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第100話 ボクと稲荷寿司。

「ご飯をまぜているのかや?」


 お昼の準備を始めたボクに狐鈴が尋ねてくる。


「せっかく稲荷揚げもどきを作るなら、稲荷寿司っぽく食べたくてね」



 朝ごはんで雑炊の鍋として使っていた、サンドフィッシュの甲殻はルークに水魔法で洗ってもらっていた。


 ボクはその殼にご飯をあけ、赤いお酢の様な調味料と、黄色い砂糖、水色の塩を少量まぜていく。


 そう、ボクは酢飯を作っていたんだ。


 ひとつまみ、ご飯をとり、口へと放る。


 こんなもんかな……。


 なんと言うか懐かしい。

 こんなに立て続けにご飯を食べているのに懐かしく感じる。


 しゃがんで手元を見ていた和穂がジッとボクを見る。


「うんうん、はいよっ」


 ボクは寿司のシャリの様な、小さなおにぎりを作り、和穂と狐鈴の口へと運んでやる。


「んん、これはこれでうまいのぅ」


 狐鈴が感想を言う隣で、和穂もうんうんと頷きながら、口をモグモグ動かす。


 うん、ボクも酢飯って好きなんだよな……。

 

 ほんのり甘酸っぱいご飯が好きだから、別にお寿司じゃなくても良いんだ。


 スーパーのお惣菜コーナーで半額セール中、お弁当が全く無い時でも、売れ残っていた酢飯を手にした時、ちょっと嬉しかったりする。


 え? 酢飯があればおかずなんていらないでしょ? 

 ちょ、ちょっとまって……そんな目でボクを見ないで……。


 ボクは冷めても美味しい、酢飯は最強だと思うんだけどなあ。



 まぁ、そんな過去の話は置いておいて、隠し味にナボラの実の果汁を搾って入れる。


 柑橘のような微かな香りがつく。


 結局昨日収穫した、10枚のナーヴの葉は全部水抜きをして乾かした。


 煮付けて香り付けに油を少し垂らしたものを鍋から取り出す……とても1枚がデカい。

 汁を軽く絞って端っこをむしって食べてみる。


 おお……、ちょっと肉厚の葉という事もあり歯応えがあるが、煮汁もかなりしっかり吸い込んで、十分稲荷揚げなんじゃないかな。


 存在するのか分からないけれど、ひょっとしたら、豆腐じゃなくて高野豆腐で油揚げを作るとこんな感じなのかもしれない。


「んっまいっ!!」


「っんふぅーーっ!!」


 この出来に関しては、一緒につまんでいた狐鈴も和穂も尻尾をブンブン振って喜んでくれた。

 


 問題は稲荷寿司としての加工になるのだが……


 袋状の形を活かすとなると、大きさ2倍ぐらいのラグビーボールの様になってしまう。

 レウルさんや和穂ならこれでも満足してくれると思うんだけどな……。


 ところが……試しにひとつ作ってみて出来上がったラグビーボール稲荷に、和穂は微妙な表情を見せる。


「和穂はひと口、ひと口を頬張るのが好きなんじゃよ」


 狐鈴が教えてくれる。

 蕎麦でいう香りを楽しむみたいなかんじかな??


 結局デカ稲荷寿司もどきはレウルさん用として、他のナーヴの葉をいったん開いて小分けに切り、俵握りを包んでいくことにした。


「コレは食べた記憶があるよ、味は覚えていないけど……」


 シルは興奮した状態で声を上げて言う。


「期待すると良いぞ、味はかなり実物に近い感じがすると思うのじゃ」


 狐鈴がシルへと口添えをする。

 

 ナーヴの葉は乾かすと茶褐色となり、見た目も稲荷揚げに近くなったんだ。


「あんまり力を入れて握らない方が良いですよ」


 ボクがポイントを伝えて、メイルさんとトルトンさん、シルが協力してくれる。


 和穂? 和穂はつまみ食いでいつまで経っても稲荷寿司の山が出来上がらないだろうって、狐鈴が離れたところまで引き剥がして連れて行った。


「クラマも喜ぶかね」


 シルはボクに言う。

 今回の食事はスイッチが入ったら、みんないくつでも食べれてしまうので、作っている段階で狐鈴にもたせている。


 和食寄りの食事を喜んで食べる、クラマの姿が思い浮かぶ。


「いつも、大変な役を任せちゃっているからねー、労ってあげないと」


「そうね、私もそう思う」


 メイルさんがボクの言葉に同意する。


 噂話をすれば、ではないけれど、念話でクラマから声が届く。


『アキラ殿、お話よろしいですかな?

