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第105話 ボク、チヌルにご馳走になる。


 ボクは焚き火の前で鍋をかき混ぜるチヌルを見つめていた。


「アタイはアキラみたいに初見の食材でポンポンと作る事はできないけど、ひとりで生きてきたからねぇ、たまには任せてごらんよ」


 そう言ってチヌルは、荒野で集めた食材を調理してくれた。


 ボクがついさっきまで気を失っていたものだから、気にして食事当番を買って出てくれたんだろう。


 それにしても……

 あの肉球のついた手で、何とも器用なもんだと感心する。


 ルボンテとメーソルを使った魚介風のスープの麺だった。



「メーソルは冷めても時間が経っても、いったん火が通れば、歯応えが一定だから、熱々が食べられないアタシでも、楽しんで食べられるんだょ」


 歯応えは水菜の様なシャキシャキ感があり、味わいはフォーのような感じだった。


 ルボンテのスープは胃に優しい塩っ気のある味付けで、ルボンテのヌメヌメした液体も出汁として、良い仕事をしており、更に焼いたルボンテも具材として入っていたので、香ばしさもあって、個人的に好きな味わいだった。


「へぇー、チヌルボクこの味好きだよ」


 ボクの感想に胸を張って「だろうっ」って言う。

 パーレンさんみたいにニヒッと笑ったので、つい笑ってしまう。


「なにさーっ」

 チヌルはジト目を送ってくる。


「ううん、良い勉強になったなと思って」


 和穂も、ふぅふぅと息を吹きかけ、ツルツルッと啜る。そしてよく咀嚼しながら、うんうんと頷く。


 イカのようなルボンテと、このシャキシャキ麺は温めても、冷たくてもどちらでも美味しく食べれるだろう……。

 あ……でも、ルボンテは火を通さないと酸っぱいって言っていたっけか……。



「今夜の晩ご飯はどうするのじゃ? 

