第132話 ボク達の着替えと、白い少女。
ボク達が浴場に到着すると、タイミングよく、入り口からミルフィとリンネちゃんが出てくるところだった。
本当こういう時の運だけは特に良いんだよね。
「アキラ……おはようございます。
あら? この子は??」
和穂がお姫様抱っこで抱える少女に目をやったミルフィは尋ねてくる。
ミルフィには森で生まれたばかりの精霊を保護したことを伝える。
「なるほどー……私も詳しくはないのですが、人型の精霊が生まれるのって稀らしいですよ……。
それじゃあ、この子に着せる洋服が必要ね、見たところリンネと同じくらいかしら?
でも、生まれたばかりって言っていたわね。
うんうん、そうねリンネ良かったわね、リンネはお姉ちゃんになったみたいよ」
ハルと話をしていたリンネちゃんは、ミルフィの話を聞いてこちらへとやってくる。
「うわぁ……凄くかわいい……」
起こさない様に小さな声を出し、そっと覗きこむリンネちゃん。
これだけワイノワイノしているのにいっこうに起きない少女。
ミルフィはリンネちゃんと一緒に洋服を取りに一旦帰って行く。
先行して、狐鈴とハル、ウメちゃんとルークが浴室に入っていく。
まぁ、この順番になったのは、和穂がソーニャさんの尻尾を洗ってあげてと提案してきたからなんだけどね。
スヨスヨ…………
スヨスヨ……
ほっぺたをプニプニすると、口をモニュモニュさせる。
何だか、寝ている和穂にちょっかいを出した時の反応によく似ている。
「この子は食事も食べられるのかな……
せっかくボク達の元にきたのなら、みんなと同じ様に美味しいものを食べて笑顔になってもらえたらって思うのだけど……」
「そうですね、何かを食べて喜んでいる姿を見たら、とても気持ちが暖かくなるんでしょうね。
あいにく吸血族の知り合いはいないので、何の情報もないのですが……」
ソーニャさんは想像したのか、表情柔らかに笑いかけてくる。
ボクはこの子の口の周りを拭いたりハルが世話をしているところを想像してホッコリする。
血じゃないと駄目なのかな……
でも、実際血を処分してくれて助かっているんだけど……。
「洗い場空きましたよぉー」
ウメちゃんが浴室のドアを開けて声をかけてくれる。
「ありがとうっ、それじゃ行こうか、誰もいない時に目を覚ます様だったら教えてもらっても良いかな? 多分ミルフィとリンネちゃんが来ると思うけど」
ボクはウメちゃんに返事をして、ソーニャさんと、白い少女の横たわる目の前で座り、眠る様子を見ている守護霊の2人に声をかける。
「まかせて、この子の事ならいつまでも見ていられる自信があります」
2人はうんうんと頷く。
ちなみに、男の守護霊の2人は白夜達と外で待機してもらっている。あとでボクの服をソーニャさんに着せてあげたら呼んであげよう。
「それじゃ、ソーニャさんの(お風呂の)初体験に行って来まーす」
ボクと和穂とでソーニャさんを両側から支えて浴室へと向かう。
「うう、アキラしゃん、あしこひが立たなくなっしゃいまひた……」
「うん、もうちょっと待っててね、ボクも2人を先に洗っていたらすっかり寒くなっちゃった、今自分の体洗っているから……」
先に洗ってやった和穂はポーっと余韻に浸り、ソーニャさんは床にペタンッとお尻を付けている。
最近よく見る、いつもの光景だ。
ボクの指先から魅了の魔法でも出ているのだろうか……。
自分自身には何の効果も感じないから何ともいえないのだけれど……。
ボクが泡を落とすためにお湯を被っていると、露天風呂の方からハルが戻ってくる。
「あの子が心配だから、ハル先にあがるね……」
ハルって何だかんだで面倒見良いよね。
「ソーニャさんの仲間が見てるから大丈夫だよ。さっきくしゃみしてたでしょ、ちゃんと体を温めなさい」
「えーっ!」
ボクによって足止めされた挙句、普通にショックを受けている……
「そこの浴槽でも良いからっ、風邪ひいたら大変だよ、もし風邪ひいたら次のお出かけはお留守番だからねっ!!」
