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第三章 21
(いや、ちがう! 殺すつもりはなかった、そう、殺すつもりはなかったんだ……!)
殴った際のあたりどころがわるかったせいで、少女は死んだ。
頭から流れた血は少女の着物を真っ赤に染めていた。
(それが、なぜここに)
少女は安楽の脇腹あたりをぺたぺたと手で小さく冷たい手で触り始めた。
その場所には覚えがあった。
子供でもミイラを作れないかと試してみたものの、結局はうまくいかずに子供の死体は川に捨てたのだ。開いた腹に重しとなる石を詰めて……。
子供の手は、安楽の腹の中に沈み込んでいく。
その奇妙な光景を安楽は声を出すこともできず、見ていることしかできなかった。
まるで泥をかきまぜるかのように動いていた手が、少しずつ安楽の中から出ていく。そうして出てきた子供の手には波打つように動く赤い何かが握られていた。
(まさか、それは……)
今、安楽の命を握っているのは神でも仏でもない。
安楽が命を奪った少女だ。
(おい、やめろ……やめてくれ……!)
懇願もむなしく、少女はその赤い何かを、小さな手の上で握り潰した。




