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第134話 ボク、ミュウを取り巻く環境に和む。


「我々は一旦コロモンへと戻らせていただきます」

 研究者のゾルディガさんとディッグさん2人は集落に滞在している間も、食事以外は荷車へと引きこもり、報告するべき事をまとめていたようだ。


 ジャグラさんも、食堂作りにあたって来訪したキャラバンの数人とやりとりをしてくれていた。


「それではアキラさん、コロモンに訪れたときは是非、私の元にも訪ねてきて下さいね」


 ソーニャさんはリシェーラさん達の言いつけを守り、こちらへと来た時同様、眼帯で目を覆い、フードを深く被っている。


 全部が全部、彼女を取り戻したわけではないけれど、彼女の表情には清々しさを感じる。


「みなさん、これからもソーニャさんを見守ってあげて下さいね」

 眼鏡をずらして、彼女の周囲に視線を送ると、4人の守護霊達は力強く頷き「勿論だ」と答えてくる。


 ようやく、彼女にとってワーラパントの呪縛が解かれた。


「アキラさん、次の商品のお届けはひょっとしたら先輩になるかもしれないですけど、依頼された品、例の稲荷揚げの代わりになりうる商品はお届けできる様にしておきますので、先輩からもアドバイスもらってみて下さいね」

 ルーフェニアさんは笑顔で言う。


「ありがとう、それじゃ次はコロモンで会うことになるかな、その時はまた街の案内をよろしくね」


「仰せのままに」

 ボクに対してルーフェニアさんは丁寧にお辞儀をして「ふふ」と笑い、ボクもつられて笑う。



「ルーフェニア、ギルドを任せっぱなしですまねぇな、あたしが戻ったら、ゆっくり休ませてやるからな」

 ナティルさんは頭をポリポリ掻いて、御者台に上がろうとしたルーフェニアさんに声をかける。


「ナティルさん、そんな事言って良いんですか? ナティルさんこそ働き通しで、休めてないじゃないですか、大丈夫ですよー。

 先輩とギルドを乗っ取る算段を勉強させてもらいますから、ナティルさんは慰安旅行の計画をお願いしますね」


 お互い信頼し合える関係だという事がよく分かる。

 2人は笑いながら言葉を交わす。


 この2人、各々自由に過ごしている様に見えて、ジャグラさんと同様で合間合間に書類や言葉のやり取りをしていた。

 時間の使い方が上手いんだろうな。ボクも見習わないといけない。



「お世話になりました。

 ここでいただいた食事はあの時と同じで、本当に美味しかったです。

 あと……食堂ができるってウワサは本当ですか?」

 獣人のピノさんが声を掛けてくる。


「口に合って良かったです。

 んー、えと……情報が早いですね。

 でも食堂はまだ建物も建っていないし、予定の状態なんです。

 ボクもメニューの提案はしていますけど、食堂自体はここ周辺に住むみんなで盛り上げていくんですよ。

 ボクも冒険者として……? 旅に出る予定ではあるので、タイミングが合ったら、またボクの料理も食べて下さい」


 予定の段階なので、白紙になってしまう可能性もゼロではない。


「アキラさんも旅に出てしまうのですか?」


「ええ、自分探しというか……でも、ボク達の拠点はここですから、出かけては戻ってくる、そんな感じですかねー。

 ありがたいことに、冒険者ギルドの方が今回の物資の様に、この周囲で対応を必要とする仕事も持ってきてくれるし、回収してくれるので……。

 もちろん、食堂が実現した場合には、ここにいる間は腕に寄りをかけて食事を提供させて貰いますよ」


「なるほど、では自分も近くに来る用事ができたら、ぜひ寄らせていただきます。

 食堂の話がいい方向に進む事と、アキラさん達のご武運を祈っております」


 ピノさんはウンウンと頷き、両手を胸の前で合わせてペコリと頭を下げる。


「ありがとうございます、ボクもピノさん達が健やかに冒険して、新作料理を楽しんでくれる日をお待ちしていますね、それではまた」


