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第124話 ボクとチヌル、そして魔石作り。

 


 チヌルが木剣を後ろに構えて、体勢を低くした状態で、肩からボクに突進するように駆けてくる。


 チヌルは間合いに入るなり木剣を横薙ぎし、ボクに斬りつける。


 対するボクは右半身を後方に下げ、左腕を立てた状態にして受け止めようと防御の魔法【トルトンッ】と叫ぶ……


「!?」


 何も起きない!?


 あっ、すぐ理解した。今のボクはウメちゃんの魔力を供給できていないんだった……供給時に煌々と光っているブレスレットの魔石も今は鈍く太陽光を反射している。

 

 後方の右足に力を入れて地を蹴り、重心を後方に下げ、大きく1歩下がる。

 ボクの左側から横薙ぎされた剣先が伸びてくる。


 ボクは後方に下げた左足を地に着けて、転ばない様に踏ん張る。

 そして、同時に右手の人差し指以外の指をを伸ばした状態で、迫る剣先を手の平で押し返すような体制で言葉を発する。


【クラマッ】





 洗い物を終えたボク達は今日の予定を話しながら舞台の方へと向かった。シルにカシュアと会ったら連れて来いと言われていたからね。


「なるほど、ダークエルフの隠れ里に行くには、精霊の協力を得て作成した土の魔石を使用した道具が必要と。

 今日はこれからウメちゃんの活躍が見れるわけですね」


 リシェーラさんはウメちゃんを抱きかかえ、ご機嫌に話す。


「活躍だなんてぇ、そんな大袈裟なものじゃないですよぉ」


 リシェーラさんに言われアワアワとするウメちゃん。


「それにしても思い切った事をしますね。

 土の精霊のチカラを借りた魔石造り……人のチカラで造るなら精霊の力を必要とするでしょうけど……

 幻獣カーバングルのチカラがあるなら、土の精霊の協力は本来必要ないでしょ?

 そもそもカーバングルの協力を得る事自体が普通ではないのに……」


 それは、確かにそう。

 でも、さっきリシェーラさんが、カシュアは生命力に溢れているって言っていたから、2人の……いや、シルもいるから3人のチカラがひとつになった時、すごい物ができるのではないだろうかと密かに期待する。


 そんな期待を胸にシルの元へ向かう。

 途中、広場に寄ると鍛錬も小休止なのか、みんな座り込んでいた。リュートさんも、ハクフウさんも肩で呼吸をしている。


 ここでも、メローネ飴は役に立ち、疲れていたみんなにほんの少し元気を与える。


 そうか、蜂蜜レモンみたいにナボラ(酸味の強い果物)の実の飴を作るのもありかもしれないな……

 なんて考えていると、意外な言葉がボクにかかる。


「アキラも模擬戦をやっていかないかぃ?

