第三章 20
(船が出るまでにどうにかしてここから出なければ)
どうしてこんなことになっているのかはわからないが、今はそんなことを考えている場合ではない。
安楽は必死に箱の中から出ようとするが、箱は頑丈に作られているのかびくともしない。
声も出せず、箱から出ることも叶わない。
どうすればと焦る安楽は、ふと自分をのぞいている者の存在に気づいた。
(あぁ、よかった……これで助かる……)
安堵したものの、安楽はすぐに気づく。
安楽がいるのは狭くて暗い箱の中だ。
それなのに、どうして安楽をのぞきこんでいるのか。
そして暗い中で、なぜ自分をのぞきこんでいると認識できているのか。
つっと、冷たい汗が背中を伝うのがわかった。
その汗を逆から追いかけるように背中を人の手が伝い、暗い箱の中で何本もの手が安楽の身体を這いずり回ってくる。
それはまるで蛇が獲物をどこから捕食しようかと品定めしているようであった。ガタガタと身体が震え、足の間が濡れて嫌な臭いが箱の中に立ち込めていた。
それでも身体の震えが止まることはなかった。
「あ……あ……」
涙でぼやける視界に映ったのは、安楽をじっとのぞきこむ少女だった。
その少女は母親をミイラにするところを見られ、口封じのために殺したはずだ。