 ボクはピノさんと握手を交わし、ピノさんは乗馬する。



「それじゃ、冒険者はコロモンに帰るまで……ベッドで眠りに着くまでがクエストだからな、みなも自分自身も守り、無事に街に帰ってくれっ」


 ナティルさんが全体の耳に届かせる様に、大きな声で発言をする。


「では、出発しますっ」

 ルーフェニアさんの声を皮切りに、荷車は動き出す。


 最後尾の荷車には、研究者のゾルディガさんとディッグさんが乗車していた様で、乗車扉を開けてコチラに手を振っている。


 その姿はすぐに小さくなって見えなくなる。



「アキラお姉ちゃん、人とのお別れって何だか寂しいね」

 ハルが珍しく眉をハの字にしてボクを見上げて言う。短い時間ではあったけれど、ハルはルーフェニアさんと話をしたり、一緒に料理を作ったりした仲だったから、思う事があるのだろう。


「そうだね、今目の前にいた人が見えないところに離れて行ってしまうということは寂しいものなんだよ、でもお別れの意味をする『さよなら』はボクはあまり使いたくないから、次に会える日を楽しみにして『またね』と言うんだよ」


 ボクはハルの頭をそっと撫でてやる。


「うん……そうだね……」

 ハルはコクリと小さく頷く。


「今のハルは最後のひと口の稲荷寿司を前にした和穂と同じ顔をしているよ」


「ええっ!?」

 ハルは驚いた表情をして、ボクを見上げて顔を赤くする。


「ひゃっ!?」

 ボクの背中に貼り付いていた和穂がボクの耳を唇でハムハムしてきた。

 口から漏れる息が近く生々しい。

 あまりに突然の出来事だったので、ボクはつい大声を出してしまう。


 和穂の方へと向き直り「でも、そうでしょ……」と小声で言う。


「………………」

 無言で、ジイッとボクを見る和穂。


「ごめん、ハルを元気付けてあげたくて」


「………………ふぅ……」

 ため息をひとつついて、ボクの肩に手を置く。




「るーっ!!」

 荷車からミュウの大きな声が聞こえる


 実は寝起きの悪いミュウを荷車に寝かせたままコロモンの皆の見送りをしていた。

 ミュウのハルを呼ぶ声が、そんな状態を強制的に思い出させる。


「るーっ!」

 勢いよく荷車の扉が開いたと思うと、ボサボサ頭のミュウが、転がる様に出てくる。

 いや、実際地面に転がりこんで「るーっ!」と顔を上げてアワアワ、キョロキョロとハルの姿を探す。


 窓のある方の荷車だったので、車内は太陽の光で明るくなっていたハズだから、目が覚めた時に、ハルの姿がない事に驚いたのだろう。


「ミュウ、ハルはここにいるよ」

 ハルが声をかけると、ミュウは目をコシコシ擦って、ハルの姿をみつけてひとつ頷いて飛んでくる。


「るーっ」

 ミュウはハルに抱きつく。


「ほら、汚れてるよ」

 ハルはミュウのワンピースについた土埃をポンポンと払ってやる。


「るー」

「うんうん、おはよ」


 ハルにとったら余韻に浸る余裕もないくらい慌ただしい事だったけれど、前向きにさせてくれる存在がミュウなんだなと思った。

 2人のやり取りがその場にいた者をホッコリさせてくれる。


「おー、ミュウは起きたかや? ハルはすっかりお母さんじゃの」

 狐鈴はルアルにまたがり林道から姿を現す。


「狐鈴どこ行ってたの、コロモンのみんな帰っちゃったよ」


 ハルが起きた時には、狐鈴の姿は既になかったそうだ。

 狐鈴が早起きなんて、今日は天気がおかしくなるかもしれない。

 今は雲ひとつない青空が広がっているけれど……。



「うむ、あの者達に魚を食べさせてやろうと思ってな、今届けてきたのじゃ」

 狐鈴はニパッと笑う。

 あー、そういえば、狐鈴はよく魚を振る舞っているよね。

 以前も早朝に姿が見えないと思ったら、カマドに獲ってきた魚を並べていたのを思い出す。


「うむ、朝から魚を食べると元気になるのじゃ」

 腕組みをした狐鈴は頷く。


「朝ごはんは片手間に、簡単に食べられる卵サンドを持たせたから、お昼か夜に食べるんじゃないかな」

 

