第118話 ボクと温泉と日本酒と。
なぜ、狐鈴は、裸に千早というマニアックな格好なのかと聞いてみれば、突如森の中に発生した危険因子を感じとり、飛び出してみたものの、さすがに裸は……と、感じた様で羽織ったそうだ。
チヌルはみんなを安心させるために、広場へと戻った。
ハルの体質に関しては、一度皆んなにも知らせておいた方が良さそうな気がする。
それで、「追い出してしまえ」なんていう心のない人はいるとは思えないし、原因がわかる事で今後の対処のし方も相談できる様な気がする。
そして、ボクはというと……先程通り過ぎた風呂場の衝立の前に立っている。
衝立の向こう側から楽しげな声が聞こえる
「ハクフウ、アコはそれが好きみたいだぞ、ドンドン入れちまえっ」
ナティルさんのハクフウさんを煽る声。
「ちょ、ひょっとぉ……ハク、フウひゃん、しょんなに、激しく入れたら……溢れひゃい……あっ、ひょっと、まっれぇ……」
アコさんの呂律の回らない声……
「な、ななな、中で何が起こっているの!?」
ボクは慌てながら狐鈴に尋ねると、ニヤリと笑う。
衝立越しに聞こえた声にボクは顔を熱くする。
「さぁて、大人の付き合いってやつじゃよ、アキラも好きじゃろ? ワチがソナタの相手をしてやろうかの……」
狐鈴は佇むボクの正面から、首に両腕を回し、耳元でゆっくりと囁く様にボクに言う。
「狐鈴……、中で『何が』起きてるの……」
ボクは、動揺しながらも、改めて口調を強めに狐鈴に問う。
「…………たまにはハメを外しても良いじゃろ……」
狐鈴はボクの身体から体を起こし、口を尖らせて、ボクの肩に右手の人差し指を立てぐりぐりしながら言ってくる。
「……御神酒じゃよ、盃で湯に浸かりながら飲んでいるのじゃ……」
あ……理解……。
最高の露天風呂の使い方じゃないか……混浴でなければ、ボクも一緒したいくらいだけれども。
まぁ、その、ちょっとだけ、いかがわしい想像をしなかったわけでもないボクは顔を赤らめたまま、狐鈴に言う。
「なるほど、とても贅沢な過ごし方だね。
でも、食事を用意してる人達はずっと火を落とせないで待っているから、そろそろ切り上げないと……」
狐鈴は耳を垂らす。
「ワチはアキラとも裸の付き合いをして盃を交わしたかったのじゃがな……」
上目遣いでボクを見ながら言ってくる。
「裸の付き合いなら普段からしてるじゃん、ボクは異性の人と裸の付き合いができるほどキモは座ってないよ」
ボクの言葉に狐鈴は言う。
「ワチはアキラにいろんなところに触れてもらいたいのじゃ、和穂の様に、ワチをもっと受け入れてもらえないかや?」
ずるい……いつもの狐鈴なら、笑ってウンウンって言ってるところだけど、今の狐鈴は色気がありながらも、ギャップがあって、簡単にはかわせないような感じを受ける。
「そう……? それじゃあ……」
ボクは狐鈴の頭に手を乗せてゆっくりと撫でてやる。
狐鈴は尻尾をゆらし耳をピロピロ動かし、目を細めてボクの撫でる手を受け入れる。
「もっと…….いろいろ触っておくれょ」
「……狐鈴……女狐出てる……」
狐鈴はボクが頭を撫でて、気持ちが良いのか……妖艶な表情でボクを見つめる。
「うう、もう、終わりかや、つまらんのぅ」
狐鈴はため息をひとつつく。
「またそのうち……ね」
「はぅ、ワチには魅力が足りないのかや……」
「魅力はあるよ、ボクなんかより全然。なんというか、色欲が溢れているから、ボクにはちょっと抵抗がね……」
「むうぅ……」
そんなタイミングで、和穂から念話がとどく。