「ええ!? やだっ!」
ハルはそう言うとドボンと湯船に飛び込み浸かる。
肩まで、口元まで浸かりブクブクやっている。
解かれた長い髪は水面に広がる。
「ハル、ちょっと、ソーニャさんを狐鈴達に預けてくるから待ってて、たまにはボクとゆっくり入ろうよ」
ボクがそう言うと、余韻から戻って来た和穂がボクの言葉に、ソーニャさんをひょいと小脇に担いで、露天風呂へとつれていく。
「ふえ? ハダカのまま外にでるんで……」
ソーニャさんの驚いている声が置き去りにされていく……。
ボクはハルの横で浸かる。
「ハルは優しいね」
ボクの言葉にハルは顔を上げ、浴槽から顔を出す。
「そ、そんな事はないっ……よ……ただ……」
ハルはなんだか、大きく否定した後、困った様な表情でボクを見つめる。
ボクはハルの次の言葉を待つ。
「あの子は昔のハルなんだ……
ハルのいちばん最初の記憶はひとりぼっちだったから……だから、だから……」
「同じ思いはさせたくない?」
ボクの言葉にハルは小さく頷く。
「うん、やっぱりハルは優しいよ。
あの子も、今のハルもひとりじゃない、誰か守るべき人がいるって事は、その人の為に強くも優しくもなれるって、ボクはそう思っているから。
ボクは守られてばっかりだから自分のやれる事でみんなを守るっ、ボクはみんなの胃袋を守るんだ」
ボクは拳を握り天を突くと、ハルに笑いかける。
「あは、それはお姉ちゃんにしかできない素敵な事だよね、ハルにも手伝わせてね」
ハルは5つの目を細めてボクに笑いかける。
ハルは笑っていたかと思うと、ふと真顔になる。少し緊張しているかの様に……。
「あ、あのね、お姉ちゃん、相談してもいいかな」
ボクはハルの真剣な眼差しに、聞いても良い話なのか正直悩んだ……。
だって、天使の相談なんて、人間が乗ってあげられる様なものなのか……。
「ええっと……うん、ボクがハルの求めている答えが出せるか分からないけれど、ボクの考えで良ければ……」
ボクの曖昧な返事にハルは頷き、口を開ける。
「実は……狐鈴お姉ちゃんにはまだ話していないのだけど……、ハルはたぶん……ハルの中にもう1人いるのかもしれない……」
「ええ!? どうして、そう思うの?」
「ハル、昔のハルを少しだけ思い出したんだ……全部ではないのだけど……。
ハルは死なないように神様に作られたんだ、魔物を集める為の餌だったから……。
痛みで意識を失うと、しばらくして意識が戻るのだけど、血塗れで立っているんだ。
ハルを食べていた魔物を全て殺して……。
ハルはハルが怖い……どうなってしまうのか分からないから……」
ハルは俯く。小さく震えている事がわかった。
「ハル……」
ボクの声かけにハルはビクッとする。
「大丈夫、ハルはハルだよ。
それに、自分の事を餌なんて言っちゃダメ、ボクはそれはとても悲しい……。
ハルが怖いと思っているハルもきっと、ハルを助けようと出て来てるんだ」
ボクを見上げているハルは前髪の隙間から泣きそうな表情をしている。
「狐鈴や和穂……頼りないかも知れないけどボクだって、もしハルが誰これ構わず何かを傷つける様なところを見せる様であれば、止めてみせるから、心配しないで。
それにボク達と一緒にいる時、一度も出て来ていないのは、そのハルが、今のハルをボク達に任せてくれているのだと思うんだよね。
だから、ハルはありのままの自分を受け入れると良いと思うよ」
「お姉ちゃんっ!!」
ハルはボクに抱きつく。
「ハル、ハルがあの子の道しるべになって支えてあげないとね。
今のハルは人の目を怖がっていた時のハルじゃないでしょ」
「うんっ」
ボクはハルの後頭部を撫でてやる。
ザブンッ
ソーニャさんを露天風呂に置いて来た和穂がこちらに戻って来て、湯船に飛び込む。
そして、ボクの元にやってくると頭をこちらへ寄せる。
ああ、うんうん。
ボクはハルにしている様に、逆の手で和穂の頭を撫でてやる。すると、耳をピコピコ動かしてご機嫌になる。