 アタイはアキラの戦い方をあまり間近で見た事がないんだよねぇ、もちろん、アキラは精霊魔法も込みで構わないよぉ」


 チヌルから手合わせの申し出だった。


 ザワザワ……

 誰もボクの戦い方に興味ないだろう……なんて思っていたのに、意外や意外、ついさっきまで鍛錬していたメンバーも、お風呂帰りの合流したメンバーも興味津々。

 気がついたらちょっとしたギャラリーが出来上がっていた。


「アキラッ、今回はウメちゃんの魔力は借りないで、今あるだけの魔力の中で調節して戦いなっ」


 ナティルさんからの課題。

 確かに……いつもウメちゃんが近くにいるとは限らない。決まった魔力量の中でやりくりする練習としては凄く良い機会だ。


 それに、ウメちゃんはこの後、魔力をいっぱい使うから、温存しておかないとならない。


「アキラは他の者とはちぃと異なる戦い方をするから、ハクフウ達も良い勉強になるだろうよ」


 狐鈴が言う。

 お願い、変にハードルを上げないで欲しいな……。


 とはいえ、コレまで的の大きな魔物や獣を相手にしていたわけだから、よりシビアな戦い方になるだろうな。

 ボクより小さな相手、しかも強い相手にどこまで通用するか……。


 ボクは乱暴に髪の毛を束ねて、柔軟体操を準備体操としながら、武器と戦い方を考える。

 メインは鉄扇……でもゴツい木剣相手なんだよな。そして護身術として身につけた柔道、精霊魔法は水、風、雷、盾、造、そして炎……




 そして、今に至る。



【クラマッ】

 人差し指だけ曲げていた状態だったので、ボクの手のひらに風魔法の壁ができる。


 木剣は薙いだ剣筋のまま弾き返され、チヌルの左手は柄から離れる。


「!!」


 その隙をボクは見逃さない。風魔法を解除して、その左腕と体の間へと自分の体を滑り込ませ、左腕を左肩の上から抱え込み、一本背負いをする。


「うわわわわっ!」


 チヌルはボクの突然の行動に声をあげて驚く……が、さすが猫といったところか、地に背中をつける事なく両足で着地する。


 ボクは目の前で着地をしたチヌルと、距離を取るため一度離れる。


 チヌルは地面に落とした木剣を拾い上げる。


「アキラ、やるじゃないかぁ」

 チヌルは楽しそうに言う。


「いやや、ホント焦ったよ、そういえば今のボクは右手しか魔法が使えないんだった……」


 今使える右手の魔法……クラマ、チヌル、ウメちゃん、そしてカズホ。


 まいったね、手の内を全部見せる必要はないけれど、いきなり制限がかかってしまった。でもチヌルは木剣のみなのだから、文句は言えない。


「ふうー。

 チヌル、ボクの戦い方を見せてあげるよ。怪我をしても治療できる人がいるから恨みっこなしね」


 ボクが言うとチヌルはニィッと笑い、目を光らせる。


 ボクは気合いを入れるため、顔をピシャピシャとしばく。

 そして、鉄扇を広げ先端をチヌルに向け手を伸ばす。


【クラマッ】


 チヌルは風魔法に警戒して木剣を盾にする様に構えるが、ボクは鉄扇に風魔法を纏わせる。


「いけっ!」


 ボクは広げた鉄扇を押し出すように放る。


 広げた鉄扇は風魔法を纏わせたので、重さを感じさせず【投扇興】のように手元でいったん宙返りをして、柄の部分を先端として風の切る音をたてながらチヌルに向かって飛んで行く。


「!!」


 啖呵切ったボクが、まさか初手で武器を手放すと思っていなかったのか、動きが一瞬止まる。


 ボクは飛ばした鉄扇の後を走って追いかけ、チヌルとの距離を詰める。


 チヌルは鉄扇を避けるではなく、木剣で弾く。


 ガギンッ!!


