第123話 ボクとメローネ飴。
和穂が後ろからボクの服を摘み、引っ張る。
「ん? 和穂どうしたの?」
「……アキラの唄聞きたいな……」
前を歩いていたチヌルも頭の後ろで手をくんだままこちらを向いて「いいねぇ」と同調する。
ボクは何となく思いついた童謡を歌いながらゆっくりと歩く。
和穂はボクの腕に、自分の腕を絡ませて尻尾を揺らしてご機嫌に、チヌルは時々耳をピクピク動かしながら広場へと向かう。
広場ではすでに1日が始まっていた。
先程粥を作っていたカマドはチャコの言っていた通り、片付けられ、シルとジャグラさんはヤックさんを連れて舞台の横で足下に木の棒で何か印を刻みながら話をしている。
広場中央では、ハクフウさんと、リュートさんが剣術の鍛錬を行っている。
狐鈴はそんな2人を舞台の上から柵に腰掛けて、あくびをしながら見ている。
この数日で、ハクフウさんとリュートさんの実力に大きな差ができているように思える。
ボクもプロではないので詳しくは表現できないのだが、ブレというか、戸惑いがない打突……キレが良い。それに、継ぎの打突の繋ぎが早くなっているように感じたんだ。
ハクフウさんも、狐鈴にボロボロにされるまで稽古していたもんね……。
「まいったまいった」
リュートさんは両手を挙げて降参をする。
「面白いねぇ、アタイも混ぜておくれよ」
チヌルが舞台の狐鈴の元へと行くと、狐鈴は収納空間から木剣を取り出して、手渡している。
どうやらチヌルの愛用の剣と同じくらいの重さの木剣を作って狐鈴に預けていたようだ。
ナティルさんが、チヌルの剣を鞘ごと受け取る。
「リュート、そのままチヌルの相手じゃよ、さっさと立つのじゃ」
狐鈴はリュートさんに喝を入れる。
ハクフウさんが、木の棒で肩をポンポンと叩きながら、ボク達の元へと寄ってくる。
「ハクフウさん、おはようございます。良い動きができた様だね」
「お師匠さま、おはよう。
いやぁ、今朝は酷かったんだよ……」
きっと二日酔いの事を言っているんだろうな……。
「で、どうだったの? ハダカの付き合いは?」
ボクは意地悪をする様にハクフウさんに尋ねる。
「いやぁ、直視は出来ないけれど良いものを見れた……と思う……。いやね、飲み始めてからの記憶が途切れ途切れで、どう帰ってきたのかすらも覚えてないんだよ。それに酷い目覚めだったから……」
「あら、残念。狐鈴のあの身体はそうそう見れるものじゃないのに」
「いじめないでくれよ、俺はそんなんじゃないんだよ」
ハクフウさんは顔を赤らめ、フイッとボクから視線を離す。
うーん、さすがにイジメ過ぎたかな……。
「ゴメン、ゴメン、じゃあいつか、和穂から一本取れる様になったら、ボクと和穂でお酒の相手してあげるね」
和穂がぐいっとボクの腕を引く。和穂は無言でボクを見る……ジィッと。
「ハクフウさん、御免なさい。ちょっと茶化し過ぎていました」
そう、和穂は頑張っているハクフウさんに対してボクが失礼な言動を投げかけた事に対して怒っていた。
「はは、俺もまだまだだからな、ちょっとしたご褒美があったほうが頑張れるかもしれねえ、じゃあその時は楽しみにしているよ」
ハクフウさんは大人だな、ボクがこの後気まずくならない様にサラリと言葉を返してくれた。
「うん、強くなってね」
「おう」
ボク達は訓練の邪魔にならないように舞台の横にいるシル達と合流する。
「おっ、おはよう」
ヤックさんが声をかけてくる。
その声で気がついたシルがこちらへとツカツカと来る。
「アキラ、シェラ様がアタシを起こしにきたんだけど……」
小声でボクに訴えてくる。
「え!? 何で……?