 これから、冒険者ギルドと、商業者ギルド、研究者数名の者が先行で、ウメ殿の作ったゴレーム馬の馬車で、そちらへと向かう様です。

 なので明日の夕方頃には戻れるかと思います』


『うん、分かった。気をつけてね。

 クラマ単身なら、呼べば一瞬で来れるのに、案内しないと、ならないから……

 ごめんね大役で……アースドラゴンの麓で合流しよう。』


『御意に』


 稲荷寿司もどきの山を作りあげ、食事にする前に、クラマとのやりとりを皆に知らせる。


 その場にはまだチャコの姿はない。

 秘伝の魔法と言っていたので簡単な習得ではないのだろう。


 後でチャコの分は届けてあげよう……。



「へぇー、これがネェさん達のお気に入りの味なんだー、ボクも好きな味だな」


 ルークはそう言いながら3個くらい食べていた。

 結構大きめに作られていたので、ルークの体の大きさでは結構な量だと思われる。

 食に興味がないって言っていたのに、嬉しいな。


「…………っ」


 皆が言葉を失っていたのは、あの和穂が笑顔で、それはそれは美味しそうに食べているんだよね。


 目をキラキラさせながら、稲荷寿司もどきを箸で持ち上げ、ひと口……ガブリッと噛み切り、残りを皿におろして……


「んんんーーっ……!」


 尻尾をフリフリ、ほっぺたを箸を持ったままの手と両手で抑えて、ひと噛みひと噛み楽しむ様に咀嚼して頬張る。


 狐鈴も和穂に負けず、尻尾を大きく振りながら笑顔で口にしていく。


 このふたりの笑顔を見ることができて、ボクはやり遂げた感で満たされ、幸せを感じる。


 この世界で再現したい料理は色々あるのだけど、最も作りたい物は達成出来た。


 油揚げの類似品を探そうにも、大豆からの加工品(豆腐)の加工品だから……

 ジャグラさんにどう説明して良いのか悩んでいた。


 まぁ、最悪【ニガリ】を手に入れて、豆腐の様なモノを作るのも手かなとは思っていたけど……


 いつ試作品が作れるか、ましてや出来るか分からない物に期待するより、このナーヴの葉の存在がありがたい。




「……ごちそうさま……」

 満足した表情で和穂が言い、周りが騒つく。


 和穂はあまり喋らないだけで、声が出ないわけじゃない。


 そりゃ、久しぶりに声を聞いた者も、初めて聞いた者もいるだろうから、驚く事かもしれないけれど。


「どうだった? 久しぶりの稲荷寿司は」


 ボクの問いかけに和穂は、にへーっと微笑む。


「今度ジャグラさんにナーヴみたいな食材手に入れられるか相談してみようね」


 和穂は微笑んだままコクコクと頷く。


 ご飯の量に対して、稲荷揚げもどきが残っていたので、今度キツネうどんにしようと、狐鈴に預けている。


 

「おや?」


 狐鈴が稲荷寿司を食べる手を止め、笑顔から真顔に戻り、ふと顔を上げる。


「ん、どうした狐鈴」


 シルが隣の狐鈴に声をかける。


「動物かもしれんが、アースドラゴンの近くに何者かが立ち入ったようじゃ、まぁ動かせる様な物じゃないからの、ちいと見てくるかの。

 シル達はチャコの元に行ってやると良い」


 どうやら現場放置にしたアースドラゴンの躰周辺に、狐鈴は結界ほどしっかりした物ではないが、近づいたモノを感知するマーキングをしていたようだ。


 狐鈴は残りの稲荷寿司もどきを口の中に放り立ち上がる。


「ボクも行こうか?」


 ボクが立ち上がろうとすると狐鈴は一旦手で制止する。


「ドラゴン退治の様な大掛かりな事じゃないと思うぞ」


「でも、ボクが行けば、いざという時皆を呼べるでしょ? それに、チヌルを呼び出す練習になるかなって思って……」


「ほむ……それもそうじゃな。アキラよ頼まれてくれるかや?」


 狐鈴はため息をひとつ吐いて言う。


 そんなやり取りを見ていた和穂が立ち上がり、片手をボクの肩にポンッと置く。


「和穂も来てくれる?」


 ボクの声にコクコクと頷く。


「明日の夕刻にクラマ達と落ち合うならば、荷車も持って行って、あちらにいた方が良さそうじゃの」


 ボク達は白夜に引いてもらいアースドラゴンの元へとむかう。

お帰りなさいませ、お疲れ様でした。


 頭の片隅で課題になっていた稲荷寿司もどき、油揚げの代わりになるものはないか、考えてきました。

 ようやく形になってホッとしています。


 今回で100話となりました。皆さんに支えられて、これだけ長く続けられています。

 読んで下さる方、誤字の報告をしてくださる方のおかげでここまで来ました。

 形にはなっていないですが、先の物語のイメージがあるので作っていく段階であれこれ訂正する感じですので、楽しみにしていただけると嬉しいです。


 それでは、長々となってしまいましたが、沢山の作品の中から、この物語にたどり着いてくださった方、続きを楽しみにして下さっている方に感謝して、また次回に繋ぎたいと思います。ありがとうございました。また次回お会いできると嬉しく思います。

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