大きな音を立てて、鉄扇は閉じられ宙にクルクルと弾き上げられる。


「!!」


 鉄扇に気を取られていた、チヌルの視界からボクが消える。


 ボクはチヌルの足元に滑り込みながら服の胸ぐらを両手で掴んで足でチヌルのお腹を蹴り上げる。


「!?」


 ボクは奇襲で滑り込み、巴投げをやったのだ。


 奇襲は成功して、「ギャッ」と声と共にチヌルが投げ出され地に落ちる音が聞こえる。


 ボクは身体を捻り起き上がり追撃の寝技に入ろうとチヌルへと近づくが、現状が理解出来ていないのか頭を打ったのか、目をパチクリしているチヌルが空を見上げていた。


 試合の緊張の中では審判が『ヤメ』をかけるまでは、何度でも投げたり、完全に動きを封じる闘争本能剥き出しの状態なのだが、あまりにも無防備な状態だったので、我に返る。


「ふう、終わり?」


 チヌルは両手をあげ「参った」と言う。



「へぇー、アキラって後衛タイプなのかと思っていたのに、対人だと超接近戦もいけるんだな」


 ボクが手を伸ばしチヌルを起こしてやっていると、ゾロゾロっとみんな集まってくる。そんな中でナティルさんはボクに言ってくる。


「いや、的確に人を殴ったりなんかはできないですよ……投げと絞めだけです。

 それに……自分の身を守る程度の実力ですよ」


 そう、ボクは有段者ではあるものの、実力者かと言われるとそうでもない。

 インターハイへの出場や強化選手になった事もない。良くてせいぜい、小さな大会で表彰台に登る程度の実力だ。


「お姉ちゃん凄いやっ」

「すごーい」


 ハルとリンネちゃんが抱きついてくる……けれど、ボクのスカートから放たれた砂埃でケフケフする。


「ああ、土まみれだ……あとでまたお風呂入って着替えしないとね」


 ボクがそう言うと、ハルとリンネちゃんはボクの服の土を祓ってくれる。


「ほら、チヌルも」


 ボクはチヌルの服の土を祓ってやる。

 チャコも、ボクと一緒にチヌルの服を祓う。


「あれは何というか……言葉に言い表せられないねぇ、アキラの姿が消えて、一瞬見えたかと思うと空が見えて、空から落ちたような感じ……」


 チヌルは空を見上げて言う。


 ボクは思った……。

 おそらく、こちらの世界では一撃必殺みたいに、猪突猛進のように、撃つ、斬るという素直な打撃や斬撃という攻撃に対しての受ける耐性はあっても、投げられる絞められる習慣がないのかもしれない。


 そりゃ大きな獣から振り落とされたり、大蛇のようなモノに絞めあげられることはあるかもしれないけれど……。


「絞める…….なるほど、絞めるね……だから師匠は和穂さんや、狐鈴さんに抱きつかれていても平気なんすね」


 ハクフウさんは腰に手を当て納得した様に呟く。


「多少耐性はあるかもしれないけど、2人の絞めつけは特殊だよ。和穂のおっぱいには窒息させられそうになるしね……」


「お、おっぱ……」


 ハクフウさんは顔を赤くして慌てる。

 ボクの隣にいる和穂の胸元に視線を移し、和穂は特に気にする様子もなく、手を後ろに組んでいる。


「ハクフウのエッチ……」

 リンネちゃんに言われ慌てて視線を外すハクフウさん。


「ふふふ、男の子なんですね」

 そんな様子を見て笑うミルフィ。





「なんだ、なんだ、何で揃ってそんなに汚い状態になっているんだい?」


 舞台の傍にいたことで騒ぎを知らない、シルと合流した最初の言葉がこれだ。


 シルは腰のあたりに巻いていた布を引き抜き、小さく呪文を唱え、水を含んだ布にする。そして、その場でキュッと搾りボクに渡してくる。


「ほら、せめて顔ぐらい拭きなっ」


「うん、ありがと……」

 シルから受け取った濡れ布で顔を拭き、腕を拭く。


「あ、そうそう、シル、今さっき思ったんだけどさ、カマドの近くに水場を作ると便利だと思うんだよね」


「わ、私もそう思います。前は作った物を持ち寄っていたから気にならなかったけど、最近はカマド周りで調理する事が多いし……」


 ミルフィがボクの意見に同調してくれる。


「ふむ……そうだな、確かに。これからは身内以外にもカマドを使う者も出てくるだろうし、作ってみるのも良いだろう。


 普通の水でいいなら、ませきをウメちゃんにつくってもらえば良さそうだな。

 とりあえず、先に目的の物を作ってから考えようか」


 シルもウンウンと頷く。

 