ハルのもう1人の人格ね……。
ボクの中にいても干渉して来ない珠緒お姉ちゃんに比べたら、本人の危機迫ったときには助けてくれているみたいだし、まあ気にする事でもないでしょ。
ボクはため息をひとつつき、2人の頭を撫でてやる。2人はもっとと、ねだる様に頭を寄せてくる。本人達が嬉しいならいいけれど。
結局、守護霊達が呼びに来ぬまま、ボク達は体が温まり、脱衣所へと戻る。
少女はまだ寝息を立て眠っている……
少女を囲む様に戻って来たミルフィとリンネちゃんも表情をホワホワさせながら少女の眠る様子を見つめている。
「んー……まだ起きてないんですね、夜型なのかな??」
ミルフィはボクが出て来たのに気がつき、待ってましたと言わんばかりに、綺麗に畳まれた服一式をコチラに押し付けてくる。
「アキラ……よかったら、これ着てみて」
ミルフィは他人を呼び捨てるという事にまだ慣れていないようだ。
どうやらボクにも服を用意してくれていたみたいで、ありがたく受け取る。
ミルフィは普段から民族系の衣装を着ているのだけど、とてもセンスが良いから、正直渡された服もとても楽しみに思う。
「おや、これって……」
「わぁ、アキラお姉ちゃん、お母さんとお揃いだー」
そう、ミルフィが用意してくれていたのは普段からミルフィがよく来ている、模様の入った民族衣装の様な服だった。
白髪のミルフィは薄いベージュのワンピースにオレンジ色を主体とした渦巻きの様な模様が入っていて、清潔感があって、健康的なイメージを受ける。
ボクに用意してくれたのは同じベージュのワンピースに、黄緑色を主体とした同じ模様の入ったものだった。
ワンピースの下には7部丈のパンツを履く。
重ね着だけど、柔軟体操や、体を動かして様子をみても、窮屈なく軽くて動きやすい。
「へー、コレは楽だね。うん気に入ったよ」
「私も気の合う友人とお揃いで、服を着てみたかったから、喜んでもらえて嬉しいです」
ミルフィは両手を胸元で合わせてほほ笑む。
本当、考え方が可愛いな。
「シル辺りなら……あー、シルはそういうことはしないか……ヤンマ姉妹ともよく話す様になったのは最近って言っていたもんね、ボクを選んでもらえて光栄だよ」
ボクも笑い返す。
できれば汚さずに着ていたい。
最近は戦闘だったり、訓練に巻き込まれたりで、せっかくシルの用意してくれている服達が可哀想な状態になってしまっている。
「「「わー、すてきっ」」」
守護霊の2人とリンネちゃんが、あちらで声を上げる。
目をやると、ハルがいつもと違って、リシェーラさんのような、落ち着いた感じの神官服の様なローブの様な姿になっている。
「おおお、お姉ちゃん、どどど、どうかな?
ハルはかなり恥ずかしいのだけれど……」
顔を真っ赤にしたハルが、上目遣いでボクに感想を求める。
ボクは、言葉を失った。
……神聖な感じで、ハルって感じではなくて、天使ハル様なんだよ。
それは、ミルフィも同じようで、ハルの姿に見惚れている。
何というか、ここが風呂場の脱衣所って事が心底残念な感じなのだが、そんな環境も通り越して見惚れる。
いや、風呂場だったからこそ、背景に湯気と差し込む光が反射して、より神秘的に演出しているのかもしれない。
「良い……とてもステキ……天使ハル様」
ミルフィはお世辞ではなく、自然に漏れた言葉を小さく口にする。
もちろん、ミルフィにはハルの頭上に浮かぶ天使の輪は見えていないわけなのだけれど、その姿の迫力よ。
「うん、天使ハル様だね……」
目が離せない……。
例え、荒くれ者達が飲み屋で乱闘を始めていたとしても、この姿のハルが現れたら、何もできなくなってしまうだろう。
実際、ハルは天使なのだけれど……この姿で大天使の姿になった途端、遥か彼方の存在になってしまうのではないかと思えてしまう。
全体的に薄い水色のローブに、紫のストールを羽織って、長袖の袖口とウエスト付近に付いているプリーツとリボン、ヒラヒラではなく、ストーンッとした袴のような水色と薄紫のスカート姿。
