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第102話 ボクと天使達との小宴会。

「何か食べたいものある?」

 晩御飯を作るには少し早い時間、カマドだけ作りお茶を沸かして、囲って話をしている。


「のお、アキラ、ワチとしては詫びも兼ねて、ワチらの好きな稲荷寿司をご馳走してやりたいのじゃが……」


 狐鈴がハルさんの頭を撫でてやりながら、ボクに声を掛けてくる。


「え!? 狐鈴ちゃん達の好物!? 気になるっ!!」


 リシェーラさんは前のめりになって聞いてくる。

 隣りで目を覚ました和穂もボクに抱きつき、尻尾をブンブンと振ってコクコクと頷き希望する。


「あれは仕込みが必要だからね……明日の朝ならギリギリ間に合うけど、キツネうどんに使おうかって言っていた分の稲荷揚げだけしかないから、それだけだと、たいして作れないよ……」


 ボクが伝えると、和穂の耳が垂れる。

 んー、どうしたものかな……とりあえず、ご飯は炊く感じにはなりそうだ。



「んー、うん、稲荷寿司とまで行かなくても、何とかなる……かな……」



 今夜の食事はゼルファさん、リシェーラさん、アルクリットさん、ハルさん、狐鈴、和穂、チヌル、ルーク、トルトンさん、そしてボク。


 シル達とは、コロモンからの遣いの者が到着する明日の夕方に合わせて合流する事にした。


 メイルさん達の食事の材料は、昨夜のサンドフィッシュの残り半身と、今朝採ってきた食材、狐鈴にこちらと合流前に、希望する物を渡してくる様に伝えてあった。



「和穂、卵ってまだ沢山あるかな?」

 ボクが尋ねるとコクコクと頷く。

 本当、賞味期限を気にしないで収納できるのって便利だよね……。



 和穂とリシェーラさんはボクの近くで調理を見ていたので、炊けたご飯に調味料を振りかけ、かき混ぜ役を依頼する。


 今回は少しだけ薄味の酢飯を作ってもらい、出来上がった酢飯に、稲荷揚げの煮汁をかけて更に混ぜてもらう。


 稲荷揚げを細かく刻み、味付きご飯に混ぜてもらう。たちまち、稲荷寿司の香りが辺りに漂う。


「こ、コレは……良き匂いですよ和穂殿……」


 リシェーラさんの感想に、和穂のお腹が悲鳴をあげ返事をする。


 ボクはひたすら薄焼き卵を焼き、冷ましては錦糸卵へと、大量に作っていく。


 稲荷ご飯に錦糸卵をのせ、完成させる。

 よし、ボクはコレを稲荷飯と呼ぼう。


 それと、干しアカウイダケと黒玉葱(アイル)でスープを作る。



「稲荷寿司とはちょっと違うんだけど、同じ様に美味しく出来たと思うので、喜んでもらえたら嬉しいな。

 それじゃ、食べましょうっ」



「「「いただきまーすっ!」」」



「ほう、コレは……」

 ゼルファさんは冷静に喜んでくれたけど、尻尾は正直に大きく動いている。


「ほらほらほら、コレ私手伝ったんだよ」


 リシェーラさんはアルクリットさんに伝えている。

 その場にアルクリットさんも居たから、分かっているはずなんだけれど、よほどリシェーラさんは嬉しかったんだな……。


 狐鈴はハルさんにおかわりをよそる、すっかりお姉さん……お母さん……?

 ハルさんの面倒は狐鈴が見てくれるので任せておこう。


 稲荷寿司のように頬張る様に食べる事はないけれど、十分稲荷飯は美味しく食べれた。


 今回の食事はメインになる物が用意できなかったので何かデザートをつけたい……。


「和穂、焼きミツル人数分あるかな?」


 和穂は周囲を見まわした後目を閉じて指折り数える。

 困った表情をこちらに向ける。


「足り無いの? いくつ?」


 指を1本立てて見せてくる。


「うん、うん、じゃあ皆に配って貰っていい? ボクは大丈夫だから」


 和穂は皆に焼きミツルを配り、ボクの隣に戻ってくる。


「また追加で作らないとだね」


 ボクが言うと和穂は頷く。


 焼きミツルはお手軽で、満足できるものなので、今後の常備スイーツとして用意しておこう。


 皆食事を食べながら笑っている光景は、見ているだけでとても幸せな気分になる。

 

 和穂は山盛りによそった稲荷飯を嬉しそうにモリモリ食べて、狐鈴はハルさんのほっぺたについていたご飯粒をとってやっている。

 

 