 ボク達がそんなやりとりをしていると、舞台の上に広げられたキルト魔法陣を、見に上がったリシェーラさんが「あっ」と声をあげる。


「シェラさん、どうしました?」

 朝ごはんの時に、シルからみんなに、リシェーラさんは【アキラの客】という事で伝えられているそうだ。

 キルトがリシェーラさんと何やら話をしていた。


「ここのコレですけど、コレコレでこうした方が……」


 リシェーラさんの提案にキルトさんは手を打つ。


「あー、なるほどです、そしたらコレは、こうで、アレするとスムーズなんですね」


 なんて話がされている。


「シル、ちょと手直ししたいから、少し遅らせていいかな?」

 キルトは舞台の上から声をかけてくる。


「あー、任せるよ」

 キルトの提案に、シルは返事する。



 最近ボク達の影響で変わった事のひとつが、みんなのシルの呼び方だ。


 『シル=ローズ』との呼び方より、ボク達の呼ぶ『シル』の呼び方の方が多くなったという事。

 いつからって事はなく、徐々にそう呼ぶ人が多くなった。


 え!? 今更? とも思ったんだけど、ボク達があまりに「シル、シル」と名前を連呼するものだから、みんなへと擦り込まれたみたいだね。


 泣く子にトドメを刺す【伝説の魔女】、【魔道具発明の魔女】なんて呼称もあったから、みんなあまり気軽に名前を呼べずに過ごしていたらしい。


 それにシル本人は時々、気まぐれで開く食事会時に、近くに住んでいる者が声をかけられるくらいしか接点がなくて、基本ツリーハウスに篭って発明をしたり、薬を作っていることが多かったそうで、人によっては話しかけにくい存在だったようだ。


 ボク達と関わって、シルがツリーハウスから降りてくる事が多くなって、みんなと集まる機会が増えてきた。

 ボク達とワイワイやっているのを見ているうちに、実はこんなにも話しやすい人物だったのだと、考え方を変えた人が多いらしい。


 露天風呂で開放的になっているところで、それぞれで漏らしていた話しだったんだけどね。


 ミルフィさんなんかも、オルソさんが基本ひとりで商人の様に、訪問販売をやっていたから、食事会以外ではシルとの交流はほとんどなかった様だし、ヤンマ姉妹に至っては自給自足だったから、珍しい(ボクたち)の紹介がきっかけで、顔を出す様になったそうだ。


 いや……本当に意外だ。


 でも、分からないでもないけどね。

 あまり良くない噂がくっついていて、閉鎖的な性格の人に、気軽に声かけてみようと努力をするより、相手がコチラに踏み込んで来たところを対応する方が楽だし、お互い傷つけずにすむから……。