所々金の糸で刺繍がされている。
グレーの腰まであるストレートの髪の毛とパッチリとした赤と青の瞳。
この姿はハルだから似合う。
白髪褐色肌のリシェーラさんが着たら、リシェーラさん本人か、服かどちらかが浮いてしまうだろう。
リシェーラさんは全体的に白い服だから、違和感がないので、ハルがリシェーラさんの服を着たら、やはり浮いてしまう様に感じる。
「ああ、そうだ、ハルせっかくだからリボンをつけよう」
ボクは以前ポニーテールのハルの髪飾りとしてつかった縁が金色のダークグリーンのリボンの太めのリボンをバックから取り出し、カチューシャのように渡して後ろでキュッと結ぶ。
「あ、うん、凄く良いよ」
こ、これは……姿を見ただけで信者が増えると思う……。
「ハル、人に褒めてもらう事がなかったから、なんだか少し恥ずかしいな」
ハルは狙ったわけではないのに、その赤らめた顔に……ドキッとする。
「ちょ、ちょ、ちょっと深呼吸をしてくる……」
「わ、私も……」
「お、お姉ちゃん!?」
ボクはミルフィと一緒に背後からハルの言葉を受けながら一度外に出る。
「ふう……あれは、凄い」
ボクの言葉にミルフィも無言でコクコクと頷き返事する。
ボク達が戻った時には、ハルはいつもの姿に戻っていた。
「恥ずかしかったから……ね」
と、ハルは言う。
「そう? でも、似合っていたよ。あれは確かに……特別な時に着た方が良い気がする」
ボクはハルにそう伝える。
ハルはボクが縛ってあげたリボンは嬉しかったのか、着替えをした後も着けたままにしていた。
「さて……この子だね……」
眠っている少女のほうに視線を向けると、寝返りをうったのかうつ伏せになっている。
「ん? 動いているみたい?」
リンネちゃんが言うと確かに腕の力で体を起こしていく。ペタンとお尻を床についてあぐらを崩した様な姿勢で、半目を開きぽやーっと天井を見上げる。
突然の攻撃をしてくる可能性もあったので、ミルフィとリンネちゃんを和穂の後方へと下げる。
「お、おはよ?」
ハルがゆっくり近づき声をかける。
見上げていた視線を首ごとハルへとむける。
「…………」
パチクリと、数回まばたきを繰り返す。
「うー……あはぁっ」
無邪気な笑顔をこちらに向ける。
ぶかぶかの千早はストンッと落ち、ハダカの状態で抱っこをおねだりする様に両腕を広げる。
「あれ、和穂がボクにおねだりしているやつだよ」
ボクはとなりの和穂に言うと、ウンウンと頷き、後ろからボクにギュッと抱きつく。
ハルが少女をハグしてやると、「あはぁっ」と喜ぶ声をあげる。
背中から抱きついている和穂をそのままにハル達の様子をみていると、少女は足をハルの背中に絡め更にギューッとチカラを込めて、体全体で抱きついているのがコチラからも見てわかる。
「うんうん、チカラが強くて元気だね」
ハルは少女の頭をポンポンと撫でてやる。
少女はイタズラでそうしたのか、チカラ比べの為にそうしたのか、やがて絡めた足を解き、ハルの胸元から顔を離すと、自分の手をにぎにぎ動かす。
「んふふ……」
少女は笑顔を見せ、ハルの胸元に再度顔をグリグリさせてから、顔を上げて、今度はボクをジイ……ッとみつめ、先ほどの様に両腕を開く。
「ん? ボク?」
ボクの声かけに少女はただ、笑顔を見せる。
「おいでっ」
ボクの言葉の意味を理解しているか分からないけれど、同じポーズをして笑いかけてやると、背中の羽をパタパタと動かし、器用に飛んでくる……いや、右に左にふわふわしながら、ボクの元に来る。
ギューッ
うんうん、結構チカラが入っているけれど、それだけだ。
ハルもきっと狐鈴の抱擁で耐性ができているんだろうな。
ボクに関しては後ろからも和穂にも抱きつかれているままなわけだけど……
「……??」
顔を上げた少女は不思議そうな表情をしている。
「んふっ」
そのまま、笑顔でおねだりポーズをする。
「はい、和穂もだって……」
「……や……」
即答する和穂に、ピクリと反応する少女。
