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第106話 ボクと再会者とクリームシチュー。

 見覚えのあるゴーレム馬の引く馬車が到着をし、これまた見覚えのある2人が御者台より降りてくる。


「やぁ、まさか、こんなに早く再開するとは思っていなかったよ、まぁ聞きたい事が山ほどあるけど、後ほどゆっくり聞かせてもらえると嬉しいな。

 今回はドラゴン討伐の情報を受けてひと足先に飛び出して来たよ……まさか成体だとは夢にも思っていなかったけれどね……」


 ジャグラさんは、直ぐにでも確認したい様で話している間も視線はアースドラゴンへと目をやっている。


「アキラ、アタシはクラマが飛んできたから嫌な予感がしたんだよなー。

 でもまさか、こんなに近くにまでドラゴン族が進行して来ていたなんてな……。

 チヌルさん、あんたに任せきりにしてしまって、すまなかった」


 ナティルさんが、チヌルに頭を下げて謝罪をする。


「思っていた以上に進行が早かったからねぇ、さすがに、アタイも今回ばかりは生命をかけた、最後の仕事になると覚悟はしていたよー。

 まぁ違った形で、仕事が最後になったわけだけれどねぇ」


 チヌルの言葉にナティルさんは大きくため息をひとつ付く。


「ジャグラ、そんなにソワソワしてるなら、こちらを気にせずに、見てこいっ、鬱陶しいっ」


 ジャグラさんは話はそっちのけで、興味は既にアースドラゴンにいっており、チラリチラリとボク達の後方に視線を向けていた。

 

 ナティルさんに睨まれ、ジャグラさんは、頭をポリポリ掻いて、こちらに一礼すると、アースドラゴンの方へ、遊び場にかけていく子供の様に向かって行った。


「おいっ! ゾルディガ、ディッグ着いたぞ、お前等も起きてさっさと仕事しろっ!」


 ナティルさんは荷車の戸を乱暴に叩き、内部に怒鳴りつける。


「う、うぷ……こんな、だなんて……聞いてないですよ……うぷ……」


「うぇぷ……ん? スッゲーッ!! 本物だあぁぁあっ!!」


 顔を真っ青にしたボサボサ頭、口元に手を当てた無精髭の青年2人が荷車から降りてくる。

 1人は降りてくるなり地に伏せ、1人は一瞬で顔色が変わり目をキラキラさせる。


 おそらく、この2人が研究者で間違いないだろう。


「とりあえず、この場では現場検証と、今後の素材に関する決め事を先にやっちまいたいと思う。

 狐鈴、ドラゴンは持ち運んだり、保管する事は叶うのかい? 

 とりあえず、アタシらが到着するまで現状維持で置いといてくれたみたいだが……ん……?」


 狐鈴に目を向けたナティルさんが、狐鈴の影に隠れたハルに気付くも、気付かないふりして視線を外す。


 ナティルさんは、ボク達に関わる事全てが、常識から外れていると認識しているので、どうやら自分から厄介ごとに首を突っ込まないようにしたらしい。


「うむ、生きているわけではないので、大事ないぞ、しかし後の出す場所も考えねば、大騒ぎとなるじゃろうよ」


「確かに……だが、すでに現状維持で3日間は風に晒されていたわけだからな、希少な物だから、できれば少しでも新鮮な状態で保存しておきたいんだ」


「なら、コロモンで素材を独占するつもりでなければ、王国のコロッセオを借りたら良いんじゃないかい?