 ボク達がみんなにとって、良い様に仲介者となれたなら、それはとても嬉しい事だね。




「アキラ、本当に居住スペースは一部屋でまとめちまって良いのかい?」


 ヤックさんが、シルとジャグラさんとで作成した設計図を手にボクに尋ねてくる。


「ええ、ボクはこう見えて、結構寂しがりなところがあるんですよ。

 白夜とルアルとも仲良く一緒に過ごしていきたいし。

 それに、自分の部屋を与えられても、数日間は眠れない日があるかもしれないです」


 和穂がボクの背中にのし掛かる。


「はは、そいつは意外だな、でもまあ、来客があったとしても、シルの客室に預ければすむ事だし、必要ないのかもしれないな」


 ヤックさんはこめかみをポリポリと左手の人差し指で掻きながら言ってくる。


 設計図と現場と照らし合わせると、結構大きな建物になりそうだけど、ボク達にとって必要な大きさだからね。


「うん、みんな一緒が良いっ」

 ボクが言うと後ろの和穂も「……うん」と言う。


「居住スペースもそうだけど、厨房なんかは、実際に使うミルフィやヤンマ姉妹、パーレンと、有れば良さそうな設備とか、勝手に足してもらって構わない。

 アキラ達のためにも良い様に頼むよ」

 シルはヤックさんの肩に、ポンポンと触れる。


「ああ……」

 ヤックさんは笑って返事をする。


「任せてください」

 ミルフィも微笑む。



 ボクが舞台の上へと上がると光の角度で色が変わる糸で、ラグを凄い速さで刺繍するキルトがいて、その様子をリシェーラさんが見守っている。


「この方は才能も腕も確かなのですね、私の助言を自分の考えと合わせる柔軟な能力、そしてすぐに修正する事のできる腕……」


「あんまり褒められると恥ずかしいですよぉ」

 キルトは集中して刺繍している中でも、会話に参加するくらいの余裕はもっているようで、照れ笑いしながら、作業をすすめる。


 きっとリシェーラさんの力を借りれたら、製造予定の魔石を作る事は容易いだろう。

 だけど、あえて助言はしても手は貸さない。きっと関係している者が気が付き成長できるように。


 ボクはリシェーラさんがくれたネックレスを、バッグから取り出して陽の光を通す。


 その様子をリシェーラさんは見ていて微笑む。


「アキラどの、その石は色んな色に変わるんですよ」


「へえ、そうなんですか? 全然気が付かなかったよ」


「水で濡れた時、魔力を流した時、そして、持ち主の感情とかでもコロコロ色が変わります」


「何だか、生き物みたいですね」


「ふふ、生き物のように大切にしてくれると、差し上げたかいもあるというものです」


「うん。大切にするよ」


 ところが、何の効果があるのか聞いても、笑顔で「御守りです」としか返事をしてくれない。

 まあ、気にする様な事でもなさそうなので、縁起物として大事にバッグへとしまう。




「よし、できた。 これでどうですか?」

 キルトさんは刺繍を終えたラグを床に広げリシェーラさんに見てもらう。


「コレでコウで、ああ、うん、そうね、問題ないと思いますよ」


 リシェーラさんは頷く。


 中央に何重かの円と、コチラの世界の魔法用の文字なのか、模様のような文字を仕様して描かれた、円を飛び出ている六芒星で魔法陣ができている。


 ボクがよく異世界漫画とかで見た魔法陣は何重かの円の中に星だったり、四角形だったりが収まるものだが、この魔法陣はシルエットだけだと太陽をイメージできるように思える。


 ちなみに、ボクの愛用しているキルトコンロの魔法陣は前者の魔法陣で、円の内側にある8芒星の頂点に火の魔石が取り付けられている。


 キルトはリシェーラさんに提案されて、刺繍していたのは四隅に矢印の様な模様と謎の文字。

 この魔法陣が作動するとどうなるのか、すごく楽しみだ。


「キルト、この魔法陣は今回土の属性に特化させた魔石を作るわけじゃない、異なる属性同士を融合させて魔石を作ることも可能なの?」


 ボクの質問に、キルトさんは腕組みをした状態でボクを見ながら答えてくれる。


「アキラちゃん、本当に面白い発想だねー、それは可能でもあるけれど、特化した物じゃなくなるから、絶妙なバランスが必要になるね、つまり風と火を合わせると熱風が出せるとか、そう言う事だよね」


 キルトは左手を風、右手を火に例えて、ガシッと手を組み合わせる。


「そうそう」


 ボクは融合魔法と聞いて、自分の精霊魔法の融合の様にイメージで割合を変えたり形を変える様な事ができる物だと思っていたんだけど……。


 ドライヤーとか、クーラーとか魔力を込めるだけで使える物ができたら便利だと思ったんだけどな。


「アキラちゃんに、面白い事を教えてあげるね。

 シル自慢のお風呂の中心になっているのは、火の魔石で、川の水を火の魔石を使って温めているんだよ。

 それで、蛇口のところに埋め込まれているのが、氷の魔石で、温めてられたお湯を氷の魔石で冷やして調整しているんだよ。

 つまり、適温にする為に水という物質を2つの魔石の効果を経由させているわけなんだ。


 キルトコンロに関しても、純粋な火の属性の魔石だから、送り込む魔力の量で火力を変える事ができるんだ。


 だから、融合した属性を魔石として結晶化させるのであれば火力の割合、例えば風が4で火が1で作るとしたら、 出来上がった魔石を使う時、イメージで火力のバランスを変える事はできないんだよ。

