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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

でこぼこ家族(疑似家族。少し薔薇風味)

作者: 飛鳥井 作太


 長身の男が、部屋を出て行こうとする男の行く手を阻んだ。

 腕を組み、壁にもたれて。

 確か西洋風の壁ドンってああいう形なんだっけ、と男二人の様子を見ながら、清泉いずみは首を傾げた。

 彼女の前には、ちょうど今しがた終わった数Ⅰの宿題。それとミニチョコクロワッサン。

 数学を教えてくれていたのが、あの長身の男・ヒガシで、ミニチョコクロワッサンをくれたのが、部屋を出ようとしている背の低い男・佐久だ。

「なあ、佐久さん。そろそろ俺たち、付き合ってもいいと思うんだけど?」

 ヒガシが、ん? と小首を傾げる。金色に染めた髪が、さらりと揺れる。切れ長の瞳が、独特の色香を醸し出しているものの、

「……お断りするよ」

 佐久は、邪魔、と言いたげに彼を押しのけ、部屋を出た。

 ううむ、今日も魔性の魅力に引っかからずか。流石佐久さんだなあと清泉はうなずきながら、クロワッサンを一口。甘い。ちょっとビター。美味い。

「うーん。まだダメかぁ」

「ヒガ兄も懲りないね」

 二個目のクロワッサンに手を伸ばして、清泉が言う。

「もう諦めたらいいのに。しつこい男はダサいよ」

 ヒガシはゲイで、出逢った当初、共に暮らし始めたその瞬間から、佐久に熱いモーションをかけている。

 まったく、相手にはされていなかったが。

「んんー……育ての親に対して辛辣だなあ」

「二年住まわせてるだけで育ての親を名乗るその太い精神がダメなのでは?」

 清泉の冷静な一言に「刺さるわぁ」とヒガシが言った。

 泣き真似をしているが、全然答えていないのが声でわかる。

「……まあ、感謝はしてますけど」

「そういうこと素直に言うから清泉ちゃん、いい子だよね」

 へら、とヒガシが笑う。

「褒めても何も出ませんよ」

「残念。手作りプリンとか、出ないか」

「出ません。……クッキーなら、今から気分転換に作りますけど」

「やった、味見する」

「お好きにドーゾ」

 問題集を閉じて、台所へ向かう。その後ろをヒガシがついてくる。

 行く当てのなかった自分をヒガシが引き取って、丸二年になる。

 同じころ、同じように行く当てのなかった佐久もこの家に来た。

「……佐久さんも」

「うん?」

 道具を出しながら、清泉は言った。

「ヒガ兄につれないけど、でも感謝してると思う。拾ってもらえて」

「感謝なんて、別にいいのに」

 ヒガシが、さらりと言う。

 心から、感謝も気遣いも要らないとわかる、普通の声で。

「いいなーって思った人だけ迎え入れてるだけだからさ?」

 ぽん、とヒガシの手が、清泉の頭に乗った。

 その温かさを、清泉はとても好きだと思う。

 育ての親と呼ぶ太さは自分には無いが、しかし同じようなものだときちんと感謝している。

 本当は。

「そりゃ、佐久さんに関しては付き合ってくれたら一番いいケドー」

「そういうの、言わなかったら恰好良いんですけどねえ」

 清泉が、呆れたため息を零した。

「チョコチップ、入れますか?」

「お願いー。あ、前作ってた紅茶葉入れた奴もいいな!」

「はいはい。了解ですよ」

 自分たちの血は繋がっていない。

 特にこれといった所縁もない。

 ただ、偶然に偶然が重なって、ここにいる。

 それでもこれを『家族』だと呼んでいいなら、いつだってそう呼びたいと清泉が思っていることを、ヒガシは気付いているだろうか。

 似たようなことを佐久も思っていることを、彼は気付いているのだろうか。

 わからないけれど、何となく伝わっているのではないかと、そうであればいいと、卵を割りつつ、清泉は願うのだった。


 END.


ひょんなことから他人が一緒に暮らし始めて家族になるみたいな話が好きです。

家族じゃなくても、名前の付けられない大切な関係みたいなの、いいですよね。


ところで、家族に体調不良者が出てしまった為 (コロナではないです)、明日のイベントは欠席いたします…。

直前に申し訳ありません…。

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