「ほーら、和穂お姉ちゃん」
ボクが改めて言うと無表情のままボクの横から前に周りこみ、渋々手を広げ少女を受け取る。
「…………」
「…………」
少女はジッと和穂を見つめる。
和穂は変わらぬ表情で抱き上げている……。
和穂は右手を少女の頭の前に持ってくるなり、人差し指でおでこをべチンッと弾く(いわゆるデコピン)。
「「「「「!?」」」」」
「!?」
少女本人も突然の事で何をされたのかわかっていない様子で、おでこを抑える。
「……この童、どうやら接触して生命力を吸おうとしていた様だ……つまらん悪戯だ。
狐鈴相手だったら折檻の対象だぞ、アヤツは童だろうが平等に仕置きをするからな、次はないと思えっ」
無表情のまま、和穂は言い聞かせる。
チカラ比べでネコの様に主従関係を決めていたわけじゃなかったのか……。
ハルは生命力の化身みたいなものだから、何ともなかっただろうし、ボクは魔力そのものがないから、不思議な物を見る目をしていたのか。
和穂は子供が好きなのかな……。
相手が子供と言えど、叱るべき事は叱っている。
あの廃村では子供の面倒も見ていただろう。
懐いていた者から村を守れなかった事に、対して罵られた……その時の出来事が和穂の記憶に今も残っているようだけど。
少女にとって、言葉の意味は分かっていなくっても、やってダメな事を叱られた事は分かった様だ。
笑顔で「ダメだよー」って言えるような事ではなかった。
ボク達だったから特に害は無かったわけだけど……。
これがミルフィだったら?
リンネちゃんだったら?
想像するだけで怖い事が行われていたわけだ。
「あーんっあーんっ!」
少女は大声で泣きながら何度も、和穂の胸におでこを付ける。
その姿は取り返しのつかない事をペコペコと謝る大人の様に……。
この子は本当に赤子同然の子供なのだろうか……加減を知らない子供らしさはあるものの、どこか、ボク達を試している様な素ぶり、もっとも精霊だから、人間と同じという考えではならないのだろうけれど……。
パタンッ
「なんじゃ、和穂、ソナタ童を泣かせとるのかや?」
狐鈴が脱衣室へと戻って来ると、少女はビクッとした後、声を殺して和穂の胸元で泣く。
この少女、狐鈴がこの中で最も怒らせると怖いと、感じ取った様だ……。
和穂は少女の頭をくしゃくしゃとする。和穂はハルの前に行き、少女をひき渡すと、無言で任せたと言わんばかりに肩をポンポンと叩く。
「和穂もチカラいっぱいボクに抱きつくのにね……」
戻って来る和穂にボクが声をかけると、ボクにだけに見える位置で微笑み「それは私の愛情表現、そしてそこは私の特等席……だ」と言い舌をペロッと出し、またボクの背後にまわり、ずしっと身を預けて来る。
『和穂も狐鈴に折檻される様な、怖い思いした時あったの?』
ボクは誰にも聞かれないように、念話で聞いてみる。
『それは……私は妖狐だよ、イタズラは好物だ。
でも真実を見るアヤツ、天狐には全く敵わない……』
ああ……なんか納得……。
ボクは狐鈴と和穂がボクの姿に化けて、周りを混乱させていた時を思い出す。
そう言えば、あの時最初に化けたのは狐鈴じゃなくて、和穂だったっけ……。
そう、みんな騙されないで。
人懐こい狐鈴は何気に真面目で、人見知りで無口な和穂は、面倒くさがりでイタズラ好きなんだ。
『この、イタズラ狐めっ』
『ふふふっ……』
本来ならとんでも無い事だけれど、気が付かないボク達に代わり、少女のイタズラを止め、狐鈴にイタズラを仕掛けてとんでも無い事になる前に、代わりに叱った和穂は、実は少女に対して誰よりも教育的指導の救世主に相応しい存在だっただろう。
それからは、白き少女は表面上はおとなしくなった。
和穂がイタズラの師匠にならなければ良いけど……。
「お風呂って気持ち良いですねー。満喫させてもらいました。ルーフェニアさんが、ここを特別視している意味が分かった様な気がします」
ソーニャさんがニコニコとウメちゃん、ルークと浴室から戻って来る。