 流す魔力の量で全体の強弱はできても、構成されている割合を変更する事はできないよ。

 寒いから風の火力を2にして、火の火力3に増やすなんて事はできない。完成してから割れるまで、4と1のまま」


 キルトは両手の指を折りながら説明してくれる。


 なるほど……わかりやすく考えると、ドライヤーの強弱はできるけど、冷風はできないって事か。


 すると、ボクの使う精霊魔法はイメージひとつでで変化させる事ができるから、相当万能だということだね。


「で、この魔法陣の効果を種明かしすると……」

 キルトは魔法陣の真ん中に立ち足元を指差す


「ここで製作者が作業をする。

 今回はウメちゃんが魔石の製作者だからココね。

 属性の武器とか防具を作る時には、ココに錬金術師が入るわけ。

 で、純粋な属性の場合、今回カシュアは正面の三角の部分に入って魔力を流す。

 先程、アキラちゃんが言った融合だと、右前、左前にその属性の精霊が入るって感じだね」


「前方全部に異なる精霊が入るとどうなるの?」


「爆発するんじゃないかな……」


「こわっ……」


「後方の3つは調整役、今回はシルが真後ろになるね。ココから魔力を流して融合させる。

 残りの左右はシル程の魔力の使い手がいない時、近い者2人が調整で入るんだけど、双子でもない限り難しいだろうね。

 つまり、この魔法陣は現在のところ、シル専用の装置だと思ってもらうと分かりやすいかな……


 いや、今だと狐鈴ちゃんや、和穂ちゃんもきっとシルと同じ様に調整役ができるかもしれないね」


「なるほどねぇー」


 魔法陣って、模様や形によってそれぞれ役割があるんだな……。


 

「ねぇ、リシェーラさん、リシェーラさん呼び出す時に地面に出現する魔法陣って何か意味あるんですか?」

 ボクは声を小さくして、リシェーラさんに確認をする。

 


「ええ? 魔法陣ですか……私は呼ばれる側なのでどんな物が出現しているのかわかりかねますが、演出? ですか?」

 リシェーラさんはポエッとした表情で小首を傾げる。


「呼び出す者と呼び出す場所を固定する術式……」

 和穂がそっと教えてくれる。


 ああ、だから呼び出す時に属性に応じたモノが具現化して現れるんだね。 



「それじゃ始めようか」

 シルが舞台の上に上がってくる。


「とりあえず、カシュアのチカラを借りるから、そんなに時間のかかるモノじゃないけどね」


「土の魔石とカシュアのチカラを借りた魔石ってどのくらい違うの?」


 ボクの質問に腕組みをして、ひと呼吸おいてシルは言う。


「全然別もんだよ、精霊そのものを作る様な事と考えてもらって良いんじゃないかな、アタシの様な仲介者が入る事でより純粋なモノに仕上がるからね。

 それにカシュアの場合は、土の精霊というよりもっと上位の大地の精霊だから、土と草木、本来だと自然という属性になるのかな、便利上土属性として一緒にしているけどね」


「へぇ……」

 凄い事だという事しかわからない。


「ダークエルフの伝承魔法を手助けする為のアイテムとして作る様でしょうけど、純度や価値から言って、完成したら一族の神器や宝物となってもおかしくはないモノとなるでしょうね」


 リシェーラさんがサラリと言う。

 そんなモノを実際身につける事になるチャコは、離れた位置にいても緊張している事がよく分かる。



 ウメちゃんは六芒星の魔法陣の中心に座り目を閉じて胸の前に両手を揃えて器の様にする。

 正面の三角の中央にカシュアはウメちゃんと向き合う様な形で正座をし、両手を魔法陣の内側に向けて伏せて置く。

 シルがウメちゃんの真後ろになる位置の三角の中央に両手を伏せて置き「始めるよ」と言う。


 ウメちゃん、カシュアは目を閉じたまま頷く。


 六芒星の形に刺繍された文字は緑色に発光し、ラグの魔法陣の上に緑色の六芒星を浮き上がらせる。そして、内側の3重の円は外側から順に水色? 青白い光を発光させる。

 魔法陣のラグの上に光の魔法陣が生まれる。


 つい今さっき、キルトが仕上げた刺繍は赤く発光する。

 


