黒い家族
こちらは百物語三十五話になります。
山ン本怪談百物語↓
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会社の先輩と一緒に、営業へ出かけた時の話です。
長い商談が終わり、先輩と雑談をしながら車を走らせている途中のことでした。
「あれ?先輩、あのおばあさん…」
小さな公園の前を通った時、私は公園のベンチに座るおばあさんを見つけました。時間は夜の8時過ぎです。
「本当だ。この時間におばあさんが1人って…ちょっと声かけてみるか?」
俺と先輩は車を降りて、公園のおばあさんに声をかけてみた。
「おばあちゃん、こんな時間にどうしたの?家は近く?」
先輩がおばあさんに声をかけると、おばあさんは困ったような表情を見せてこう答えた。
「ちょっと遠くまで来てしまいまして、家に帰れないんですよ…」
どうやらおばあさんは、散歩か何かで遠くまで来てしまい、そのまま家へ帰れなくなってしまったらしい。
「家の場所はわかる?1人で夜歩くのは危険だから、車で送っていくよ!」
俺たちがそういうと、おばあさんはニッコリと笑って深く頭を下げた。
「あそこの信号を右ですね。あの家を左に…あそこですか?」
おばあさんを車に乗せてから20分後、俺たちはおばあさんの家へ無事にたどり着くことができた。
「ありがとうございます。家族を呼んできますので、ここで少し待っていてください」
おばあさんは車を降りると、そのまま家の中へ入っていった。
3分、5分、10分…どれだけ待ってもおばあさんは戻ってこない。
「遅いなぁ…家族の人と何かあったのかな…?」
気になった俺たちは、思い切って家の中へ入ってみることにした。そこで見たものは…
「おじいさん、ヨウコ、ミツオ…どこに行ったんだい…?」
おばあさんは家の中をふらふらと歩き回りながら、自分の家族を必死になって探していた。客間、トイレ、風呂場、冷蔵庫、ゴミ箱の中まで探している。どうも様子がおかしい。
おばあさんを落ち着かせるために家へ入ると、寝室に仏壇が置いてあることに気がついた。そこには古い家族写真が飾られており、俺と先輩は顔を見合わせた。
「先輩、もしかしておばあさんの家族って…」
「うん…たぶんな…」
先輩はおばあさんに近づくと、優しく声をかけた。
「おばあさん、もう大丈夫ですよ。ほかに知り合いの人とかいますか?」
おばあさんを家に送ったら、すぐに会社へ帰る予定だった。しかし、おばあさんの状況を考えると、このまま放っておくことはできない。
「いつもはいるんだけどねぇ。おじいさん、ヨウコ、ミツオ…どこにいるんだい?」
何とかしてあげたいのだが、こちらもどう動くべきなのかわからない。先輩が近くに交番があることを調べてくれたので、とりあえずそこで相談してみることにした。
2人で交番へ向かおうとしたその時、おばあさんが寝室の方を見ながら声をあげた。
「おじさん、ヨウコ、ミツオ!みんなそこにいたのかい!」
おばあさんが寝室に向かって手を伸ばしながら、満面の笑みを浮かべている。
俺たちは思わず寝室の方へ振り返った…
「うぁああああああああああっ!?」
寝室にゆらゆらと動く3人の人影があった。人影は俺たちに向かって、ゆっくりと手招きをしている。
「今日はお客さんが来ているんだよ!さぁ、一緒にご飯でも食べようかねぇ~!」
嬉しそうなおばあさんとは反対に、パニックになった俺たちは慌てて家を飛び出した。車に乗り込むと、急いでエンジンをつけて交番に向かって車を走らせた。
「せ、先輩!あれって!?」
「し、知らねぇよ!とにかく交番だっ!交番いくぞっ!」
俺たちは交番へ向かうと、中にいる警察官たちに急いで事情を話した。
「お、おばあさんの家の中に変な影が…!よくわかんないっすけど、とにかく来てください!」
警察官たちは少し驚いた様子だったが、慌てる俺たちを見てすぐにあの家へ向かってくれた。
「あの家です…あの家でおばあさんが…!」
警察官たちと一緒にあの家へ戻ってきた時、家は不気味なくらい静かになっていた。警察官たちは家の中を調べようとしたのだが、家のドアがなぜか開かない。不審に思った警察官たちがどこかへ電話をかけている。そして…
「この家、だいぶ前から空き家になっているそうですよ。おばあさんがいるのは、本当にこの家だったんですか?」
間違えるはずはなかった。いくら急いでいたとはいえ、家の形くらいは覚えている。ほかに似たような家もないし、この家で間違いないはずだった…
「この家は20年も前から空き家でね。一家心中があってから、誰も住んでないんだよ。あんたらが見たそのおばあさん、本当に人間ですかい?」
年老いた警察官が、俺たちに向かって笑いながらそう言い放った。