 おそらく街からの遣いと、シル達も合流するだろうから、結構な大人数になるじゃろ……」


 メーソルを啜っていた狐鈴が顔を上げ、ふと、思いついた様で言ってくる。


「そうなんだよねぇー、何にしても早めに動き出さないとならないからねぇ……人数があまりに多いと、ご飯という選択肢は厳しいね……

 そういえば、ボク達の狩ったサンドウィップって持ち帰って来れたのかな?」


 隣の和穂はチュルルルンッと啜った後頷く。


「でも、あの大きさの鶏肉は火の通りが怖いね……小さく切るか……シチューの様に煮込みにするか……なんならサンドフィッシュも丸々1匹残っているしね……

牛乳はあったかな……?」


 和穂はウンウンと頷く。


「牛乳はワチも持っておるよ」


 狐鈴もこの前の宴の時に運び込まれた、使われていなかった食材を持っていたし、昨日メイルさん達のとこに置いて来たとしても、充分残っているだろう。


「んー、じゃあ、鉄板焼きとシチューにしようかな、あとはヤンマさん達が作っていたチヂミのようなやつにしよう……」


 ボクが言うとチヌルがひとつ頷き口を開ける。


「鉄板焼きは放っておいても勝手に焼けるから問題ないねぇ、ちょっと手を入れるくらいの料理なら、教えてくれればアタイが手伝うよ」


 何とも頼もしい。

 メイルさん達を、ひと足早く迎えに行ってもらう必要があるかなと思ったけれど、大丈夫そうだ。




「うー、お腹いっぱい。チヌルご馳走様でした……ちょっと時間を置いてから下拵え始めるよ……」


 チヌルの料理にお礼を伝えると、チヌルも笑顔をみせる。


 ボクの食べ終えるタイミングを待っていたのか、先に食事を食べ終えた狐鈴がボクの方へと足を運び、ハルがついてくる。


「ハルの引き寄せる魔物はゼルファのおかげか、小物ばかりだったからの、案ずる事はなさそうじゃったの。

 じゃが、何かあった時、逃がせるように、アキラが呼び寄せができるように、しておいた方が良いかもしれんな」


「った」


 ボクの隣に2人で座るなり、狐鈴がハルの髪の毛をプチリッと抜く。

 ハルは突然の狐鈴の行動にびっくりしながら、抜かれた辺りを摩る。


「すまんね、これで、ハルもワチらとの繋がりができたの」


 狐鈴がボクの手から数珠を抜き取り、ハルの髪の毛を取り込ませる。



「それ……お姉ちゃん達の手のやつお揃いなの??」


 ボクが狐鈴から受け取った、数珠を手首に戻す時に、ミサンガに気がついたようでハルが尋ねてくる。


「ああ、これね。

 これはね、ボク達がこっちの世界に来た時に、皆んなで願掛けをした、おまじないなんだ」


 ハルはボクのミサンガを見て、狐鈴のミサンガを見て、更に移動して、和穂のミサンガを見て目をキラキラさせる。


「ふわぁ……いいな……ハルもお揃い欲しい……」


 すると、和穂がハルのポニーテールの毛先をくいくいっとする。


「あう……か、和穂お姉ちゃん?」


 和穂は目を細めてハルの頭を撫でる。

 そして、手品のように収納空間から1本のミサンガをつまむ様に取り出し、隣のボクに渡してくる。


 そういえば、時間があるときに作っていたね。


「何? 、和穂が着けてあげればいいじゃん……」


 ボクが言うと、和穂はゆっくり首を横に振る。


「ハル、和穂が作ったやつ、くれるって、このブレスレットは着ける時にお願い事をして、切れた時に願いが叶うっていう、おまじないなんだ。今、何か願い事あるかな?」


 キラキラした目でボクの手元のミサンガを見ている。


「ハル……?」


「ああ、ううん、ひとつ願いが叶っちゃうな……」


 ハルは微笑み、伝えてくる。


 その言葉がよほど嬉しかったのか、和穂は尻尾を振りながらハルの頭を撫でる。


「へへへ……」


 へぇ、ハルってこんなにニコニコ笑う子だったんだね。


「じゃあ、願い事を思い浮かべてね」


 そう言うとハルは何かの儀式のように立膝の格好で右手首をこちらに差し出してくる。


「ハルの思いが叶いますように……」


 ボクはそう言って、ハルのミサンガを硬く縛る。


「わぁ……」


 立ち上がったハルは、手首に巻かれたミサンガをマジマジと見つめたり陽の光に当てたりと喜んでいた。

 いつか、天使様公認のお守りとか言って、この世界で広まったりして……。


 そんな喜ぶハルの姿をチヌルがみていた。


「チヌルの分は、今度ボクが作ってあげるね、巫女さんが作ったものに比べたらご利益は落ちちゃうかもしれないけれど……」


「ななな、そそそ、そんなに、アタイは物欲しそうに見てないでしょ、ま、まあ、皆んなとお揃いっていうのも、い、今までひとりだったアタイには新鮮な感じがするから、有り難く頂戴するけれど……」


 チヌルは尾を揺らし、耳をピロピロさせながら、早口に言ってくる。


「うん、チヌルの願いが叶う様に、心を込めて作るね」


 ボクの言葉にチヌルはふんっと、ため息をひとつつき、腕を組んで目線を逸らす。


 ボクも和穂の様にちょっと多めに作っておこうかな……。


 きっと欲しいって言う人も、今後いると思うから……。


 リシェーラさんとは言ってないよ。

 だあれ? リシェーラさんが欲しがっているところを想像したのは??