 今後の冒険者食堂の方も考えていかないとなー。

 食材の買取りとかしてあげたら、きっと喜んで貰えるかも……。


 ナーヴは中身の水は冒険者達にとって大事だから、無駄に収穫されるのは避けたい。死活問題に発展しかねないしね。

 どうすれば良いかな……買取りの数を制限すれば問題ないかな。


 売り出す物は……

 手軽に食べられる物……サンドウィッチとかオニギリとかかな……。


 甘いものって、特別で幸せな気分にしてくれるから、モータル系はいつでも食べられるように用意してあげたいな。


「アキラ殿、何か考えごと?」


 リシェーラさんが焼きミツル片手にボクの横へとやってくる。


「近々ボク達の荷車を置いていた辺りに冒険者対象の食堂を作る計画があってね。

 何を提供したら皆喜ぶかなーって、考えていたんですよー。


 何だか、外で食事を突っついている皆の笑顔を見ていたら、何か思いつきそうだったから……」


「え、何それ? 私も食べに行っても良いのかな?」


 目をキラキラさせて、前のめりに話に入ってくるリシェーラさん。


「「え?」」


 ボクの声に合わせて声をあげるアルクリットさん。


「天使は普段、食事食べないんですよね?」


 ボクの問いに少し離れたところにいた、アルクリットさんはコクコク頷く。


「ん? 食事は必要ないから、とらないわよ、アキラ殿の作ったものは、私にとっては必要だから食べたいの」


 何だか、なぞなぞみたいな事を言うリシェーラさん……あぁ、ルークみたいな事か。


「もちろん、その時はシェラで行かせてもらいますよ」


 ニッと笑い、胸を張って、来る気満々という事をアピールする。


「なんか面白い事話してんな、私も混ぜてもらってもかまわないかな?」


 食事を全てたいらげて、お茶を飲んでいたゼルファさんが声をかけてこちらへと寄ってくる。


「あら? ゼルファ殿こそ必要のない事じゃないのかしら?」


 天使様は皆、地獄耳なのかな?

 大きな声で話していたわけじゃないのに……

 それに、あんなに離れた位置なのに……

 間にルーク達が談話していたり、炭の爆ける音が混ざる様な雑音だらけの環境なはずなのに……


「そんな意地悪言うなよ……。

 私の判断で封印までして、ハルを任せちまったし、定期的にでも様子を見に行かなきゃと思ってな……」


 ゼルファさんは話しながら、リシェーラさんの隣へと腰をかける。


 お、リシェーラさんと違ってまともな意見だ。

 リシェーラさんは、ひと口焼きミツルを口に運ぶと「……ふむ」と言う。


「それでしたら、私が食堂寄ったついでに確認しますよ、私の理由ができて助かります。どうですか?」


 リシェーラさんは指先でつまんだスプーンをくるくると回しながら、ゼルファさんに伝える。ハルさんの様子を見に来る事の方がついで……と、リシェーラさんらしい。

 ゼルファさんもそこで引き下がらずにいう。


「た、助かる……でも、こ、この仕事だけは私が見届けたいのだ……」


 リシェーラさんは目を細め、しばらく思考したのち顔をあげ納得したかの様に手をポンと叩く。


「ゼルファ殿も素直になれば良いじゃないですかー、アキラ殿の料理に興味をもったって……、それとも食いしん坊と思われるのに抵抗があるんですか?

 それとも、それとも……私と一緒に食事がしたいのですかー?」


 リシェーラさんは自分で言っておきながら照れた表情で尋ねる。


「狐鈴殿がおすすめするだけあって、料理も本当に興味深い味わいだった。

 狐鈴殿の世界の主様の話なども、とても興味があるので、ぜひ寄らせてもらって交流できたらと思うのだけれど」


 ゼルファさんはボクの方をまっすぐに向いて、伝えてくる。


「わ、私の魅力が食べ物の魅力に……負けた……?

