貴族と獣と人と
みんな大好きなあいつが来る!(クトゥ〇フに出てくるやーつ)
十文字槍を正眼に構えたまま突っ込み、鳩尾を狙って繰り出す。
突剣で受け流された刃を滑らせ、相手の首筋に石突を叩き込む。
更に旋回させた穂先を奴の脇腹に刺し、引き抜きながら後退。
一泊遅れて不可視の掌がクソ野郎の全身を叩き潰す。
クソ野郎の姿が掻き消え、上空からの一閃を咄嗟に掲げた槍先で防ぐ。
火花を立てて突剣を地面に押し当て、前進しつつ袈裟懸けに斬る。
反転して背後から貫き、引き裂き、振り回す。
後方から飛んだ紫電が、空気を焼き焦がし直進して奴の顔面に風穴を開ける。
流石の貫通力だな。
「どいてお兄ちゃん!≪始原の種火≫≪転じて劫火≫≪古き微風≫≪色付きて風穴≫≪併せ造りし≫≪斬り裂く陽光≫──────【緋色の斬焔:裂孔】!!」
肉々しい床を炭化させて猛進した焔の槍が、俺とクソ野郎を消し飛ばす。
反射に条件でもあるのか?
どちらにせよ、敵を殴れるなら同じと切って捨てる。
肉体を再生させ、復活途中のクソ野郎の臓物を引っこ抜き、本体をぶん投げる。
宙を舞う奴を爆炎が薙ぎ払う。
前方に跳躍して突進の勢いを乗せた踵落としを腹に叩き込み、撃墜。
槍から星鎖棘鉄球に持ち替え、頭上で大きく振り回して投げつけ、圧し潰す。
手繰り寄せた鎖を打ち鳴らしながら投擲して更に叩き潰す。
蠢きながら再生する肉塊を磨り潰そうとして……………
「【忌血旋舞】」
放たれた黒赤色の閃光に横腹を裂かれながらも前に出る。
いつもより傷の治りが遅いが気にしない。
素手で掴んだ鉄球を直接振り翳して捻り潰す。
極光を纏った両腕で肉塊を掴み、千切り捨てる。
再生の隙を与えず一気に畳み掛けようとして……………
「なるほど、遠距離攻撃を捨てて近接と再生に特化した個体か。自身の仲間に後衛を任せて、自らが盾兼前衛として立ち回ることで時間を稼ぎ、必殺の一撃を放つ。品性に欠けるが…………悪くはないな」
闘技場のようなこの空間の端の方で佇み、何やら分析するクソ野郎。
誰が野蛮人だ。
手に持った肉に目をやれば、腐り落ちる汚濁の塊。
入れ替わりか何かか?
だがしかし関係ない。
槍を構えて突撃しようとして……………足が動かない。
下を見れば、肉々しい床に埋められた俺の足。
後ろから聞こえる悲鳴に振り返れば、同じように肉塊の中に掴まる3人。
「ッ………レン!助けろ!!」
「無理だ!」
「お兄ちゃん!自爆していい?!」
「アヤメちゃん?!」
意外に余裕がありそうな後衛陣の会話が聞こえる中、4人揃って下に引き摺り込まれそうになり、強化した腕力のみで抵抗する。
そして何やら奥の水晶に手を触れるクソ野郎。
「……………悪いが、暫らく其処で大人しくしていてくれ。あまり無駄な殺しはしたくない」
そんなふざけた独白と共に水晶がひび割れ、中から干乾びたミイラが地に落ちる。
地面に描かれていた魔法陣が青白く病気の月のような光波を放ち、いつの間にか空に昇っていた満月がそれの対となるように暗く仄暗く輝きだす。
淡い光が道標のように神秘性を感じさせる中、俺を襲っていたのは圧倒的な恐怖。
自分よりも上位の存在が場に現れようとする瞬間。
周りの肉がミイラの様に干乾び、枯死していく。
脆くなった地面から、ジタバタと手を蠢かせるアヤメを収穫し、すぐそばに埋まっていたギンカとオネットさんも引っこ抜く。
その間にも着々と進んでいく儀式。
月光の内に複雑怪奇な陣が敷かれ、拡大されたソレの内側から何かの影が零れ落ちようとして、何かに気付いたように動きを止めるクソ野郎。
「……………………なんだ、コレは?違う、私はこんな物を望んでなどいない」
不穏過ぎるセリフが聞こえた。
ズルリ、と粘液を引いてナニカが墜ちてくる。
灰色がかり白く脂ぎった肌に、鼻の辺りから生えたピンク色の触手。
ぬめりを帯びた頭部に眼窩は見当たらず、触手の中央に僅かな窪みが見えるだけ。
腐った汚泥にも似た吐き気を催すような悪臭と、右前脚に携えられた、奇怪に節くれ立った長槍。
全長8メートルはあるであろう胴体に突き刺さった鈍色の大曲剣。
