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第120話 ボク食堂について考える。

「フェイ、チルレ、ミルフィ……うー……さんをつけないと呼び辛いなぁ……ちょっと相談があるのだけど」


 ボクは3人を呼んで、肩を落とす。


「なーに? みんな同じだよ、そのうち慣れるって」


 フェイがボクに笑顔を向ける。

 そして、3人はジャブジャブとボクの近くに集まって来る。

 みんなが近くに集まったタイミングで、ボクは話を始める。


「どうやら、ボク達がシルの付き添いで王都に向かうあたりから、コロモンの大工がやってきて食堂建設が始まるみたいなんだ」


「ほぅ、いよいよ、アキラ達も一城の主となるわけだね」


 チルレは湯船のヘリに腰を降ろしウンウンと頷く。


「ちょっと食堂の件で相談があってさ。

 実は食事の内容の事なんだけど、最初は持ち運びのできる物にしようって話で始まったんだけど……。

 室内にホールを作るのと、今ステージになっているところをデッキとして開放して、その場で食べられるようにもしていくみたいなんだ。

 それでね、メニューを一緒に考えて欲しいんだよ」


「なるほどねー、アキラにとって、稲荷寿司以外にも、いつでも出せる常備しておきたい様なものって何か考えてるの?」


 チルレは盃を口に運びながら質問してくる。


「甘いものって、きっと冒険者……特に女の人には嬉しいものだと思うんだよね。

 だから、【団子入りモータルぜんざい】と【焼きミツル】はいつでも提供できる様に考えているんだ」


「うん、それは絶対喜ばれると思う。疲れた体に優しいし、ひと仕事終えた自分へのご褒美みたいな感じになるんじゃないかな?」


 フェイはチルレから酒を注いでもらいながら言う。


「でも、せっかくなら、この地に来ないと食べられない様な特別な物を考えてみるのも面白いんじゃないかな?」


 ミルフィは、メリザロを突っつきながら言う。


「それは何となく宛てはあるんだよね。

 みんなはもうフレンチトースト作れる様になったでしょ?」


 ボクが尋ねると、3人とも頷き「ただ、それでもアキラの作るのはちょっと飛び抜けてるのよね」なんて言う。


「実はナティルさんから聞いた話だと、ルーフェニアさんも街に戻って、ほぼ毎日の様に工夫をしながら作っているらしいんだ。

 でも、どうしてもここで食べた味の様に仕上がらない状態なんだってさ。

 原因はミルフィの家で作るパンの味に、街のパン屋の味が追いついていないことらしい。

 それを言ったら、フレンチトーストに関したら、ここで食べられるものが最高のものって言っても過言では無いと思う」


「確かに、それはひとつのウリになるかもしれないね」

 チルレは腕組みをして言う。


「それが本当だったら、貢献できているウチの旦那も喜ぶわね」

 ミルフィは笑顔で言う。


「でも、シルの考えでは、あまりこの地を流行らせたく無いらしいんだよ」


「「えっ!?」」


 ボクの言葉にフェイとチルレは驚く。


「ボクもシルの話を聞いて納得したんだけどね。

 この地は精霊と亜人が共存してうまくやっている訳なんだけれど、きっと他人が外から入って来る事を、歓迎できない人達や精霊達もいるだろうって。

 外からやってきたボク達が言うのもアレだけど、先に住んできた人や精霊達の気持ちを1番に考えてあげたいと思うんだよ。


 それに知っての通り、ワーラパントの件もあったから……。

 さすがに、衛兵や冒険者ギルド御用達になる、この地の平和を脅かす存在はないだろうけれど、どんなバカがいるから分からないしね。


 人も増えれば当たり前の様に、綺麗だったところにゴミを捨てて行く者だって出てきたり、揉め事だって起こる可能性もある。


 だから、ジャグラさんの食堂に併設した宿の提案は、シルによって即却下されていたんだよ。

 シルも不安になる様な元凶は作りたくはないのだろうね。


 シルはボク達の旅に同行したいと名乗り出てくれたし、ボク達も常にいるわけではないからね……」