それよりみんな悩んでいた二日酔いは大丈夫?」
「……ん、ああ、夜中は酷いもんだったけど、シェラ様に起こされたのもあって、スッカリ酔いも覚めたよ。
それより朝の炊き出しお疲れさん、アキラも似た様な状態だったんじゃないのかい?」
腕組みをしてシルは言う。
「ああ、ボクは少し早く起きて酔い覚ましをしていたからね、元気なもんだよ。
コレは食堂の建てる場所の確認をしていたのかな?」
「そそ、現場じゃないとうまくいかないこともあるからねえ……。
何か必要な設備とかあったら、建て終わる前に言うんだよ。
ああ、そうだ、カシュアが顔出したら、ウメちゃんと例の装飾品作るからね、見かけたら舞台まで連れてきておくれ」
シルもちゃんと覚えていたようだね。
カシュアは朝が弱いようで、お昼頃まで眠っているみたい。
ボクに出来ることはないんだけどな、シルがボクに声をかけるってことは何か面白いものを見せてくれるのかもね。
「うん、わかった。
それじゃ、それまでの時間、ボクはのんびりするよ」
ボクはシルへ、ひと言伝えて、一旦その場を後にする。
今朝、粥を作っていたカマドまで移動すると下拵え用のテーブルで実験をすることにした。
和穂に人の頭ほどの大きさの、スイカの様(ただし、赤と黒のシマシマ)の果物を出してもらう。
これは杏子のような味と、柑橘の様な爽やかさを併せ持つ果物だ。
それと蜜、フライパン2枚と匙を出してもらい、ボクはバッグからキルトコンロとナイフ、厚みのある頑丈そうな葉っぱ(まな板代わりに使えると思ってとっておいたんだ)を取り出して広げる。
「さて、うまく作れると良いけど……」
蜜をフライパンに流し、弱い熱にかける。蜜璃を温めながら、メローネの皮を剥いて、ひと口大に切る。
蜜がフツフツとしてきたら焦げない様に匙でかき混ぜる。
「うん、そろそろかな……」
加熱を止めて、切っておいたメローネを熱々の蜜の中にあけ、匙でしっかり絡める。
絡めたメローネを、別のフライパンに乗せて熱を冷ます。
乗り切らなくなってきたので、別のフライパンを出してもらって同じ様に並べる。
2つのフライパンに飴を纏ったメローネがズラリと並んでいる。
もうひとつのフライパンを出して並べるほど、絡める飴が無いので、飴が固まってしまう前に匙でひとまとめにして掬っておく。
隣りで和穂が口を開けている。
「和穂、もうちょっと待ってね、まだ固まってないから……」
ボクは和穂の口に蜜に投入する前のメローネを放る。和穂は口をモニュモニュさせ、もっと欲しいと口を開けおねだりしてくる。
今になって気がついたのだけど、和穂がおねだりして口を開けている時って目を閉じていることが多いんだよね。
ちょっと意地悪して大きめのカケラふたつを口に入れる。
「……!?」
さすがに、目を開いて両手で口を抑えて、ゆっくり咀嚼する。口いっぱいの幸せを噛み締めて、嬉しそうな表情を見せて飲み込む。
もっとちょうだいと催促される。
飴状になる前にかき集めておいた、冷めた蜜を匙からチョイチョイと指先に着け、舌に触れる。
口を閉じる前にそのまま舌を摘む。
「!?!?」
ちょっとしたイタズラのつもりで舌をつまんでみたのだが……。
目を開いた和穂は現状の確認をするようにジッと見た後、ボクの腕をワシッと掴み、舌を離したボクの指をそのままペロペロと舐め出す。
ペロペロ、ピチュピチュ……チューチュー……
いや、おかしい、もう蜜がないなっているハズなのだが、夢中になってボクの指を舐め続けている。
「和穂……」
ペロペロ……
「和穂?」
チロチロ……
何だか、和穂と契約を交わしたあの夜を思い出して顔が熱くなる、いや顔どころか体が熱い。いかん、いかん。
「和穂、あーんっ」
「!!」
ボクの言葉に釣られて和穂は反射的に口を開ける。
ボクは掴まれていない左手で、フライパンの上に置いていた、蜜をのせていた匙をとり和穂の口へと入れる。
匙の柄がピコピコ上下に動いて、クルクル回る。
「…………」
尻尾は振っているが表情は上目遣いで、何か物申している……
