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第一章 3

「噂のことなら、気にするだけ無駄だ。俺が違うと言ったところで、また別の話が生まれる。お前が店に来た時もそうだっただろう」

「それは、そうだが」


 璃兵衛が言うように、この店にレンが立つようになった当初は珍しい容姿のレンを見たさに、店先にはひっきりなしに人が訪れていた。


「それなら、あの世から追い返された青い目の店主がいる唐物屋と言わせておいた方が箔がついていいと思わないか」

「箔……と言ってもいいものなのか、それは」

「あぁ、箔だ。少なくとも俺にとってはな」


 他人の口に戸を立てることができないならば無理に口を閉じさせるのではなく、うまい餌をやって口を開かせてやれば、ただの噂もいい宣伝になる。


 そう璃兵衛は考えていた。

 この容姿を見た他人がどう感じているのかはわからないが、この目の色や容姿の対価として、他人の口を開かせることくらい可愛いものだ。


 他と異なるものは目や心を惹きつける。

 そして、時としてそれらは魔性と称されることもある。


(果たして無意識の美は傲慢か、それとも無関心なだけなのか……)


 傲慢、無関心。

 どちらにしても璃兵衛からすれば、ひどくレンらしいと思えるものだ。


(だからこそ、彼は異国であのような存在だったのだろう)

 璃兵衛は改めてレンへと目を向ける。


 璃兵衛とは違う日に焼けた健康そうな肌に、捲られた袖から見える腕。

 足首のあたりで編み上げられた下駄の鼻緒。


 それらは奇怪なように思えるが、レンのその姿はひどくさまになっており、まるでこれらのものはレンのために用意されたようなもので、その瞳は本来であれば璃兵衛の色である黒色だ。


(一体、なんの因果か……)


 ふと璃兵衛の目の前に影が落ちたかと思うと、レンの手のひらが璃兵衛の視界をさえぎっていた。


「おい、こんなことで魂を飛ばそうとするな」

「所かまわず飛ばすようなことはしない。どこぞに逃げられでもしたら大変なことになる」

「そう言うなら見てみろ」


 レンから手渡された鏡をのぞいてみると、そこに映る璃兵衛の目は薄暗い店内でぼんやりと輝いているかのように見えた。


(なるほど……)

 璃兵衛は自身が思っていた以上に、レンに意識や色々なものを随分と傾けてしまっていたようだ。

 こうなってしまってはごまかしもきかない。


「そんな鬼のような顔をすることはない。少し考え事をしていただけだ」

「まさかとは思うが、よからぬことを考えているんじゃないだろうな」

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