 うちの近隣は悪いけど、今回は勘弁してくれ、あまり多く人が集まるのを好まない者もいるからな、それに、ワーラパントの様な連中が現れても迷惑だ」


 シルが会話に加わってくる。


 たしかに、人の集まるところには犯罪も起こる。

 時々の祭りだから、皆歓迎していたんだと考えたら、しょっちゅう人が集まることは避けたい。


「なるほど、それならばコロモンだけでなく、王国や周辺、王宮お抱えの研究者も、多く集まれるから生態について沢山の見解や情報を得ることもできるだろう。

 それに、素材も競り合うことが想像出来るから、高値で取引されるだろう。

 残念ながら、ドラゴンの素材全てを買い入れられる程コロモンには金がないからな。」


 ナティルさんは頷く。


「ちょうどアタシ等も、近々王宮に行く用事ができたんでね、何なら一緒するかい?」


 ナティルさんは驚いた表情で、シルへと訊ねる。


「シル=ローズさんが同行してくれるならば、相当心強いですよ。里帰りですか? それとも王宮に戻るんですか?」


「ん? ああ、アキラ達とダークエルフの里に行く予定だから、報告にね。

 まぁ、アキラ達の事も国王様に紹介出来れば、制限だらけの窮屈なアタシの今後の動きも、少しは楽になるんだけれどね」


 シルは苦笑いをしながら伝える。

 その言葉に、改めてナティルさんはボクや、和穂、狐鈴やチヌルに視線を流し、真顔でシルへと戻して口を開く」


「えと……シル=ローズさん、貴方、ダークエルフを滅ぼすつもりですか?」

「しないよっ!!」


 間髪入れずにツッコむシル。




「ほら、ディッグ、明るいうちにできることは、チャッチャッとやっちまいな」


 ナティルさんは、地に張り付いている青年の尻を引っ叩き喝を入れる。


「ぐぎゃっ!」


 声を上げて、ノソノソッと立ち上がる青年は、先に歓声を上げてアースドラゴンの方に向かったもう1人を追いかけて合流をし、何やら話をしている。


「んじゃ、アタシも来て早々で悪いんだけど、一旦離席させてもらって、立ち入らせてもらうよ。

おい、ジャグラー!!」


 そう言うと、ナティルさんはジャグラさんの元へと声をかけながら向かった。




「クラマ、本当にお疲れ様」

「勿体無いお言葉です」


 ボクがクラマに声をかけていると狐鈴が話に入ってくる。


「のう、クラマよ。褒美というわけではないが、ソナタにはアキラが作った、白飯お結びと、稲荷寿司、雑炊があるが、何か腹に入れておくかや?」


「えっ!? まことであるか!?」


 クラマはボクの顔を見上げ目をキラキラさせる。


「好評だったんだよ、今回の味には自信があります、ゆっくり食べなよ」


 ボクはクラマと狐鈴に目線を送りひとつ頷き、離れた位置から、現場検証に立ち会っていたシルにもひと声かける。


「シル、夕飯の準備は粗方終わっているから、ボクちょっと休むよ、食事の始めたい時間になったら呼んでもらえるかな?」


「ああ、わかった、いつもすまないね」


 シルはひと声返事をして手を上げる。


 ボクは和穂を連れて荷車へと行き、少し休憩する事にした。

 一緒にいると、和穂の視線でクラマも食べ辛いだろうしね。


 クラマの反応が見られないのは残念だけど、それはしかたない。


 先程、一度は眠りに落ちかけたので、あっという間に落ちていく。



「アキラー起きてるかや?」


 外からの声かけに目を覚ます。

 眼を開けると、珍しく、和穂が抱き付いてきているのではなく、ボクの方から和穂に抱き付いていた。


「こ、これは……」


 さすがに恥ずかしいと、慌てて和穂に絡めていた手足を解くと、逆に抱きつかれる。顔を上げると、眼を細めてボクの頭を撫でている和穂と目が合う。


「和穂、起きていたの? 食事にしようね」



 ボク達が荷車から降りた時には、アースドラゴンは狐鈴によって収納され、クレーター状に穴が空き、そこを中心にまっさらになった大地が広がっていた。


 あまりに目に入った光景が違ったので、寝ている間に移動されたと言われても、普通に納得するだろう。


「さ……寒っ……」


「そりゃ、風除けがなくなったからねぇ」

 プルプル震えたチヌルが自分の肩を抱いて言う。


 シルが土魔法で簡易的な風除けを作る。

 寒さも凌げる様、カマド用の焚き火も拡大する。


「土魔法って便利だね」


 ボクはシチューを撹拌しながら、仕上げをしていると隣の鉄板で、一旦先に焼いてあったチヂミ……玉ネギだから、かき揚げ? かき焼き?? を温めながらチヌルは尋ねてくる。


「アキラが土魔法が使えるとしたら、他の魔法との組み合わせはどうするんだい?」


「んー……土ねぇ……風との組み合わせだと、砂つかって目隠しか、石との組み合わせで石飛礫かな、水との組み合わせだと、沼を作って足止め……そのまま沈めちゃうのも手かな……ウメちゃんの生産魔法で核を作れたら、ゴーレムを作るとか……?」