甘いものをもらった嬉しさと、楽しみを取り上げられた残念さが、同時に発生した複雑な心境のようだ。
「何だか甘い匂いがしますねぇー」
大きな鍋を抱えたウメちゃんが、匂いに誘われてやってきた。
「和穂さん、お鍋返しますねぇ」
ウメちゃんは、先程粥を作っていた鍋を洗ってきてくれたようだ。
「……」
和穂は捕まえていたボクの腕を解放してウメちゃんから鍋を受け取り、収納する。
「何を作っていたんですかぁ?」
ウメちゃんは冷ましていたフライパンの中身を見て頭に『?』を浮かべる。
フライパンには琥珀色の物体が幾つも所狭しと並んでいる。
コレはメローネに飴を被せてみたんだ。
そう、ボクはりんご飴や、いちご飴の様に、メローネを蜜で作った飴でコーティングしてみたんだ。
砂糖じゃないから、上手くいくかわからなかったけど、何とかそれっぽくできた。
「あめ? ってなんですかぁ? 何だか魔石の様な物がならんでますけどぉ、コレは食べ物なんですか?」
「うん、実験で作ってみたんだ。
和穂、ウメちゃんあーんしてっ」
和穂は口に咥えていた匙を手に持ち、ウメちゃんは顔を上げて口を開く。
2人の口に一粒づつ入れる。
「ふわぁー」
飴の甘さに、幸せのため息をつくウメちゃん。
「そのまま噛んでみて」
ボクの言葉の通り、2人は噛む。
「ん? これはメローネですかぁ? いつもより少し酸っぱく感じますね」
うん?
何だか想像していた、感想といくらか違っていた。
気になったので、ボクもひとかけら口に入れてみる。
入れた瞬間は蜜飴の感触と甘さがあるのだが、すぐに飴が溶け中身が現れてしまう。
どうも、飴として舐めて楽しむには、コーティングが薄過ぎたようだ。
飴の甘みがスッと引いた後に、メローネの甘酸っぱさが出てくるので、ちょっと酸っぱさが強調して感じる。
もうひとかけら、今度はそのまま摘んだ状態で歯を立ててみる。
パリリッ……と飴を砕く歯触り
モニュッと柔らかいグミのような感触
ジュワワと出てくる果汁
飴の甘みにメローネのあんずのような甘みと柑橘の様な酸味が口の中で溶け合う。
うん、これこれ、コレは美味しいと思う。
「ごめん、もういっかいチャンスをちょうだい。今度は口に入れたらすぐ噛んでみて」
2人の口に改めてメローネ飴を入れる。
ガリガリと咀嚼音が聞こえる。
「んんーっ! おいしぃですぅ!」
口の中に入れたままの状態で、興奮気味に感想を伝えてくるウメちゃん。
もぐもぐ……コクン、コクコク。無言ではあるけど、表情は幸せそうに頷く和穂。
ただな、保存するには表面がベトベトで、飴同士がくっついてしまいそうな気がする。
時間を置けば表面が乾くのかな……。
「アキラちゃんおはよう、今朝は任せきりでごめんねー」
声をかけられた後方に顔を向けるとキルトさんが何やら筒状に丸めた物(ラグ?)を抱え、こちらにやって来る。
「何をやっているの?」
「実験だよ、ボクはそれの方が気になるんだけど……」
キルトさんはボクの手元に視線をやっていたが、ボクの質問に「あ、コレ?」と筒をポンポンと叩く。
「アキラちゃんのお気に入りのソレと似ているんだけど……」
キルトさんは指差す。その先には、先程使用したキルトコンロがある。
「調理に使うやつですか? それだとしたらかなり大掛かりな物ですね」
キルトコンロはちょっと大きめのランチョンマットの様なものに、魔力を通す糸で刺繍された魔法陣が描かれて、五徳をイメージする形に火の魔石がいくつか固定されている物なんだけど、丸めるとバッグにいれて持ち運び出来るほど、小さくなるので、ボクは重宝している。
ソレに対して、キルトさんの持ってきたものは丸めた状態で2メートルはあるんじゃないかな、自分の体より高い位置に丸めたものの先端がある。
「あ、魔法陣ではあるんだけど、調理で使う物じゃないんだよね。なんでもシルが融合魔法を使うからって、用意する様にって言われたんだよー」
どうやら、キルトはシルのツリーハウスの倉庫からソレを持ってきた様だ。
「融合魔法?」
「そうそう、なんかウメちゃんがカシュアの魔力を借りて土属性に特化した魔石を製造するんでしょ?
