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第122話 ボク、露天風呂をすすめる。

「アタイはお風呂に入って行くよぉ」

「えっ、ハルも行きたいっ!!」


 ソッポイ家との分岐のところでチヌルが言い、ハルも両手を挙げて同調する。


 和穂は特に何も言わずボクの方を見ているボクと同行するようで判断を待っている。

 和穂も禊とはいえ、身体を冷やしていたので、あったかい風呂で労ってあげたいのが、ボクの素直な気持ち。

 帰り道だし、特に用事ないしね。でもせっかくなら、こちらに来ているリシェーラさんにも体験させてあげたい気持ちもある。


「あ、そうだっ」


 リシェーラさんと数珠の繋がりを思い出し、ボクはショルダーバッグから数珠を取り出す。


『リシェーラさん、今話かけて大丈夫ですか?』


『あら? アキラどの、どうしました?』


『今から今朝、話していた露天風呂に行くんですが一緒にどうですか? 一緒するなら呼び出しますよ』


『……えと、あ、うん、お願いします』


 どうやら突然の事だったから、心の準備ができていなかったのかな……。


「リシェーラさんも一緒したいって、入り口に着いたら呼び出そうね」


 ボクはみんなに伝えて風呂場へと向かう。


「ハルも大好きだから、リシェーラさんも喜んでくれると嬉しいな」


 ハルは後ろを歩くボク達に振り返り言う。

 すると、わだちに足をとられひっくり返りそうになり「わっ」と声を上げ、前を行くチヌルに受け止められる。


「あぶないねぇ、はしゃぎ過ぎだよさ」


「へへ、ありがとう」


 本当、ハルの表情は柔らかくなったと思う。

 自分の眼を隠し、顔を隠し、性別をも隠していたハルは、今じゃ仲間に背中を預け、誰かと微笑み、喜びを分かち合いたいと思うようになった。


 なんでもきっかけって大事だな。


 お風呂場に着くと、ハルがお風呂を温めてみたいと言い、チヌルが教えるために魔石のあるコントロール(ボイラー)へ入って行った。


 ボクはというと入り口の所でリシェーラさんを呼ぶ準備をしていた。

 ハルの件で呼び出した時を思い出すと、あの召喚時に足下から出てきた得体の知れない光の柱が、和穂達の炎柱や、ルークの水の渦の様に、その場に何かしらの影響を起こしても困るので、外で呼ぶ事にした。


『リシェーラさん、呼び出しますよ』

『は、ははは、はいっ』


「リシェーラさん、おいでませっ」


 手を付いた地面に赤色に発光した魔法陣が広がり現れ、中心に白い光の柱が現れ、そして、光の中からリシェーラさんが現れる。


「相変わらず、これは便利ですね。

 私が使う地渡りは、知っている土地のイメージがないと移動できないのに、これはアキラどのが呼びさえすれば、繋がるんですね」


 呼び出されて、先程といた場所と違う景色だという事を確認するかの様に、ぐるりと視線を送る。


 リシェーラさんの使う地渡りっていうのは、きっと今朝ボク達のいた、水場に来た時に使った能力なのだろうけど、話を聞く限りだと、クラマがボク達をこちらの世界に飛ばした術に似ていると思う。


 ただ、クラマの場合、異世界を移動(時間は渡ってきたのか分からないけれど)するくらいだから、最後っ屁として、とんでもない量の妖力? 神通力? を使用しているのだろう。


 そんな事より、目先の問題が頭をよぎる。


「リシェーラさん、今更なんですけど、外套で顔姿を隠す気すらない様に見えるんですけど……」


「えー、アキラどのとは知った仲ではないですか、しかもこれから、ハ、ダ、カの付き合いをするんですよ」


 リシェーラさんは、頬を染め胸元を腕で隠す様な仕草をしながら身体をくねらす。


「いや、今の事じゃなくてですね、今朝ボクの前に現れた時から、広場にいた時の格好までも外套も羽織らず、今の白いローブのままじゃないですか」


 リシェーラさんは改めて、自分の姿を確認する。


 腕組みをしてアゴを摘んで考えるような素振りをする。


「可愛い?」


「は?」


「可愛い?」


「いや、別に聞こえていなかったわけではないですよ、話がぶっ飛んでいたので理解ができていないんです」


「ええー、別にそこは素直にほめてくれてもいいじゃないですか、アキラどのにはどう映っているか分からないけれど、普通の人や妖精には翼有族にしか見えない様にしているんですよ」