『……アキラ、終わった……どこ?』
『和穂、お疲れ様。
森にも、襲撃者が出て、チヌルと向かって狐鈴と合流したんだ。
チヌルは広場に戻ってボクは今、お風呂場の前だよ……』
『……っ……呼んで……』
狐鈴といる事に対して危機感を覚えたのか、慌てた様に呼ぶ様言ってくる。
『狐鈴達に戻る様に言ったから、ボクも一度広場に帰るよ、ハクフウさん達がまだ、入っているみたいだし、白夜もいるからね』
『わかった、待ってる……』
「じゃ、ボクはいったん戻るから、シル達にもちゃんと言ってね」
狐鈴の頭をひと撫でして、白夜と共に広場へ戻る。
ボクと白夜が戻り、自分のカマドに顔を出すとフェイさんが「おかえりっ」と迎え入れてくれる。
チャコとチヌルが、ヤンマ姉妹の香味焼きに入り、そのヤンマ姉妹がボクに変わって調理をしてくれている。
うどんって思っている以上に加減が難しいんだよね。
メーソルの感覚でチヌルが茹でてしまったらクタクタになってしまうし、普段からうどんを茹でていないチャコもまた然り。
「アキラさん……お風呂場では何が起きていたんですか?」
フェイさんがボクに尋ねてくる。
そりゃ、ボクと同じ立ち位置で、同じ情報を聞いていたフェイさんにとったらモヤモヤするのも無理は無いだろう。
「ボク達もやってみる??」
ボクが言うと、フェイさんが「ええ!?」と顔を赤くして驚き、チルレさんが「女同士でって事ですか!?」少し興奮したように、目をキラキラさせながら言ってくる。
「リンネもするっ!」
隣りのカマドからリンネちゃんが声を上げる。
本当に宴と違ってゆったりした食事会だから隣同士の会話が筒抜けだ。
「こ、こら、リンネ、チャコさんが大人じゃ無いと出来ないって言っていたでしょっ」
実はこう言った話が好物? なミルフィさんが顔を赤くしながら、リンネちゃんを宥める。
「まあまあ、ミルフィさん、そんな世界もあるんだと見て学ぶ事もあるでしょうよ」
チルレさんがウンウンと頷きながら、ミルフィさんを説得する。
おい、みんな、何か勘違いしていないか?
まぁ、ボクも人のこと言えないけれど……。
というか、勘違いじゃなかったとしたら、そんな世界を見て学ぶとか言っているチルレさん、子供相手に、あんたそんな事で大丈夫なのかい??
「そうだな……リンネちゃんは違うもので試してみようね」
ボクは、リンネちゃんを置いていかない様に話をする。
「うんっ!」
リンネちゃんは嬉しそうに返事をする。
「ちょっ、ちょちょっ……アキラさん、リンネにはまだ早い様な事じゃ無いんですか?」
慌てながらミルフィさんは聞いてくる。
「ええ、お酒は流石に無理ですけど、他のものならいいんじゃないですか?」
「「「お酒ぇ〜……?」」」
3人はボクに向かって、声を揃えて言う。
「お酒を飲んで何をするんですか?」
チルレさんは更にボクに詰め寄り尋ねてくる。
いかん、誰かこの子をどうにかしてくれ。
ボクはチルレさんの両肩に手を置き、落ち着かさせる。
「何もしないよ、ただ飲むだけ、飲む場の雰囲気が違うだけで、極上なものになるんだよ。
たぶん、和穂も持っていると思うんだよね……」
「……何を?」
ボクの後ろから突然和穂が声をかけてくる。
「をををっ、お帰りなさい、お疲れ様だったね」
首だけ和穂の方に向け、和穂に労いの声をかける。
隣りにはハルがいる。
「ハル…………ちょっとこっちおいで」
あんだけワイワイ話していたみんなが、静かになるし、ハルがオドオドしている。
ボク、そんなに怖い顔している?