「へぇー、本当に組み合わせ次第で考え方の幅が広がるんだねぇ。ちなみに電気との組み合わせは??」


「んー、試し用がないからイメージがわかないけど、土と電気は相性が悪いのかも? チヌルが身体に帯電したあと地面に手を当てるのは、身体の電気を抜くためでしょ?」


 チヂミをひっくり返しながら頷きを見せる。


「そうだねぇ、確かにアタイが地面に手を置くのは身体の電気を抜く為だね。

 確かに土に電気を流しても、石に電気を流しても変化は見られないねぇ」



「お姉ちゃん、手伝う」


 手持ち無沙汰なハルがボクの正面から声を掛けてくる。

 ハルは朝から髪型を崩す事なく、長いポニーテールをゆらしながら、前髪のスリットから紅い右眼そして、眉のすぐ上にある小さな蒼い右眼をキラキラさせている。


「ハル、ありがとう、ボクの方はもうちょっとかな、チヌルの作ったのが先に温まるみたいだから、配るの手伝ってあげて」


「うんっ」


 ハルは元気にチヌルの正面へ移動する。


 チヌルは皿代わりの葉っぱに、チヂミを並べて、ハルへと渡す。


「熱いから気をつけるんだょ」


「うんっ」


 2人の微笑ましいやり取りを見ていると、シチューも程よく温まってくる。


「さて、こっちも良さそうだよ」


 こちらは和穂が手伝ってくれる。

 



 チヂミは、玉ネギの甘みや香ばしさもあって、シチューの邪魔にも、肉焼きの邪魔にもならず、皆のお腹を膨らませる事に一役買っていた。


「ワチはこのシチュウ好きじゃよ」

 狐鈴はおかわりを取りに来た時ボクに声をかけていく。


「喜んで貰えて嬉しいよ」


 ボクのシチューはミルフィさんのスープと、似ていても異なる味にできあがっていた。

 牛乳たっぷりなのでクリーミーさがあり、肉の旨みもしっかりと感じ、ホクホクのモータルからはほのかな甘みもあり、口の中でそれぞれの味と食感を楽しませてくれた。


 ミルフィさんのあのスープには、もっとバターが入っていたのかな? それとも卵が入っていたのかな? 


 まぁ、パーレンさんのスープの様に、その人にしか作ることのできない、絶妙な味付けのスープがあった方が、皆で食事をする時に個性の違う物が楽しめて良いと思う。



 今夜は新しい顔ぶれはあったものの、特に宴会などは予定していなかったので、ずいぶんおとなしめの晩御飯に思えた。


 当たり前というか、話題は全部アースドラゴンについてのあれこれ。

 話しながら食事をすすめていたようだけれど、ボクは特に興味を持たなかったので、普通に食事をさせてもらう。


 うーん、ジャグラさんとは、食材の話をしたかったんだけれど、あんなにキラキラさせた眼で話をしている人達の話を、中断させてまで問う必要もないので、またいつか確認しよう。



 シチューは、空になった雑炊の入っていた鍋を綺麗にして、メイルさんとチャコの分を保管する、流石にレウルさんの体格に見合うほどのシチューの作成はかなわなかったので、レウルさん用にサンドウィップの内臓を別に保管してもらっている。


 今夜は『ハルの魔物寄せ実験その2』として、シルの土魔法で作った安全地帯から離した位置に荷車を停め、一晩でどれくらい魔物が呼び寄せられるのか試す事になった。


 突然そんな、実験を行う事になったので、全然関係のない、研究者の2人でさえ、頭を傾げていたが、ハルの特殊体質の事だけ軽く触れて納得してもらう。


 焚き火を囲った残りの者達は、もうしばらくは起きて話をしているだろう……。

 クラマは雑炊で、それはそれは満足していたようで、晩餐の席にはおらず、荷車の屋根の上で休んでいた。


 荷車の中で夜を過ごすのは4人で、横になる順番は、狐鈴、和穂、ボク、ハルの順になる。

 和穂は言葉には出していなかったが困った表情をボクに見せていた。


 ボクが和穂と狐鈴2人の寝相を相手にしていたら、明日の朝を無事に迎える事が叶わないかもしれないしね。


「それじゃ、おやすみ……」


 ボクはハルの頭を人撫でして、枕元にあるカンテラの灯りを落とす。


 和穂はボクの肩に頭を擦り付ける。


「おやすみ、和穂」



 今の荷車には結界が貼られているので、外からの攻撃や音から護られているので、静けさの中ゆっくりと眠りに落ちていく。

 






 お帰りなさいませ、お疲れ様でした。

 投稿が遅れており申し訳ございません。

 体調不良で床に伏せているうちに、何だか投稿する為の画面が大きく変わっていました。

 何でも提携のイラスト投稿サイトに投稿すると、挿し絵を入れる事ができるそうです。

 これは面白そうですね、下手っぴではありますが、イメージとして、時々挿し絵を入れてみるのも良いかもしれませんね、そんな絵も楽しんで頂けたらとても嬉しく思えます。


それではまた次の物語でお会いできたら嬉しいです。

いつも誤字報告、ありがとうございます。

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