 いや、狐鈴ちゃんの魅力に私が負けたのね……」


 ボクは肩を落とすリシェーラさんの肩をポンと叩き、ひと言伝える。


「ゼルファさんも、リシェーラさんと一緒でボク達への好奇心が抑えられないんだと思いますよ」


 隣りの和穂もコクコクと頷く。


「と、ところで……食堂では、今食べていた物は食べられるのかな……」


 ゼルファさんは、恥ずかしそうに言った……。


 うん、食にも興味深々……と。

 稲荷寿司か稲荷飯オニギリを裏メニューで用意するかな……。




「あ、そうそう、今度ダークエルフの隠れ里に訪問する事になったんですよ。

 何でも、ボクの職、精霊使いについて、言い伝えがあるらしいので……。

 シルもおそらく、長期家を空けることになるのでって事で、その前にアミュレット王国に行って、王様に報告する必要があるみたいです」


「確かに、ダークエルフ達なら何か色々情報をもっているかもしれませんね。

 それに、アミュレット王国ですか……久しぶりに、私も会いに行ってみようかしら」


 リシェーラさんはコクコクと頷く。


「ほう、なるほどな……ならばダークエルフの里に入る際には、私がひと言添えてやろう……きっとチカラになってくれるだろう」



 この状況って凄いことだよね。

 あまりに凄すぎて他人事のように思えていたけど……。


 たったひとりの大天使様を死ぬまでに、お目にかかること事態異例な筈なのに……。


 3人の大天使様が揃ってボクの前にいて、ボクの作った料理を食べて褒めてくれて……。


 それに、力を貸してくれるなんて色々普通じゃない……いや、有難いですよ本当に、でも良いのかな……。


 そのうち世界に散り散りになっている10人の大天使様、全員揃った状態で会う事になったりして……なんてね。



 狐鈴はハルさんの前髪をかき分け、そのまま両手を頬までもっていき、顔をマジマジと見ている。

 ハルさんは慣れない事に、顔を紅くしてオドオドしているが、嫌がっている様子はなく、狐鈴が何か口にした事に、ウンウンと頷き微笑む姿が見える。


 なんだかゆったりと時間が流れる。


 狐鈴がハルさんを引き連れてこちらへと来る。

 気がつくとボクの周りに皆が集まっている様な状態になっていた。


 狐鈴とハルさんのこちらへくる様子を見てると、普段のボクと和穂もこんな感じなのかな……と思った。 

 いや、ボクの場合、きっと和穂を引きずっている様な感じだ……。


「アキラ、ハルがお願いしたい事があるみたいなんじゃが」


 隣りのハルさんは、もじもじしてる。

 何だか改めてみると凄く可愛と思う。


「ん? どうしたんですか?」


 驚いてしまわない様、ゆっくり聞いてみる。


「あ……あの……ね……ハル……の……こと、ハル……って、呼んで欲しい……んだ。

それ……と、おね……ぇちゃんって……よん……も……いい?」


 言いたい事を全部言って、大きく息を吐く。上目遣いなのかな、大きな目を前髪の隙間から覗かせてボクの返事をまっている。


 あの頭蓋骨をかぶっていた時の自信に満ちていた時と、本当に同一人物? と思うほど、弱々しく話してくる。


「うん、ハルさ……ううん、ハル。これからもよろしくねっ」


 ボクは、ついノリで、ハルの頭をひと撫でする。


「うん。」


 ハルはボクの撫でたところに手を当て口元を緩めて笑う。


 隣で焼きミツルを大事に食べていた和穂は、口に匙を咥えて、手をゆっくり伸ばし、ハルの頭をワシャワシャ撫でる……そう、ボクがよくリンネちゃんにやる、激しい撫で撫でだ。


「わわっ、く、首が……」


 そう言いながらも嬉しそうにしている。



「ねぇ、アキラ……アタイもお願いしても良いかぃ?」


 チヌルがこちらに声をかけてくる。


「なあに? 突然……」


 ボクの返事を聞いてチヌルは頷き、腕組みをしてニパッと笑う。


「アタイ、アキラの歌が聴きたいんだよっ! オンダ達を浄化させた歌じゃなくても良いからさっ」


「えぇっ! アキラ殿、歌うんですかっ!? それは、ぜひぜひっ……」


 リシェーラさんが食いついてくる。


「え、ええっと……最近練習していないから、声が出ないかも……しれないよ……」


 ボクはリシェーラさんの勢いに、体を横へと傾け、ほっぺたをポリポリと掻く。

 リシェーラさんは目をキラキラさせている。


 すると、和穂がボクの手を両手でとる……その表情はリシェーラさんの様に目をキラキラさせ、ウンウンと頷いている。



 流石に焚き火を前に歌うと、喉を潰しかねないので、距離をとらせてもらう。


 ウメちゃんがボクの足下に、発光する魔石をいくつか並べ、ボクを照らす。


「ね、ねぇ、ウメちゃん、別に顔は見えなくても問題なくない?」


「え? 歌っている時のアキラさん、あの楽しそうな表情は、中々素敵なんですよぉっ」


 改めて言われると恥ずかしいのだが……?