ボクはハルの両頬を摘みギュッと引っ張る。
ハルはボクの目をジッと見つめ返し、抵抗なく、ボクの行動を受け入れる。
「アキラさん、真顔、無言って圧が凄いですよ……」
ミルフィさんが、ハラハラした表情でボクに言う。
「ハル……ひとりでいっちゃダメだよっ」
ボクの言葉にフェイさんが「えっ!」と言う。
「ご、ごごごめんなさい、アキラさんもトイレに行きたかったんだね、そんなに怒るほど切迫詰まっていたのに、私気付けないでいて……」
あわあわとしたフェイさんがボクに謝ってくる。
「ちちち、違うよ、えっと、あの……」
つい、安心した反動でハルにこんな事をしてしまったわけなのだけれど、周りがこんな反応になるとは思ってもいなかった……。
えと、えと……どうしたものか……。
「あひら、おねぇひゃん……ごめんなひゃい」
ポロポロと涙をこぼすハル、ボクは摘んでいた手を放し、前髪を指先で横に流し、両手をハルの肩に置き、まっすぐ目を見つめ言う。
「いい、ハル、君は何でもひとりで解決しようとする強い子なのかもしれない、でも今は完全では無いんだよ、それは頭に入れておくんだよ。
ボクに直接できない事でも、和穂ならきっと何とかしてくれる。
それに君はゼルファさん達の元に戻らず、ボク達を選び、ボク達はハルを受け入れたんだから……」
ハルはウンウンと頷き「御免なさい」と言う。
ハルの後ろからチヌル達の焼いた肉を食べていた和穂が箸を口に咥え、空いた右手でハルの頭をワシワシと撫でる。
「うんうん……」
ハルは和穂の行動に驚いていたが、すぐ受け入れる。
「万が一にでもケガして帰ってきたら……」
まぁ、ケガをしても、回復なんてできるだろうけれど、地味にこたえるバツを口にする。
「ご飯抜きにするからね」
ピシッ……ハルの表情が固まる……和穂の表情も固まり、口に咥えてきた箸が落ち、ハルの頭へと当たる。
本来、精霊も天使も食事は別に必要では無いという事は、これまでの確認で分かっている事だが、本人達にとっては楽しみが取り上げられる様な事になるから、結構キツイ罰になるだろう。
「うう、わかった……」
和穂も苦虫を噛んだ様な顔をして頷く。
しばらくすると、ほろ酔いから泥酔のお風呂組みが帰ってくる。
ほろ酔いの者はカマドから食べ物を受け取り、泥酔の者は広場の隅に転がされる。
「ああ、酒の後にちょうどいいね」
シルはボクのカマドの傍でうどんを啜る。
ボクはみんなが落ち着いたタイミングで、チヌルとハルとルアルを連れて、正面の舞台へと上がる。
そこで、チヌルの帰還と新顔のルアルとハルの紹介をする。
ハルの紹介の時には舞台の正面にパーレンさんや、カマドで顔見知りになったヤンマ姉妹、ソッポイ親子が集まり、ハルの緊張をほぐしてくれる。
そこで、ハルの魔物を呼んでしまう体質も説明する。
先程の一件、和穂達の方の規模は把握できていなかったので、そちらは伏せておいた。
みんなの騒つく一面もあったけれど、白夜やルアルと一緒にいると、呼び寄せる力がなくなる事などを伝えると胸を撫で下ろす。
舞台から降りると、パーレンさん、ミルフィさんがハルを囲み、これまでの苦労してきた生活に労いの言葉と励ましの言葉をかける。
ハルは頷き、また眼をウルウルさせる。
この子は涙の出し過ぎで脱水症になるのではないだろうか……。
ボクは改めてここにハルを連れてきて良かったと思う。
もっとも、更に得体のわからない……精霊も逃れることの出来ない眼を持つボク達を受け入れてくれているみんなだから、結果はある程度わかっていたんだけどね。
魔物や魔族に対抗できる戦力があって、受け入れてくれる人たちがいる。
そりゃ、自分たちに脅威の迫る可能性だってあるわけだから反対する人もいるだろう。
だから人の多く暮らす街でハルをかくまう事はもっと難しいと思う。例えば教会で神様天使様の為なら、命をかけて戦える聖騎士団を持っている街とかであれば、話は別だろうけれど……。
人間は自分勝手だ。
迫り来る脅威に対しては、神様に救いを求める者はいても、脅威を引き連れてくる者に対して保護の手を差し伸べるのは少数派、しかも、その保護しようとしている者に対しても多数派は牙を向ける。
「ハル、ソナタは、みんなの期待に応えるようにしないとな」
狐鈴は両手を腰に当てた状態でハルの横に立ち、ひと言伝えると小さく笑う。
「おおそうじゃ、アキラよ、コチラの世界の者はコレを好む様じゃよ」
コチラを向き収納空間から、狐鈴が取り出し手渡してきたのは一升瓶、ラベルには「九尾」と書いてある。
「ジャグラが興味を示したので、ひょっとしたら今後は清酒も期待できそうじゃな」
狐鈴は微笑む。
なるほどねぇ、狐鈴は狐鈴で欲しい物の知識を提供して、作ってもらう様に仕向けたわけだね。
こちらで作る料理を和食により近付けるには、酒は切れない存在だから、製造られるならばボクにとってもありがたい。
有るなら使えば良いじゃんと、つい思ってしまうだろうけれど、有るものには限りがあるので、それを作れるだけの力がある者に興味を持たせて、必要な者に取り込めば、長い目で見れば、いずれ手に入る様になるはず。
原料がミュートになるのか、ミュートルになるのか、シミュートになるのか……どんな味になるのか、凄く楽しみだ。