 ボクはハルと和穂と一緒にスクランブルエッグとケチャップをオルソさんのパンに挟み、キャラバンの人達のお弁当として包んで持たせていた。


「和穂、狐鈴とミュウに朝ごはん出してあげて」

 ボクが言うと、和穂は狐鈴に2つミュウにひとつ卵サンドを手渡す。


 地面に伏せるルアルの背中にミュウは横座りして、両手でアムアムと卵サンドを食べる。

 人形の様で可愛らしいのだが、その真っ白な顔の口の周りについたケチャップが鮮明に見えて、『吸血種』という言葉が先入観から妙に頭にチラつく。


「ミュウ、ちゃんとよく噛んで」

「るー」

「ありがと、でもハルはさっき食べたからミュウ食べていいよ」


 口を拭いてやるハルの口にミュウはどうぞと卵サンドを運ぶ。


「ハル、ミュウ、出発する前にソッポイさんのところにパンの追加をもらいに行ってくるんだけど、一緒に行く?」


 2人に声をかけると、ハルはパァッとした表情で顔を上げて「行くっ」と声を上げる。


 ミュウは何のこっちゃか分かっていなかった様だけど、ハルの反応を見て、コクコクと頷く。


 ルアルは今狐鈴が連れ出していたから、ボクは白夜を呼ぶ。

 本当はのんびり歩いて行っても良かったのだけど、ハルとミュウのリンネちゃんと過ごす時間を少しでも長くとってあげたくて、白夜に協力してもらう事にした。


「じゃあ狐鈴、予定より早く出発する様になったら、念話で教えてね」

 ボクは忘れないうちに、数珠を手に巻く。


「承知した、ソッポイ家の者達によろしくな」


 狐鈴はルアルの頭を撫でてやりながらボクに返事をする。


「白夜、お願い」

 ボクの後ろには和穂が乗って、首元をポンと触れると白夜は動き出す。

 ミュウはハルと低空飛行の練習をする為、林道を通るボク達の後ろをついてくる。


「あー」

 ミュウの嘆きの声と、ハルの何か言っている声が遠ざかっていく。

 ボクが白夜をポンポンと触れるとペースを落としてくれる。

 後ろを確認しようと振り返ると和穂が「案ずるな」という。


 ハルが、ミュウを抱えて残りの道のりを飛行しているそうだ。


 ソッポイ家の煙突が見え、外を歩くミルフィとリンネちゃんの姿が目視できる位置までくると「あーっ」とミュウの嬉しそうな声が聞こえる。


「おはようございます」

「おはようございます」

「おはよー」


 離れた位置から手を振りながら挨拶すると、こちらに気がついたミルフィとリンネちゃんが返してくれる。


 ミルフィの前まで来ると、白夜は歩みを止めて、降りやすい様に体を伏せてくれる。


「白夜、ありがとうね」


 リンネちゃんとハルが抱き合い、ミュウはミルフィさんに頭を撫でられている。


「おや、おはようございます」

 オルソさんが厨房からこちらへと出て来て挨拶してくれる。


「おはようございます、パンの補充をしに来ました」

 ボクが言うとオルソさんは笑顔で「どうぞ」と厨房へ招き入れてくれる。


「アキラさん、和穂さん、新作パン味見してみますか?」

 オルソさんはカマドの方からこちらに向き、カマドを指差し尋ねてくる。


 ボクの袖が和穂によってクイクイと引かれる。