 発光が始まると、皆固唾を飲んで見守っている。

静寂の中、時間にして1分程だろうか、感覚的にはもっと長くも感じるのだけど、発光した魔法陣に変化が起き始める。


 赤く発光していた四隅の刺繍部の色が薄くなり金色に変わり、3重の発光している円が外側より、徐々に六芒星の発光している緑色に近付いていく。


 この儀式は調整役が難しいようで、カシュアとウメちゃんがリラックスして閉眼している中、シルは発光する魔法陣を見つめながら、眉間に皺を寄せ、頬に汗が垂れる。


 最も内側に描かれている円が緑色に光を変えると、四隅の金の光も緑色へと変化して、緑一色の魔法陣が完成する。


 中央のウメちゃんの足元から、直視できないくらいの眩しい白い光の柱が吹き出し、魔法陣の光をかき消す。


 光の柱が、ゆっくりと薄れていき、ウメちゃんの周りに無数の白い発光体が残る。

 光はウメちゃんの手の平に吸い寄せられる様に集まっていく。


 暫くすると、手に集まった光も消えてゆく。


「ふぅー……ウメちゃんと、カシュアは相性がいい様だね、思ったより早く魔力の調整ができたよ」

 額の汗を拭いシルが体を起こす


「どれどれ、ウメちゃん見せて見せて」

 カシュアがウメちゃんの元へと飛んで行く。


「何だか真っ黒ね……」

 思っていた色のイメージと違っていたのか、感動が少ない。

 ウメちゃんの両手の中に結晶化された魔石はカシュアの言う様に真っ黒で、ちょっとゴツゴツした拳より少し小さいものだった。


「いや、多分黒じゃないよ、チャコに渡してみれば分かると思うよ」

 

 ウメちゃんはシルから聞くと頷き立ち上がり舞台の下にいるチャコへとその魔石を手渡す。


 すると両手で受け取ろうとするチャコの手に触れる前から、黒い魔石の中心部、魔石そのものが緑色の光を放つ。


「魔力の濃度が濃すぎて黒く見えたんだろうな、チャコ、後でそれ加工するからね」

 受け取った魔石を見ようと、みんなチャコの手元を覗き込む。


「ウメちゃん、魔法陣は使わないけど、この後魔石製作続けてお願いしても大丈夫かな?」

 シルはウメちゃんの肩に手を置く。


「全然大丈夫ですよぉ。どういったものを作りますかぁ?」

 ウメちゃんはまだまだ、元気なようで、笑顔で返事をする。


「うん、まずアキラの左手用のブレスレットに使う、魔力蓄積の魔石と増幅の魔石。あと、休み休みで良いんだけど、水の魔石をできるだけ沢山作ってもらえると助かるな」


 さっそくさっき依頼した、水場用の魔石だろうな。シルは本当に仕事の早い人だよね。

 ウメちゃんは頷き、さっそく魔石製作を始める。


「と、いうわけで、アタシはコレから部屋に籠るからね、和穂はアキラのブレスレット用のミサンガを作ってほしい。

 チヌルと、アキラ……アンタらは今すぐに、風呂に入ってきな……」


 和穂はボクに抱きついたままズシッと体重をあずけ、ピロッとミサンガをシルに見せる。黒と白のストライプ……おそらく切れない様にするため、和穂の毛を編み込んだモノだと思う。


「なんだ、もう用意できていたんだ、オッケー預かるよ、アキラは着替え取りに来るだろ?」


 シルは和穂からミサンガを受け取る。


「うん、一緒に上がるよ。お昼は作業しながら摘める物を用意しようか?」


 ボクの提案に、シルはフフッと笑い首を横に振る。


「さすがに、食事の時くらいは気分転換したいからみんなと一緒するよ。最近思ったんだよね、1人の食事はどんな美味い物でも味気ないんだ」


「うん、ボクもそう思う」


 ボクとシルはつい、笑う。

お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

今回の話はアキラとチヌルの戦闘から始まりました。

異世界ものを書いていながら、戦闘シーンの表現や魔法陣の説明が下手でご迷惑をおかけします。


それでは本日はこの辺りで。また次のお話でお会いしましょう♪


いつも誤字報告ありがとうございます。

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