この魔法陣を使って第三者の魔術師が介入すると、魔力量のバランスをコントロールするのに都合が良いんだよね」
なるほどね、つまり今回のチャコの両親に依頼された物を、製造するのに、魔法陣を使う事でより完成した形になるということか。
「と、いうことは……ウメちゃんが前話していた、製造にかなり魔力を必要とするって言っていた氷の魔石を製造する時に、この魔法陣があればかなり良い物が出来るって事?」
キルトは大きく頷く。
「アキラちゃんは飲み込みが良いね。
おそらくウメちゃんは個人でも土属性の魔石を作る事は可能だろうけど、カシュアの力を借りてより純度の高いモノを作ろうとしているんだよね」
ウメちゃんは頷く。
「もし、氷属性の妖精の力を借りる事ができたなら、属性の置き換えなだけだから、かなり純度の高くて安定した、氷の魔石を作る事ができるんだよ。
しかも、作り出すのに必要としている魔力を節約する事が可能となるハズよ」
キルトさんは続ける。
ボクは脳裏に巨大化するピンクのペンギンの妖精、ビフカさんが思い浮かんだのだけど、氷の魔法なんて使うところを見た事がない、見た目だけの思い込みは良くないね。
「それは妖精じゃないとダメなのかな? 例えば、氷魔法を得意とする魔法使いのチカラを借りるとか……」
ボクの質問に腕組みをしてキルトさんは少し考える。
「今回の様に仲介者が入れば魔力の調整した状態での製造は可能だろうね、ただ、魔法のチカラは呼吸の息継ぎのように強弱のブレがどうしても発生するから、一定の魔力を出し続ける事のできる精霊から力を借りて作るものと比べるとどうしても大きく純度の差ができると思うんだよね」
「なるほどね、ベストは必要とする属性の精霊のチカラを借りる事、中継ぎとして使う魔石としてならば人の手を使って作った物でも、こだわりが無ければ可能という事か。
食堂の保管庫、冷蔵室を作るにはやっぱり氷の魔石が必要不可欠だから、避けて通れない問題なんだよね……
あとで、ナティルさんに心当たりはないか聞いてみよう」
キルトさんは頷く。
「アキラちゃんは何を作っていたのかな?」
「うん? 気になる?」
キルトさんは「そりゃそうよ」とクルリとまるまった尻尾を振りながら話す。
「今あげるからちょっと待ってねー……はいっ、すぐ噛んでね」
ボクがひとかけらメローネ飴をとり、口に運んでやると、すぐに飴を砕く音が聞こえてくる。
「おー、うんうんうん、これは想像外だ」
そう言いキルトさんは想像外の事態を楽しんでいる様で、笑顔で噛み締めている。
「うんうん、面白くて、おいしいねー、よくもまあこんな発想が出来るもんだよ、うん。ご馳走様ねー」
言うと、舞台の方へとワセワセと魔法陣を運んで行った。
「和穂、預けた調味料の中で黄色の花の絵が書いてある瓶を出してもらえるかな」
ボクが言うと和穂は目を閉じて、収納に手を突っ込み、拳大の瓶を取り出す。
「うんうん、そう、それ」
和穂は収納空間より取り出した瓶をボクヘ手渡してくれる。
和穂へと説明の難しい調味料に関しては、わかりやすく模様の入ったものを使用している。
ボクはバッグから新しい匙を取り出して、受け取った瓶から、白い粉を掬いメローネ飴のベトベトした表面にかける。
これの名前はわからないけど、粉砂糖のようなものだから、飴の甘みの邪魔にならないだろうし、これでくっついたりしないで保存できるだろう。
試しに一粒口に運ぶ。……うん、大丈夫表面の甘みからコクのある蜜の甘味、邪魔をしないで味を引き立てる。
ボクが、ひとりウンウンと頷いていると、和穂とウメちゃんが揃って口を開けている。
「うんうん、わかったよ」
2人の口にひとかけらずつ飴を放り込む。