ああ、でも……ご飯や団子が手に入りにくくなるのも困るな…………んんーっ、なる様にしかならない、考えるのやめた。
ボクがひとりで頭をワシャワシャやっていたらホットドッグのようなものを食べながら和穂が1本ボクに渡してくる。
ボクは手に持っていた一升瓶を和穂にあずけると、和穂は首を傾げる。
「これがこっちの人に好評だったんだって」
和穂は一升瓶をまじまじと見た後、収納空間へとしまう。
「ボク達もお風呂に入りながら飲もうかと、さっき話していたんだ」
和穂は手を止め少しイメージしたのか、コクコクと頷く。
さて、リンネちゃんには何を飲ませようかな……。
さすがにもう腹ペコの者はいないだろう。
とりあえず、手を加えずとも食べられるものだけ置いて、ボク達はお風呂場へと向かう事にした。
「ハルおねぇちゃん、お風呂好き?」
「ハルはお風呂入った事ないんだよ」
「じゃあリンネが教えてあげるねっ」
団体の先頭をリンネちゃんとハルが繋いだ手を振りながら歩く。
その微笑ましい光景をカンテラで照らし眺めながら、ボクと和穂、ミルフィさんが続き、その後ろにキルトさん、メイルさん、ヤンマ姉妹が続くという中々大所帯の移動だ。
脱衣室には何とか全員収まるが、洗い場の数は限られている。
「ミルフィさん、ハルをお願いしても良いですか?」
「ええ、リンネもハルさんに懐いているみたいだし」
ボクと和穂はミルフィさん達とヤンマ姉妹を先に譲り、脱衣所で時間差を作る。
「和穂、お酒味見してみようかね」
同じく脱衣所で、一緒していたキルトさんとメイルさんを見て伝えると、和穂は先程の一升瓶を取り出す。
「味見だからコップは1つでいいよ」
和穂はひとつコップを取り出して、一升瓶から注ぐ。
ボクはチビリと口に含む。
結構辛口ではあるけど飲みやすく感じる。これは危険だな……。
「さっきのお風呂組みは、お風呂に浸かってコレを飲んで楽しんでいたみたいだよ、ボク達も浸かりながら楽しんで行こうよ。
まず、口に合うか試してみて」
「え……これはお水じゃないんですね」
ボクからコップを受け取ったメイルさんはマジマジと中身を見て、スンスンと匂いを嗅ぐ……。
「果実酒の様な甘い匂いは無くて、何だか例え用の無い、独特の香りがしますね。では、ひと口」
チビリと口に含む。
「うぁ、なっ……」
メイルさんはコップを持っていない左手を喉に当てる。
少しそのままで動きを止める。
「の、ノドがやける……、何でアキラさんそんなに普通なんですか……」
あぁ、こちらのお酒は果実酒が主流だから、この手のお酒に慣れていないんだろうな。
「私にも飲ませてぇー」
キルトさんが尻尾を大きく振りながらメイルさんにおねだりする様に両手を伸ばす。
ところが、メイルさんはキルトさんに背を向け、首だけキルトさんに向ける。
「キルトさんは今は辞めた方がいい、お風呂に入る前に寝込んだら大変」
キルトさんは冷静に伝え、コップを遠ざける。
「そ、そんなぁ……」
キルトさんは垂れ耳を更に垂らし、ブンブンと振っていた尻尾も下へ力なく垂れ小刻みに揺れる。
「和穂、コロモンで購入した果物、メリ……
こんくらいの白い、まん丸な卵みたいな果物出してもらっても良いかな?」
ボクは小玉スイカほどの大きさを両手で作り和穂に見せる。
コロモンで試食程度しか食べた事はなかった果物で名前すら覚えていなかった。
メイルさんから受け取ったコップをクイッと丁寧な仕草で空にした和穂は、小首を傾げ頬をポリポリと人差し指で掻き、思い出したようでウンウンと頷く。
収納空間からメリザロを5個とりだし、ボクとメイルさんとで受け取る。
「ああ、メリザロだねぇ。へぇー、コロモンで購入してきていたんだぁ」
キルトさんは目をキラキラさせメリザロを見つめる。
「コレはメリザロっていう名前なんですか?」
視線を向けられたメイルさんは、両手で持っているその果実に視線をむける。
メイルさんには馴染みの無い果物の様で、初めて名前を聞いたらしい。
「うん、セラカでは普通に食べていたよー。
コレがまた癖になる食感と、中の果汁もシュワシュワして美味しいんだよねぇ。
そっかぁ、コロモンなら仕入れられるんだぁ、次ルーフェニアちゃん達が来た時に、注文しようかな」
キルトさんはハイテンションで、メイルさんに説明をする。
和穂はボクの方に視線を向けている。
「ああ、ごめん、和穂はまだ食べた事なかったよね、そんなに買ってなかったし、使うタイミングが思い浮かばなかったから……」
和穂はボクの話にウンウンと頷き、メリザロをトントンと指さす。
「うん、コロモンのお店でひと口だけ、ルーフェニアさんから食べさせてもらったんだ。
今出してもらったのは、お酒の飲めないリンネちゃんに、ちょうどいいかなって思って」
「…………」
「いや、和穂ごめんって、ボクも忘れていて、ふと思い出したんだよ」
「よく、和穂さんの言ってる……言ってる? 言葉分かりますね」
メイルさんがボク達の話に入ってくる。
「え……」
ボクが言うと、キルトさんもポカーンとした表情でウンウンと頷き、付け加える。
「しかも、和穂ちゃんってあんまり表情出ないじゃないですか……」
んー、おそらく、ボクが初めて和穂と会った時の、狐鈴と和穂の関係に近いのかな。
「何と言うか、いつも一緒にいるからというか……、一緒というよりくっついているから、ボクの身体の一部のような……?
