第二章 10
「難しいことはない。とりあえず口の端を上げてみろ。難しいなら俺が上げてやろうか?」
「いや、遠慮しておく」
レンに伸ばした璃兵衛の手は身長差のせいもあり、簡単にかわされてしまった。
一度言い出せば聞かない璃兵衛の性格を理解しているレンはため息をつくと、すっかり固くなってしまった顔の筋肉を動かして、どうにか口の端を上げてみせる。
「……こうか?」
しかし、そこまでしてつくったレンの表情はお世辞にも笑顔とは言えず、見る者に勇ましい鬼瓦を彷彿とさせる。
「……無理をしてもいいことはない。勉強になった」
「俺にやらせておいて、なんだその言い草は」
「そうは言っても、お前の今の表情は鬼のようだからな。まぁ、あの世から追い返された男とそれを見張る鬼が寺に行くのも、また一興」
「寺だと?」
「あぁ……」
***
「ここだ」
璃兵衛が足を止めたのは門の前だった。
門は綺麗とは言い難く、歴史を感じさせるものだったが、そんな古びた門のそばには安生寺と書かれた最近つくられたらしい木札が掲げられている。
「ここは元は廃寺だったそうだが、安楽が私財を投じて建て直したらしい」
「お前、調べたのか?」
「耳があるのは壁だけとは限らないだろう」
門を潜り、璃兵衛とレンは本堂へと向かう。