 チヌルはきっと明るい紫とピンクが似合うと思うんだよね……。



 お腹が落ち着いたタイミングで、いったん頭を切り替えないと、夕方の食事に間に合わなくなってしまう。


 和穂に調理をする為のサンドウィップを出してもらうと、和穂の何かしらの思いがあるのか、ボクの頭を割った個体を取り出した。


「和穂……これ、ボクを負傷させたヤツだよね……」


 和穂はコクコクと頷き、どうぞっと言わんばかりに手の平で指し示す。


 結局、大きさもあったので、皆で羽をむしっていく。これは料理の腕関係ないので、ある程度むしった辺りで、狐鈴やハル、ルーク、ウメちゃんに任せる。


 チヌル、トルトンさん、和穂で野菜を切る。


 黒玉葱(アイル)株人参(モレット)、そしてモータル、それぞれ皮を剥き、適当な大きさに切る。


 ボクはその様子を横目に、何回かに分けて、ホワイトソースを作る。

 流石に、カマドでは火力が強いので、キルトコンロを使って……

 最終的には寸胴鍋でシチューにするから、結構な量が必要になりそうだ……あれ? ここまで進めておいてだけど……ホワイトソースからシチューって作れるんだよねえ?? まあ、いいかぁ……。


 チヂミは主食になりそうだから、シチューに合う様に臭いの強い長ネギ(トゥ)ではなく、アイルを刻んで、生地(タネ)に混ぜようと思う。




「アキラー、切ったのじゃ」


 狐鈴は寸胴いっぱい分、鶏肉を切り分けてくれていた。


「さて、この鳥肉はシチューに使えるかな……」


「と、言うと??」


 ボクの独り言に狐鈴は首を傾げ尋ねてくる。


「うん、狐鈴は鴨とか、雉とか食べた事あるよね」


「うむ。祭りの時期になると、村の民達がワチらに振舞ってくれておったの、あれは特別な時に出されていたので、それはそれは独特な風味で、美味かったのを覚えておるよ」


 狐鈴は味を思いだしてか、口元をモニモニ動かす。


「ボクも味を確かめてから、作リ始めれば良かったんだけど、鳥肉にも癖の強い味の物もあるからね。

 つい、小麦粉を焼いたものが主食になるから、牛乳からできるシチューをイメージして作り始めちゃったんだ。

 ひょっとしたら醤油(ソーイ)ベースのスープの方が合うかも……」


「ワチは、しちゅう? と言うものを知らないのじゃが、そんなに鳥の味ひとつで合わなくなる物なのかや?」


「うーん、シチューは、前にミルフィさんの作った、白いスープが近いかな、あそこまで味は強くないんだけれど、あれの味に鴨や雉の風味が混ざったらどうだろう。

 人によっては好みの味かもしれないけれど……」


 ミルフィさんの白いスープはカルボナーラの様な濃厚な味わいで、それでいて、クリーミーな感じのするボクには真似のできない逸品、そこに風味のある肉の投入がどうなるか……