2人は幸せそうに口を動かしている。
残りの飴は、以前サドゥラさんがきた時に、ヤラタさんからって、もらった皮の巾着袋にしまう。
「和穂、残りのメローネ食べちゃっていいよー、はいウメちゃんも」
ボクは手に持っていた匙をウメちゃんに託す。
「アキラさんは、食べないんですかぁ?」
匙を受け取ったウメちゃんはボクに尋ねる。
「うん、ボクは自分が食べる以上に美味しそうに食べている人を見ているのが好きなんだよね、食べている人を自分と重ねてしまうからか、見ているだけで満たされちゃうんだ」
「そうなんですかぁ、そういえば和穂さんに食事を分けている事多いですもんねぇ」
ウメちゃんはウンウンと頷いて納得する。
「よく見てるね」
ボクはウメちゃんに微笑みかける。
メローネはスイカの様に大きな果物なので、普通に購入するなら使い切る予定がないと、無駄にしてしまうし、嵩張るので買う事に躊躇するものだと思う。
ボクだって消化してくれる人と、和穂の収納能力が無ければ、試したくても、手を出さないだろう。
まぁ、和穂の収納は新鮮なまま保存できるから、無理に食べる必要もないんだけど、幸せそうに食べてくれる人がいるなら、食べてもらえた方が、食材も喜んでくれると思う。
「和穂さん、私小さい方でいいですよぉー」
そんなやりとりを見ているだけで、何となく平和を感じる。
広場の方を見るとリュートさんが、チヌルにひっくり返らされている。
チヌルは木剣を肩に担いだまま、リュートさんへと手を差し出し、起こしてやっている。
『和穂はずっとボクと一緒しているけれど、狐鈴達みたいな鍛錬に興味ないの?』
和穂はメローネから顔を上げボクをジッと見る。
『……全然……でも……』
『でも?』
『……珠緒様の強さは、興味がある……』
それだけ言うと、和穂は再びメローネを食べ始める。
珠緒お姉さん……ね、和穂が興味を示すくらいだから、ただ強いだけではないんだろうな……。
珠緒お姉さんが何かと戦っているところを見た事がないけど……。
もし、戦う場があるとしたら、ボクの武器の鉄扇って事になると思うのだけど……想像だけでめちゃくちゃ様になる。
ボクは武器屋で珍しい武器だと思ったから選んだんだけどな。
ボクはバッグにくくりつけている鉄扇を取り出して広げる。
「おはよう、アキラ、何やってんのよ?」
声の主はボクの後ろからふわりと飛んで来て、広げた鉄扇の上に降りる。
「おはよ、カシュア」
「おはようございますぅ、カシュアさぁん」
ボクの挨拶に、メローネから顔を上げたウメちゃんも丁寧にカシュアに挨拶する。
「うんうん、おはようウメちゃん」
カシュアは右手をあげ振り、ウメちゃんにも挨拶する。
ウメちゃんはカシュアに対して丁寧な言葉遣いをする。
一度、カシュアにボクの時みたいに、毒を吐かないのか聞いた事がある。
「だってウメちゃんだもん」
たった一言の返事で何とも説得力があったんだよね。
「今起きたところ?」
「うん、何かないかしら、お腹空いちゃった」
ボクが尋ねると、カシュアはお腹をさすりながらボクを見上げて言う。
「妖精なのにお腹空くの?」
「ひひひ、バレたか。でも何か食べたい気分なのよねぇ」
カシュアは、人懐っこい笑顔をこちらに向けて、顔の正面の高さに翔ぶ。
ボクは、鉄扇を元に戻して、先程縛った皮の巾着袋を取り出し、メローネ飴を一粒摘み、カシュアの前に見せる。
「今作ったばかりなんだけど、カシュアには大きいかな?」
顔を寄せて、スンスンと匂いを嗅ぐカシュア。
「んー、そうね、甘そうで美味しそうな匂いはするんだけど、ちょっと大きいわね」
ボク達にはひと口サイズだけど、カシュアにとったら、自分の頭より大きい。