 ボクの目の映り方ねぇ……流石に以前見た大天使の姿には見えていないけれど、4枚のピンク色の翼と七色に薄く光る天使の輪は見えている。

 きっと、リシェーラさんと会う直前まで一緒にいた、珠緒お姉さんの神通力の影響でよりはっきり見えているのかもしれないけどね。


 まあ、本当の姿を知るボク以外には見え方を抑えているならいいか……。

 和穂にはどの様に映っているのか気になるところだけど。


「それじゃ、入りましょうか、この先の部屋で服を脱ぎます」


 ボクは室内へとリシェーラさんを案内すると、ふと昔の言葉遊びを思い出した。


【ココデハキモノヲヌイデクダサイ】


 ここで、履き物を脱いで下さい。

 ここでは、着物を脱いで下さい。


 答えはどっちだったのか忘れてしまったけれど。

 ボクは時々、そんなくだらない事を思い出しては苦笑いをしているんだよな。


「アキラ?」


 ボクのすぐ横にいた和穂が、ボクの顔を覗き込み、声を掛けてくる。


「ううん、何でもない」


 ボク達が脱衣室に入った頃にはチヌルもハルも浴室へと入ったあとのようだった。


「アキラどの、アキラどの、このあとはどうすれば良いのですか?」


 あれ? 