 ボクは手元で空の盃をいじりながら、シルの言葉を伝えると、皆難しい顔をする。


 食堂さえ始まってしまえば、他力本願ではあるけれど、リシェーラさんやゼルファさんがお忍びで来店してくれると思うんだけどね。

 宿なんてやったら棲みついたりして……。


「しばらくは、集客に意識しなくても、口コミで来訪者は増えるかもしれない。その時のみんなの安全をどうやって、保障しようかという事も大きな問題なんだよね」


「……アキラ、鈴を渡したらどう?」


 ボクのすぐ後ろで、盃を傾けていた和穂が話に加わってくる。

 今まで、こういった話の時には聞き手に徹している和穂が、突然口を開いたので、ボクは正直ビックリした。


「鈴って初めてボク達が会った時に狐鈴がくれたやつ?」


 ボクが和穂の方を向き尋ねると、コクコクと和穂は頷く。


「あれって譲渡や貸与しても効果はあるの?」


「……譲渡はしないでおくれ、あれは私達の依代だからな…….」


 空になった瓶を指先で摘んで収納空間に入れ、新たな酒瓶を取り出し、低いポンという音がならしながら、栓が引き抜かれる。

 そして、ボクの盃が、和穂によって満たされて行く。


「あ、ありがとう……確かに、ボクには数珠があるから……狐鈴や和穂が行き来できれば安心だね」


 ボクは盃に唇を当て、ゆっくりと口の中へと流す。


「ん……他のお酒と違う? 何か飲みやすいね」


「……特別なやつだからな、アキラに飲んでもらいたかったんだ……」

 和穂は言う。


「特別? それは私も頂いてもよろしいでしょうか?」

 チルレさんがおねだりする。


「……ああ……入りでよければ……」

 和穂は表情を全く変えずに言う。


「「「「え……」」」」


 場の空気が固まる。

 酒の中に何が入っているって??


「……嘘、冗談だ……」


 和穂はイタズラにニッと笑い、ボクに瓶を手渡す。こんな表情の和穂はボクも初めて見た。


 受け取った瓶を見て、特別といった意味がわかった。


「和穂、このお酒……」


 和穂はボクの言葉に首をゆっくり横に振り、口を開く。


「特別な仲間だ、出し惜しみの必要はないだろ」

 そう言う。


 ボクは改めて、渡された一升瓶のラベルに目を落とし、指でなぞる。そんな様子を見て、ミルフィが声をかけてくる。


「アキラ、何て書いてあるのかな? 私には読めないのだけど……」


 ボクはリシェーラさんの恩恵を受けて、この世界の言葉を理解し、読み書きできる様になったけれど、みんなはボク達の世界の文字は読めない。


 それにしても、誰が、どんな思いでこの酒にこの名前を付けたんだろう……。


「特級酒、和穂……」


 遊び心で付けた名前ではないだろう。

 特級酒相手の名前でイタズラに付けるとは思えない。

 名前をつけた人はきっと特別な思いでつけたのだろう。

 それとも、和穂の事を知っている人が、たまたま見つけて和穂に贈ったのかな……。


 どっちにしたって、和穂にとっては特別なモノだ。


 ボクは酒に詳しくは無いから、この酒そのものを見たのも初めてだけど……。


 ボクが酒の名前を読み上げると、「確かに特別なお酒だね……」とミルフィは言う。


 流石にみんな味見程度で遠慮した。



「それで、さっきの話で出てきた鈴って何の事?」


 チルレさんは湯船に浸かり、話を戻し尋ねてくる。


「ボクが和穂達を呼ぶ時に使っている数珠を使う前、初めて和穂と狐鈴を呼ぶ時に使った鈴があるんだよ。強く念じれば、2人を呼び出すことができるモノなんだ」


「そ、それは凄いですね、召喚術ってやつですか」

 メイルさんが話に入ってくる。


「術というか、依代を目印に飛んでくる……そんな仕組みみたいだよ」

 

 ボクが答えると、隣でボクの盃に口をつけて酒を啜っていた和穂が顔を上げて頷く。


「それなら、何かあっても安心ですね」

 ミルフィは言う、若干敬語が戻ってきている気がする。


「そうそう、私、食堂の仕事やりたいんだけど、食堂の閉めている時間に、厨房を借りて料理の研究してもいいかな?