「んじゃ、ボクと半分こね」
メローネ飴を前歯を使って半分かじる。歯にバリバリと飴を割る食感が残る。
「なるほど、そのままかじるのね」
カシュアは両手を伸ばしてコチラに頂戴とねだる。
「カシュアはメローネを食べた事あるの?」
「うーん、聞いた事はあるけど、普通の人間でも持て余す大きさのものを、私が食べられると思う?」
「…………」
確かに。大食いの動画で見る様な、両手で抱える、すり鉢で出てくる食べ物を、躊躇いなく口に出来るかと言ったら、ボクには無理だ。絶望でしかない。
和穂なら喜んで食べそうだけどね。
「うん、うん、へぇー、こういう味なのね」
カシュアはボクの肩に座るとパリパリ音をたてて飴を齧り、メローネを食べる。
「ちょっと手を加えているけどね、メローネの部分はそのままの味だよ」
「手を加えているっていうのはこのパリパリのやつ?」
カシュアは飴の部分をバリバリポリポリ噛み砕く。
「うんうん、蜜を使っているのかな、表面の砂糖だけの甘さじゃなくてパリパリから蜜の香ばしさを感じるね、どうなっているのかはよくわからないけれど、あたしは好きよ」
カシュアが絶賛してくれる。
「ふぅ、食べた食べた。美味しかったのだけど、あたしの場合食べ終わる頃には、手がベタベタね……」
普通の人が食べるなら口の中に収まるので問題ないのだけど、カシュアの場合手で抱えているので、飴が溶け出してしまい、食べ終わる頃には手がベタベタになってしまうようだ。指をぺろぺろと舐める。
「ちょっと小川まで手と食器を洗いに行こうか」
ウメちゃんが匙やフライパンをひとまとめにしてくれ、和穂が持ってくれる。
そういえば……広場のカマドの数は今まで調理に気にならないくらい多く設置される様になったのだけれど、食後の食器などの洗い物は普段から、シルの家まで上がってか、翌日近くの小川まで持って行ってたな……
水場がひとつあった方が便利だろう。
コチラの世界では水脈とかなくても、水の魔石があれば水場が作れるから、大掛かりな事でもないはずだし、シルに相談してみようかな。
森の入り口のすぐ傍を流れる小川まで行き食器を洗っていると、林道の奥から明るい話し声が聞こえてくる。
ハルやミルフィ達が歩いて帰ってきたようだ。
ボクが立ち上がり腰をトントンと叩いていると声がかかる。
「おはようございます、今朝は助かりました」
ミルフィは恥ずかしそうに顔を赤らめ、ボク達に挨拶してくる。
「もう大丈夫?」
ボクの声かけに、ミルフィはコクコクと頷く。
「か、カカカ、カシュア……おはよ」
ミルフィの後ろからリンネちゃんと一緒に歩いていたハルがボクの肩に座っているカシュアに気がついて挨拶をしてくる。
ハルの髪の毛は編み込まれて、頭で巻かれている。
「あら、ハルおはよ、少しは気軽に声をかけられる様になったんじゃないかしら? 素敵な髪型ね」
「えへへ、ハルもカシュア……とも仲良くなりたかったから……」
ハルはカシュアに言われて照れ笑いする。
「あら? あなた初めて見るわね、その容姿からいってハルの関係者かしら?」
カシュアはボクの肩から飛ぶと、ハルの周りをクルリと回り、後ろにいるリシェーラさんに気がつく。
「ええ、ハルと同族のシェラです。ハルがお世話になっております」
リシェーラさんは笑顔で丁寧にお辞儀をする。
「そんな、畏まるんじゃないよっ、ハルの家族ならあたし達にとっても友人みたいなもの、あたしは丁寧な言葉を聞くとゾワゾワするから、軽口ではなして頂戴」
そんなことを、大天使様の前で言うカシュア。アルクリットさんがいたら激オコで、亡き者にしかねない、無礼な言葉遣いだ。
でも、リシェーラさんはコロコロと笑う。