 今ボク達より少し前に入ったはずのリシェーラさんは、既に一糸纏わぬ姿でボク達を迎え入れていた。


「はやっ!」


「ん?」


「ちょ、ちょ、ちょっと待っていて下さいね、今脱ぎますから……」


 とはいえ、脱ぎながら何となく視線は初めて見るリシェーラさんの姿に行ってしまう。


 ミルフィさんのような雪を想像する純白なショートヘアに、健康美な褐色の肌、和穂程艶やかではないものの、色気を感じる身体の作り細さは本当羨ましい。


「アキラ……」


 和穂から声をかけられて、そちらを見るとジト目でボクを見ていた。


「いや、何というか……興味ない?」


「…………」


「え……和穂どの……何ですか……」


 和穂はリシェーラさんに寄り、まじまじと見る。


「あ、いや、嫌ではないんですけど……こんなに近くで誰かにマジマジと見られる事がないので、何だかもの凄く恥ずかしいのですが……何か変ですか??」


 リシェーラさんは顔を紅潮させ言う。

 和穂は特に表情を変える事なく、首を横に振る。


「お待たせ、じゃあ中に入ろうっ」


 ボクは、和穂とリシェーラさんの手を取り浴室へと向かう。


 リシェーラさんが扉を開け、浴室へと1歩踏み込み、歓声を上げる。


「ふわぁ、なんて事ですか、ここは天界ですか?」


 光取りの窓から差し込む陽の光が、湯気を照らす。


「それにハダカなのに暖かいです、これが開放的って事ですか?」


「リシェーラさん、ボクも初めて見た時は感動しましたけど、ここはまだ入り口です。

 まず身体を清めて、いったん身体を温めましょ」


 ボクはお湯の出し方を教えてみたのだが……リシェーラさんは水をぶち撒ける。


「ウワハッ!」


「ごごご、御免なさい、イマイチお湯のイメージがわかなくて……」


 ボクは自分の蛇口からお湯を桶に張り、リシェーラさんに触らせる。


「あ、ああー、あったかい……これですね……」


 今度は適度なお湯が出せた様だ。


「めめめ、目が痛いですー」

「身体がニュルニュルしますー」


 ひと動作ごとにこと細かな状況を説明してくるリシェーラさんが面白おかしく思えた。


「何だか日頃のモヤモヤを落とした感じがしますねー、とても気持ち良いです」


 リシェーラさんは桶のお湯を身体にかけ、自分の腕を指先でなぞりながら感想を言う。


 和穂がボクの太腿の上に尻尾を乗せてくる。


「……ん……」


「リシェーラさん、ボク和穂の尻尾を洗うので、そこのお湯の溜まっているところか、外にチヌルとハルがいるので、自由に身体温めて休んでいてください」


「じゃあ、ここで……」


 ボクが言うと、リシェーラさんは目の前の湯船に足をチャプリと突っ込みヘリへと腰をかける。


「ああ、足の先からじんわりと身体が温まっていく感じが分かりますね。なるほどですね」


 ボクが和穂の尻尾を洗っている間、リシェーラさんは、手でお湯を掬ってみたり、足をチャプチャプしたりと楽しんでいる。


「お待たせしました、じゃあ外に行きましょうか」


 ボクは後ろから、のしかかる和穂を引きずるように、リシェーラさんの元に行く。


「そ、そそ、外ですか?」

「大丈夫です、囲いがしてあるので、ボク達しか見えないですよ」


 ボクはそう言うと露天風呂に続く扉を開ける。


「ほ、本当に外なんですね」


 ボク達のすぐ後ろを追いかけるようにリシェーラさんは出てくる。


 ボク達はハルとチヌルのいる大岩風呂へと行く。

 

「はぁー、何というか開放感がすごいですね、自然と一体になるというか、お湯の温かさで自然に包まれていると感じるというか……これは確かに神様も癒されるモノの様に感じられます」


 リシェーラさんは湯船の石に腰掛け、半身浴の様な状態で目を閉じて、撫でる風を受け、身体全体で露天風呂を楽しんでいる。


 透き通る白髪が風でサラサラと流れる。


 鳥のさえずりと、風呂場の外を流れる沢の音……。


「リシェーラ様? さん?」


 ハルはどうやら、編み込まれた髪を解きたくなかった様で、髪は乾いたままだった。

 リシェーラさんの方に顔だけ出して湯船の中を泳ぐ様に近づいて、声をかける。


 リシェーラさんは、ゆっくりと眼を開きハルを直視したまま、パチパチとまばたきをし、そしてクスリと笑う。


「今まで通りでいいのよ……そう、お、お姉ちゃんって、呼んでね」


 あ、コレは嘘だな……狐鈴の時にも言っていたくらいだから、きっとリシェーラさんはお姉ちゃんになりたいんだな。

 いや、同じ神様から生まれているんなら、あながち間違いでもないのか……。


「お、お姉ちゃん」


「くすっ、ハル、どうしたの?」


 ハルの呼びかけに満足したのか、ニコニコと笑顔のリシェーラさんが尋ねる。


「お姉ちゃんも、初めてここに来たんでしょ? ハルも初めて来た時からここがお気に入りだから、お姉ちゃんもお気に入りになると嬉しいな」


 ハルの微笑みに、リシェーラさんは両手で、自分の顔を覆う。


「お姉ちゃん?」


「…………」


リシェーラさんは大きく深呼吸をして、笑顔で「もちろん、私も気にいったわ」と返事する。

 ボクは微かにリシェーラさんの声を耳にしていた。「幸せすぎる」と。


「お姉ちゃん、初めての露天風呂はどうだった?」


 ボクは流れ的にと思って、言ってみたのだが、リシェーラさんは笑顔のまま。


「あー、えっと……アキラどの……はその……違うんですよー」


 そんなこと言うんだよ、ひどくない? 

 みんなどう思う??


 まぁ、分かる、少女にお姉ちゃんとよばれたいんだよね。


 とは言え、露天風呂は凄く気に入ってくれている様なので、ボクも嬉しく思う。

 曰く付きの秘湯ってあるじゃない? 曰くというか、伝承?