「ん? 和穂?」

 振り返ると、目をキラキラさせて凄い勢いで何度も頷いている。

 尻尾もブンブンと振られている。


「…………」


 何と言うか、初めて和穂を見た時のクールで綺麗な女性のイメージが崩れていく……。


「和穂、ボクのときめきを返して……」

「…………??」


 和穂は小首を傾げ、尻尾をパタパタしている。

 コレはコレで可愛いけれども……。


「オルソさん、ぜひお願いします。和穂は多めで……」


「はは、了解。 出来立てを持っていくから座っていて下さいね」

 オルソさんはニッコリ笑うとバスケットに山盛りにパンを持ってくる。


「今コーヒーを淹れるよ」

 オルソさんはバスケットをテーブルの上に置き、カップを取りに行く。


 和穂は席に着くなり、手を伸ばしラグビーボールの様なこんがりしたパンを鷲掴みして、真ん中を割ろうとする。


 焼きたて熱々なので、摘んで切り込みを入れる事にも苦戦を強いられる。

 摘んでは手をフリフリさせて、表面の硬さに、切り込みから出てくる甘い香りの熱々湯気に警戒して、どうにか2つに割る。

 和穂は歪なふたつ割にされたパンの片側をボクの前に渡してくる。


 表面の硬い部分は薄く、摘むだけでパリパリと音を立てて割れる。

 甘い香りの湯気はバターと蜂蜜の香りで、鼻が包まれる様に、香りだけで幸せな気持ちにさせてくれる。


 摘んでひと口大に引き裂くと、わたあめの様に柔らかく解ける。


 口に運ぶと熱々だけれど、口の中にバターと蜂蜜の甘みと香りが幸せがいっぱいに広がる。


 このパンはきっとコレで完成なんだろう。フレンチトーストとして加工しようものなら、タネに浸した途端溶けてしまうと思う。


 ジャムをつけたらパンの柔らかさが負けて、ジャムだけを口に入れている様な感じになるかも。


「オルソさん、コレは凄く不思議なパンですね」


「お、嬉しいですね、最近はアキラさんを唸らせる様なものを作る事が、家内との目標なんですよ」

 オルソさんはコーヒーを落としながら、こちらに顔を向けている。


「そんなー、いつだって唸らされていますよ」

 ボクが和穂の方に視線をやると、バスケットに3つはあったラグビーボール大のパンが消え、幸せそうに最後のひと口にかぶり付いている。


「和穂も幸せそうですし。 

 あ、ありがとうございます」


 オルソさんから渡されたコーヒーを受け取りひと口含む。

 先程の甘い余韻の残る口の中に、苦味が進行して広がり、強制的にリセットされる。

 うーん、カフェオレかお茶の方が、このパンの余韻を楽しめたかも……ちょっと勿体無い事したな。


「今朝もキャラバンのみなさんにお弁当を?」

「ええ、今回も手軽に食べられるものを用意しました。

 なので、この前いただいたパンは殆ど使っちゃったんですよ。

 これからまた荒野に出るので追加をいただきに来ました」


「なるほど、本当アキラさんにばかり任せてしまってすみませんね、自分達も協力できたら良かったのですが……」


 オルソさんはバスケットに冷ましていたパンをどんどんと乗せていく。