そこから垂れ流される粘っこいタールのような血液らしきものが、コポコポと泡立ちながら床を融かしていく。
脳裏を過ぎるのは、羊皮紙に描かれていた獣の紋章。
前傾姿勢の怪物が槍を構え───────────────クソ野郎が貫かれた。
呆然とするクソ野郎を得意げに掲げ、形容し難く冒涜的な笑い声を発する怪物が、そのままクソ野郎を貪り始める。
狂ったように暴れるケダモノが足元に転がっていたミイラを踏み潰す。
状況は全く飲み込めていないが、取り敢えずヤバいことだけはわかる。
後ろを見ればこちらを見つめる3人。
幸い相手はまだ俺達に気付いていない様子。
バレないように階層から撤退しようとして…………………………無い筈の目が合った気がした。
悍ましい化け物が鎌首を擡げ、上空を見上げる。
無数の触手が生えた顔面の中央が開き、肉蟲のソレのような口が露わになる。
直後、口腔が異様なまでに大きく広げられ、醜い牙が蠢きながら生え揃い………………………
「譏滄剄蜈芽樺迢ゥ莠コ遐エ遐墓が雜」蜻ウ貎ー逾樒ァ伜?豕「髮キ髮サ蟷サ諠ウ闥シ謔ェ諢丞、匁ウ」
爆音で紡がれた理解不能な呪詛に、魂を揺らされる。
無意味と知りつつも咄嗟に耳を塞いでしまった俺の視界に───────────────蒼褪めた光の奔流が映った。
度重なる衝撃と轟音に叩き起こされた。
仄かに血錆の香りがする。
肉で囲まれた狭い空間の中のようだ。
隣を見ればグッスリ眠るアヤメとオネットさん。
そしてズタボロになって横たわるギンカ。
規則正しく、緩やかに上下する薄い胸を見る限り、生きてはいるようだ。
もっとも、かなり顔色が悪いので暫らく寝かせておくべきだろう。
というかあのバケモノどこ行った?
「起き…………たか。ッ………迷惑をかけて、すまない」
「ワレ生きとったんか」
体を起こした俺の前に、胡坐をかいて座り込むクソ野郎。
いつの間にやら随分ボロボロになっている。ザマァ見ろ。
「…………何を思っているのかはよくわからないが、弁明の機会くらいは貰えないだろうか?」
「辞世の句なら手早く済ませろ」
「………取り敢えず、君達に危害を加えるつもりは無かった。さらに言えば、あんなゲテモノを喚ぶ気も無かった」
「信じれるかよ」
「………〔古・リーチアルツ帝国〕『辺境伯』ロウ・アルファム。我が家名と剣に懸けて」
神妙な表情で剣を掲げ、誓いのような言葉を口にするクソ野郎。
「…………貴族か何かだったのか?」
「元、ではあるがな。罪業に耐え、異形と化した恥を忍んで生きてきたが……………どうやら、これまでのようだ………」
「おい、なに言って…………」
何やら死亡フラグ集を言い出したクソ野郎に声を掛けようとして。
………………その躰が端から崩れている事に気付いた。
壁に凭れ掛かり、目を閉じるクソ野郎。
「どうした?」
「生憎と……………この空間を造る時に余力を使い果たしてな。ククク………………もとより叶わぬ悲願と知った今となっては、どうにもならぬが」
「…………なぁ、結局お前は何がしたかったんだ?」
「一人ばかり人を黄泉還らせようとして、汚らわしい毒蟲めらに付け込まれた。たった、たったそれだけの話だ。……………迷惑ついでに一つ頼んでいいか?」
「………聞くだけ聞いておこう」
「あの、毒蟲共を滅ぼしてくれ。…………一匹残らず、この世から」
所々、砕けて震える手で渡された紋章付きのキセル。
きっと、『毒蟲』とやらに関係しているのだろう。
「…………………わかった」
キセルを握り締め、そっと懐に仕舞いこむ。
「……最期に………聞きたいことがある」
「何だ?」
「………………私は、人に見えたか?」
人生の最期に言うには、あまりにも異質な言葉。1
8年ぽっちの体験で答えるには重すぎるソレに、それでも、それでも何か答えようとして………
「………………おい?」
既に灰の山になった人影に背を向け、暗く重い空気の立ち込める部屋を出た。
ムーンビ〇ストモドキ
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