 家の台所だと手狭だから、自由に厨房の環境が使えるとかなり有り難いのだけど」

 フェイはふと、思い出した様で確認してくる。


「そこは自由に使ってもらって大丈夫だよ、厨房の奥に作る貯蔵室も、ウメちゃんに創造してもらう、氷の魔石をいっぱい使用するから、食材も大量に保管できるし、ホールの方に、簡易的な貸切浴室を設置してもらうから、匂いがついてもすぐお風呂入れるしね。

 何なら居住スペースで泊まっても良いけど……ただ、ボク達の希望で大きな部屋で皆んな一緒に過ごせるように作ってもらうから、個人で過ごすには寂しいかも……」


 ボクが言うと、目をキラキラさせながら、キルトさんもこっちの話に混ざってくる。


「それりゃ、作った試作品れ宴会やりならら、かいりょうすれわ、いいにょりょ……」


「確かに、それは楽しそうです、ウチの厨房もパンが締めているので、使える環境は、家庭のモノと対して変わらないので……」


 ミルフィもパチンと手を鳴らしウンウンと大きく頷く。


 何だか凄く楽しそう、その場にボクがいないかもしれない状況を想像すると、とても寂しく感じる。


 でも、みんなで楽しく使ってもらえた方が、ボクも嬉しい。

 人の集まる場所……食堂だから当たり前なんだろうけど、他人だけじゃなく、知っている顔が集まる家って憧れる。

 週末ホームパーティをする家みたいな……。



「アキラひゃん、あらひ、をーたうろしゃいわいしゅるこひょりしひゃんらお」


 ニコニコしながらキルトさんが何か言っている。


「はぁ!?」


「あらひ、をーたうろ、しゃいわいしゅるこひょりしひゃんらお」


「……ごめん、わからない……」


 困ったな……こればかりはわからん……。

 ボクが腕組みをして首を傾げていると、キルトさんの横から助け舟が入ってきた。


「私、モータルを栽培する事にしたんだよって言っているよ」


 メイルさんが訳してくれる。

 よく聞き取れたなぁ。

 たくさん使用するモータルが近くで手に入る様になるのは非常にありがたい。


「やくひょうあつうぇのついれり」

「薬草集めのついでに…‥だって」


「コモロンでも、モータルを使った食べ物が流行っているみたいたから、凄く助かりますよ」


 ボクが伝えると、キルトさんは親指を立てて、そのままメイルさんに抱きつく。


「ちょ、ちょっとおーっ」


 メイルさんは突如キルトさんに押されて、湯船の中でひっくり返る。


 んー……キルトさん、だいぶ酔っているな。

 風呂場からキルトさんの家まで結構離れているからな……この様子だと家にも連れて行けないかも……。

 ハルに頼んで運んでもらうか……。


「それにしても、良い判断だよ、モータルは今後絶対欠かせないから、最悪個人的に食堂の裏で育てる事も考えていたんだよねー。

 育つまでは取り寄せる他ないんだけれど、それでもありがたい。


 今回シルのお供で王宮行った時に、できる限り王都とコロモンの街でミツル、ミュートル、シミュート、モータルは買い占める勢いで購入してこようと思っているんだ」


 ボクは盃を和穂に渡してやり、購入予定の食材を伝える。


「なるほど、アキラさんにとって、その食材は欠かせないモノなんですね。

 あ、そう言えば、以前話していた、パンの原料の麦の粉、粉にする前の状態で購入することできるそうです。

 チャコさん達と戻ってくる時に合わせて、取り寄せておきますね」


 ミルフィが、思い出したように言う。


「本当!? それは嬉しいお知らせだよ、和穂、麦飯の稲荷寿司もモチモチで美味しいんだよ、楽しみだね」


 ボクが和穂の方に向いて伝えると和穂はひとつ頷き返事する。


「……私が初めて稲荷寿司を口にしたのは、麦飯で作られたモノだったから、懐かしいな……」


 和穂は微笑む。

 ジャグラさんには、稲荷揚げの代用品を急いで見つけてもらう必要がありそうだ。


 

「私、うどんもありの様な気がするなぁ……」

 チルレが言う。


「それは、みんな違う味を研究してるからって事?」

 ボクが尋ねるとミルフィが手をポンと叩く。


「なるほど、日替わりで味を変える事もできるし、うどんの麺もどんなに仕込んでも無駄にならないわけですねっ」


「冒険者が冒険に出るのを忘れて、居座ってもおもしろいよね、仕事を忘れる程の楽しみな食事」


 チルレがミルフィと盛り上がる。


「まぁ、キャラバンの護衛事態がクエストだから、こなした後は帰りまで自由にするんじゃない?