「その子起きたんですね」
ウメちゃんは少女に近づいて自分の体を拭いている。
ウメちゃんに関しては魔力を吸っても構わないのだけど、誰コレ構わず吸わせるのは危険なので、この子が言葉とか色んな事を覚えてからでも十分だろう。
それか、お腹を空かせている時にゆっくり覚えさせれば良いと思う。
「その者に名前がないと不便じゃの、なんか良い名前はないかの?」
狐鈴は風呂から出て来たソーニャさんに、和穂が出したボクの衣装を着付けながらチラリと少女へと目をやる。
ミルフィの用意してくれた服は首の後ろでリボンを結ぶタイプの薄いピンク色の背中の開いたワンピースだった。
ミルフィさんは服を着せてやって髪をとかしている。
「ハルはこの子にミュウと名前を付けたいな」
隣で見ていたハルが口を開く。
「ミュウ?」
ボクは聞き返す。何か意味があるのかな? でも呼び名としては何となく響きも違和感なく呼びやすく感じる。
「しずくって意味ですね」
ソーニャさんの仲間、ドワーフの少女が言う。
「うん、いいんじゃないかな。
ミュウ、よろしくね」
ボクが顔を近付けると、右手をボクの鼻先にペチンとやり、キャキャッと笑う。
「うんうん、元気があっていいね」
ボクは笑顔で返してやるが……
ボクの後ろにいた和穂が、無言無表情で指をポキポキとならす。
「和穂ーっ大丈夫だからっ」
慌てて和穂を止めるボクにリンネちゃんは笑う。
「本当に和穂お姉ちゃんはアキラお姉ちゃんが大好きだよねー」
和穂はリンネちゃんに顔を向けてウンウンと頷く。
「よしっ、コレで良いじゃろっ」
ソーニャさんの着付けを終えた狐鈴はパシンッとお尻を叩く。
「ひゃんっ」
ソーニャさんは、声をあげる。
「どどど、どうかな??」
「うわー、ソーニャ素敵だね、ちょっと外にいる2人も呼んでくるねー」
ソーニャさんの言葉にポニーテールの守護霊は歓声をあげ、外へと出ていく。
「へぇー、あの時は夜だったし、舞台の上と下だったから、色までははっきり分からなかったけれど、近くで見るとこんなに鮮やかで手の込んでいる素敵な衣装だったんですね」
ミルフィは興奮気味に話す。
確かに、かまどを担当していた者にとっては、少し舞台から離れていたし、灯りも十分ではなかったからね。
明るいところで見せることができて良かったと思うよ。
外にいた2人の守護霊がポニーテールの守護霊と一緒にやってくると、ソーニャさんにワイノワイノと感想を伝えている。
ソーニャさんもやっぱり女の子だね、普段と違う衣装に戸惑っていたけれど、仲間がやって来るとポーズをとったり笑いあっている。
そんな日常がほんの少しでも取り戻すことができて本当に良かったと思う。
「できたーっ!」
ハルが、ミルフィさんに習って編み込みをミュウにやってあげていた。
本当、絵本から出て来た妖精の様だ。
ハルもミルフィさんの手によってお揃いの髪型になっている。
「本当、ハルちゃんは覚えるのが早いわね、ハルちゃんもミュウちゃんも、綺麗な髪だから、まとめたそのままでも十分素敵だと思うわっ」
ミルフィの言葉にハルは笑顔になり、ミュウも拍手をしながら「キャキャッ」と声をあげて笑う。
ソーニャさんは自分の服へと着替え、揃って帰る事にした。
帰ると、ナティルさんとルーフェニアさんが、ツリーハウスから降りて迎えてくれた。
2人とも、お風呂に行っていたボク達にずるいって言ってきたのだが、ハルとリンネちゃんに挟まれ手を繋いで、ご機嫌なミュウを目にして「ダレ??」と言って首を傾げる。
お帰りなさいませ、おつかれさまでした。
白い少女はミュウという名前がつきました。
新しいキャラクターが渋滞してきたので、しばらくは新キャラは出さずに、内容を濃くしていきたいなと思っています。
ハルの子育てに、チャコの話に、王国行きに、隠れ里に……ひとつづつ消化して行きたいなと思ってます。
それでは、本日はこの辺りで、また次のお話でお会いできたら嬉しいです♪
いつも誤字報告ありがとうございます。