 ウメちゃんはニコニコしている。



「んんー、うんっ、じゃあ始めるね」


 荒野の闇に歌声が広がる。

 反響するものも、遮る物もなく、ボクの声量は皆に届いているのだろうか……と若干不安な気持ちもありつつ2曲3曲と進める。


 いつも通り準備運動を兼ねて民謡から始めて、徐々に喉を暖める。


 今夜は好きに歌っちゃおう、好きで好きでたまらないなんて、普段歌う機会のないラブソングとか、元気になれそうな明るい歌を選んでみたりする。




「うん、凄く良かった。目を閉じて聞いていると一瞬アキラ殿じゃなかったのではないか? って、不安になるんだけど、目を開けると、アキラ殿が楽しそうに歌っているものだから、ホッとする感じ。

 知らないアキラ殿を見ることが出来て、とてもステキな経験をしました……」


 リシェーラさんは、微笑みながら感想を言う。


「チヌル? 泣いているの?」


 ルークの呟きでそちらに目をやると、目尻を濡らしたチヌルが、ルークの声で我に帰る様子が見えた。


「え? あれ? 何でだろう……

 悲しくもないのに、むしろ胸が温まる感じだったはずなのに……気が付かなかったょ……」


 チヌルが、袖で目をコシコシと擦る。


 アルクリットさんも、ゼルファさんも何か想いに耽っている。


「ねぇ、アキラ殿の歌を聞ける様な場ってないんですか?」


「ないよ。……あ、でも1年に1回鎮魂祭のやった日に、旅立った者達を思い出すため、悲劇を繰り返さない様、お祭りをやろうってシルに依頼されていたっけね?」


「んむ、そうじゃな、ワチも来年が楽しみじゃな」


 リシェーラさんの質問に即答しておきながら、ふと、そうでもない事に気がついたので、狐鈴に確認する。

 狐鈴は狐鈴で丸1年も先の事を、もう楽しみにしている。


「あれは本当に楽しかったですぅ、アキラさんの歌声に合わせて皆んなで踊ったり、美味しい食事をたらふく食べたり、2日間、時間も忘れてさわぎましたよねぇ」


 ウメちゃんがリシェーラさんに抱き抱えられたまま、思い出し笑いをしながら話す。


「ねぇ、アキラ、何でそんな楽しい場にアタイはいなかったのかねぇ??」


 悲しそうな表情でチヌルはボクに訴えてくる。

 それは返事に困る。その時は、チヌルの存在も知らなかったし……。


「うんと……と、とりあえずごめん……」


「何で、私達もいなかったのでしょう?」


 頬を膨らましたリシェーラさんにも訴えられる。


「いや、リシェーラさんもアルクリットさんもいましたよ……結界の外でしたけど……」


「あ、ああああぁあぁあーーっ!!!」


 衝撃の事実を突きつけられた、リシェーラさんは、ウメちゃんを抱えていた両手を自分の頭に抱え変え、驚きと絶望を吐き出す様に叫び声をあげた。


 すぐ下で耳を降ろしていたウメちゃんは、リシェーラさんの叫び声で目をグルグル回す。



「あの時だったなんて、あの時だったなんて……アル、どどど、どうにか時間を戻すのです」


 もう、言っていることがメチャクチャだ。


「おいおいおい、落ち着けよ、そんな事が出来るわけないだろ……」


 ゼルファさんは、リシェーラさんを宥める。


「でも、確かにアキラ殿の料理も歌も燻らせているのも何だか勿体無い気もするな……」


 なんて話がはじまる。


「みんな、晩餐会とか、集まる事が好きですから結構頻繁にやっているんですよ。

 機会が合えば、お忍びで来たらいいんじゃないですか」


 よろしくない方向に話が向きそうだったので話題を逸せる。



「そ、そう言えばゼルファさん、ダークエルフの里で口添えをして下さるって事ですが、事前にリシェーラさんの様に声かけをするような感じにした方が良いのでしょうか?」


 ゼルファさんはアゴに手を当て「ふむ」と言い、恐ろしいことを口にする。


「神託にするってのはどうだ? 中々面白そうだが……」


「それは面白そうですね」


 リシェーラさんもニコニコと話にのる。いやいやいやいや、神託をそんな私的な事に使うのってどうなのか……。

 そんな伝説はいらない。


「そもそも、神託なんてそんな頻繁にやりとりしているものなんですか?」


「そうだな……以前ダークエルフ達に伝えたのは……150年くらい前かな? 里の近くに星が降ってくる可能性があった時に、用心するようにって使ったのが最後かな」


 ゼルファさんはしれっと口にする。


「そ、そんな災害のような大きな出来事とボク達が訪問する程度の連絡事項を横並びにされるとさすがに……」


「あら、狐鈴ちゃんと和穂殿、巫女様が訪問するのだから、それぐらいもてなして貰えば良いじゃない?」


 ちょっと、この暴走を止めるのはアルクリットさんの役割でしょっ。

 何とかしてーっ。


 アルクリットさんに、助けを求める為の視線を投げかけようとしたら、揃って頷いて同意している。

 