だから、何となく言いたい事が分かるというか……食いしん坊だしね」
ボクの言葉に、メイルさんとキルトさんが驚きの表情で向き合う。
「へぇー、じゃあ私も和穂ちゃんと一緒にいたら、分かるようになるかな??」
ほう、キルトさんは和穂と仲良くなりたいのかな?
「ボクは、キルトさんと和穂って相性はいいと思ってるよ。フレンチトーストの時もそうだったし、基本食いしん坊なあたりは一緒だからね」
ボクが初めてキルトさんにフレンチトーストを作ったのは、和穂がキルトさんの代弁としてボクに伝えてきたから。
きっと好みも似ているんじゃないかな。
ドジな辺りは放っておけない感じもあるしね。
「私は、どうだろう……人攫いの件で、ほんの少しだけだけど、一緒に過ごして……でも……」
メイルさんは困った表情をボクに向けてくる。
「そりゃ、メイルさんにとって、あの時はオンダさんとの時間が1番大事な時期だったし、和穂にとったら仲良くなりたい存在というよりは、護る対象であったハズだからね、今なら親睦も深められるんじゃないかな」
ボクとしては人を寄せ付けない雰囲気より、それでも、和穂の良いところを共感できる仲間が増える事はすごく嬉しい。
和穂も少し丸くなるのではないだろうか。
和穂は少し困った表情をしてボクを見つめる。
『大丈夫、とって食われる事はない……と思う、たぶん』
ボクは笑顔で伝える。
『……いじわる』
「次どうぞーっ」
ちょうどそのタイミングでフェイさんが浴室から扉を開けて声をかけてくれる。
「今日は久しぶりに、アキラちゃんに尻尾洗ってもらおうかなー」
「え?」
服を脱ぎながらキルトさんが言うと、メイルさんも反応する。
「アキラさんに洗ってもらうと何か違うんですか?」
「うんうん、それはそれは、絶妙な力加減とピンポイントで流れる様な触れ方で天にも昇るような快感を与えてくれるんだよー」
キルトさんは自分で自分の体を抱きしめ、身悶えする。
それを聞いたメイルさんは、顔を真っ赤にして、ボクの方に視線を送る。
「あ、アキラさん……そ、その、わ私も、お願いしてもいいでしょうか……」
ほむ、ボクは職に困ったら獣人相手にエステでもやろうかしら……。
「いいよー、メイルさんには、今回の旅でいっぱいお世話になったからね、裸の付き合いも大事」
ボクは親指を立てて了承する。
見ていた和穂はジト目をボクに送ってくる。
「分かっているって、和穂は特別で洗ってあげるから」
「「ーー特別っ!?」」
なんて事ない、いつも通りだけど、言葉をつけ加えているだけだ、特別扱いをしないと和穂がヤキモチを妬くから。ただの言葉遊びだが、キルトさんもメイルさんも驚いた表情をする。
それを聞いた和穂は微笑む。
「「か、可愛い……」」
そうなんだよ、和穂は時々ボクの前でこの表情をするんだ。何人の人が見たか分からないけれど、凄くレアな微笑みだ。
ボクはこれまで誰にも知られる事なく過ごしてきた狐鈴や和穂、クラマをみんなに認知してもらって楽しく過ごしていけたらな……と心から思っている。




