へぇー、そ、そいつは凄いな……」

 ナティルさんはさらに驚きの表情を見せ棒読みに返事をする。


 うーん、でもノックバックの攻撃はきっと大きな相手には効かないだろうし、ボクの腕も体も保たないだろうと思うけどね……。


「アキラもうひとつ良いかな?」

 シルがボクに話しかけてくる。


 シルも驚きはしたのだろうけれど落ち着いている。 

 威力は以前よりかなり強くなっているけれど、クラマに教えていた時に見ていたと思うんだよね。


「ん?」


「アースドラゴンの翼を切り落としたヤツをもう一度見せてもらえないか?」

 シルは腕組みをして言ってくる。


「「「えっ!?」」」

 アコさんと、ナティルさん、そしてジャグラさんがシルの言葉に驚きの表情を見せる。


「あ、ちょっと待って。

 今の壁じゃ耐えられないと思うから作り直すよ」

 

 シルはボクの動きを一旦止める。


【我らを護れよ、大地の砦!】


 新しい岩壁が目の前にできたのか、修復されたのか綺麗な岩壁に戻る。


 先程の圧縮魔法の威力がアレだったので、全員さらに壁から距離をとる。

 アコさんはジャグラさんのいる高台へと上がっていた。


「さあ、真っ二つに切るくらいのイメージでやってみなっ」

 遅れて、こちらへと来たシルは笑顔で言う。


「えっ……」

アコさんが何か言おうとしたところをシルが制する。


「それじゃあ、行くよっ」

 風の鳥の魔法は放った時の反動が大きいから、右半身前で構えた右手首を左手で抑える。


【クラマッ】


 鉄扇の前の風の塊が徐々に膨れ上がっていく。さらにイメージを流し込み、鳥の形を作り上げる。


「いっけーっ!!」

 風の鳥は岩壁に向かって飛び立つ。

 ボクは反動で両腕をそのまま上へと跳ね上げられて、体は後方に再度ひっくり返る。


 ズッドーーンッ!!!


 ボクの見上げる空の視界の外で岩壁にボクの放った風の鳥の衝突する音が聞こえる。


 地面にお尻をつける手前で、抱えられ、和穂の顔がボクの視界の端からニョキッと覗き込む。


 思い切って放ったわけたけど、シルの希望に応えることはできていただろうか……。


 和穂が体を引き上げてくれる。

 

「ありがとう……」

 ボクが和穂にお礼を言うと、和穂は目を細めて微笑む。


 うー、凄い反動だ……、手に残る痺れをとるため、手を振ったり、開いたり閉じたり動かしながら、風の鳥を放った岩壁を見上げる。


 放った反動で手元もブレていたわけで……。

 岩壁は上に向かって斜めに大きな鳥の形に風穴を空けて、遥か先に空からの光が見えている。


「あれ? 岩壁って、こんなに分厚かったの……」


「ん?? 壁2枚分だからこんなもんだろうよ。

 さっきの魔法が1枚に対して威力が異常だったから、修復しながら一枚追加させてもらったわけさ」


「ええ??」


 岩壁一枚分が横幅くらいの厚さがあるのだと思うのだけれど、それが2枚分だとすると結構な厚さではないかな……


 ミュウはパタパタと壁の上部へ飛んで行く。


「アキラさんの魔法は異常ですよ、サンドフィッシュもアースドラゴンも切断出来る魔法って……つまり鎧とか防具が意味を成さないって事ですよっ」


 壁の穴を見るためにこちらへと降りて来たジャグラさんが、見上げながら呆れたと言いたげに訴えてくる。


 暫くすると岩壁の亀裂の奥からミュウの声が聞こえてくる。


「きゃはははァァアーーー……ッ」


 だんだん声が大きくなってくる。


 スッポーーンッ


 亀裂の中からミュウが足先から、勢い良く放り出される。


「うおっとっ!」


 飛び出したミュウをリュートさんがキャッチする。


「あはあぁっ」


 ミュウはご機嫌で笑う。


 リュートさんは受け止めたミュウをハルの背中に張り付ける。


「ミュウ、危ないよっ!」


 ボクは駆け寄り、いつ崩れるかわからない、引っ掛けたり擦ったりして怪我をする可能性もある事に対して、好奇心で遊んでいたミュウを注意する。


 そりゃ、今は何かが起きても対処できるだけの力を持っている者が集まっているのだけれど、いつもそうではない、ダメな事、危ない事をミュウにはちゃんと注意をする事が必要だ。