 身近なモノが特別になった瞬間に立ち会った。そんな気分になった。


「アキラお姉ちゃん、夜の露天風呂はカンテラの光の中で幻想的だったけど、昼間の露天風呂はより解放的だね」


 ハルはご機嫌に感想を言う。


「そうだね、ボクの場合は朝のお風呂は目がパッチリと覚めるし、他の人はまだ夢の中にいる時間だと思うと、幸せを独り占めできているこの時、この場所が特別なモノに感じるから好きなんだよ」


 ハルはボクの言葉を聞いて眼をキラキラさせウンウンと頷く。


「確かに。

 今朝はリンネちゃんと一緒できなくて寂しく思うけど、まだ起きてもいない人がいると思うと、この時間を楽しめている事は特別だね」


「室内風呂では差し込む陽の明かりを楽しめるし、もっと早い時間に露天風呂に入れていたなら、お風呂の中で朝日の上がる……世界の1日の始まりに立ち会う事ができて、それはとても神秘的で得した気分になるんだよ」


「へぇー、それはハル経験してみたい、アキラお姉ちゃん、ハルもできるかな?」


 ハルは興奮した状態で尋ねてくる。


「うん、ハルは寝起きが良いからね。

 それにボク達の家……食堂ができたら、近いから、早いうちに実現できると思うよ」


「わー、楽しみだなー、お姉ちゃんも一緒に来ようよ」


 リシェーラさんに向き直り、ハルは止まらぬ勢いでお願いする。


「うん、ハルと感動する時間が過ごせるならぜひ、一緒したいわ」


 リシェーラさんは微笑む。

 きっとリシェーラさんは、楽しみにし過ぎて興奮して眠れず、夜が明けるには早すぎる時間から来ているかもしれない。


 そんな過去を一度経験しているからな……そうぞうしてしまう。

 そして、頭に血の回っていない狐鈴は、また、朝からテンションの高いリシェーラさんを煙たがるのかもしれないね。


 ワイワイと話を繰り広げるハルとリシェーラさんを横目に、ボクは和穂と身を寄せ露天風呂を満喫する。


 チヌルはチヌルで眼を細めてお風呂を楽しんでいる様だ。


 結局時間でいうと1時間くらい満喫したのかな。


「アタイは着物を洗うから先にでるよ、ゆっくりしてきなー」

 チヌルはひと足先に脱衣室へと戻っていった。


「ええ、もうですか?」

 名残惜しさを前面に出すリシェーラさん。思っていた以上に気に入ってくれている様だね。


 そもそも、大天使同士って中々親睦深めるには、普段から集まって……というわけにも行かないんだろうな。今はハルが欠けているわけだし……。


 とはいえ、食堂ができれば食事を理由……いや、ハルの様子を確認する為に、頻繁に顔を揃える様になるのかもしれないのだけれど……。


 まぁ、どんな形であれ、大天使が顔を会わせる場と食事で癒す事を提供できるならば、良い仕事ができたと胸を張っても良いんじゃないだろうか。


「して、アキラどの、食堂の話なんですけど……先程話していた事は真ですか?」


 リシェーラさんは周りにボク達知っているメンツしかいないのにも関わらず、小さな声でボクに言ってくる。


「ん? 定番化するメニューの事ですか?」


「それはもちろん楽しみですよ。

 営業中のお店の見守りをしているだけで、食事は無償になるって事ですよー」


「それはね。

 お代が払えないので……って、まさか大天使様を皿洗いなんて、させられないじゃないですか。

 何か事が起きた時には、働いている者のチカラになっていただけるならって事ですよ。


 でも、隙間時間、自分の仕事を片付けてから来て下さいよ、アルクリットさんにボクが怒られるのは嫌ですからね」


 個人的には、リシェーラさんとゼルファさん2人が並んで、皿洗いをしているところは見てみたい気もするのだが……。


 ボクがじと目をするとリシェーラさんは視線から逃れる様に顔を背ける。


「それは……だ大丈夫です。

お代だって心配はもともと不要ですが、この地の方とは、ハルを受け入れてくれているので、アキラどのを抜いたとしても、何か特別な繋がりをもつのも良いかなって思えたんですよね。

 仕事に関しても、アルにはお土産を持ち帰って……不問にさせます。

 平和に1日過ぎた場合も無償でいいのかな?」

 