「いえいえ、いつも美味しいパンを提供して下さっているので、十分ですよ。

 ボク達も起きた流れで、朝ごはんと一緒に作っているので。

 和穂、今日のお弁当余っていたらオルソさんにあげたいのだけど……」

 カップを片手にしゃがんで、カマドの中のパンの焼けていく様子を見ていた和穂は、こちらを向いてウンウンと頷き、戻ってくる。

 収納空間から5本の卵サンドをとり出し、ボク達が味見として提供されたけれど、使っていなかった皿に乗せる。


「ああ、これは卵とけちゃっぷ……ですね」

 皿に乗せられた卵サンドをオルソさんはしげしげ見つめる。


 和穂はオルソさんが用意してくれた、パンが山積みになっているバスケットをひとつづつ片付ける。


「卵とミルクは足りてます?」

「そうですね……でも、いくらあってもありがたいです」


 和穂はボクの言葉を聞くと、空になった大籠を3つとミルクの入っていたカメを5つ取り出す。


「承知しました。常に新鮮な状態で保存できると聞きましたけど、一応今日用意するやつに目印つけておきますね」

 そう言うと、オルソさんは卵の入った大籠を棚から降ろして、ミルクの入ったカメを取りに一旦外へと出ていく。


「和穂、きっとミルクは重くて運ぶの大変だから取りに行こう」

 卵の入った大籠を片付けた和穂はウンウンと頷く。


 オルソさんの背中を追って外に出ると、パタパタ飛んでいるミュウをリンネちゃんがキャッキャと追いかけている様子が見える。

 ハルとミルフィの姿がないから2人は一緒かな。


「オルソさん、取りにきました」

「ああ、取りに来てくれたんですか、助かります」

 離れの蔵に入るところで、オルソさんに声を掛けると、オルソさんは振り返り、頭を軽く下げる。

 蔵の中はヒンヤリしていて、ちょっとばかり肌寒さを感じる。


「それじゃ、この5本を持っていってもらって大丈夫です」


 ミルクの入ったカメの持ち手に、黄色のリボンをしばって用意してくれる。

 和穂は手をかざし、カメを1つづつ片付けていく。


「本当に便利ですね」


 和穂がミルクを片付ける様子をマジマジと見つめて言う。


「ですよねー、あれこれ入れているのに、和穂には何がどれくらい入っているか分かるんですよ」


「へぇー……」


 ボクの言葉にオルソさんは関心する。



 結局オルソさんから今日の仕込んであったパンの半分以上と和穂もお気に入りの試食させてもらったパンも新たに焼いてくれて貰っている。


 それに消費出来ずに余っていたパンを貰って、おそらくパン屋として開けるくらいの量に膨れ上がった気がする。


 まあ、オルソさんのパンなら多少硬くても美味しく食べられるから、贅沢な非常食として、狐鈴にも持ってもらおう。



「ど、どうしたの!?」

 ハルは先程姿が見えないと思ったら、何とミルフィに髪を切ってもらっていた。


「えへへ、アキラお姉ちゃんとお揃いにしてもらったんだ」

 そう、そこにはボクと同じ、姫カットのハル。


「すっっっごく可愛いね、ボクなんかより全然お姫様だよ」

 ボクの声かけに満足だったのか、笑顔でほんのり頬を染める。

 