「そうじゃよ、ミュウ、今回はアキラの言う通りじゃよ」

 狐鈴はハルの肩越しにミュウに言う。


「ルー……」

 ミュウはハルに助けを求める。


「ううん、ハルもアキラお姉ちゃん達と同じ気持ちだよ、ハルもミュウが怪我したら嫌だから……」


「ルー……」

 しゅんとした表情でハルの肩にアゴを乗せるミュウ。


「ごめんなさい……だよ」

「…………」

「ごめんなさい」

「…………しゃい」

 ハルの言葉に小首を傾げていたけれど、ハルが繰り返し言った事で、言うべき言葉を理解したようだ。


「うん、言えたね、本当に何にもなくって良かったよ」

 ボクはミュウの頭をワシワシと撫でてやる。


「しゃいっ」

「うん」


「これがアースドラゴンをね……」

 ナティルさんは、壁に空いた亀裂を見上げる。


「あ、せっかく岩壁が残っているなら、威力を試してみたい事があるんだけど、ウメちゃん、いったん魔力の供給止めてもらっていい?」


「え? 分かりました」

 ボク達のやりとりを見ていたウメちゃんに、突然声をかけたものだから、ワンテンポ遅れて返事をする。


「何か始めるのかや?」

 狐鈴はボクのやる事に興味津々に尻尾を揺らしながらコチラを見ている。


「あー?」

 ミュウが、ハルの背中からボクの背後で控えている和穂の背中に移り変えて抱きつき、ボクの事を見守る。


 ボクはウメちゃんからの魔力の供給が止まった事を確認する。

 さっきまで緑色に煌々と光っていた魔石が発光を止めている。


「ジャグラさんとアコさんは上に避難した方が良いかもしれませんよ」

 ボクが声をかけると2人は早々に高台へと避難する。


「この前、ハルの引き寄せた魔物の群れを相手にした時使用していた風刃が、どれぐらいの威力があるのか、イマイチ把握できてなかったから試してみようと思ってね」


 ボクが狐鈴に向かって言うと狐鈴はポンッと手を打つ。


「ほう、あれか。

 確かに全力でやってみせよと、見てはおったが、アレの威力は不明じゃったのう」


「それじゃ、やってみるね」

 ボクは狐鈴やミュウのやっていた、抜刀の様に構えた鉄扇の先端を左後方に体を捻る。


【ク、ラ、マッー!!!】


 ボクのブレスレットの紐は魔力を全力で通した事で赤く発光し、白と紫の魔石の発光も強くなる。


 ボクは壁の端から端に向かって、3本の鉤爪を強くイメージして、横薙ぎをする。


 ガリョガリョガリョッガガガッ!!!!


 大きな音を立てて岩壁一面に大きな3本の鉤爪の痕が刻まれる。


 風の鳥を使った後なので、新たに削り取った部分から崩れていく箇所も結構あり、かなりの威力だという事が分かる。


「こんなに……なの??」

「ほむ、これなら、あの殲滅力も納得できるのう」

 狐鈴は頷く。


「すごーいっ!」

「ああーっ!」

 ハルとミュウは拍手をしてくれる。


 風の鉤爪の通り過ぎた後には、岩壁の端から端まで抉り取られ、廃ビルを崩した様な惨状になっている。


 ガラガラガラ……

 

 更に壁が崩れていく。


「なんというか、アタシはアキラに魔力がない事が良かった様な気がするよ……」


 シルの言葉に、言葉も発さず驚きの表情で大きく頷くナティルさん。


「さて、実験の続きをしようか、ウメちゃんお願いっ」


「っておいおい、どんな破壊力なんだよっ!」


 威力が分かり解決したので、手をポンポンとはたき、次の魔法の披露をしようとすると、リュートさんが大声をあげる。


「規格外なんだよ、狐鈴も和穂もアキラも、それで納得しろ」

 ナティルさんが首を横に振りながら、リュートさんの肩をポンポンと叩く。


 ウメちゃんは魔力供給を再開してくれる。

 空になったブレスレットの魔石も元の色を取り戻す。


「さて、次は合わせた魔法をやってみようかな」

 ボクは右手と左手の人差し指同士をくっつけて称える。


【ルークラマ】

 風と水の合成魔法。


 パキパキパキパキ……

 ボクの手元に1本の氷の剣が現れる……が……


「わ、わわわ、ち、ちべたい、無理無理無理ー」

 ボクは氷の剣を手に取るも、冷たさに負けてポイッと放り投げる。


 放り投げた氷の剣はパタパタと飛んでミュウが両手でキャッチする。


「ピャーーッ」

 冷たい刺激は初体験のミュウが叫び、そのまま氷の剣を放り投げる。


「ルーッルーッルーッ!」

 涙目でハルに向かって飛びながら、両手を広げて助けを求める。


 ハルはミュウの両手をとり「わっ、つめたっ」と言いながらも、自分の頬にミュウの両手を誘導して、「ほぉ……ら、ミュウ、大丈夫……だよ」声を震えさせながらミュウに声をかける。