 そうだった、謙虚とか、忖度とか程遠い、全く気にしない人だったわ……

 

 聞かなかった事にしよう……

 この事はシルにも言わないでおこう……



「今夜はステキな夜をありがとう。

 ハルが迷惑をかけた上、預ける事になってしまって心苦しいのですが、ハルをよろしくお願いします。

 アミュレット王国でお会い出来ると嬉しいですよ」


「新しい出会いに、私は感謝しているよ、ハルの事はすまないが、記憶が戻るまで迷惑をかける。

 下の世界について色々教えてやって欲しい。

 ダークエルフ達の事は任せてくれ。

 それと……食堂楽しみにしてるよ」


 リシェーラさんと、ゼルファさんはニコニコと今夜の小宴会を満喫した様で手を振る。


 アルクリットさんは無言でひとつお辞儀をする。


 そして3人は光と共に帰っていった。



「ハル」


 ボクがハルを呼ぶと、焚き火を狐鈴と囲っていたハルが顔を上げる。


 ボクはハルの横に腰を降ろし目線を合わせる。

 ハルは頭の上に『?』を乗せ小首を傾げる。


「ハル、ごめん、実はハルが気を失っている時に、顔見ちゃったんだ……」


 ハルは慌てて前髪をなん度も撫で下ろし、顔を隠してしまう。


「お、おかしい……かった……でしょ……」


 ハルはオドオドしながらボクに言う。ボクは首を横に振る。


「ううん、目を閉じているところだったんだけど、なんというか、見とれちゃった……まつ毛が長くて、綺麗な寝顔で……」


「……!?」


 ハルは前髪で顔が隠れている状態でも真っ赤になっている事がよく分かる。


「それでね、良ければボクも、ハルの顔をしっかり見せてもらえないかな……?」


 顔を紅くしながら、困っている様子で、小さく頷く。


 ボクはハルの前髪の後ろに手を滑らせ、上に持ち上げる。


 ハルは目を強くつぶって、小さく震えている。


「ハル、大丈夫じゃよ」


 狐鈴は小さく耳元で声をかける。


 すると、強くつぶっていたまぶたの力が抜けて、ゆっくりと5つの瞳が開く。


 まつ毛の長い3つの瞳、そしてまつ毛のない小さな2つの瞳……5つの瞳は焚き火の光が映りキラキラとしている。


 5つの瞳はボクを正面から不安そうに見つめている。


「本当だ、狐鈴の言ってた通り、綺麗な瞳だね。

 ハルは自分が嫌な事をボクに見せてくれたから、ボクの事教えてあげるね。

 ボクはどうしてか、死んでしまった者の御霊や精霊を見ることができるんだ。

 もちろん、この世界では珍しい事ではないのかもしれないのだけれど」


 ハルはジッとボクを見つめ、静かにボクの話を聞く。


「この見えるチカラはボクの生きてきた世界では、殆どの人が見えてないから、周りの人は見えていないものが見えるボクの事を、気持ち悪い人と見ていたんだよ。

 ボクは見えているから、見えている事を言っていたのに、見えないものは信じてもらえない、とても悲しかったんだ……。


 ボクはこの世界に来て、たくさんの人や精霊と会う事ができて、今は凄くこのチカラに助けられていると思う。


 だから、ボクは今まで嫌っていた自分のチカラ、ありのままを受け入れようと思うんだ。


 ハルは自分の顔が嫌いって言っているけれど、ボクはハルのそのままを受け入れる。

 ボクはそのままのハルを、好きでいてあげたいな。

 ボクの周りの皆だって、きっとそう。

 だから、自分を嫌うそんな姿も個性、否定はしないよって言っていた狐鈴の言葉もそうだけど、ボクはハルが、自分の事を少しでも多く好きになれるように、一緒にハルのステキなところ探してあげたい」


 ハルの瞳がウルウルしてる。


「うん、可愛い……」


 ボクはハルに笑いかける。

 ハルは眩しいものを見た様に目を細め、ボクにつられたように笑う。



 

 お帰りなさいませお疲れ様でした。

 ささやかな晩餐会から歌の披露と、小さな宴会をお届けしました。

 この先のアキラ達の旅に、天使達はどう関わってくるのか……それとも事あるごとに出てくるのか、話を作っていて楽しんでいます。

 

 それでは、また次の物語でお会い出来ると嬉しいです。


 いつも誤字報告ありがとうございます。

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