 低ランクの子達がこなすクエストだったら、いつの日か大きくなって、あの日食べた、ここでのご飯をまた食べに行こうって、振り返ってくれるのも嬉しいよね」


 フェイさんは言う。


 確かに、街の中の食堂だったら、長い年月が経つに連れて、ライバルによって客の取り合いだったり、増えていく店の数に埋もれてしまったり、潰れてしまう事もあるだろうけど……。

 ここでは食堂はひとつ、みんなで協力して行くから、記憶に残って長続きするお店になりそう。


 確か【ミ●ュラン】の星三つのお店は、その食事の為にその地に訪ねて行く価値があるって称号だったよね……。

 正直ボクはこの地で食事を任される人達のレベルなら同じ様な称号を得られるのではないだろうかと思う。


 なんてたって、食事を摂る必要のない神様達や精霊達が、興味を持って食べる食事なんだからね。


 レシピをどうにか自分のものにしようと努力しているルーフェニアさんは、特に利益の為ではなく、自分の勉強の為に学ぼうとしているから、ボク達が公認しているわけだけど、いずれスパイの様な刺客も来るかもしれない。


 別に元祖の味を真似できるなら、しても良いんじゃない?

 ボクの料理だって誰かが作った物の真似事な訳だし、沢山の人が切磋琢磨して次なる味を作っていける様になれば、食の文化も発展していくだろうと思う。


「テイクアウトのできる、稲荷寿司や焼きミツル、日替わりうどんにモータル団子にフレンチトースト、後はその日担当の人が考えるようにすれば、十分でしょ。

 全部決めてしまうのではなく、考える楽しみもとっておく事も大事」


 ボクが言うとその場のみんなも頷き同意してくれる。


 何だか楽しみだなー。

 でもその前にやらなきゃならない事は沢山あるから、ボクが食堂の仕事に合流できるのは、王宮から戻ってからか、ダークエルフの隠れ里から戻ってからか、それともまだ先になるのか……。


 ボクはボクで、新たな食材や調味料を手に入れて、みんなに新しい事を提供できるように努力しよっと。


 食堂の話をしたら、3人とも目をキラキラさせて話を続けている。

 メイルさんはぐでぐでのキルトさんを介抱して、リンネちゃんとハルは湯船に浸かったり出たり、お風呂を満喫している。


「和穂、特別なお酒をもう一杯もらっても良いかな?」


 ボクが和穂に尋ねると、和穂はひとつ頷き、先程ボクから受け取った盃と、みんなで回し飲みをした大きな盃をそれぞれ左右の手に持ちボクの方に差し出してきた。


「……小さい方でお願い……」


 のんびり湯に浸かって、美味しいお酒を飲んで、

同じ事を議題に、皆で話を出し合って、なんて充実した時間を過ごしているんだろう。


 そりゃ、狐鈴達も食事の事を忘れて楽しみたくもなるよな……。


 ボクは和穂の肩に寄っ掛かり、眼を閉じて顔を撫でる夜風を感じる。


お帰りなさいませお疲れ様でした。

 お酒で【九尾】と【白狐】って実在する物なんですね、何も考えずに名前を出していました。決して回し者ではありませんよ。


 今回、話の中で【チルレが湯船のヘリに腰を降ろし】という行為、温泉などで禁止されている事もある様ですね。

 理由は色々ある様ですが、物語の中で皆先に体を洗って身を清めている状態ですので、大目に見ていただけると幸いです。

 湯船に浸かりながらの飲酒も、酔いが回るのが早くなるとか、健康上でもよろしくないと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

 良い子のみんなは、決して真似をしちゃいけませんよ。やるならば自宅のお風呂などで常識の範囲内、他者に迷惑かけず、自己責任でお願いしますね。


それでは、本日はこの辺りで。また次の話でお会いできたら嬉しいです♪


いつも誤字報告ありがとうございます。

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