「ルー……」

「うん、ハルは大丈夫、ミュウもだね」

 ミュウはコクコクと頷く。


 ミュウの放り投げた氷の剣はシルの足元に落ち3つに割れる。


「なるほど、やるねー、氷属性の精霊と契約してなくても氷魔法を作り出せたのか……」

 しゃがんで割れた氷を指でツンツンと突っつき、シルは関心する。


「んと、何かを凍らせる程の器用さはないから、本当に必要となるなら仲間にしたいかも……」


 そう、ボクがやって見せたのはあくまでイメージを形にした魔法であって偽物だから、戦闘中とかで必要になってもうまく扱えないと思う。


「シルは氷の魔法で物を凍らせたり、物理的に作り出したりお手のものなんでしょ?」


 ボクの言葉に、待ってましたと言わんばかりに頷き、笑いかけて「もちろんさね」と答える。

 シルは両手を広げ、手のひらを上にして呪文を唱える


【空を彷徨いし水の子等、我の命に応え集まり我に力を与えよ、我は欲する氷竜の牙っ!】


 ピキッパキパキ……


 シルの作成した氷の剣は半月刀のような形で具現化される。

 

「ああ、これは……確かに

実用性はなさそうだねー……冷たいから持ってられないよ」


 シルはできたばかりの剣を足元へと下ろして、冷たくなった手に息を吐きかけ温めている。


「シルは氷魔法を具現化させる時はどんな風に使うの?」


「んー、飛礫(ツブテ)かな。

 氷片とか、氷塊とかぶつけたりする感じかな……後は矢のように突き刺さるように飛ばしたりだな」


うー、やっぱりそうなるのか。


「でも、着眼点はいいんじゃね?

 頭を使って魔法を作るって……そもそもシル=ローズさんじゃねーんだから、いくつもの属性持っている魔術師なんていねーし、それはアキラの魔法だな」


「アキラ、アタイ達に見せた魔法も見せてやったらどうだい? アコあたりは驚くと思うよぉ」


 チヌルはニヤリと笑いながら言う。


「あー、アレね」


 ボクは右手の小指と左手の人差し指を合わせて手を組み称える。


【チヌルークッ!】


 パリリリッ……バチバチッ……


 合わせた指先に電気を帯びた野球ボール大の水球が出来上がる。


「リュートさんっ、はいっ!」

「おっと……」


 ボクはリュートさんに、できあがった水球を放る。


 悲しいかな、ヒトは名前を呼ばれて、フワリと物を目の前に放られると、反射的に手を出してしまう。


 パシャーンッ

 バリバリッ


「うぎゃぎゃーーッ!!」


 電気を放出していた水球は手に当たって爆ける。

 突然電撃を受けて、咄嗟に手を引っ込めていたけど、物体は固体ではないので、そのまま纏わりつく。


「イダダダダッ!!」


 大丈夫、ちょっと痺れるくらいに調整できていた……ハズだから……。

 

 大丈夫……だよねぇ……。


 リュートさんは全身痺れて麻痺したのか、その場に膝から崩れ落ちる。


「ひでぇな……」

 近くで、困惑した表情でのナティルさんの呟きが聞こえる。


「はぁ、ワチが治してやろう」

 狐鈴はため息をひとつつくと、リュートさんの隣にしゃがみ込み、回復をさせる。


「こ、効果覿面だったようだね。

 で、電撃は、目に見えないので、リュートさんに協力して貰いました。

 サンドウィップ相手に放った時より、だいぶ弱めに作ったんだけど、思った以上に威力があったみたい……」


「こわっ!!」

 ボクの言葉にアコさんは顔を青くして声を上げる。


「ミュウ、こんな大人になっちゃダメだぞ」

 シルは和穂にぶら下がるミュウの背中を、ポンポンと叩く。


「ご、ごめんなさい。 反省はしています……」

 ボクは肩を落として謝るのだった。

お帰りなさいませお疲れ様でした。

新年明けました。

本年もよろしくお願い致します。

 投稿ペースが遅くなってしまい申し訳ございません。

 今年はマッタリ冒険だけではなく、戦闘シーンも勉強しながら、刺激のある内容もお送りできればと思っております。

 現実離れしたそんなお話もできたら多く入れていきたいです。


それでは、また次の話でお会いしましょう♪

いつも、誤字報告ありがとうございます。

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