「あらあら、小さなカラダなのにとても生命力に溢れておられるようですね。
そうですね……でも、私の言葉遣いは昔からこうなので、お気になさらないで下さい。
カシュア殿はどうかそのままでいて下さいね」
「…………」
カシュアは腕組みをしたまま大きくため息をつく。諦めた。
リシェーラさんは、変わらないだろうな。
まあ、ボクに対して気安く話しかけて欲しいと言っていた割にリシェーラさん自身は中々気安く話しかけて来ないあたり、もう根っから染みついたものなのだろうね。
「シェラさん、初の露天風呂の総評をお願いします」
ボクはリシェーラさんに感想を求めると、リシェーラさんは頬に手を当て、うんうんと頷いて口を開く。
「食堂以外にもココに来る目的ができて嬉しく思います」
ほう、思っていた以上に気に入ってくれたようだね、それは何よりだ。
「と、いうことで、ミルフィさん、食堂が始まったら、コチラのシェラさんがお店の見守りに来てくれる様になるのでよろしくお願いします。
用心棒から新作メニューの実験台まで、幅広く協力してくれるので、食事代は取らなくて良いからね」
ミルフィは目を開いて驚く。
「と、言う事でなんて、いきなり話を振らないでくださいよ……。
でも、そうだったんですね、それは、私もとても楽しみです。よろしくお願いします」
ミルフィは振り返り、改めて挨拶をする。
「おそらく、私と別に1人、ゼルという者が交代で来ると思います。お店が始まる前に一度揃って挨拶に来させていただきますね。
この地で1番の料理の腕を持つと言うミルフィ殿の食事をとても楽しみにしていますね」
リシェーラさんはミルフィに微笑む。
「え? あ? はい? ええ?」
ミルフィはリシェーラさんと、ボクの顔を交互に見る。
ボクは間違った事は言ってないよー。
「そうそう、ちょっとしたお菓子を作ってみたんだけどつまんでみない?」
ボクはミルフィに言ったのにいつの間にかリンネちゃんやチャコ達にも囲まれている。ボクはバッグに括っていた革巾着の口を解きみんなが取れる様にする。
この巾着は本当に便利だな。頑丈で濡れに強いのはもちろん、紐を絞れば巾着に、全開に広げると一枚皮、ランチョンマットの様に広がるんだよね、きっとまな板の様に使えて、そのまま絞って巾着の中で保存したり、下拵えをした食材を簡単に持ち運び出来る様なモノなんだろうな……頑丈だと分かっていても、まな板に使うのは勿体無い。
「わー、キレイ」
目の前に山の様に積まれ、粉砂糖がまぶされた、半透明の琥珀色の飴を見たリンネちゃんは目をキラキラさせる。
「口の中に入れたらそのまま、噛んでね」
ハルと、リンネちゃんとチャコが先に手を伸ばして、口へとメローネ飴を入れ、バリバリと大きな音を立て咀嚼する。
それを見ていたミルフィとリシェーラさんは驚きながらも、同じ様にひとカケラづつ、口に運びポリポリとゆっくり確かめる様に咀嚼する。
「こ、コレは面白いですね」
「それに、美味しいです」
ミルフィとリシェーラさんは言う。
「おねぇちゃん、リンネ、もういっこ欲しいな」
リンネちゃんが、控えめに言ってくる。
「お、気に入った? どうぞっ」
すると、リンネちゃんだけでなく、みんな揃って手を伸ばし2個目を摘んだ。
お帰りなさいませ、お疲れ様でした。
暑い日が続いておりますね、体調にお気をつけてお過ごしください。
今回はメローネ飴ということで、異世界の料理系の話で目にかからないモノに手を出してみました。個人的な話ですが、食べにくいと分かっているのに、どうしてリンゴ飴は魅力的なんでしょうね。
それでは今回はこの辺りで。
次回のお話で、またお会いできると嬉しいです♪
いつも、誤字報告ありがとうございます。