 最近はすっかり顔を隠す必要がなくなったみたいだし、ひとつの踏ん切りみたいな感じかな。


 同じ姫カットでも、ボクは目つきが悪いからどうしても気の強いお転婆な姫さんになってしまう。


 和穂はハルの頭を撫でてやっている。


「あれ? ミュウは?」

 さっきまでリンネちゃんと追いかけっこしていたミュウの姿が見えない。


「るー」

 ミュウの声の方を振り返ると、ちいさな三つ編みがいくつも編まれ、ポニーテールのようにひとまとめにされているミュウがハルの元に飛んで来る。


「えーっ、すっごく可愛い」

 ミュウも褒められていることがわかるようで「あー」と笑っている。


「ミュウちゃんは髪のコシが強いから思い切ってやってみました」

 ミルフィは腰に手を当て、ひと仕事を終えたと清々しい表情で言う。


「リンネもやったんだー」

 リンネちゃんも駆けて来てボクのお腹に飛び込んでくる。


「へぇー、リンネちゃんもすっかりお姉ちゃんだねー」


「えへへっ、そう。リンネお姉ちゃんなんだ。すぐにお姉ちゃんを通り越してお母さんになるんだー」


 うん、なんか純粋な女の子のほのぼのする解答だね。


「お、お母さん……にはまだ早いんじゃないかしら……」

 そんなリンネちゃんに、ミルフィは慌てた様子で言う。


「いや、ミルフィ、リンネちゃんは階級的な意味合いで言っているんだと思うよ。


 リンネちゃんはご飯のお手伝いもできているから、すぐにお母さんになれるねー」

 ボクがリンネちゃんの言葉を汲み取って伝えてあげると「ねー」とリンネちゃんも同調する。


「ででで、ですよね、私もそうだと思いましたよ、リンネも自分で起きれる様になったり、料理できたりしないと、お母さんにはなれませんよ」


「顔真っ赤ー」

 リンネちゃんは笑う。



 ここで、改めてミュウの髪を見る。

 キッチリ編み込まれている三つ編みに混じってピョンと、纏まりきれていない髪の毛が飛び出ているもの、編み目がバラバラのもの、ちゃんと編み込まれていないものが混ざっている。


 でも、きっと親子揃ってミュウの為に、せっせと編んでいたんだろうな。


「ねー」

 ミュウがリンネちゃんを指差し言う。


「うんうん、リンネちゃんがやってくれたんだね」


 ハルが言うとミュウは嬉しそうに笑う。

 ミュウがリンネちゃんの事を「ねー」と言うのは、「ハル=るー」の様に「リンネ=ねー」と周りの呼び方から、後だけを発声しているのだろうけれど……「(ねー)」と言っている様にも聞こえて、知らず知らずのうちに、お互い良い姉妹の関係にもなっているんじゃないかなって、ほのぼのとする。


 そんなハルと小さな姉妹達を見ていると、和穂がボクに抱きつくリンネちゃんの頭をワシャワシャと撫で、ボクに「良い関係だな」と微笑む。


「だね」


「リンネちゃん、ミュウをこれからもよろしくね」


「うんっ!」

 リンネちゃんは元気に返事する。



 ボク達はソッポイ家に挨拶をして後にし、広場へともどってくると、ヤンマ姉妹とキルトがこちらに気がつき寄ってくる。


「ミュウちゃんおはよー」

「キャーッ! ハルちゃんも、ミュウちゃんもすごい可愛いっ!!」


「あーっ」

 ミュウはご機嫌で、ヤンマ姉妹に揉みくちゃにされる。


「わーっ、わーっ、ホント、真っ白な子ーっ」

 キルトが、ミュウの頬を撫でようと右手を伸ばす。


 ガブッ


「ギャーッ! なんでなんでなんでーっ!?」

 ミュウはキルトさんの伸ばされた手に噛み付く。


 敵意とか、殺意とか獲物として見ているではないようだけれど……。

 甘噛みで、血が出る様な事は無かったけれど、再度頭を撫でようとした時もガブリッとする。


「うえぇ……なんでですかぁー」

 どうしても触れたいキルトに、なぜか噛み付くミュウ。


 別に睨んでいる訳でもないんだけどな……

 試しにキルトの手をとり、ボクがミュウの方に手を伸ばす……ガブッ。


「ギャーッ……何で!?」

 器用にキルトの指の先端だけ噛み付く。

 