 リシェーラさんは、腰に手を当てウンウンと頷く。

 何というか、頭を抱えて書類(天使の仕事に書類はあるのか分からないけど)を片付けているアルクリットさんが頭に浮かぶ。


「別にずっと食堂で営業時間を過ごしていなくて良いんですよ。

 こう……水晶のようなモノをのぞいたり、カメの中の水に映り込む食堂の様子を見る様な感じでも」


「アキラどの、何を言っているんですか、便所で食事はしないモノでしょう、食事は食堂で食べるから美味しいのですよ」


 リシェーラさんには覗き見る様な事は鼻から考えておらず、現地で自分の目で見る事を決めていたようだ。


 人差し指を立て、子供に諭す様にボクに言ってくる。目は至って真面目だ。


「そりゃ、そうですけど……ん? リシェーラさんは毎日開店から閉店まで食堂で過ごすつもりですか??」


「え? ダメなんですか? 

んー……なら、気は乗りませんがゼルファどのと交代でというのは……ゼルファどのも、それはそれはアキラどの料理を気に入っていたようですので……」


 リシェーラさんは、さも当たり前の様な言い方で別の方法を提案してくる。


 大天使様達は暇なんですか?


 そもそも、交代制の提案を出してくるって……、2人揃って食堂を溜まり場にするつもりだったのか??


