第三章 6
「せっかくだ。昔話をしましょうか。ある時、私は廃寺に暮らす盗人に出会いました。私は慈悲の心から彼を番所に突き出すことはせず、ここに住まわせていたのです。彼はそのお礼に色々なことを教えてくれました。盗みを依頼する方法や盗品の売買、患者のふりをして医師から阿片を盗んだこと……」
説法をするかのように語る安楽の表情こそ変わりはないが、そこに菩薩のようと言われている安楽の姿はない。
そこにあるのは、金に狂ったひとりの欲にまみれた男だ。
「そこから今回のことを思いついたか。生臭さ坊主はこれまで何度も見たことがあるが、お前のようなクズは初めてだ」
「おや、心外ですね。私は人々を救うために修行をおこなう中で気づいたのです。寺に入った金が人々のために使われることはない、酒や女に変わるだけだと……そうしたことに嫌気がさして、寺をあとにした私はようやく理想を見つけたのです」
「この地下牢がお前の理想か?」
「ここを知る者は私以外にいません。誰も足元など、己にとって都合の悪い場所など見ようともしない」
安楽は手を上にかざしてみせた。
「浄土とは常に天にあり、見上げるためにあるものです」