「ミュウ、噛んじゃかわいそうだよ」

「??」

 ミュウはボクの言葉に小首を傾げ、頭に「?」を乗せている。

 その間もヤンマ姉妹に撫でられ放題なのだが……。


 試しに和穂が手でミュウを目隠しをして、ハル、ボクと手を寄せても普通に触れるのに、キルトが手を寄せると、自然に口が開く……反射? どんな原理なんだろ。


「まあ、なんというか、キルトとの関係は特別なんだね……他の人とは違う関係を喜ぶべきだよ」


「アキラちゃん、それは褒め言葉でも慰めでもないですよ……」


 キルトは肩をおとし、右手の親指を犠牲にして左手でミュウの頭を撫でる。


「んうー、でも可愛い」

 涙目で、頬擦りなんかもしている。


 どんな形でも、納得してなくても満足しているなら良いか……。


「アキラーおはよー」

 ツリーハウスのデッキからチャコが身を乗り出して挨拶をしてくる。


「おはよー」

 ボクは返事をしながら手を振る。





「ミュウちゃん置いて行ってもいいのにー」

 荒野に向かうボク達の見送りで、歯形だらけのキルトがいう。

 あのあとどれだけ、ミュウに戯れついていたんだろ……。


「ミュウはハルが近くにいないと混乱するからね」


 実際今朝の出来事を考えるとね。

 たぶん、ボク達やソッポイ家と一緒なら大丈夫なんだろうけれど……。

 今はまだ吸血種としてのミュウの事をよく分かっていない状態という事が、ボクには1番心配なんだよね。

 いつ暴走するかも分からないし。

 まぁ、キルトなら血を吸われても幸せそうだけどね。


 今回の旅のメンバーは、チャコにレウルさん、ナティルさんにジャグラさん。

 狐鈴にチヌルに、ハル、ミュウ、ウメちゃん。

 シルに、和穂に、ボク、ハクフウさんに力の差をつけられて、修行を兼ねて同行するリュートさん。

 そして、初めて行動を共にするアコさん……いや初めてではないのか、スタンピードの時一緒に呼び出されていたっけ。


「ヘレ爺がついて行けって」

 ヘレ爺というのはアコさんの師匠であるヘレントさんの事。


 シルに聞くと、ハルに集まる魔物への対処として、クラマの穴は大きいし、メイルさんもいないので、遠距離攻撃の後衛としてアコさんを借り受けたそうだ。


「ヘレ爺は野営なんてできる体力はないから」

 だそうだ。

 

 ボクとしては、アコさんは初めての絡みになるので、とても楽しみだ。


 今回はナティルさん達のゴレーム馬車と、白夜の引く荷車、ルアルの引く荷車の3台、乗馬の練習はナシだ。


 レウルさんの休憩で、時々足を止めるけれど、かなり早いペースでの移動となっている。


 ルアルの業者台には狐鈴とアコさんが座って話をしている。

 そういえば、あの2人は露天風呂飲み会で一緒していたんだったけね。


 レウルさんの、休憩ごとにナーヴとルボンテを採取しているので、結構な量を集めることができた。


「時々採りに来れると良いんだけどねぇ……」


「旅が落ち着いたら採りにくれば良いんじゃないかぃ」


 ボクに協力して採取してくれてるチヌルが言う。


「まぁ、代わりになりそうな物も探してくれているわけだし、こんなところまで採りに来なくても、もっと良いものが見つかると思うけどねぇ」


 確かにそうだけれども。


「ねえシル、チャコの秘術の受け取りが終わったらすぐ隠れ里に向かうの?」


 とれたてのナーヴの水を美味しそうに、喉を鳴らしながら飲むシルに尋ねる。


「すぐにでも行きたいところだけれど……言ったろ。

 アタシが旅に出るには、王宮にひと声かけなきゃならないんだって……

 それに家族も増えた事だし、登録するべき事もあるからね。

 ついでに王都で調べ物すれば、コロモンで見つからなかった探し物も見つかるんじゃないかね」


 なるほど、ダークエルフの里以外でも調べて得られる情報があるならば、調べる価値はありそうだ。


 それに、ボクだけのことじゃなく吸血種(ミュウ)の事も知りたいしね。

 こちらの世界や大天使の事を調べるのも良いかも……やばい、王都に行ったら好奇心の大爆発が起きそうだ……。

 お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

 ミュウとハル、アキラと和穂とはまた違った角度での仲の良さを表現出来ると良いなと思ってます。

 なぜ、キルトだけミュウに噛まれるのか……とくに何も考えていないんですけどね、面白い推測ができたら教えて下さい。


 それでは今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。


 いつも、誤字報告ありがとうございます。

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