「いや、そんな大天使様が2人でガッチリマークしていなくても……なんならアルクリットさんみたいな代役の方でも……

 一応食堂には必要時、狐鈴や和穂が移動できる様にもするつもりですし……」


「それはなりません。

 ゼルファどのに貸しを作るならともかく、他の者に食事ができる権利を譲るなんて、もったいない事はできませんっ。

 アルは絶対お土産も持って帰ってこないで、意地悪く感想だけを報告してくるはずです」


 リシェーラさんは頬を膨らませ腕を組んで言う。

 さすがに、アルクリットさんも、主人を相手にそこまでひどく扱わないだろう。


「ん? ゼルファさんに貸しを作るってどういう事ですか?」


「食堂を楽しみにしているのは、私だけではないって事ですよ。

 ゼルファどのが食堂の開店、しかも稲荷寿司の存在を知ったならば、きっと私の様に毎日来たいとすら思うでしょうね。

 アキラさんに今の私の様に思われず済むし、役割を少し譲れば来やすいでしょうから」


 ああ、なるほどね。


 別にお願いした身として、迷惑という目でリシェーラさんを見たつもりはないんだけどね。

 大天使という立場を隠してのお忍び来店する事は別として、頻繁に食堂を出入りする者の理由をつけた方が、みんなに紹介しやすいかなって思っていたんだよね。


 ゼルファさん達とのやりとりは、リシェーラさんに任せることにした。

 楽しみにしている人がいるって嬉しい事だね。


 ボク達が脱衣室にもどると、チヌルも洗濯を終えたようで、ハンガーに着物を通して干しているところだった。


 本人に言ったら怒るだろうけれど、何だか猫が洗濯物を干している姿って可愛いな……。


 パタンッ

 誰か脱衣室に入ってきた。


「おはよっ」


 目隠しとして入り口の近くにある衝立の横からひょっこりリンネちゃんとチャコが顔を出す。


「お姉ちゃーんっ」

 リンネちゃんは履き物を放り投げ身体を拭いていたハルのお腹辺りに抱きつく。


「ははっ、おはよ」

 ハルはリンネちゃんの頭を撫でて挨拶をする。


「おはようっ、もう出ちゃうの?」

 リンネちゃんは眉をハの字にさせて、ハルの顔を見上げて言う。


「あらあら、ハルはモテモテね」

 リシェーラさんはしゃがんでリンネちゃんと目線を合わせる。


「お姉ちゃんは?」

 リンネちゃんはハルに抱きついたままリシェーラさんの方に首を向ける。


「うん? お姉ちゃんはね、ハルのお姉ちゃんのシェラって言うんだぁ、ハルと仲良くしてくれてありがとうね」


 リンネちゃんは一度ハルを見て、リシェーラさんへと向き直す。


「リンネはリンネ。ハルお姉ちゃんのお姉ちゃんだから、リンネの大お姉ちゃんだねっ」

 リンネちゃんはひまわりの様な笑顔をリシェーラさんに向け言う。


 裸のままリンネちゃんと話をしている2人を横目に、ボクは服を着ながらチャコに声をかける。


「チャコ、おはよう。よく眠れたかな?」


 チャコは頬を指先で掻きながら口を開く。


「あはは、おかげ様でぐっすり眠り過ぎて、広場で配っていた、アキラのお粥食べそびれちゃった。

 オルソにパンを分けてもらいに行ったら、予想外のところで、アキラのお粥食べられたわけなんだけどね。

 ミルフィはちょうど起きてきたところだったから、少し遅れてここに来ると思うよ」


 本当みんな助け合って生活しているんだなって、素直に嬉しく思える。

 ミルフィのことだから、ボクの作った物に興味をもつかなって思って、多めに入れておいたんだよね。


「ハル、ミルフィもあとから来るみたいだから、いったん髪解いて頭洗ってきたら? またやってくれると思うよ」


 ボクはハルに、ミルフィが来る事を伝えると、ハルはリンネちゃんと向き合い「もうちょっと一緒しようかな」と話す。

 リンネちゃんは「やったー」と、ハルに抱きつく。


「それじゃ、私も一緒させてもらおうかな?」

 リシェーラさんは身体を拭っていたタオルを自分の首へとかけ、リンネちゃんの頭を撫でる。そしてゆっくりと立ち上がり、こちらへも声をかけてくる。


「そういうことで、私はハル達ともう少し楽しんでいく事にしますね」


 ハルに引き寄せられる、魔物に対して残ってくれるって事だろうな。


「それなら、ミルフィも食堂で腕を振う1人だから、ハルに紹介してもらうと良いよ。ボクより全然ベテランの料理人だからね」


「ミルフィはリンネのお母さんなんだ」


 さっそく、服を脱ぎ始めたリンネちゃんは笑顔で言う。


「そうなのね、流石にここで食事にはならないでしょうけど、お近づきさせていただくわね」


 リシェーラさんはハルの髪の毛の編み込みを丁寧にほぐしながら言う。


「それじゃ、みんなゆっくりねぇアタイ達は先に戻っているよぉ」


 脱衣所の片隅に着物を干し終えたチヌルは、ボクが着替えを終えて、話が落ち着いたところで声をかけてくる。


「それじゃ、またあとでね」


 ボク達は脱衣所を後にする。

 広場まではそう遠くもない。


「チャコもだいぶ回復したようだねぇ、儀式で使う道具ができたら、すぐ出発するのかい?

 クラマは置いていくのかい?」


 なんだかんだでチヌルも先の事を色々考えてくれている。


「そんなに急ぐ旅でもないし少しゆっくりしても良いと思うんだ。

 チャコのご両親が3日と言っていたのも目安だし、完全に回復できるならば、それに越した事はないだろうしね。

 ナティルさんの話によれば、そろそろコロモンから物資を乗せた馬車が到着するようだし、食材を一旦補充したいと思っているんだ。

 チヌルも戻ってきたばかりで、なかなかゆっくりもできてないじゃん。


 クラマの件はリシェーラさん達に預けようと思う。

 戦闘の途中で突然意識が切れたから、目が覚めたとき暴れる可能性もあるし、もしもの時対応できる者が近くにいた方が良いだろうって」


「なるほどね」

 チヌルは腕組みをしながらボクの話を聞いていた。なんとなく、着物に近い服を着ていたチヌルが記憶に残っているので、民族衣装風とはいえ、ワンピースを着ている様子がすごく可愛く思えた。


「チヌル」

 ボクが、声をかけると、チヌルは「なんだい」と振り返る。


「可愛いね」


 ボクが言うと、チヌルはジト目にして「やめとくれ」と返事をする。


 今日も青空が広がって、良い1日になりそうだ。

お帰りなさいませお疲れ様でした。

巷ではお盆になりますね、アキラにとってはあまり出歩きたくない季節のようです。


大型イベントの時間潰しになったら嬉しいです。

それではみなさん、次のお話でお会いしましょう♪

暑い夏も本番、身体にはお気をつけ下さいね。


いつも誤字報告ありがとうございます。

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