 狐鈴は腕組みをしたまま、目を閉じて考える。


「うむ……何と言うか……其々のせっかくの味が、勿体無いのう、美味かどうかまでは分からぬが、口の中で喧嘩を始めてしまいそうじゃな。

 まぁ、落胆する程の事はない、今作っている物も、合わぬと感じるならば、収納して別の機会に役立てる事ができるじゃろうよ」


「確かに……」


 ボクはなるほどと頷き、手を打つ。


 とりあえずホワイトソース作りの手を一旦止め、切り分けてくれた鳥肉を、焼きと茹でとで熱を入れ、味を試してみる。


 んん〜……そんなに気にはならない……かな。

 サンドウィップの肉は鶏に似ていて、ちょっと歯応えが強い感じがした。


「シチューでいけそうな気がする」


 狐鈴はボクの言葉にニパッと笑顔を見せる。


「そいつは良かった、本当にアキラの作る料理は、ワチをワクワクさせるからの、ミルフィのあの汁も美味であったが、ワチはアキラの作る物が楽しみじゃ」


「期待に沿えると良いけど……」


 狐鈴は頷き、また肉の解体に戻る。




 夕方の合流という話ではあったが、ひと足先に、シルとハクフウさんがこちらと合流した。

 メイルさんとレウルさんは、まだ戻ってこないチャコがいつ戻って来ても大丈夫な様に、チヌルの家で待機しているそうだ。



「増えてる……」



 合流したシルのひと言はそんな言葉だった……。


 リシェーラさんを知るシルには、今後出会うことになりそうな、ゼルファさんとハルのことは伝えた方が良いと思い、荷車の中で、秘密裏に説明をする……。



「だ、大天使様相手に、和穂はともかく、アキラはよく無事だったな……」


 引き攣った表情でシルは言う。


 う……違った形で、危険な状態に陥っていたわけだが、そこは別に報告しなくても良いだろう。


 食堂にゼルファさんと、リシェーラさん2人が顔出すかもしれないということは、シルの反応が面白そうなので伏せておいた。



「ハルッこの人がボクの大親友、メガネを作ってくれた発明家だよっ」


 ボクの声かけに、身体中にむしった羽根をくっつけたハルが、こちらへ軽い足取りでやってくる。


 シルは表情硬く笑う。


「お、お初にお目にかかります、ハル様、名はシル=ローズと申します……」


 シルは相手が大天使ということを知っているので、ぎこちない挨拶をする。そんな挨拶を向けられてハルはアワアワとしてボクを見る。


「ハル大丈夫、シルのこんな言葉使いは、そう長く続かないから、今だけのシルを楽しむと良いよ」


 ボクはハルの肩に手を当て伝える。


「な、ななな、なんて事を……」


 今度はシルがアワアワする。


「ううん……そういえば、コロモンからの来客は、研究者と商業ギルドと冒険者ギルドから来るんだっけね?」


 気を取り直し、シルが話をふってくる。


「そうクラマは言っていたけど、ナティルさんとジャグラさんが来るのかな?」


 ボクはハルの頭を撫で、身体にくっつけた羽根をとってやりながら返事をする。


「まぁ、代表としてくるだろうからな、そこは間違いないだろうよ、ふむ、研究者か……面倒なのが来なければ良いけどな……」


 腕組みをしたシルは、意味深な事を呟き、大きなため息をついた。


変態研究者(マッドサイエンティスト)が来たら調査の主体になるアースドラゴンだけじゃなく、アキラ達や、ウメちゃん、ハル様も研究の対象として興味を示しかねないからな。

 アタシも、極力皆への探りを入れられない様に関わらせてもらうけどね」



 確かに……普通の人にとったら、得体の知らないボク達は、宇宙人の様な存在で、研究者達にとってはヨダレも止まらなくなる、興味の対象となるだろう……。


 大人しくしていれば大丈夫だろうか……それとも、事前情報として話が行っているのだろうか……。



 日が落ちる前に、下拵えは終わり、のんびりと焚き火を見つめ、コロモンからの客人を待つ。

 火のゆらゆらとした動きがウトウトとさせる。


「ねむ……」


 既に隣にいた和穂はボクの肩に体重を預け寝息を立てている。

 ボクも和穂の寝息に誘われる様に体重を預ける。


「来た様じゃの」


 狐鈴とハルが顔を上げる。そのタイミングで上の方から声が聞こえる。


「ただいま戻りました」


 クラマがひと足先に飛んで来て、ボクの前に降りてくる。


「大事なかった様で良かったです」


 クラマはボクを見て頷く。


「ゴメンね、心配をかけて……」


 ボクがクラマに、そんな話をしていると、焚き火の先にいたシルが、ボクにジト目を向けてくる。


 しかし、特に追求することなく、立ち上がり言う。


「クラマお疲れ様だったね、大役をありがとう。皆そろそろ着くみたいだ、迎え入れてやろうっ」


 ボク達は眠る者に声を掛けて、ゆっくりと立ち上がり、迎え入れる準備をする。

お帰りなさいませお疲れ様でした。

チヌルが実は料理上手って設定を追加しました。

二足歩行のネコの料理姿、ちょっと見てみたいです。


いよいよ次回、コロモンからの客人と対面を果たします。


それでは、また次の作品でお会いできると嬉しいです。


いつも誤字報告ありがとうございます。

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